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オスカー
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僕はソフィーのことを愛していて、並々ならぬ執着を彼女に抱いているけど、なにも最初からそうではなかった。
と、言ってもアーノルドは全く信じてないようだね。
ソフィーに初めて出逢ったのは七歳のとき。いくらなんでもそんないたいけな少年が、初めて出逢った少女のことを監禁したい啼かせたいなんて思うわけないでしょ?
ね? 思わないよねぇ?
……うん、まあいいよ。返事がちょっと吃ってるけど許してあげる。
ああ、それでどうしてソフィーを監禁して啼かせたいって思うようになったか?
それはね、ソフィーがいつか僕から離れようとしてたからかな。
あ、この子、ちゃんと僕が管理しないと簡単に逃げるなって思ったんだよ。二度目に会ったとき。
え? それってほぼ初対面? そんなことないよ。お互い名前も顔も知ってるんだから初対面じゃないに決まってるじゃない。
ねぇ?
ソフィーは僕の婚約者となるべく僕と引き合わされた。
ソフィーの家との家格は釣り合ってるし、なにより彼女の祖母は海の向こうの国の元王女。外交的な意味合いでも、ソフィーを王家に取り入れることはとても有利に働く。ソフィーは自分の祖母の国の言葉をすでに自由自在に話せたしね。
初めて出逢ったときに初対面での名前呼びには驚いたけど。そのあとロマンス公爵には怒られたみたい。怒られて涙目になってるソフィーは愛らしかった。
ソフィーは大切なお姫様だ。
二度目にソフィーと出逢ったときは、ソフィーはビクビクと震えていた。まるで小動物のようだった。とても可愛いと思ったよ。
僕はどうしてか小動物には逃げられるから、小動物のようなソフィーは僕の目にはとても新鮮に映った。
飼いたいなぁ、とは思ったけど、さすがに公爵家の娘を飼うなんてことを実行しようとはしなかったよ。考えただけで。
「あ、あの、殿下……」
「どうしたの、ソフィー。あ、ソフィーって呼んでもいいかなぁ? ソフィーのことは僕だけが愛称で呼びたいな」
事後承諾になったけどいいよね?
ソフィーは僕のお願いに不思議そうに首を傾げる。僕も鏡のように首を傾げた。
あれ、想像と違う。僕の想像だと、顔を真っ赤にさせてコクコクと頷いてる姿だったんだけど。どうしてそんな不思議そうな顔をしてるんだろう。
「どうしたの?」
「え、えっと……、あの、わたしのこと、アル兄様もソフィーって呼ぶから、殿下だけじゃないです」
ピシッと僕の笑顔が固まった。
そんな僕には気付かず、彼女は指折り「それから、お父様もソフィーって呼ぶし、護衛のマックスもダイもソフィーお嬢様って呼ぶし、メイドのミイナもソフィーお嬢様だし、あとあと」なんて他人の名前をつらつらと上げていく。
アル兄様というのは、ソフィーの従兄弟であり、我が国を守る騎士団団長の息子だ。そして内密に調べた結果によると、ソフィーの初恋の男だ。
……うん、なんだかすごく胃がムカムカするな。
「わかった。じゃあこれからは僕以外がソフィーって呼ぶのは禁止ね」
「え?」
「だってソフィーは僕の婚約者で未来の王妃だもの。僕以外がソフィーを愛称で呼んでいるのはおかしいでしょ?」
にこにこと笑顔を見せながらソフィーに詰め寄る。
ソフィーはきょとんとくりくりした大きな目をぱちくりと瞬かせて、今度は潤んだ瞳でジッと僕を見つめた。
「で、でも、わたし、王妃になれないんです……」
……うん?
「婚約破棄されちゃって、それで、でも、あんなのは嫌だから、わたし、がんばって殿下の邪魔はしないようにするんですっ!」
「……………うん?」
なにを言ってるんだろう、この子。
この婚約は王家とロマンス公爵家の公的な契約だから、婚約破棄なんてことはありえない。つまり、ソフィーは僕の妻となり、この国の王妃となる以外に道はないんだけど。
「あの、でも、なるべく殿下と婚約破棄したくないなって……。だって、あんな悲惨な最期いやです! 絶対、いや……」
「えぇっと、それって、どんな最期なの?」
「それは……言えませんっ! あんなおぞましい最期、わたしの口から言えないっ!」
おぞましい最期ってなんなのかなぁ?
