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 もう朝焼けが私たちを照らしていた。
 かろうじて一度も私の身体に本番はされなかったけど、リアム様のものとたくさん擦り合わさったあそこは真っ赤に腫れ上がってる。
 私も何度も気が遠くなるような経験をして、何度も意識を飛ばした。
 それなのに、目の前のリアム様は未だに腰を振り続け、私に白い液体をかけ続けている。
 身体中に精液を塗りたくられ、ベッドのシーツは私たちの汗といろいろな体液で濡れ切ってる。
 後始末が大変だろうなとぼんやりとしか考えられない。

 いつ、終わるのだろう。早く終わらないと、メイドが私を起こしにきてしまうのに、声を出す気力もない。
 リアム様だけはまだ足りないとでも言うように目をギラギラとさせながら私を見下ろしている。

「はっ、はっ、これで、そろそろ、かなっ?」
「っ!」

 今度は髪だった。すでにカピカピになった髪に再度精液がかけられる。
 時折思い出したようにリアム様がキスをするから、顔だけは無事。キスだって、たくさんされ過ぎてしまって腫れ上がったように熱を持ってる。

「シルヴィア、シルヴィア……」

 いろんな体液だらけの私を、いつのまにか全裸になったリアム様が抱き締める。
 もう、なにがなんだかわからない。
 私は、ただのリアム様の性処理の道具だったのかなぁ。

「シルヴィア、俺は、シルヴィアのこと……」

 リアム様がなにか言おうとしたその時、コンコンと扉がノックされた。

「シルヴィアお嬢様、朝です。入ります」
「あ、っ!」

 ダメ、そう言おうとした瞬間、リアム様の手に口を覆われて言葉が出ない。
 そうして、メイドが入ってきてしまった。
 押し倒された私とメイドの目が合う。そしてメイドの目が大きく開いていって……。

「きゃぁぁあああああああっっっっ!!!」

 大きな悲鳴が上がった。



 悲鳴が上がり、離れの小屋とはいえ侯爵令嬢が寝ていたからか、護衛騎士が三人すぐさまその場にやってきた。
 少し時間がかかったのは部屋の前ではなく、小屋の近くにいたからだろう。お母様が、そう配置したんだと思う。

 私とリアム様のあられもない姿にメイドはふらりと気を失いそうになって、護衛騎士たちは全裸の私を視界に入れないように動く。
 リアム様は人が集まってきたからか、すぐに私と自分を大きなシーツで覆って素肌を隠した。こんな新品のシーツ、我が家のものじゃない。持ち込んでいたのだろうか。そんな用意周到さにこんなときだというのに感心してしまう。

「り、リアム殿下! 殿下とはいえ婦女子の部屋に不法侵入など……!」
「不法侵入だけじゃないよ? 見ればわかるだろ? それに俺とシルヴィアは婚約してるんだから、非難される筋合いはない」
「そういうことではありません!」

 護衛騎士とリアム様がポンポンと掛け合いをしてる間にどんどん人が増えていく。

「シルヴィア!」

 金切り声が、部屋に響いた。

 否が応でもビクッと身体が震える。
 カツンカツンと足音が私たちの前に来て、私は思わず隣にいる全裸のリアム様に身を寄せていた。

「おかあ、さま……」
「どういうことなの、これは! こんな、信じられないわ!」

 臭そうに鼻をハンカチで覆い隠し、お母様は「汚らわしい」とでもいうようにその顔を歪める。
 その顔にずきずきと胸が痛んだ。
 だけど次に来た人物にギョッとする。

「グレイ夫人、これは……」
「ああっ、ユディット子爵! 申し訳ありません、不出来な娘で……」

 交流のない男性が私の部屋に入っている。
 その状況にゾッとして、リアム様と一緒にかぶってるシーツを強く握りしめる。
 ユディット子爵は名前だけは知ってる。お母様のご実家が経営している領地の隣の領地を経営している方だ。どうしてそんな方が私の部屋に? いいえ、そもそもどうして家にいらっしゃるの?

