綿パンを失くした

りんごちゃん

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みたけくん 05

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「御岳くんのばかあ!」

 子どもみたいに泣きながら、俺を抱き締める依ちゃん。

 ごめんね、依ちゃん。諦めの悪い男で。
 やっぱり、依ちゃんのこと不幸にしてでも一緒にいたいと思っちゃったんだよね。



 依ちゃんを無理矢理犯して中出しまでキメた俺はその日から依ちゃんに近付くことを禁止された。
 他でもない、姉貴に。
 まあ、そりゃそうだろうと思う。依ちゃんのことを考えたら、今回のことは相当なトラウマになるだろう。
 依ちゃんには何も言わず、ただ依ちゃんのために用意したクリスマスプレゼントだけ依ちゃんの家に送って、俺はその街から消えた。

 俺は父親の学校に無理矢理編入させられて、全寮制の寮に入れられた。ついでに親父の部下の息子である友人二人も付いてきた。
 正直いらなかったけど。
 考えることは依ちゃんのことだけだった。
 なんかもう依ちゃん以外の人間に愛想を振りまくのもバカらしくて、愛想皆無で過ごしてたら「クールでかっこいい」とか言われてさらに女が近寄ってきたのにはブチ切れるかと思った。
 依ちゃん以外の女が俺に触れたら、依ちゃんの痕が消えそうで。

 依ちゃんがいないとこんなにつまらないんだってわかった。
 ずっと一緒にいたい。会いに行きたい。
 だけどやっぱり俺なりに依ちゃんには悪いとは思ってて、なかなか連絡が取れない。
 そもそも依ちゃんに渡したスマホは姉貴が取り上げたし、連絡を取るのは難しい。依ちゃんの家に行こうにも見張りがいる。

 依ちゃんに会いたくて、すっげー会いたくて、もう依ちゃんさえいればいいんだし、依ちゃんはいい子だからもしも俺が誘拐して監禁してもそのうち絆されてくれるような気がして、いっかなと思い始めてた。むしろ一緒に死んでもそれはそれでありかなと思うぐらいには限界が近づいてた。
 それでも、俺が依ちゃんに近づかなかったのはビデオがあったからだ。

 依ちゃんの痴態を映したビデオ。何度それで抜いたかわからない。
 基本、依ちゃんとのセックスはビデオに残すことを決めてたから、依ちゃんとの最後のセックスもビデオに収まってた。依ちゃんと寝室に入ると自動で録画が始まるタイプだったからね。
 俺に犯されて嫌がって泣き叫んでるのに、依ちゃんが助けを呼ぶ相手の名前は俺なんだ。
 そのビデオを見ると最低だな、と思い留まることができたから、俺は最後の一線を超えずに済んだと思う。
 依ちゃんはきっと俺のことなんてどうでもいいだろう。むしろ俺が消えて清々としてるかもしれない。

 つらい。もっとつらいのはきっと依ちゃんのほうだけど。

 それでもやっぱり依ちゃんに会いたくて、依ちゃんの希望する大学を調べて同じところに行くことにした。
 E大学だって言ってたのに違ったのにはショックを受けたけど、まあいい。
 俺は人生で一番勉強したと思う。
 一応合格判定だったけど念には念を入れて、そりゃあもう勉強した。万が一落ちたら絶対依ちゃんのこと監禁してしまう自信がある。
 今依ちゃんの側にいられないのは自分のせいなのに、それを全て忘れて依ちゃんに当たってしまいそうだった。
 結果、経済学部を首席で合格。しかも入学式の代表挨拶まで任された。

 ラッキーと思った。だって、壇上に立てば依ちゃんは嫌でも俺を意識する。
 俺を見て依ちゃんがどんな反応するのかが気になった。

 嫌がるのか、怖がるのか、それとも喜ぶのか。

 最後のはないなとは思ったけど、そうであれば嬉しいと思った。

 すぐに依ちゃんは見つけられた。依ちゃんなら、どこにいてもどんな人混みに紛れ込んでても見つけられる自信がある。
 結果は、怖がっているような顔をされた。
 顔が真っ青で、壇上にいる俺を見てうるうると瞳が潤んでた。

 あ、マジでトラウマになってる。
 後悔した。依ちゃんの前に再び現れたことを。小さな期待は粉々に壊されて絶望する。

 それでも俺は依ちゃんのこと諦められなくて、まるでストーカーのように依ちゃんに近づいた。
 話しかけはしない。話しかけて、「話しかけないで」とか言われたらそれこそ頭がおかしくなりそうだ。

 高校の頃とは違って髪を下ろしてる依ちゃんはちょっと大人っぽくなってた。本当にかわいくて、他の男が近付いたらと思うと気が気じゃなかった。
 特にあの「じゅいちくん」は嫌いだ。依ちゃんに馴れ馴れしい男。あいつさえいなければ依ちゃんと未だにイチャイチャできてたと思うと本当に妬ましい。
 だけどその「じゅいちくん」のおかげで他の男は依ちゃんに近付きたくても近付かない。

 依ちゃん、自分では気付いてないと思うけど、本当かわいいんだよ。
 ノーメイクでも透明感あふれる白い肌と、ぽってりとした小さい唇。小動物みたいに目はくりんとしてて、無邪気に笑う。童顔だけど、それがいいってヤツもいるだろうし。
 それに礼儀正しいし、初々しいし、すぐ顔真っ赤にするし、それなのになんか雰囲気エロいし、天使みたいに依ちゃんはかわいい。
 依ちゃんがカフェであの男といて、しかもエロい声あげたときは本当に頭がおかしくなるかと思った。
 一人一人耳を引きちぎって、頭をぶん殴って依ちゃんに関する記憶を忘れさせたいくらいだった。