口を割るまで詰め寄りたいけど、もうすでに涙を流してる少女をいたぶる趣味はない。
ちょっとその泣いてる顔をずっと見てみたいなぁとは思ったけど、それを口に出すほど馬鹿でもない。それにソフィーとはながぁい付き合いになるんだし、こんなのはいつでもできる。
「殿下のような天使さまに、あんなこと言えない!」
天使って誰かな? いや、殿下のような天使って言ったし、僕のことなんだろうけど。
確かに僕は黙っていると、気弱でおどおどしている性格に見えるらしい。中身はそんなことないんだけど、一度だけ誘拐されたときに「こんな弱そうなぴるぴるしてるガキを誘拐なんて余裕だぜ」とか言われた。腹が立ったから、小さな身体で頑張って顔面に膝蹴りを入れた上で、魔法で服を切り刻んで全裸にさせて、その仲間たちも全員魔法でとっ捕まえて、同じように全裸にしてから、魔力で持ち上げて街中を練り歩かせて王宮まで帰ってきたんだけどね。もちろん僕はこっそり身を隠してたよ。
あのときは結構な騒ぎになって、あれからは悪魔のようだと陰口を叩かれるようになったんだけど、ソフィーはそれを知らないのだろうか。まあ、僕のことを悪魔なんて言ったやつは全員牢屋に閉じ込めて洗の……じゃなくて調きょ……じゃなくて、教育してから職場に戻してるから、今ではすっかり僕のことを悪魔なんていう人たちはいなくなったし、知らないのも無理はないかもしれない。
うん、それならソフィーには絶対に耳に入らないようにしようっと。
ソフィーには優しい僕だけを見て貰おう。ソフィーはまるで小動物。それも警戒心のない。野生としては致命的だけど、ペットとしては都合がいい。
「わかったよ、ソフィー。もう聞かない」
ふるふると首を振って耳を塞いでいるソフィーの手をそっと退かして、その手に自分の手を重ねる。
濡れた瞳で僕を見つめるソフィーのなんたる愛らしいことか。
湧き上がる独占欲。誰にも奪われたくない、それなら監禁してしまおうかという狂気が僕の中で芽吹く。
しないけどね? もちろん。
「でんか……」
「僕のことはオスカーって呼んでほしいなぁ。ね、ソフィー」
「あっ……えっと、オスカー、さま……」
ぼぼぼっと火がついたように真っ赤になるソフィーの顔に満足して頷く。頭を撫でると、真っ赤な顔がさらに赤く色付いて、とても美味しそうな顔になった。
まさか突然キスなんてしない。したいな、とは思うけど、ソフィーとの時間はまだまだあるし、いきなり距離を詰め過ぎて逃げられでもしたら大変。追いかけないといけなくなるね。
ああでもそれはそれで楽しそうかな。逃げるソフィーを見ながら、追いかけるのはとても楽しいと思う。どうせ逃げられないのにね。結末がわかってる追いかけっこでも、その過程が楽しければいい。
「じゃあソフィー、これから婚約者としてよろしくね」
「ぇっ!?」
「なにかなぁ? 不満でもあるの?」
そんな奇声を発せられると気になってしまう。
例えソフィーが嫌がっても婚約は解消できないんだけどなぁ。聞くだけ聞いてあげるのも婚約者の務めかな。
「だって、わたし、婚約破棄……でも、あれ、仲良くしてたほうがあんな最後を送らないでも……でも、だけど……婚約、やだぁ……」
ぶつぶつと独り言言ってるけど、それ、全部聞こえてるからね?
婚約がやだってどういうことかな。顔はいいし、好物件だと思うんだけど。ああでもソフィーみたいな小動物には王妃というのは荷が重過ぎるのかもしれない。それなら仕方ない。冒険者になるという道も残しておかないといけないね。
できることなら、陛下と王妃には僕以外の子供も作っておいてほしいんだけど、王妃は身体が弱いから、子供を作るのは難しいかもしれない。陛下も王妃の命を優先するだろう。
まあ、幸い王弟殿下もいるし、王弟殿下には子供もいる。僕がいなくなってもこの国が滅びることはないだろう。
僕にできるのは冒険者として出奔したときに、自分とソフィーの身を守れるように力をつけておくことか。力をつけることに損はない。今まで以上に剣技と魔法の授業は頑張ろう。
あとは平民として生活できるように、日頃から城下町に降りておこう。ああでも僕の場合顔が目立つな……。幻覚魔法を覚えてからにしよう。
「大丈夫だよ、ソフィー。どちらにしても君は僕の妻になるから」
「つま……? きりきざんでたべられる……」
「なんか発音が違うかな。……食べることに違いはないけど」
ソフィーはなにを想像してるんだろう?
