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第2節 拡散
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ー 神奈川県警 署内 ー
11時00分
科学研究所から戻った池畑と溝口は、まず、溝口と秋吉が曽我と話をしていた会議室に来ていた。二人は、溝口が外に千代田が落ちていく姿が見えたという窓の位置を確認するためだった。
溝口が、窓際に近づき一枚の窓を指差した。
「ここですね。一瞬で、当然千代田さんとはわからなかったですが、大きな何かが真っ逆さまに落ちていくのが見えました。」
「図面よこせ。」
池畑は、総務課から拝借した建物の図面を溝口から奪い取ると、テーブルに広げて、この窓の位置と屋上の壊れた金網の位置関係を調べた。
「……間違いなさそうだな。…千代田の日常がわからないんだが、千代田ってよく屋上に行ってたのか?」
池畑の質問に溝口は、さぁと首を傾げた。
「タバコを吸いに良く行ってましたよ。」
池畑たちが声がした方を振り向くと、会議室の入口に石井がいた。
「…石井。」
「さっすが石井ちゃん!千代田さんには詳しいね。」
溝口が茶化すように言うと、池畑が一発溝口の頭を叩き、石井に近づいて質問をした。
「石井、お前の千代田に対する愛は、今は重要な資料になる。あいつの行動パターンを教えてくれ。」
「え、いや、別に…愛とかじゃ…。ただ、少しだけタイプだったというか、本当にそんなんじゃなくてですね…。」
もじもじ話す石井にイライラした溝口は、また茶化そうとしたが、池畑の姿を見て留まった。池畑もイライラが頂点に来ているのか、右手が拳状になり、プルプル小刻みに震えていたからだ。゛自分も我慢しよう゛と溝口は冷静に傍観することにした。石井が続けた。
「えーと、彼女だいたい一時間置きにタバコを屋上に吸いに行くんですよ。なんで屋上かと言いますと、人がほとんど居ないからですって。僕も歩美さんと話をするためにタバコ始めて、本人から直接聞いたんですよ。それから、たまたま吸いに行くタイミングが一緒になることが多くてぇ、二人っきりで良く……景色を…見ながら……うぅ……タバコ…吸っ……てた……なぁ……。」
後半になるにつれて、泣き出し始めた石井に流石の池畑も限界がきたのか、足もパタパタと小刻みに貧乏ゆすりを始めた。その様子を背後から見ていた溝口は、笑いを堪えるのに必死だった。
「それで…歩美…さんが…。」
「ここにいたのか!ほら、行くぞ!馬鹿が。」
石井の言葉と同時に、頭に平手を浴びせたのは秋吉だった。
「池畑、悪いがこっちも仕事だ。行くぞ石井。………池畑、無理はすんな。周りに気をつけろよ。」
秋吉はそう言うと、石井の腕をつかんで半分引き摺るように消えていった。
「秋吉…よくあんなのと一緒にやってるな。」
池畑の純粋な呟きに、溝口は静かに頷いた。
次に、池畑と溝口は、屋上の壊れた金網の場所にやってきた。少し曇りがかった空の下で、異物に感じる金網と金網の間に張られた虎ロープとカラーコーンが千代田の最期の場所を示していた。二人はその場所まで近づき、池畑が正面を眺めた。
「……なぁ、溝口。仮に金網に寄りかからせる呪いを掛けたとして、この壊れるように仕掛けておいた金網に確実に寄りかからせる方法って何だと思う?」
池畑が顎に手をあて、考えながら聞いた。
「確かに金網に寄りかかるだけを意味する呪いじゃ、この場所に確実に来させることは難しいですよね。………何か目印的なもの…とか?」
溝口の言葉に、池畑が真っ正面を見つめて、何かを閃いた。
「…これだ。」
