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第4節 神という存在
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池畑と溝口は喫煙室で、長尾の事件の資料を見ながら一腹していた。
「池畑さん、この事件…単純な事件じゃないかもしれませんね。桐生朱美が何か関係してるんでしょうか。」
「あぁ、まだわからないが、俺も単純な無理心中じゃないとは思う。…溝口。」
池畑の呼び掛けに缶のコーラを飲んでいた溝口は、池畑の顔を見た。
「俺、明日休むわ。有給休暇だ!たまには旅行でもして心身休めてくるわ。」
池畑は、そう言って一本目のタバコを灰皿で揉み消すと、直ぐに二本目を取り出し火を付けた。
「え?………あ、池畑さん、まさか群馬旅行じゃないっすよね!?」
池畑は溝口の質問に何も答えずに、ふぅーっと煙草の煙を天に向かって吐き出した。
ー 村上宅 ー
正人は警察から帰宅するとソファに座り、ふと千里の仏壇を見た。仏壇と言っても低い棚の上を小綺麗に飾り仏壇風に整えたものだった。
正人は立ちあがり仏壇の前まで行くと、千里の写真を手に取り、遺骨の入った骨壺を眺めた。
「千里、俺は神様に背くような行為をしていいかな?本当に眞鍋さんの言ってたとおり千里を生き返らすことができたら、俺はまるで神様のようだな。人の命って、そんなに軽いものなのかな……千里。」
当然誰からも返事はない。
正人はまだ悩んでいた。考えれば考えるほど、倫理に反しており、まるで人の命を軽く考えているのではないかと自分を責めたくなる時もあった。
でも、やはり千里が死んだ真実が知りたい気持ちも強かった。正人は写真を仏壇に置き、線香をあげ手を合わせた。
ブーッ、ブーッ、ソファに置いたスマホのバイブが鳴り、正人はスマホを手に取った。母親のゆかりからだった。
「もしもし。」
「あ、正人、心身は大丈夫かい?一人で寂しがってるじゃないかって、父さんが心配してて。」
電話の向こうで俺の名前を出すなとゆかりに叫んでる父親の武志の声が聞こえた。正人は思わず笑ってしまった。
「なんだよそれ。大丈夫だよ、元気だし。父さんにもよろしく伝えといて。」
「また近々そっちに行くから。千里さんにも線香あげたいし。」
「おう、待ってるよ。態々気を遣ってくれてありがとう。」
ゆかりが電話を切ろうとした。
「…あ、待って!」
正人は何でゆかりが電話を切るのを止めさせたのか自分でわからなかったが、無意識なままゆかりに質問をしていた。
「あのさ、今の世の中、呪いだなんだのって騒いでるけどさ、…逆に…人を生き返らす方法があったら…母さんどうする?」
ゆかりは、正人の質問に対してしばらく無言になった。
「…人を生き返らせるって…千里さんをかい?……正人、大丈夫かい?やっぱり、そっちに行こうか?」
正人はこの質問を誰かにしたかった。今しかないと咄嗟に判断し無意識のうちに切り出したのだが、ゆかりからしたら、妻を失って頭がおかしくなってしまったとしか思えない質問だった。
「いや、まぁ大丈夫だよ。例えばだよ、例えば。例えば人を生き返らせる方法があったとして、母さんが俺の立場だったら、どうする?」
「…例えば…うーん、難しい質問だね。単純に考えればそりゃ千里さんを生き返らせたいんだろうけど。簡単な話なのかねぇ、人を生き返らせるってことが。」
「技術的にはそりゃ難し…。」
「違う、気持ちの問題よ。死んだ人が生き返ったら絶対幸せになるのかって話よ。生き返った人も、生き返らせた人も両方とも幸せじゃなきゃ、人の命を軽々しく操作するもんじゃないと思うけどね、私は。」
正人の言葉を打ち消すように、ゆかりが言葉を被せた。
「…幸せ…ね。そうだよな、ありがとう。」
正人はそう言うとしばらく黙りこんだ。
「正人、あんた本当に大丈夫?」
正人は大丈夫、例え話だからとゆかりを納得させ電話を切った。
正人は“生き返った千里は幸せなのか”と考えた。
正人は、リムの資料を読み返し、気になる説明を見つけた。
“蘇った人間は、本人にとって重要な記憶ほど鮮明に残っている”と書いてあるが、生き返った千里の中には、自殺をしたくなるほどの出来事がどのような濃度で存在した状態なのかが不安だった。
また自殺をさせるようなことは絶対に避けたいし、食い止めたとして、不安や不満を抱えたまま千里を生かすことは、千里自身の幸せには繋がらないのではないかと思った。