切り刻んでは食べないよ。違う意味でいつかは食べるけど。
僕は七歳だけど、性教育はすでに受けてるからね。実践はしてないよ。まだ七歳だもの。精通が来てないし。
「ねぇ、ソフィー。それよりもお菓子食べたくなぁい?」
「おかし?」
「うん。薔薇のケーキ。王家の料理人がね、ソフィーのために作ったんだよ。食べたくない?」
「食べたいです!」
うんうん、ソフィーって単純。かわいいなぁ。
キラキラと目を輝かせて、さっきとはまるで違う。さっきまでしょぼくれてたのに、今は頭の中がケーキでいっぱいなんだろうとすぐわかる。
分かり易すぎるのはどうかと思うけど、僕の前でならそれでいいや。僕以外の前ではもう少ししっかりしてもらわなくちゃいけないけどね。王妃教育が始まったらもう少ししっかりするだろう。残念だけど。
とにもかくにも、ソフィーは婚約破棄をされると考えてるみたいだし、ソフィーから目を離しちゃいけないな。
必要とあれば、閉じ込めなくちゃいけないかも。
まあ、我が国に多大なる貢献をする公爵家の娘で、未来の王妃を監禁なんてことはなるべくしたくないんだけどね。願望だけなら自由だし、部屋を整えさせるのは自由だよね。
その十数年後に、まさか本当にソフィーを監禁するとは思わなかったよ。
……本当だよ?
ソフィーの妹があんなに僕にベタベタするのはどうしてかなぁ、とは思ってたけど、ソフィーの義妹だし仕方ないかなぁと思って。気分は悪かったけど、ソフィーに「君の妹気持ち悪い」なんてさすがに言えないよ。
それがきっかけでソフィーが嫉妬するとは思わなかったし、まさか修道院に行くだの、娼婦になるだの言ってるとは思わないし。
絶対許さないよ。そんな考えがなくなるまで監禁しないとダメでしょ?
そしたら癖になっちゃって、監禁してるほうが安心するようになっちゃったんだよね。仕方ないよねぇ。
ソフィーも本気で嫌がってないし、いいかなって。
ま、結果的にみんな幸せでよかったよね。
アルドルフ? あいつはきっとすぐに戻ってくるから別に心配してない。脳筋だから問題ないよ。
あいつもさっさと婚約者でも作って結婚してくれないかなぁ。こっちで婚約者を選んでもいいんだけど、アルドルフは動物的なところがあるから、こっちで婚約者を選んでも気に入らなければ可哀想なことになる。難しい問題だよねぇ。
アルドルフはどうでもいいとして、そろそろ隣国から女好きの第二王子が短期留学でこの国に来る。それも僕たちの結婚式までいるんだって。
全く世の中うまく行かないよね。
今まであいつが女好きだからソフィーに会わせないようにしてたのに、歓迎パーティーでソフィーと二人であいつに会うことになっちゃったんだもの。
王から「そろそろソフィア嬢を部屋から出してあげなさい。せめてルバーニ殿下が来るときは家に帰してあげなさい」って言われちゃったし。
王に言われるまでもなく、それは考えてた。
数ヶ月といはいえ、第二王子も滞在する王宮にソフィーを置いておくわけにはいかない。
寂しいけど、僕がソフィーの家に転移で逢いに行けば済む話。
ああ、でもソフィーの態度によっては色々考えなくちゃいけないよね?
この話を持っていったときのソフィーの反応が楽しみだなぁ。
あれ? どうしてそんなに顔が真っ青なの? 本当面白いよね、アーノルドは。すごく顔に出る。それで周りにはクールって言われてるところが面白いところだよねぇ。
さすがはソフィーの弟って感じ。ソフィーと切っても切れない縁があるのは少し腹立たしいけど、それを言ったらロマンス公爵もだしね。
え? 血を抜かないでください?
やだなぁ、僕がそんなことするわけないでしょう?
