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最終節 最期
(6)
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ー 電車内 ー
15時25分
溝口は、電車に揺られ横浜に向かっていた。
一番後方の空いている車両のボックスシートに一人で座り、ぼーっと外の風景を眺めていた。
電車が途中駅に到着し、間もなく発車した。溝口は、静かな車内で居眠りをする寸前だった。
「ここ、空いてますか?」
背後から声を掛けられ、ビクッと目を覚ました。
「は、はい、どう…ぞ。…えっ、秋吉さん、石井?」
秋吉と石井は溝口の対面に座った。座るなり秋吉は、溝口の腕を掴み、目を見て話し出した。
「瀬古が捕まり、全てを吐いた。…わかるな。」
「…………。」
溝口は一瞬固まり、うつ向いた。
「溝口先輩…。」
石井が潤んだ目で溝口を見つめた。抵抗しない溝口に秋吉は、ゆっくりと掴んでいた手を離した。
「聞き分けがよくて助かった。次の駅で降りるぞ。」
「…秋吉さん、ひとついいですか?」
溝口がボソッと呟くように聞いた。
「あ?今なんて?」
秋吉は、溝口の声が小さく、聞き返すために顔を近づけた。その瞬間、溝口が思い切り秋吉の顔面に頭突きを喰らわせた。
もろに喰らって秋吉がよろけた隙に、溝口は立ち上り電車の後部車両に向かって走り出した。
「秋吉先輩、大丈夫ですか!?」
「つぅー、クソッ!馬鹿か、俺に構うな石井!追え!」
石井は、直ぐに溝口を追いかけた。秋吉は鼻を抑えながら立ち上り、少し遅れて石井を追いかけた。
溝口は、時折振り返りながら逃げた。前の方の車両になるに連れて、乗客が多く、混んでいる車両では、人を腕で散らしながら逃げ続けた。
「止まれ!溝口ー!!」
石井が叫びながら溝口を追いかけた。しかし、乗客たちも異変に気が付き、座っていた人たちも一斉に立ち上がったため、人混みで一瞬姿が見えなくなると、完全に溝口を見失った。
石井が四方を見回しながら速度を緩めて前進していると、鼻を抑えた秋吉が追い付いた。
「石井、どうした?」
秋吉は、緊張により汗をかいている石井を見て状況を察し、腰のホルダーに差している拳銃を握った。
「すみません、人混みで見失いました。」
「馬鹿が!ちくしょう。」
探したくても、ざわつく乗客が邪魔で前進するのも困難な状況にあった。
「皆さん!我々は警察です!!立っている方は屈んでください!!大変危険です!早く屈んでください!!」
秋吉の声に、立っていた客のほとんどが屈み、前方が開けてきた。
「流石です、秋吉先輩。」
「うるせぇ、行くぞ!」
「あ!先輩、あれは!?」
石井が指差した先にはトイレがあった。見ると使用中のランプが付いている。
秋吉はゆっくり近づき、トイレのドアをノックしたが、反応がなく、溝口が隠れていると確信した。
「おい、溝口。出てこい!」
秋吉が溝口に呼び掛けている中、石井はこの車両の乗客を前後の別の車両に移動するように誘導した。
「おい!溝口!もう逃げられないぞ!」
秋吉は、ドアを乱暴に叩きながら威嚇した。
石井の誘導により、車両には、秋吉と石井、そしてトイレの中の溝口のみになろうとしていた。
石井は、最後の乗客を後ろの車両に移動させると、秋吉の方を振り返った。
「…え?秋吉先輩!?」
石井の目の前には、全身を小刻みに震わせながら、ホルダーに仕舞っていた拳銃を握り、自身のこめかみに銃口を当てている秋吉の姿があった。
「ちょ、先輩!?」
石井は、何が起きたのか理解出来ないまま、ゆっくり秋吉に近づき始めた。
「…石井…く、来るな…手…手が…か、…勝手に…。」
秋吉自身も抵抗しているのか、拳銃を握った手もプルプルと震えていた。石井は、速度を上げ、秋吉に駆け寄った。
「ダメだ…石井。」
秋吉の右手は引き金に手を掛けた。
「秋吉先輩!!」
石井は、秋吉の右手に手を伸ばし、拳銃から手を離そうと、秋吉に身体ごと飛び込んだ。
次の瞬間、バァンと一発の銃声が車内に響いた。
秋吉と石井は、音と恐怖で閉じた目をゆっくり開いた。
「……生き…てる…のか。」
拳銃は見事に秋吉のこめかみからは外れており、銃口の先を見ると、トイレの壁に銃痕を見つけた。
すると、電車は調度次の駅に到着した。元々この駅で溝口を下ろす予定だったため、警官が複数人待機していた。
「誰か、トイレのドアを開けろ!気をつけろよ、犯人はこの中だ!」
汗だくで横たわったままの秋吉の指示のもと、複数人の警官でトイレのドアをこじ開けた。
秋吉は、まだ震えが止まらない足を手で押さえながら、ゆっくり立ち上がり、トイレの中を除くと、腹に銃弾を受け、血を流し倒れている溝口が虫の息で横たわっていた。
「…ったく、馬鹿が。池畑が泣くぞ…。」
溝口は、万事に備えて予め待機していた救急隊により、速やかに担架で運ばれていった。
「ったく。つぅー、何て日だ。クソが。」
秋吉がふらつきながら、トイレの中を見回すと、呪いの紙と秋吉の画像が映っているスマホが置かれていた。
「ふっ。あいつ、こんなもの持ってやがったのか。……馬鹿が。」
