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23.いけ好かない男
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「はじめまして…」
不愉快な笑みを向けた蓮司から、目を反らせるように挨拶を返してしゃがみ込んだ。
皇 蓮司…?
訝しみながら、廊下にひかれた赤い絨毯に散らばる書類を拾って、片手に持って重ねていく。
一体、誰…?!
まだ会っていなかったSPの最後の一人かな…
それにしても何か腹立つな、この人の態度。
「えっ?!ガン無視?スルー?そこら辺、ツッコみどころだって!」
必死で何やら喚いている彼を尻目に、書類の束を全て拾い終わってスッと彼の前に差し出した。
「はい、これで全部みたいです」
蓮司はありがとうと丁寧に一言お礼を言って、書類を受け取りながらにこりと笑った。
「実は、正確には“ハジメマシテ”じゃないんだ♪」
「えっ?」
思わず目線を上げた私に、ずいと顔を寄せて自分の鼻を指差しながら彼が言う。
「君を拐う時、後ろから羽交い締めにしてナイフを突き付けていたのは僕だからね」
そう更に顔を綻ばせた彼を前に、ドクンと身体の奥底が鈍く鳴った。
一瞬、身の毛もよだつあの日のことが蘇る。
思えば全てはあの瞬間から始まったのだ。
何でもない普段通りの毎日と全てを突然奪われた、あの地獄の一日。
ふと、生まれてからずっと過ごしてきた自宅の庭を思い出した。
脳裏に浮かんだその何本もの銀杏の木が一斉に揺れ、その新緑の葉が枝を離れて空に舞う。
私が平穏な日常の中で最後に見た、外の世界。
「どう?思い出してくれた??」
彼がにこっとまた目を細めて笑った。
彼の向ける笑顔は何だか悍ましくて、とても真っ当な笑みとは思えない。
こんな笑い方、私は知らない。
そう思うと、余計に全身が鳥肌立つような不快感に襲われた。
「あの時は、もっと上品な物言いだったような気がしますけど」
「口調なんて時と場合によって、使い分けるもんでしょ」
にんまりと笑った彼に、更に怪訝な目を寄越す。
やっぱりこの男は、何だか受け入れられない。
気分が悪くなる…
「それはそうと君は…」
そう呟いて、蓮司はふむふむと頷きながら私をジッと見つめた。
「何…ですか?」
「あの時とは随分と雰囲気が変わったね」
蓮司は手に持っていた書類の束を廊下脇の棚に置いてから、まるで品定めでもするかのように上から下までこの身体を見下ろして、ぐるりと私の周りを一周した。
その目付きにゾッとするものを感じながら、微動だにできず息を呑む。
「な、何も変わってませんけど…」
口籠りながら白い浴衣の襟をぎゅっと撚り合わせて脚をきつく閉じると、それに気付いて蓮司がそっと耳元に口を寄せた。
「…男を知ったからかな」
掠れるような囁き声に、全身が鳥肌立った。
カァと羞恥に頬が赤くなったのが分かる。
「分かりません…そんなの」
「分からないわけないでしょ?清丸にもう何度も抱かれてるくせに」
返事すらできず、居たたまれなくなって目線を落とした。
ただ唇を噛み締めることしかできない。
何かすごく悔しい気分になる。
「みんな知ってるよ」
そう静かに囁いてから、蓮司は私の後ろ髪をそっと掻き上げ、片側の白い首筋を露わにして続けた。
彼の静かな息遣いが、白い肌をそっと這っていく。
「何気なく接してくれる小次郎も、親切なアンジーも、子供だと見下してる冬吾も、何食わぬ顔しながら君の姿を見る度に、そのまっさらな身体が清丸に幾度も犯される様をみんな想像してる」
後ろから不意にベロリと首筋を舐められ、ぞわっと全身が波打つように鳥肌立った。
「ここはそういう所だよ?慣れてきて気が緩んでるかもしれないけど」
「慣れてなんかなっ…」
「君はここにいる間ずっと危機感を持ち続けるべきだ。囚われの身だということを絶対に忘れてはいけない」
そのまま突然スッと胸元に手を差し込まれて、咄嗟に身体を捻った。
不愉快な笑みを向けた蓮司から、目を反らせるように挨拶を返してしゃがみ込んだ。
皇 蓮司…?