池畑がその目印を指差しながら呟いた。溝口は、池畑の指差す対象を見て、納得するように頷いた。
「………富士山。」
それは、正面の高層ビルとマンションの間の狭い隙間の奥に、うっすらと見えた。
「この屋上で富士山が真っ正面に見える位置はこの壊れた金網がある場所だけだ。」
池畑の言葉に、溝口は屋上を右往左往し、富士山が真っ正面に見える位置が他にないかを確認し、池畑の隣に戻った。
「…この建物から富士山が見えたなんて、自分は知りませんでしたよ。」
「あぁ、俺もだ。この場所に来なければ知ることはないだろうな。」
その瞬間、二人の頭には共通の人物が浮かび上がり、お互いに目を見合わせた。
「あいつ、あの日休みだったよな。」
池畑の言葉に、溝口は自分と同じ人物を頭に描いていることを確信し、頷いた。
「えぇ、あいつなら千代田さんがこの場所に来る時間、そして、ここから富士山を望めることを知っているはずです。」
池畑は、容疑者を思い浮かべるも、一つ引っ掛かるものがあり、難しい表情を浮かべ、溝口に質問した。
「…ただ、あいつに千代田を殺す動機があるか?」
溝口も同じ疑問を抱いていた。
「…そうなんですよね。それこそ、ジョン・レノンの暗殺犯みたく、好きすぎて殺して自分だけのものにしたかった…とか。……まぁ、あとは上からの命令…とか。」
「なるほどな。…とりあえず、今考えてもわからんし、動機は後回しだな。……あとは証拠…か。」
二人は暫く富士山を見つめながら沈黙していたが、溝口があることを閃き、テンション高めに池畑に話し出した。
「そっか!!池畑さん!さっきの研究所での話を思い出してください!あいつ、基本インドアなんで休日は家で過ごしているはずです。つまり…。」
溝口の話の内容を直ぐに理解した池畑は、一歩前進した予感がして、笑みを浮かべた。
「ふっ、なるほど。…早速さっきの瀬古先生の報告が役に立つな。」
二人は急いで執務室に戻っていった。
11時00分
科学研究所から戻った池畑と溝口は、まず、溝口と秋吉が曽我と話をしていた会議室に来ていた。二人は、溝口が外に千代田が落ちていく姿が見えたという窓の位置を確認するためだった。
溝口が、窓際に近づき一枚の窓を指差した。
「ここですね。一瞬で、当然千代田さんとはわからなかったですが、大きな何かが真っ逆さまに落ちていくのが見えました。」
「図面よこせ。」
池畑は、総務課から拝借した建物の図面を溝口から奪い取ると、テーブルに広げて、この窓の位置と屋上の壊れた金網の位置関係を調べた。
「……間違いなさそうだな。…千代田の日常がわからないんだが、千代田ってよく屋上に行ってたのか?」
池畑の質問に溝口は、さぁと首を傾げた。
「タバコを吸いに良く行ってましたよ。」
池畑たちが声がした方を振り向くと、会議室の入口に石井がいた。
「…石井。」
「さっすが石井ちゃん!千代田さんには詳しいね。」
溝口が茶化すように言うと、池畑が一発溝口の頭を叩き、石井に近づいて質問をした。
「石井、お前の千代田に対する愛は、今は重要な資料になる。あいつの行動パターンを教えてくれ。」
「え、いや、別に…愛とかじゃ…。ただ、少しだけタイプだったというか、本当にそんなんじゃなくてですね…。」
もじもじ話す石井にイライラした溝口は、また茶化そうとしたが、池畑の姿を見て留まった。池畑もイライラが頂点に来ているのか、右手が拳状になり、プルプル小刻みに震えていたからだ。゛自分も我慢しよう゛と溝口は冷静に傍観することにした。石井が続けた。