 依ちゃんが合コンに参加するっていう報告を聞いたときは我慢ができなかった。
 しかも女をすぐヤリ捨てするようなメンツが入ってたんだよ。そいつら抜かして俺たちを入れてもらうのには苦労した。
 依ちゃんが他の男に抱かれるなんて誰が許すか。
 俺の目が黒いうちは誰にも抱かせない。依ちゃんには俺以外の男を知らないまま死んでいけと思う。

 そんなことを考えながら合コンに参加した俺は、依ちゃんのかわいさに悶えて、俺がいることを知らないくせにそんなかわいい格好をしてきた依ちゃんに苛立ちを覚えた。
 他の男に見られて欲情されたらどうすんの! お持ち帰りされたらどうする気だったの!
 俺を見て絶望したような顔をする依ちゃんには申し訳ないとは思ったけど、それでも俺は依ちゃんを諦めることは絶対にできなかった。

 依ちゃんの隣はキープしたものの、依ちゃんは頑なに俺を見ようとしない。
 しかも「男と付き合ったことがない」だって。
 うん、まあわかってたけど。依ちゃんにとって俺は付き合ってた男じゃないよね。知ってた。俺がイラつくのは間違いだってわかってる。
 だけどちょっとイラついて、王様ゲームではイタズラを仕掛けようと思った。

 そう思ってたんだけど、事態は急展開。
 王様である俺の「膝の上に座る」という命令を渋ってる依ちゃんの身体をひょいと抱き上げて俺の膝の上に無理矢理乗せた。
 俺がしたのはただそれだけ。
 それだけなのに、依ちゃんは軽くイッた。

 他の奴らにはバレてないと思う。ただ藤にはバレたとは思うけど。他の奴らは本当に依ちゃんが体調を崩したように見えただろう。俺のせいで顔色が悪かったことも幸いした。
 そんなの、我慢できるわけないだろ。
 依ちゃんをお持ち帰りする予定なんてなかったのに、気が付いたら依ちゃんと一緒にタクシーに乗って俺の部屋まで来てた。
 途中なんで合コンに参加したのか聞いても無視された。
 ……俺がやったことを考えたらしょうがないよね。わかってる。イラついてないってば。

 さすがにずっと触れてるのは依ちゃんのトラウマになっちゃうんじゃないかなと思って、妙に色気に溢れる依ちゃんをソファーに下ろして離れようとする。
 そうすると、依ちゃんは離れたくないとでも言うように俺の首に自分の腕を回して抱きついて来た。

「依ちゃん?」
「も、やだっ! 御岳くんなんて、きらいっ!」
「っ、」

 ズキッと心臓が軋む。死にたい。
 依ちゃんは泣いてるのか、身体も声も震えてる。
 自業自得なのは分かってるけど、やっぱり面と向かって「嫌い」と言われると死にたくなる。
 覚悟してたことなのに。俺がした結果なはずなのに、本当に死にたくなる。

「……わかってる、よ」
「わかってないよ、ばかあっ!」

 依ちゃんは何故かさらにギュッと俺の頭を抱き締めてくる。
 違う意味で辛くなってくる。依ちゃんのことを最後に抱いてからは他の誰も抱いてない。
 自分で処理してはいたけど、やっぱり依ちゃんを抱くのと自分でするのとじゃ全然全く違う。
 しかも依ちゃんいい匂いするし。

「ずるいっ!」
「依ちゃ、」
「御岳くんはずるいよ~~っ!」

 まるで子どものようだ。泣きじゃくる依ちゃんは天使みたい。

「私の身体を変にしといて、レイプして、にげて、最低だよ、ばかあ~! 御岳くんがいなくなって、私がどんな思いだったか知らないくせに~っ! ばかぁーっ!」

 依ちゃんにそう言われてズキズキと心臓が痛む。そのくせ依ちゃんに抱き締められてドキドキと心臓は動く。頭がおかしくなりそうだ。

「怖いって言ったのに、助けてって言ったのに無視するし、ナカに出しちゃやだって言ったのに無視してナカに出すし、私が気絶してる間にどっか行っちゃうし、私の身体おかしいし、なんなのもう! 御岳くんのせいだよ!」
「依ちゃん?」
「御岳くんのせいで一人でオナニーしちゃうし、御岳くんともう会わないって思ってたのに同じ大学にいるし、御岳くんの声聴いたり、顔見ただけでドキドキするし、えっちな気分になるし、もうわけわかんない!」

「なんなの、なんで合コンに来るの? 選り取り見取りのくせに、なんで私の邪魔ばっかりするのぉ、ばかあ」

 えっと……?
 ぐずぐずと泣きながら、俺を抱き締める依ちゃんの細い腕。おそるおそる抱き締め返すと、ギュッと依ちゃんが俺を抱き締める力が強くなる。
 心臓が痛い。やばい。
 依ちゃんと抱き合ったまま、俺もソファーに座る。今のところ依ちゃんから拒絶の反応はない。
 依ちゃんを自分と向かい合わせになるように抱き寄せる。特に嫌がることもなく、依ちゃんは俺の胸に顔を埋めるように抱き着いてきた。

 なんだこのかわいい生き物。
 俺の勘違いじゃなければ、依ちゃんは遠回しに俺が好きだって言ってるんだけど……?
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