綿パンを失くした

りんごちゃん

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『新入生代表挨拶、経済学部御岳真紘くん』

 運命とか神様とか縁だとか、そんなもの全部死んでしまえって本当に心底そう思った。


「やっぱり今からでも工学部に移動できないかな?」
「なに言ってんの?」

 大学に入学してもう一ヶ月。
 友達にそう言ったら一蹴された。
 ひどい。ひどいよぅ。

「だって、りいちゃん~」
「だいたい文学部主席でしょ。絶対無理じゃん。それに将来だって考えてんでしょ? 無理じゃん」
「うん……」

 でも、だって言ってみただけです……。
 入学したら、もう会わないと思ってた人と会った。それってすごい衝撃的だ。

 でも、御岳くんはなんだか雰囲気が違った。
 高校の時はなんでもないときもヘラヘラしてて、チャラい感じの雰囲気を持つ人だった。それなのに今の御岳くんは全然笑わなくて「クールなところが素敵!」なんて言われてる。
 たぶん私のことはもう覚えてないか気付いてない。もしかしたら気付いてて無視してるのかもしれないけど。
 だけど私は御岳くんから離れたい。私が御岳くんの近くにいたくないから。
 同じ文系は場所が近いから困る。理系の学部に行けば遠いからあんまり近寄らなくて済むんだけどなあ。
 御岳くんの近くにいると、ダメなのだ。私が。
 心がきゅんってなって、身体の奥が熱くなる。
 大学に入って、御岳くんの声を聞いた日は必ず自慰をしてしまう。

 ダメな身体なんだ、私の身体。

「じゃ、あたしバイトだから」
「あ、うん。行ってらっしゃい。頑張ってね」
「依も講義頑張って」

 ポンと私の頭に手を置くと、りいちゃんは行ってしまう。
 ちなみにりいちゃんは違う高校だったけど私と仲良しの友達。それから寿一くんの年の離れたお姉さんの子供。つまり寿一くんの姪っ子。

 りいちゃんは御岳くんのことを知らない。
 御岳くんのことに気づいた寿一くんは心配そうに私を見てきたけど大丈夫。もう関係ないから。
 お兄ちゃんはアホだから気付いてないと思う。たぶん。なにも言ってこないし。

 りいちゃんがいなくなって、大学内のスタバのテーブルには私一人。
 りいちゃん以外の友達もそりゃいるけど、その子たちといると大抵が御岳くんの話になってしんどくなる。

 御岳くんは大学一のモテ男だった。
 お兄ちゃんと寿一くんもよく噂を聞くけど、御岳くんほどじゃない。
 何故か御岳くんはどっかの会社の社長の息子で、いつかは社長になるって話になってるし。御岳くんはそんな人じゃなくて、どっかのすごい職人さんの息子なのに。
 でも、それを抜いても顔がいいのは事実で、いつも告白されてるって噂が私たちの学部にまで来る。

 つらい。

「依、一人で勉強?」
「寿一くん」

 なんだかもう御岳くんのことを考えるのが嫌で、もうすぐある日本語検定の勉強をしてると寿一くんが来た。
 寿一くんも目立つ存在だからあんまり大学内で話しかけて欲しくないんだけど、寿一くんにそう言ったら悲しそうにするからあんまり強く言えない。
 お兄ちゃんは私の言葉なんて無視でどんどん話しかけてくるから、そもそも言わない。もう大学内ではお兄ちゃんの妹ってみんなにバレてるし。

「うげ、日本語検定とかよくやるね」
「検定楽しいよ。私、100の資格を持つ女になるの!」
「じゃあ、理系のことなら俺が教えてあげる」
「やった。寿一くん、教え方上手だから嬉しい」 

 寿一くんは文系がてんでダメな代わりに理系の学問なら数学化学工学なんでもござれの人だ。お兄ちゃんはどっちもできるけど、理系の方が好きな人。ロボット作り楽しいってよく言ってる。
 私は理系があんまり得意じゃないからそれはちょっと羨ましい。

