綿パンを失くした

りんごちゃん

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 なんかすごくとてつもなく恥ずかしいことをした気がする。

「依ちゃんそんなに照れなくてもいいのに~」
「御岳くんのせいだ!」
「かわいい」

 御岳くんの家のソファーの上で蹲る。
 一緒にお風呂とかありえない。しかも身体を洗ってもらったとかありえない。
 完全に寝惚けてた。だってすごく身体がだるかったんだもん。
 というかなんでもう日曜日なの? 土曜日はどこに行ったの?

「ごめんね、依ちゃん。依ちゃんとお風呂入ったあと、また寝ちゃってさぁ」
「だからって、だからって……」
「依ちゃんかわいい」

 御岳くんに後ろから抱き締められる。
 ドキドキする心臓が憎い。

「でもさ、なんで御岳くん呼びに戻ってんの?」
「だ、だって」
「俺、依ちゃんには名前で呼ばれたいんだけどな~」

 甘えるような声を出しながら御岳くんが私の耳元で囁く。
 顔が熱くなる。エッチしてる最中に、私が御岳くんのことを名前で呼んじゃうことには気が付いてる。
 だって、御岳くんがエッチのときに名前で呼ばないと挿れないって焦らしてきたんだもん。
 でも、それはエッチのときだけ。
 だって、男の人を名前で呼ぶのって恥ずかしい。ちなみに寿一くんは男じゃなくて家族だから恥ずかしくない。
 最初の頃は普段のときも名前で呼べって言われて、断ったら頭がおかしくなるくらいイカされて死ぬかと思った。途中からは意地でも名前を呼んでやるもんかって思ってた。呼ばなかったら諦めてくれたから、勝ったと思ってたりした。

「ね、依ちゃん。名前で呼んでよ。俺のこと好きなんでしょ?」
「なっ! う、そんなこと言ってない!」
「言ってたよ~? 俺のこと好き、大好き、ぐちゃぐちゃにしてぇ~って」
「そんなの言ってない!」
「覚えてんの?」
「覚えて、ないけど……」
「俺は覚えてるよ?」

 言ったの? そんなこと言ったの?
 わかんない。もう後半は頭がおかしくなってたし、言ったかもしれない。
 でもでも、好きとか。ちゃんと告白するもんじゃないの? そんな頭がおかしくなった状態で告白とか、ありえなくない?
 ちゃんと告白したかったのに。

「……御岳くん」
「真紘じゃないの?」
「………………」

 うー、うう~。

 振り向いて御岳くんを見る。恥ずかしくて泣きそう。
 だけど、ちゃんと言いたい。御岳くんが言ってくれたから、ちゃんと言いたい。

「あ、あのね、あの、」
「うん? なあに?」
「あの、あの、あの、ううぅ……」

 言いづらい。そんなキラキラした笑顔を向けられると言いづらい。
 そもそも御岳くんは顔だけなら極上で、みんなにモテモテなのだ。
 あれ、そんな人に好きって言われて大丈夫? というか御岳くんの好きって恋愛的な意味で? ぬいぐるみ的な意味と勘違いしてない?

 あれあれ。わかんなくなってきたぞ。
 よく考えて私。
 私は御岳くんが好き。それは本当。最初はストックホルム症候群だとしても、今はちゃんと好きだと思う。
 ちゃんとドキドキするし、ぎゅーってなるし、抱き締めてもらえると嬉しいし。
 私、御岳くんを好きって言っていいのかな?

「依ちゃん?」
「……私、御岳くんのこと好きって言っていいの?」
「っ、っっっ、」
「えっ、なに? やだっ、おちんちん当たってる!」

 なんで!?

「ちょっとトイレ行ってくる」
「へ?」

 御岳くんは私を膝から下ろすと、トイレに向かってしまった。
 なんで? 結局私は好きって言っていいの? ダメなの?

 うーんと悩んで、しばらく経つと御岳くんがトイレから出てくる。なんかすごい疲れてる。
 あれ? 私のせい?

「いいに決まってるでしょ!」
「……?」
「むしろ好きって言って!」

 いきなりなにを。
 御岳くんに真正面からぎゅっと抱き締められる。

 びっくりして目を丸くしてると、そのままキスされる。
 くちゅくちゅと水音が聞こえる。口の中を犯されて、頭がぽーっとなる。じゅん、とパンツが濡れちゃう。

「ね、言って? ちゃんとした依ちゃんの言葉で聴きたい」

 私の耳元で囁きながら、ちゅっちゅっとキスをしてくる。
 今までよりも甘い声にクラクラする。

「ぅ、あ、」
「ねーえ、言ってよ。俺がもっと依ちゃんに好きって言わないとダメ? いっぱい言うよ? 好き好き大好き。依ちゃんのこと世界で一番愛してるよ」
「うぅぅぅ……」

 耳元で囁かれる甘い言葉。目眩がする。
 この人は本当にヤリチンだって言われてた男なの? 御岳くんってもっとチャラい感じの人じゃなかったっけ?

