気がついたら死んでいた

雨木良

文字の大きさ
上 下
1 / 1

気がついたら死んでいた

しおりを挟む
…あれ?あれは私?

私は今、私を真上から見ている。

地上数メートル、鳥はこんな視界なんだろうか。

いや、違う。今はそんな事を考えている場合ではない。

真下にいるのが私なら、私は何なんだ?

と、いうか真下にいるのは、本当に私なのか?

…あれ?ちょっと待てよ。私確かさっき…。

あ、そうだ!学校終わってカズくんとのデートの待ち合わせ場所の駅に向かって歩いてて…それで……あれ?……それで…今の私…?

真下の私は何で歩道にうつ伏せで寝そべってるんだろ?

あ、周りに人が集まり出した。何人かの人が寝そべっている私に話しかけている。

私は…動かない?

あ、男の人が私を起こそうと身体を持ちあげた。…え!?何か皆騒ぎ出したよ!

…あっ!血!?何か私を持ち上げたら地面には血の水溜まりが出来てる。

男の人が私を仰向けに……え!?

私の胸に……ナイフ…?

男の人も驚いて身を引いてる。

…え…私…死んだの…? 


今からカズくんと夏休みにどこに旅行に行くか話し合うのに?
今日の夕飯は、私の大好物のすき焼きなのに?
明日はバイトがあって先輩に迷惑かけられないのに?
将来アパレル関係に就職したい夢があったのに?
明後日はパパの誕生日で、ママとサプライズ考えてたのに?
あの遊園地の新しい乗り物乗りたかったのに?
来週始まるあの映画楽しみにしていたのに?
あの漫画の続き、すごい気になってたのに?
それから……まだまだやりたいこと、やらなきゃいけないこと、山ほどあったのに?


…あれ?…涙…?
私…死を理解したの…かな?


…え?…目の前が真っ白に…。

このまま…天国?地獄?

私悪いことしてないよね。家族も大事にしてきたし、学校だって真面目に通って。

…あ、もう何も見えない…意識も…ぼーっとしてきた。

眠るみたい…。




…あ。また視界が開けてきた。

ん?ここは…?どっかの建物の中?

あ!ママ!!

泣いてる。…黒い服。

そうか私のお葬式か…。

身体、意識した方向にふわっと動く。このままお葬式を見ろってことかな。

…あ、パパ。椅子に座り込んで…目が真っ赤。

あ、親戚のおじちゃん、おばちゃん。

…皆、顔が暗い、…そうか、悲しんでくれてるんだよね。

…ん?入口から声が。あ!学校の皆だ。

あんなにいっぱい。

ヒロミ、ミユ、ユキ、シュウジ、トモミ、カエデ、アキラ…皆来てくれたんだ。

…カズくん…あれ?カズくんがいない。凄い落ち込んでるのかな?大丈夫かな…。

家族、親戚、学校の友達や先生、友達の親、バイトの先輩や仲間、ご近所の人たち、パパの会社の人たち、あとよく知らない人も…皆、私の死を悲しんで、こんなにたくさんの人たちが私のために集まってきてくれてる。

私の人生、生き方、間違っていなかったんだろうな。こんなにたくさんの人たちに囲まれて、支えられて生きていたんだ。

人は、生きていくためには、たくさんの人たちの支えが必要なんだな。

…変だな。死んでるはずなのに、胸が熱いや。

昔、何かの本で、有名人の人としての価値は、死んだときの新聞記事の面積で決まるっていうのを見たことがある。

酷い話だと思う反面、納得している自分もいた。確かにテレビとかで大御所と言われていたような有名人の方が、例えばドラマの脇役や昔少しだけ売れたミュージシャンよりも実際に記事の面積が大きい気がしていたからだ。

でも、今思えば、それは有名人だからであって、記事の面積も人としての価値ではなく、有名人としての価値に過ぎないと思う。人としての価値ってのは、掛け替えのないもの、その一言に尽きるわけで平等な価値である。

でも、その本を読んだ当時、こうも思っていた。

もし今、私が死んだら、私の価値ってどんなものなんだろう?

そして、こうも考えた。

もし今、私が死んだら、一体何人の人が泣いて悲しんでくれるのだろう?

そう考えると、泣いてくれる人の数が、私の価値のような気がしていた。

私は今、私のために集まって、私のために泣いてくれている皆を見ている。

変な話だが、嬉しい。
死んでいるのに、嬉しいと素直に思えている。

誰が私の意識を操作しているのかはわからないが、私にそう思わせるために、お葬式の場面を見させているのだろうか?


…あ、また目の前が白くなってきた。

また別の場所に行くのかな?
それとも、これで本当に天国か地獄?

…怖い。

…あ、もう何も見えない…意識も…ぼーっとしてきた。

眠るみたい…。




…ん?また視界が開けてきたぞ。

あれ?私の部屋だ。

誰もいないのに、テレビが付いている。ニュースか。

あれ?私の写真…。さつ…じん?…そうか、私は誰かに殺されたんだ。

…え?交際相手を逮捕…?って、カズくん?…嘘…嘘でしょ!?

どうして!?



あれ…また目の前が真っ白に。

まだダメ。まだ天国にも地獄にも行けない!カズくんに聞きたいの!

…あ、もう何も見えない…意識も…ぼーっとしてきた。

眠るみたい…。




…また視界が開けてきた。

…ここは…どこ?薄暗い…。

…あ、カズくん!?

こんな部屋の隅で丸まって何してるの?
それより、私を殺したって本当なの!?

ねぇ、答えて!!

……………ダメか、私の声なんて聞こえないよね。

…あれ?カズくん、どうしたの?キョロキョロし出して。

あ、目が合った!

私見えてる?声聞こえる?

どうしたの?そんなに驚いて。
どうしたの?そんなに怯えて。
どうしたの?そんなに慌てて。

私見えてる?声聞こえる?

私、カズくんのこと愛してたのに。
私、カズくんとずっと一緒にいたかったのに。
…カズくんは私が好きじゃなかったの?

どうしたの?そんなに驚いて。
どうしたの?そんなに怯えて。
どうしたの?そんなに慌てて。

…カズくん、逃げないで。私を見て。

……………憎い。

私の人生を終わらせた。
私の幸せを終わらせた。
私を終わらせた。

…憎いと好きは紙一重。憎いは愛情の裏返し。

私にはカズくんが必要。
ずっと一緒にいて。…ずっと。

どうしたの?そんなに驚いて。
どうしたの?そんなに怯えて。
どうしたの?そんなに慌てて。

私の両手を掴んで。

…あ、また意識がぼーっとしてきた。

だめ、目の前がもう見えない。




…ここは…?原っぱ?…天国?

…あれ?カズくん?

その笑顔、いつものカズくんだ。



「今日未明、殺人容疑で勾留中だった交際相手の男性が留置所内で首を吊っている状態で発見されました。警察は自殺と見て………」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...