「えーと、彼女だいたい一時間置きにタバコを屋上に吸いに行くんですよ。なんで屋上かと言いますと、人がほとんど居ないからですって。僕も歩美さんと話をするためにタバコ始めて、本人から直接聞いたんですよ。それから、たまたま吸いに行くタイミングが一緒になることが多くてぇ、二人っきりで良く……景色を…見ながら……うぅ……タバコ…吸っ……てた……なぁ……。」
後半になるにつれて、泣き出し始めた石井に流石の池畑も限界がきたのか、足もパタパタと小刻みに貧乏ゆすりを始めた。その様子を背後から見ていた溝口は、笑いを堪えるのに必死だった。
「それで…歩美…さんが…。」
「ここにいたのか!ほら、行くぞ!馬鹿が。」
石井の言葉と同時に、頭に平手を浴びせたのは秋吉だった。
「池畑、悪いがこっちも仕事だ。行くぞ石井。………池畑、無理はすんな。周りに気をつけろよ。」
秋吉はそう言うと、石井の腕をつかんで半分引き摺るように消えていった。
「秋吉…よくあんなのと一緒にやってるな。」
池畑の純粋な呟きに、溝口は静かに頷いた。
次に、池畑と溝口は、屋上の壊れた金網の場所にやってきた。少し曇りがかった空の下で、異物に感じる金網と金網の間に張られた虎ロープとカラーコーンが千代田の最期の場所を示していた。二人はその場所まで近づき、池畑が正面を眺めた。
「……なぁ、溝口。仮に金網に寄りかからせる呪いを掛けたとして、この壊れるように仕掛けておいた金網に確実に寄りかからせる方法って何だと思う?」
池畑が顎に手をあて、考えながら聞いた。
「確かに金網に寄りかかるだけを意味する呪いじゃ、この場所に確実に来させることは難しいですよね。………何か目印的なもの…とか?」
溝口の言葉に、池畑が真っ正面を見つめて、何かを閃いた。
「…これだ。」
池畑がその目印を指差しながら呟いた。溝口は、池畑の指差す対象を見て、納得するように頷いた。
「………富士山。」
それは、正面の高層ビルとマンションの間の狭い隙間の奥に、うっすらと見えた。
「この屋上で富士山が真っ正面に見える位置はこの壊れた金網がある場所だけだ。」
池畑の言葉に、溝口は屋上を右往左往し、富士山が真っ正面に見える位置が他にないかを確認し、池畑の隣に戻った。
「…この建物から富士山が見えたなんて、自分は知りませんでしたよ。」
「あぁ、俺もだ。この場所に来なければ知ることはないだろうな。」
その瞬間、二人の頭には共通の人物が浮かび上がり、お互いに目を見合わせた。
「あいつ、あの日休みだったよな。」
池畑の言葉に、溝口は自分と同じ人物を頭に描いていることを確信し、頷いた。
「えぇ、あいつなら千代田さんがこの場所に来る時間、そして、ここから富士山を望めることを知っているはずです。」
池畑は、容疑者を思い浮かべるも、一つ引っ掛かるものがあり、難しい表情を浮かべ、溝口に質問した。
「…ただ、あいつに千代田を殺す動機があるか?」
溝口も同じ疑問を抱いていた。
「…そうなんですよね。それこそ、ジョン・レノンの暗殺犯みたく、好きすぎて殺して自分だけのものにしたかった…とか。……まぁ、あとは上からの命令…とか。」
「なるほどな。…とりあえず、今考えてもわからんし、動機は後回しだな。……あとは証拠…か。」
二人は暫く富士山を見つめながら沈黙していたが、溝口があることを閃き、テンション高めに池畑に話し出した。
「そっか!!池畑さん!さっきの研究所での話を思い出してください!あいつ、基本インドアなんで休日は家で過ごしているはずです。つまり…。」
溝口の話の内容を直ぐに理解した池畑は、一歩前進した予感がして、笑みを浮かべた。
「ふっ、なるほど。…早速さっきの瀬古先生の報告が役に立つな。」
二人は急いで執務室に戻っていった。
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