「不出来とはあんまりな言い方じゃないか、グレイ夫人?」
「殿下! その、娘とは婚約破棄をなさったのでは……」
「そんな覚えはないなぁ。ほら、こうして俺とシルヴィアは肌を寄せ合っている」
「ち……ふっ」

 リアム様が私の肩を抱き寄せる。
 違う、と言いかけると、リアム様に唇を塞がれた。ただ私を黙らせるだけのキスが終わると、リアム様は耳に唇を寄せて囁く。

「シルヴィア。君はもう男を知ったと思われてるんだよ? 今だって俺の精液塗れでさぁ……。そんな君の言葉を誰が信じるのかな」
「っ!」

 衝撃で、言葉が出なかった。
 リアム様のことがわからない。リアム様は結局のところ、私をどうしたいのだろう。
 なんて、自分に訊ねてみても答えは出てる。

 リアム様はまだお遊び足らないのだ。
 レティ様と結婚するのかと思っていた。夢の通りに。
 けれど、現実のリアム様はそうじゃなくて、まだまだ女性との戯れが足りない。そうして私は都合のいい婚約者。私にはまだ婚約者でいられないと、リアム様にとって都合が悪いんだわ。だから、こんなことまでして私を婚約者のままにするんだ。

「シルヴィアとは少し行き違いがあっただけだ。でもまあ、これを見てくれればわかる通りすっかり仲直りしたからね。ねぇ、シルヴィア?」
「……はい、リアム様」

 なんだか、まるで絶望の渦に飲み込まれたような気がした。
 私は疲れたのだ。リアム様が他の女性と心を合わせ、親密そうに笑いあってる姿を見ることに。
 それがもう見たくなくて、レティ様とリアム様のためと言って修道院に入ることにした。それなのに、なんなのだろう、この状況は。
 私はリアム様の女性遊びから目をそらすことを許してもらえないのか。
 私は、愛する人が他の女性に愛を囁く姿を見続けるしかないの?

「なんですと? グレイ夫人、話が違いますが……」
「ユディット子爵、その話はまた後で……」

 こそこそとお母様とユディット子爵がなにかを話す。
 そんなことどうでもよかった。
 そんなことよりも、自分がこの苦しい現実と向き合わなければいけないことに絶望を感じていた。

 目撃者が我が家のメイドと護衛騎士、お母様だけなら、この話をここだけの話だということにもできた。
 けれどユディット子爵もいたら、必ず話は広がってしまうだろう。
 この国は婚約者同士の性交渉を禁止してはいないけど、かといって推奨しているわけでもない。
 婚約破棄した場合、大抵の場合女性は修道院に行く。やはり結婚は非処女よりも処女が推奨されるから。
 婚約してる間は性交渉を禁止してないのに婚約破棄をしたら処女が求められるって、すごく男性に有利な国だと思う。でも、どこの国もそんなものだから、この世界がそういうものなのかもしれない。夢の中では男性も女性も平等が基本だったから、私は変に思うのかも。
 私は婚約破棄をしたら最初から修道院に行く予定だったからいい。でも、今後リアム様は婚約破棄をしたら、婚約者に手を出して捨てた男と酷い評判がついて回ってしまうかもしれない。

 リアム様が他の女性と仲良くしている姿を見ることはもちろん、リアム様の評判が悪くなるなんて、そんな現実耐えられない。

 でも、今この場でうまい言い訳が思い浮かばないこともまた事実で。

「とにかくリアム殿下、先に湯浴みしてきていただいていいですか? お話はそれからお伺いさせてください。シルヴィア、あなたもよ」
「……はい、お母様」
「話もなにも見たままだけど……。ま、そうだね。湯浴みはしたほうがいいね」

 私とリアム様は現在自分たちの汗と体液でベトベトしてる。湯浴みをしないままというのは無理だ。このまま服なんて着れるはずもない。

「ああ、そうだ。湯浴みはシルヴィアと一緒にしようかな」

 けれど、さすがにリアム様の提案にはぶんぶんと慌てて首を振った。
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