「ねぇ、依ちゃん。依ちゃんのちょーだい」
「ぅぅううう……もーっ!」

 なんか、爆発した。
 耳に届く御岳くんの甘い言葉がもう本当に恥ずかしくて。恥ずかしいのが我慢できなくて、これが止まるならもうなんでもよかった。

 御岳くんの身体をグッと離して両手で御岳くんの肩を掴む。御岳くんの目と目が合う。
 大丈夫。大丈夫。ただちょっと恥ずかしいだけ。これ以上恥ずかしいことにはならない!

「私は! 御岳真紘くんのことが好きですっ! 御岳くんの優しいところとか、甘やかしてくれるところとか、最初は最低でクズでヤリチンでどうしようもない人だなと思ってたけど、いや今でもちょっと思ってるけど、そういうところ全部含めて御岳くんのこと好きだよ! ……他の女の人とエッチしたら嫌いになるけど」

 ヤリチンはだめなところだったね、よく考えたら。
 全部言い切ってすっきり。一仕事を終えて、ふぅ、と息を吐く。なんだかすごく疲れて、御岳くんの肩にポスンと頭を置いた。

「俺も依ちゃん大好きだよ~結婚しようね」
「うん……うん?」

 思わず頷いたけど、なんか今おかしな単語が聞こえたよ?
 御岳くんの肩から離れて、御岳くんを見ると輝かんばかりの素晴らしい笑顔。
 わー、なんかすごく嬉しそう。

「えっ、と」
「というか、俺のこと名前で呼んでってば。依ちゃんに名前で呼ばれたいんだけど」

 今度はひょいと抱き上げられて、向かい合わせの形で御岳くんの膝の上に乗る。
 この体勢って股を広げるしかないからちょっと恥ずかしいんだよね。でも、御岳くんが近くにいるから安心するのもこの体勢。
 いや、そんなことより名前ね、名前。
 名前呼びって難易度高い……。でもなんかもっと恥ずかしいことしたし、これくらいならもう大丈夫な気がする。
  
「ま、まひろ!」
「依ちゃんかわいすぎ。絶対逃がさなーい」
「ん?」

 なんか今不穏な言葉聞こえた?

「そうだ。今日なんかやりたいことある? 婚約記念日だし、やっぱりゆっくりしよ?」
「……ん?」
「どうしたの? そういえば依ちゃん、俺があげたネックレス着けてくれてねぇの?」

 あれ? なんかやっぱりおかしな単語がある気がする……?
 だけど、なにかを言う前に首筋をなぞる真紘の指にゾクゾクとした小さな疼きが私の身体を走って、身体が反応してしまう。

「依ちゃん。聞いてるー?」
「聞いてる! えぇっと、ネックレス? やっぱりま、まひろが送ってくれたの?」
「うん。依ちゃんへのクリスマスプレゼント」

 そう言ってまひろが私の目元にキスを落とす。

 ネックレス、警察に届けなくってよかったあ。
 実は、最初ネックレスが高級そう過ぎて警察にでも届けようかちょっと迷ったんだよね。でも私の名前を書いた文字がまひろの字と一緒だった気がしたし、ネックレスの付け根のタグに私の名前が書いてあったから、警察には持って行かなかった。
 だって本当にすごく高価そうなネックレスだったんだもん。
 怖くて家のクローゼットの奥に入れてある。しょうがないよねぇ。

「明日からは着けてきてね」
「えっ」
「なんで? いや?」
「だってあれすごく高そうなんだもん……失くしたらこわい」
「んー、大丈夫大丈夫。失くしたら新しいの買ってあげるし」

 そういう問題じゃないんだってば。

「失くしたらイヤなの。だから着けたくない」
「えー、じゃあ俺に会うときだけでも着けてね」
「……それなら、大丈夫」
「やった。依ちゃんかわいいすき」

 それなら失くさないよね、たぶん。
 まひろが嬉しそうに私の唇に何度も何度もキスをしてくる。唇と唇を合わせるだけのキス。ちゅっちゅ、とリップ音を鳴らしてされるキスに、きゅぅんと胸が締め付けられる。
 まひろに喜んでもらえて嬉しい。
 ふにゃんと自然と笑みが浮かぶ。

「依ちゃん、またセックスする?」

 ぶんぶんと首を振る。なんでまた。
 昨夜……じゃなくて一昨日にいっぱいしたばっかりなのに。
 まひろってえっちなこと好きだなぁ。

「もう今日日曜だよ? 明日講義あるもん。私、帰らなくちゃ」
「そうだよね~。じゃあ、帰る準備しようね」

 そう言って私の荷物用意してくれるまひろにちょっと安心した。
 えっちなこと、諦めてくれてよかった。ホッとした。
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