秋吉は、苦笑いをしながらトイレの中で座り込んだ。
15時25分
溝口は、電車に揺られ横浜に向かっていた。
一番後方の空いている車両のボックスシートに一人で座り、ぼーっと外の風景を眺めていた。
電車が途中駅に到着し、間もなく発車した。溝口は、静かな車内で居眠りをする寸前だった。
「ここ、空いてますか?」
背後から声を掛けられ、ビクッと目を覚ました。
「は、はい、どう…ぞ。…えっ、秋吉さん、石井?」
秋吉と石井は溝口の対面に座った。座るなり秋吉は、溝口の腕を掴み、目を見て話し出した。
「瀬古が捕まり、全てを吐いた。…わかるな。」
「…………。」
溝口は一瞬固まり、うつ向いた。
「溝口先輩…。」
石井が潤んだ目で溝口を見つめた。抵抗しない溝口に秋吉は、ゆっくりと掴んでいた手を離した。
「聞き分けがよくて助かった。次の駅で降りるぞ。」
「…秋吉さん、ひとついいですか?」
溝口がボソッと呟くように聞いた。
「あ?今なんて?」
秋吉は、溝口の声が小さく、聞き返すために顔を近づけた。その瞬間、溝口が思い切り秋吉の顔面に頭突きを喰らわせた。
もろに喰らって秋吉がよろけた隙に、溝口は立ち上り電車の後部車両に向かって走り出した。
「秋吉先輩、大丈夫ですか!?」
「つぅー、クソッ!馬鹿か、俺に構うな石井!追え!」
石井は、直ぐに溝口を追いかけた。秋吉は鼻を抑えながら立ち上り、少し遅れて石井を追いかけた。
溝口は、時折振り返りながら逃げた。前の方の車両になるに連れて、乗客が多く、混んでいる車両では、人を腕で散らしながら逃げ続けた。
「止まれ!溝口ー!!」
石井が叫びながら溝口を追いかけた。しかし、乗客たちも異変に気が付き、座っていた人たちも一斉に立ち上がったため、人混みで一瞬姿が見えなくなると、完全に溝口を見失った。
石井が四方を見回しながら速度を緩めて前進していると、鼻を抑えた秋吉が追い付いた。
「石井、どうした?」
秋吉は、緊張により汗をかいている石井を見て状況を察し、腰のホルダーに差している拳銃を握った。
「すみません、人混みで見失いました。」
「馬鹿が!ちくしょう。」
探したくても、ざわつく乗客が邪魔で前進するのも困難な状況にあった。
「皆さん!我々は警察です!!立っている方は屈んでください!!大変危険です!早く屈んでください!!」
秋吉の声に、立っていた客のほとんどが屈み、前方が開けてきた。
「流石です、秋吉先輩。」
「うるせぇ、行くぞ!」
「あ!先輩、あれは!?」
石井が指差した先にはトイレがあった。見ると使用中のランプが付いている。
秋吉はゆっくり近づき、トイレのドアをノックしたが、反応がなく、溝口が隠れていると確信した。
「おい、溝口。出てこい!」
秋吉が溝口に呼び掛けている中、石井はこの車両の乗客を前後の別の車両に移動するように誘導した。
「おい!溝口!もう逃げられないぞ!」
秋吉は、ドアを乱暴に叩きながら威嚇した。
石井の誘導により、車両には、秋吉と石井、そしてトイレの中の溝口のみになろうとしていた。
石井は、最後の乗客を後ろの車両に移動させると、秋吉の方を振り返った。
「…え?秋吉先輩!?」
石井の目の前には、全身を小刻みに震わせながら、ホルダーに仕舞っていた拳銃を握り、自身のこめかみに銃口を当てている秋吉の姿があった。
「ちょ、先輩!?」
石井は、何が起きたのか理解出来ないまま、ゆっくり秋吉に近づき始めた。
「…石井…く、来るな…手…手が…か、…勝手に…。」
秋吉自身も抵抗しているのか、拳銃を握った手もプルプルと震えていた。石井は、速度を上げ、秋吉に駆け寄った。
「ダメだ…石井。」
秋吉の右手は引き金に手を掛けた。
「秋吉先輩!!」
石井は、秋吉の右手に手を伸ばし、拳銃から手を離そうと、秋吉に身体ごと飛び込んだ。
次の瞬間、バァンと一発の銃声が車内に響いた。
秋吉と石井は、音と恐怖で閉じた目をゆっくり開いた。
「……生き…てる…のか。」
拳銃は見事に秋吉のこめかみからは外れており、銃口の先を見ると、トイレの壁に銃痕を見つけた。
すると、電車は調度次の駅に到着した。元々この駅で溝口を下ろす予定だったため、警官が複数人待機していた。
「誰か、トイレのドアを開けろ!気をつけろよ、犯人はこの中だ!」
汗だくで横たわったままの秋吉の指示のもと、複数人の警官でトイレのドアをこじ開けた。
秋吉は、まだ震えが止まらない足を手で押さえながら、ゆっくり立ち上がり、トイレの中を除くと、腹に銃弾を受け、血を流し倒れている溝口が虫の息で横たわっていた。
「…ったく、馬鹿が。池畑が泣くぞ…。」
溝口は、万事に備えて予め待機していた救急隊により、速やかに担架で運ばれていった。
「ったく。つぅー、何て日だ。クソが。」
秋吉がふらつきながら、トイレの中を見回すと、呪いの紙と秋吉の画像が映っているスマホが置かれていた。
「ふっ。あいつ、こんなもの持ってやがったのか。……馬鹿が。」
秋吉は、苦笑いをしながらトイレの中で座り込んだ。
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