本当、君たち姉弟はおかしいよねぇ。見てて楽しいや。
ソフィーが帰るときはお迎えよろしくね。余計なことは言わなくていいから。
……ふふふ、怯えた顔がソフィーそっくりで面白いや。
と、言ってもアーノルドは全く信じてないようだね。
ソフィーに初めて出逢ったのは七歳のとき。いくらなんでもそんないたいけな少年が、初めて出逢った少女のことを監禁したい啼かせたいなんて思うわけないでしょ?
ね? 思わないよねぇ?
……うん、まあいいよ。返事がちょっと吃ってるけど許してあげる。
ああ、それでどうしてソフィーを監禁して啼かせたいって思うようになったか?
それはね、ソフィーがいつか僕から離れようとしてたからかな。
あ、この子、ちゃんと僕が管理しないと簡単に逃げるなって思ったんだよ。二度目に会ったとき。
え? それってほぼ初対面? そんなことないよ。お互い名前も顔も知ってるんだから初対面じゃないに決まってるじゃない。
ねぇ?
ソフィーは僕の婚約者となるべく僕と引き合わされた。
ソフィーの家との家格は釣り合ってるし、なにより彼女の祖母は海の向こうの国の元王女。外交的な意味合いでも、ソフィーを王家に取り入れることはとても有利に働く。ソフィーは自分の祖母の国の言葉をすでに自由自在に話せたしね。
初めて出逢ったときに初対面での名前呼びには驚いたけど。そのあとロマンス公爵には怒られたみたい。怒られて涙目になってるソフィーは愛らしかった。
ソフィーは大切なお姫様だ。
二度目にソフィーと出逢ったときは、ソフィーはビクビクと震えていた。まるで小動物のようだった。とても可愛いと思ったよ。
僕はどうしてか小動物には逃げられるから、小動物のようなソフィーは僕の目にはとても新鮮に映った。
飼いたいなぁ、とは思ったけど、さすがに公爵家の娘を飼うなんてことを実行しようとはしなかったよ。考えただけで。
「あ、あの、殿下……」
「どうしたの、ソフィー。あ、ソフィーって呼んでもいいかなぁ? ソフィーのことは僕だけが愛称で呼びたいな」
事後承諾になったけどいいよね?
ソフィーは僕のお願いに不思議そうに首を傾げる。僕も鏡のように首を傾げた。
あれ、想像と違う。僕の想像だと、顔を真っ赤にさせてコクコクと頷いてる姿だったんだけど。どうしてそんな不思議そうな顔をしてるんだろう。
「どうしたの?」
「え、えっと……、あの、わたしのこと、アル兄様もソフィーって呼ぶから、殿下だけじゃないです」
ピシッと僕の笑顔が固まった。
そんな僕には気付かず、彼女は指折り「それから、お父様もソフィーって呼ぶし、護衛のマックスもダイもソフィーお嬢様って呼ぶし、メイドのミイナもソフィーお嬢様だし、あとあと」なんて他人の名前をつらつらと上げていく。
アル兄様というのは、ソフィーの従兄弟であり、我が国を守る騎士団団長の息子だ。そして内密に調べた結果によると、ソフィーの初恋の男だ。
……うん、なんだかすごく胃がムカムカするな。
「わかった。じゃあこれからは僕以外がソフィーって呼ぶのは禁止ね」
「え?」
「だってソフィーは僕の婚約者で未来の王妃だもの。僕以外がソフィーを愛称で呼んでいるのはおかしいでしょ?」
にこにこと笑顔を見せながらソフィーに詰め寄る。
ソフィーはきょとんとくりくりした大きな目をぱちくりと瞬かせて、今度は潤んだ瞳でジッと僕を見つめた。
「で、でも、わたし、王妃になれないんです……」
……うん?
「婚約破棄されちゃって、それで、でも、あんなのは嫌だから、わたし、がんばって殿下の邪魔はしないようにするんですっ!」
「……………うん?」
なにを言ってるんだろう、この子。
この婚約は王家とロマンス公爵家の公的な契約だから、婚約破棄なんてことはありえない。つまり、ソフィーは僕の妻となり、この国の王妃となる以外に道はないんだけど。
「あの、でも、なるべく殿下と婚約破棄したくないなって……。だって、あんな悲惨な最期いやです! 絶対、いや……」
「えぇっと、それって、どんな最期なの?」
「それは……言えませんっ! あんなおぞましい最期、わたしの口から言えないっ!」
おぞましい最期ってなんなのかなぁ?