訝しみながら、廊下にひかれた赤い絨毯に散らばる書類を拾って、片手に持って重ねていく。
一体、誰…?!
まだ会っていなかったSPの最後の一人かな…
それにしても何か腹立つな、この人の態度。
「えっ?!ガン無視?スルー?そこら辺、ツッコみどころだって!」
必死で何やら喚いている彼を尻目に、書類の束を全て拾い終わってスッと彼の前に差し出した。
「はい、これで全部みたいです」
蓮司はありがとうと丁寧に一言お礼を言って、書類を受け取りながらにこりと笑った。
「実は、正確には“ハジメマシテ”じゃないんだ♪」
「えっ?」
思わず目線を上げた私に、ずいと顔を寄せて自分の鼻を指差しながら彼が言う。
「君を拐う時、後ろから羽交い締めにしてナイフを突き付けていたのは僕だからね」
そう更に顔を綻ばせた彼を前に、ドクンと身体の奥底が鈍く鳴った。
一瞬、身の毛もよだつあの日のことが蘇る。
思えば全てはあの瞬間から始まったのだ。
何でもない普段通りの毎日と全てを突然奪われた、あの地獄の一日。
ふと、生まれてからずっと過ごしてきた自宅の庭を思い出した。
脳裏に浮かんだその何本もの銀杏の木が一斉に揺れ、その新緑の葉が枝を離れて空に舞う。
私が平穏な日常の中で最後に見た、外の世界。
「どう?思い出してくれた??」
彼がにこっとまた目を細めて笑った。
彼の向ける笑顔は何だか悍ましくて、とても真っ当な笑みとは思えない。
こんな笑い方、私は知らない。
そう思うと、余計に全身が鳥肌立つような不快感に襲われた。
「あの時は、もっと上品な物言いだったような気がしますけど」
「口調なんて時と場合によって、使い分けるもんでしょ」
にんまりと笑った彼に、更に怪訝な目を寄越す。
やっぱりこの男は、何だか受け入れられない。
気分が悪くなる…
「それはそうと君は…」
そう呟いて、蓮司はふむふむと頷きながら私をジッと見つめた。
「何…ですか?」
「あの時とは随分と雰囲気が変わったね」
蓮司は手に持っていた書類の束を廊下脇の棚に置いてから、まるで品定めでもするかのように上から下までこの身体を見下ろして、ぐるりと私の周りを一周した。
その目付きにゾッとするものを感じながら、微動だにできず息を呑む。
「な、何も変わってませんけど…」
口籠りながら白い浴衣の襟をぎゅっと撚り合わせて脚をきつく閉じると、それに気付いて蓮司がそっと耳元に口を寄せた。
「…男を知ったからかな」
掠れるような囁き声に、全身が鳥肌立った。
カァと羞恥に頬が赤くなったのが分かる。
「分かりません…そんなの」
「分からないわけないでしょ?清丸にもう何度も抱かれてるくせに」
返事すらできず、居たたまれなくなって目線を落とした。
ただ唇を噛み締めることしかできない。
何かすごく悔しい気分になる。
「みんな知ってるよ」
そう静かに囁いてから、蓮司は私の後ろ髪をそっと掻き上げ、片側の白い首筋を露わにして続けた。
彼の静かな息遣いが、白い肌をそっと這っていく。
「何気なく接してくれる小次郎も、親切なアンジーも、子供だと見下してる冬吾も、何食わぬ顔しながら君の姿を見る度に、そのまっさらな身体が清丸に幾度も犯される様をみんな想像してる」
後ろから不意にベロリと首筋を舐められ、ぞわっと全身が波打つように鳥肌立った。
「ここはそういう所だよ?慣れてきて気が緩んでるかもしれないけど」
「慣れてなんかなっ…」
「君はここにいる間ずっと危機感を持ち続けるべきだ。囚われの身だということを絶対に忘れてはいけない」
そのまま突然スッと胸元に手を差し込まれて、咄嗟に身体を捻った。
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