生き返らせたい気持ちと、生き返らせて良いのかという葛藤がぶつかり合い、正人の脳内はパンク状態になった。
「千里……俺はどうしたらよい……?」
「池畑さん、この事件…単純な事件じゃないかもしれませんね。桐生朱美が何か関係してるんでしょうか。」
「あぁ、まだわからないが、俺も単純な無理心中じゃないとは思う。…溝口。」
池畑の呼び掛けに缶のコーラを飲んでいた溝口は、池畑の顔を見た。
「俺、明日休むわ。有給休暇だ!たまには旅行でもして心身休めてくるわ。」
池畑は、そう言って一本目のタバコを灰皿で揉み消すと、直ぐに二本目を取り出し火を付けた。
「え?………あ、池畑さん、まさか群馬旅行じゃないっすよね!?」
池畑は溝口の質問に何も答えずに、ふぅーっと煙草の煙を天に向かって吐き出した。
ー 村上宅 ー
正人は警察から帰宅するとソファに座り、ふと千里の仏壇を見た。仏壇と言っても低い棚の上を小綺麗に飾り仏壇風に整えたものだった。
正人は立ちあがり仏壇の前まで行くと、千里の写真を手に取り、遺骨の入った骨壺を眺めた。
「千里、俺は神様に背くような行為をしていいかな?本当に眞鍋さんの言ってたとおり千里を生き返らすことができたら、俺はまるで神様のようだな。人の命って、そんなに軽いものなのかな……千里。」
当然誰からも返事はない。
正人はまだ悩んでいた。考えれば考えるほど、倫理に反しており、まるで人の命を軽く考えているのではないかと自分を責めたくなる時もあった。
でも、やはり千里が死んだ真実が知りたい気持ちも強かった。正人は写真を仏壇に置き、線香をあげ手を合わせた。
ブーッ、ブーッ、ソファに置いたスマホのバイブが鳴り、正人はスマホを手に取った。母親のゆかりからだった。
「もしもし。」
「あ、正人、心身は大丈夫かい?一人で寂しがってるじゃないかって、父さんが心配してて。」
電話の向こうで俺の名前を出すなとゆかりに叫んでる父親の武志の声が聞こえた。正人は思わず笑ってしまった。
「なんだよそれ。大丈夫だよ、元気だし。父さんにもよろしく伝えといて。」
「また近々そっちに行くから。千里さんにも線香あげたいし。」
「おう、待ってるよ。態々気を遣ってくれてありがとう。」
ゆかりが電話を切ろうとした。
「…あ、待って!」
正人は何でゆかりが電話を切るのを止めさせたのか自分でわからなかったが、無意識なままゆかりに質問をしていた。
「あのさ、今の世の中、呪いだなんだのって騒いでるけどさ、…逆に…人を生き返らす方法があったら…母さんどうする?」
ゆかりは、正人の質問に対してしばらく無言になった。
「…人を生き返らせるって…千里さんをかい?……正人、大丈夫かい?やっぱり、そっちに行こうか?」
正人はこの質問を誰かにしたかった。今しかないと咄嗟に判断し無意識のうちに切り出したのだが、ゆかりからしたら、妻を失って頭がおかしくなってしまったとしか思えない質問だった。
「いや、まぁ大丈夫だよ。例えばだよ、例えば。例えば人を生き返らせる方法があったとして、母さんが俺の立場だったら、どうする?」
「…例えば…うーん、難しい質問だね。単純に考えればそりゃ千里さんを生き返らせたいんだろうけど。簡単な話なのかねぇ、人を生き返らせるってことが。」
「技術的にはそりゃ難し…。」
「違う、気持ちの問題よ。死んだ人が生き返ったら絶対幸せになるのかって話よ。生き返った人も、生き返らせた人も両方とも幸せじゃなきゃ、人の命を軽々しく操作するもんじゃないと思うけどね、私は。」
正人の言葉を打ち消すように、ゆかりが言葉を被せた。
「…幸せ…ね。そうだよな、ありがとう。」
正人はそう言うとしばらく黙りこんだ。
「正人、あんた本当に大丈夫?」
正人は大丈夫、例え話だからとゆかりを納得させ電話を切った。
正人は“生き返った千里は幸せなのか”と考えた。
正人は、リムの資料を読み返し、気になる説明を見つけた。
“蘇った人間は、本人にとって重要な記憶ほど鮮明に残っている”と書いてあるが、生き返った千里の中には、自殺をしたくなるほどの出来事がどのような濃度で存在した状態なのかが不安だった。
また自殺をさせるようなことは絶対に避けたいし、食い止めたとして、不安や不満を抱えたまま千里を生かすことは、千里自身の幸せには繋がらないのではないかと思った。
生き返らせたい気持ちと、生き返らせて良いのかという葛藤がぶつかり合い、正人の脳内はパンク状態になった。
「千里……俺はどうしたらよい……?」
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