口を割るまで詰め寄りたいけど、もうすでに涙を流してる少女をいたぶる趣味はない。
ちょっとその泣いてる顔をずっと見てみたいなぁとは思ったけど、それを口に出すほど馬鹿でもない。それにソフィーとはながぁい付き合いになるんだし、こんなのはいつでもできる。
「殿下のような天使さまに、あんなこと言えない!」
天使って誰かな? いや、殿下のような天使って言ったし、僕のことなんだろうけど。
確かに僕は黙っていると、気弱でおどおどしている性格に見えるらしい。中身はそんなことないんだけど、一度だけ誘拐されたときに「こんな弱そうなぴるぴるしてるガキを誘拐なんて余裕だぜ」とか言われた。腹が立ったから、小さな身体で頑張って顔面に膝蹴りを入れた上で、魔法で服を切り刻んで全裸にさせて、その仲間たちも全員魔法でとっ捕まえて、同じように全裸にしてから、魔力で持ち上げて街中を練り歩かせて王宮まで帰ってきたんだけどね。もちろん僕はこっそり身を隠してたよ。
あのときは結構な騒ぎになって、あれからは悪魔のようだと陰口を叩かれるようになったんだけど、ソフィーはそれを知らないのだろうか。まあ、僕のことを悪魔なんて言ったやつは全員牢屋に閉じ込めて洗の……じゃなくて調きょ……じゃなくて、教育してから職場に戻してるから、今ではすっかり僕のことを悪魔なんていう人たちはいなくなったし、知らないのも無理はないかもしれない。
うん、それならソフィーには絶対に耳に入らないようにしようっと。
ソフィーには優しい僕だけを見て貰おう。ソフィーはまるで小動物。それも警戒心のない。野生としては致命的だけど、ペットとしては都合がいい。
「わかったよ、ソフィー。もう聞かない」
ふるふると首を振って耳を塞いでいるソフィーの手をそっと退かして、その手に自分の手を重ねる。
濡れた瞳で僕を見つめるソフィーのなんたる愛らしいことか。
湧き上がる独占欲。誰にも奪われたくない、それなら監禁してしまおうかという狂気が僕の中で芽吹く。
しないけどね? もちろん。
「でんか……」
「僕のことはオスカーって呼んでほしいなぁ。ね、ソフィー」
「あっ……えっと、オスカー、さま……」
ぼぼぼっと火がついたように真っ赤になるソフィーの顔に満足して頷く。頭を撫でると、真っ赤な顔がさらに赤く色付いて、とても美味しそうな顔になった。
まさか突然キスなんてしない。したいな、とは思うけど、ソフィーとの時間はまだまだあるし、いきなり距離を詰め過ぎて逃げられでもしたら大変。追いかけないといけなくなるね。
ああでもそれはそれで楽しそうかな。逃げるソフィーを見ながら、追いかけるのはとても楽しいと思う。どうせ逃げられないのにね。結末がわかってる追いかけっこでも、その過程が楽しければいい。
「じゃあソフィー、これから婚約者としてよろしくね」
「ぇっ!?」
「なにかなぁ? 不満でもあるの?」
そんな奇声を発せられると気になってしまう。
例えソフィーが嫌がっても婚約は解消できないんだけどなぁ。聞くだけ聞いてあげるのも婚約者の務めかな。
「だって、わたし、婚約破棄……でも、あれ、仲良くしてたほうがあんな最後を送らないでも……でも、だけど……婚約、やだぁ……」
ぶつぶつと独り言言ってるけど、それ、全部聞こえてるからね?
婚約がやだってどういうことかな。顔はいいし、好物件だと思うんだけど。ああでもソフィーみたいな小動物には王妃というのは荷が重過ぎるのかもしれない。それなら仕方ない。冒険者になるという道も残しておかないといけないね。
できることなら、陛下と王妃には僕以外の子供も作っておいてほしいんだけど、王妃は身体が弱いから、子供を作るのは難しいかもしれない。陛下も王妃の命を優先するだろう。
まあ、幸い王弟殿下もいるし、王弟殿下には子供もいる。僕がいなくなってもこの国が滅びることはないだろう。
僕にできるのは冒険者として出奔したときに、自分とソフィーの身を守れるように力をつけておくことか。力をつけることに損はない。今まで以上に剣技と魔法の授業は頑張ろう。
あとは平民として生活できるように、日頃から城下町に降りておこう。ああでも僕の場合顔が目立つな……。幻覚魔法を覚えてからにしよう。
「大丈夫だよ、ソフィー。どちらにしても君は僕の妻になるから」
「つま……? きりきざんでたべられる……」
「なんか発音が違うかな。……食べることに違いはないけど」
ソフィーはなにを想像してるんだろう?