「そういえばこっちに来るなんてどうしたの? なんか用事?」
「うん。今日は伊代がバイト休みだから一緒に食事しないかと思って」
「うーん……」

 寿一くんの提案はとっても魅力的。 
 ご飯代浮くし、美味しいものいっぱい食べられるし。
 だけど、そしたら家に帰った後すごく寂しくなっちゃうんだよねぇ。

 うーん、と考えてるとキャーキャー外が騒がしくなり始める。
 なんだろ、と思ったところでその声が聞こえたとたん、身体がびくりと跳ねた。

ふじ、いつものだから頼んどいて」
「くっ……はいはい」

 御岳くんとその取り巻き。男三人に女五人の集団はとっても目立つ。
 御岳くん集団は少し席の離れたところに座った。少しだけ安心する。
 だけど、御岳くんがこんなに近いのはなんだか緊張して心臓がドキドキしてる。死んじゃいそう。

「依?」

 勉強してた手が嫌でも止まって、意識せざる得ない。

「ねぇ、真紘くぅん、一人暮らしなんでしょ? 私、真紘くんの家に行きたいな」
「あ、あたしもー!」

 関係ないのに、聞きたくないのに、御岳くんに話しかける女の子たちの甘い声がどうしても入ってくる。
 なんて言うんだろう。もしかして「いいよ」なんて言うんだろうか。
 私とエッチしてたときみたいにベッドに押し倒して、長い指で優しく笑いながらいっぱいおまんこを撫でて、たくさんイカせて、それから

「依?」
「ひゃぁんっ!」

 しん、と話し声が止んだ。

 ……あ、あれ? 私、今……

「っっっ!」

 やってしまった。そう理解して顔が真っ赤になる。口を押さえたけどすでに遅い。
 ただ寿一くんに肩を叩かれただけだったのに、変なことを考えてたせいで、あんな、あんなの。
 寿一くんは驚いたように目を丸くしてる。御岳くんがいる集団のほうは見なかった。見たくなかった。

「っ、わたし、今日はいい! つ、次講義入ってるから!」

 テーブルに広がってる勉強道具を全部適当にカバンに入れて、顔を隠しながら逃げるようにカフェを出た。



「ぅー、もうやだ……」

 講義が終わると、脇目も振らずに家に駆け込んだ。
 本当は本屋さんに行って参考書が欲しかったんだけど、そんなの無理だった。

 すぐさま浴室に駆け込んで服を脱ぐ。
 とろとろに濡れてたおまんこがまだ乾いてなかったらしく、まるでお漏らししたみたいにパンツはぐしょぐしょだった。

「ふっ、んっ、」

 指でおまんこをなぞる。濡れてたそこは、触ったことでさらにトロトロと蜜が溢れ出す。

「も、やだぁ……」

 なんでこんなのなの。なんで御岳くんの声を聞いただけでこんなになっちゃうの。
 ボロボロと泣きながら、指で一番敏感な芽を擦る。
 御岳くんが与えてくれたものとは全然違う。もっと頭がおかしくなりたいのに、自分で慰めてもおかしくなれない。
 御岳くんのことを忘れたいのに。
 壁に背を預けて両脚をM字の形で立てながら、くちゅくちゅと音を立てて擦る。

 こんなに身体は言うことを聞いてくれない。
 我慢しようと思ってる。だけど身体はおかしてくて、慰めないと頭の中がおかしくなりそうになる。高校の時は受験勉強っていう夢中になれるものがあった。だから一週間に一回だけやれば我慢できてた。
 だけど大学に入ってからは気が緩んだのもあると思う。一番は御岳くんがいるから。
 御岳くんの顔を見て、声を聞いた日は必ず濡れてしまう。

 さいてい、さいてい。

「も、たすけてよぉ………ッ」

 びくん、と身体を一回揺らしながら私はイッた。

 それなのに、熱は溜まっていくばかりだった。
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