【R18】真昼の月〜警護SP×恋 至上最悪の出逢い〜

斎藤みはる

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26.初めて感じる想い

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蓮司の後ろ姿が見えなくなってから、小次郎が溜め息混じりに頭を抱えて呟いた。

「まったく、あいつは…相変わらず厄介な男だな。大丈夫か?立てる?」

「大丈夫です。助けてくれてありがとうございました!助かりました」

差し出された小次郎の手を取って、立ち上がった。

「あれだけ騒いでたら、見て見ぬ振りはできないっしょ」

「え!見て見ぬふりって…どこから聞いてたんですか?!」

思わず浴衣の前身頃を撚り合わせると、目の前で小次郎が飄々と言って退けた。

「んー、いじられてるとこら辺から?」

「じゃ、何でもっと早く助けてくれなかったんですか?!」

「いや、それは途中まで愉しませてもらってたっつーか何つーか。ほら、な?男にはいろいろあるだろ?」

ニッと笑う小次郎に、私は思わずたじろいでしまった。

「さっ、最っ低っ!!…それじゃあ、他のみんなにも聞こえてたってこと…?」

どよーんと顔を曇らせた私に、小次郎がそれを否定してくれた。

「それは大丈夫だろ。冬吾は是匡のぼんのとこだし、清十朗も七瀬ちゃんが部屋を出てすぐ、仕事に向かったみたいだったし」

「清十朗?」

「ああ、アンジェリカの本名な」

あ、そっか!
確かアンジーの本名は桐原 清十郎。
よりによって清十朗って…
まあ、忍者っぽいっちゃ忍者っぽいけど。
とりあえず聞かれてたのが小次郎さんだけでよかった…

よかった………?

愉しんでたとか言ってたけど、それってよかったのか?

うーんと眉間に皺を寄せる私に、小次郎が不意に聞いた。

「清丸もいないんだろ?」

「あ、はい。早朝に出て行きました」

「清丸は“個人的な仕事”で2、3日は帰らないみたいだし、まあ聞かれなくてよかったな」

小次郎が懐から出したタバコを口に咥える。

「えっ?2、3日帰らないんですか?」

「聞いてない?」

「いえ、何も…」

「まったくしゃあねえなー、うちの若い男どもは。どいつもこいつもこんな可愛いお嬢さんないがしろにして」

小次郎が煙草に火を点けて、ライターをまた懐にしまう。

「若い男どもって…小次郎さんもそんなに変わらないですよね?」

「あ?俺?」

一瞬小次郎がきょとんとこちらを見つめると、咥えた煙草からぱらっと灰が落ちた。

「あー…女子大生に若く見られて喜んでいいのか、あいつらと同等に見られてたのを憂うべきか分からんな」

「え?」

「俺、今年三十六」

小次郎が煙草をゆっくりと蒸かすと、白い煙が廊下の天井に昇った。

ええええええぇーっ?!

若いよ…見た目無精髭生やしてても、髪ボサってるとしてもどう見ても二十代じゃん!!!

三十六って四捨五入したら四十!
立派なおじさん!!!!!

「立派なおじさんで悪かったな!心の声が顔に漏れてるぞ」

「あ、いえ、決してそのようなことは…。すみません…」

「とにかく!清丸の留守中、蓮司にはあまり近寄るな。蓮司あいつは清丸のこととなると昔っから対抗心剥き出しで、いつもああなんだよ」

はあと煙草の煙と一緒に、小次郎が溜め息を溢した。

「別に七瀬ちゃんを煙たがって、嫌がらせをしてるわけじゃないっていうのはホントだと思うけど、ただなぁ、さっきのはさすがに度が過ぎてたわな」

思わず目線を落として俯いた。

「とにかく蓮司には気を付けて!蓮司あいつの言ったことは気にしなくていいから」

「…はい…」

「じゃ、今日はもう部屋でおとなしくしときな。俺ら仲間内でも、本人の不在時に部屋に入ることは禁じられてるから、ひとまず部屋に居れば大丈夫。何かあれば俺かアンジェリカに声掛けな」

「ありがとうございます…」

じゃなと手を上げながら、部屋へと小次郎が戻って行こうとしたが、途中でくるりとこちらを振り返った。

「あ、あともう一つ。俺もアンジェリカも冬吾も、七瀬ちゃんのこと“そんな目”では見てないから安心しろな」

最後にそうとだけ告げて、小次郎が部屋へと入ってしまった。

「………」

さっき私が蓮司さんに弄ばれてたのを、裏で聞いて愉しんでたのはどちら様?

一番小次郎さんが説得力ないんですけど…

でも、小次郎さんが居てくれて本当によかった。
あのままだったら、私…

私…蓮司さんあのひとに…

そう思うと背筋がゾッとした。

と、同時につい今朝別れたばかりなのに、すごく清丸(あのひと)会いたいと思う自分に驚いた。
他のひとに触れられた部分を今すぐにでも上書きして欲しい。
そう思って初めて、恋しさというものを密かに感じていた。
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