切り刻んでは食べないよ。違う意味でいつかは食べるけど。
僕は七歳だけど、性教育はすでに受けてるからね。実践はしてないよ。まだ七歳だもの。精通が来てないし。
「ねぇ、ソフィー。それよりもお菓子食べたくなぁい?」
「おかし?」
「うん。薔薇のケーキ。王家の料理人がね、ソフィーのために作ったんだよ。食べたくない?」
「食べたいです!」
うんうん、ソフィーって単純。かわいいなぁ。
キラキラと目を輝かせて、さっきとはまるで違う。さっきまでしょぼくれてたのに、今は頭の中がケーキでいっぱいなんだろうとすぐわかる。
分かり易すぎるのはどうかと思うけど、僕の前でならそれでいいや。僕以外の前ではもう少ししっかりしてもらわなくちゃいけないけどね。王妃教育が始まったらもう少ししっかりするだろう。残念だけど。
とにもかくにも、ソフィーは婚約破棄をされると考えてるみたいだし、ソフィーから目を離しちゃいけないな。
必要とあれば、閉じ込めなくちゃいけないかも。
まあ、我が国に多大なる貢献をする公爵家の娘で、未来の王妃を監禁なんてことはなるべくしたくないんだけどね。願望だけなら自由だし、部屋を整えさせるのは自由だよね。
その十数年後に、まさか本当にソフィーを監禁するとは思わなかったよ。
……本当だよ?
ソフィーの妹があんなに僕にベタベタするのはどうしてかなぁ、とは思ってたけど、ソフィーの義妹だし仕方ないかなぁと思って。気分は悪かったけど、ソフィーに「君の妹気持ち悪い」なんてさすがに言えないよ。
それがきっかけでソフィーが嫉妬するとは思わなかったし、まさか修道院に行くだの、娼婦になるだの言ってるとは思わないし。
絶対許さないよ。そんな考えがなくなるまで監禁しないとダメでしょ?
そしたら癖になっちゃって、監禁してるほうが安心するようになっちゃったんだよね。仕方ないよねぇ。
ソフィーも本気で嫌がってないし、いいかなって。
ま、結果的にみんな幸せでよかったよね。
アルドルフ? あいつはきっとすぐに戻ってくるから別に心配してない。脳筋だから問題ないよ。
あいつもさっさと婚約者でも作って結婚してくれないかなぁ。こっちで婚約者を選んでもいいんだけど、アルドルフは動物的なところがあるから、こっちで婚約者を選んでも気に入らなければ可哀想なことになる。難しい問題だよねぇ。
アルドルフはどうでもいいとして、そろそろ隣国から女好きの第二王子が短期留学でこの国に来る。それも僕たちの結婚式までいるんだって。
全く世の中うまく行かないよね。
今まであいつが女好きだからソフィーに会わせないようにしてたのに、歓迎パーティーでソフィーと二人であいつに会うことになっちゃったんだもの。
王から「そろそろソフィア嬢を部屋から出してあげなさい。せめてルバーニ殿下が来るときは家に帰してあげなさい」って言われちゃったし。
王に言われるまでもなく、それは考えてた。
数ヶ月といはいえ、第二王子も滞在する王宮にソフィーを置いておくわけにはいかない。
寂しいけど、僕がソフィーの家に転移で逢いに行けば済む話。
ああ、でもソフィーの態度によっては色々考えなくちゃいけないよね?
この話を持っていったときのソフィーの反応が楽しみだなぁ。
あれ? どうしてそんなに顔が真っ青なの? 本当面白いよね、アーノルドは。すごく顔に出る。それで周りにはクールって言われてるところが面白いところだよねぇ。
さすがはソフィーの弟って感じ。ソフィーと切っても切れない縁があるのは少し腹立たしいけど、それを言ったらロマンス公爵もだしね。
え? 血を抜かないでください?
やだなぁ、僕がそんなことするわけないでしょう?
本当、君たち姉弟はおかしいよねぇ。見てて楽しいや。
ソフィーが帰るときはお迎えよろしくね。余計なことは言わなくていいから。
……ふふふ、怯えた顔がソフィーそっくりで面白いや。
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