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22.残りの一人

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「ねえ、男の人ってやっぱり入れたら気持ちいいもの?」

共同スペースのイスに座って、タイミング良くその横を通り過ぎようとしていた冬悟に話し掛けた。

「…なっ…通りしなにお前、いきなり何てこと言い出すんだよっ?!」

予想に反さず、顔を真っ赤に染めてどもりながら冬悟が後退る。

「いや…ずっと考えてたんだけど、実際どうなのかなと思って…」

「何ちゅーこと考えて生きてんだ!!この変態女!!!」

冬悟のピュアさに思わず、クスッと笑ってしまう。
小次郎さんが、ついついからかいたくなる気持ちも分かるかも。

ますます顔を赤くする冬悟を見ながら思った。

私もついこないだまでそうだったはずなんだけどな…

ふと窓の外を見つめる。

「つーか、俺が童貞だって知ってての嫌味か!!!」

冬吾が私と窓との間に顔を捩じ込み、その目をクワッと見開いて声を張った。

「あ、ごめん。そういうつもりじゃ…」

まったく!とプンプン腹をかきながら冬悟が腕組みをして、去り際にこうとだけ告げて行ってしまう。

「俺じゃなくて、清丸に聞けばいいだろうが。お前の…その…ぐ、具合を知ってんのはあいつだけなんだしよ」

それを聞きたくないから、聞いてんのに。

でも私の膣内なかにいる時、清丸かれも私と同じように何かしらの愛しさと快楽を感じているのかもしれないと思うと、なぜかまたきゅうと下腹部が熱くなった。

愛とか好きとかいう感情がなくても、身体って興奮するもんなんだな…

ろくに恋も知らずに経験してしまったせいか、よく分からない。

はあと人知れず溜め息をついた。



「厳密に言うと、それは少し違うわね」

屋敷の外観とは似ても似つかないアンティーク調の家具で揃えられた部屋の中央に立って、アンジェリカが言い放った。

「え?」

細みのブラックスーツ姿で、冷めかけのコーヒーが入ったカップを上品に彼が口に運びながら、また言葉を発する。

「快楽って理屈じゃないのよ」

尚も首を傾げる私に、アンジェリカが続けた。

「ただ互いを想い合って欲する瞬間は、よくある俗な快感なんて比じゃないわね。気持ちいいっていうより切なくて苦しくて、どんなに強く求め合って身体を繋げても二つの肉体は決して一つにはなれなくて、もどかしくて。でも溶けてしまいそうに熱くてひどく甘い。とても複雑な感覚ね」

「むっ…難しい…」

「いつか分かる日がくるわよ」

「そうかなぁ」

険しい顔をして呟いた私に、アンジーがにこりと微笑んだ。

そうなのだろうか…?

「未来の旦那様是匡様とそういう関係を築けるように頑張りなさい。さて、もういい?仕事行かなきゃ」

是匡様と…ね…

どんな人なんだろ、みんながそんなに陶酔している是匡様って。

「忙しい時間にありがとう」

そう礼を述べると、男物にしては若干細めのシルバーの腕時計を左腕に着けながら、アンジェリカがひらひらと手を振って返した。

まあ政略結婚とはいえ、相手とは愛情を持って接したいと言うほどの人みたいだし、清丸よりはまともな人格者ね!

うんうんと一人で納得の頷きに頭を上下させると、アンジェリカの部屋を出て歩き出した。

「うあぁあああああああぁーっ…ちょっとそこどいてーーーっ!!」

スタスタ部屋へと戻る廊下を歩いていると、自分の顔よりも高く積んだ紙の山を抱えながら、何かに躓いたのか誰かが前で悲鳴を上げた。
思わずビクッとして顔を上げたが、避ける間もなくその声の主はそのままぶつかって私もろとも倒れ込んだ。

「きゃああーっ!!」

「ごめーん!…前見えてなくて…」

「痛たたたた…」

強く床に打ち付けた腰を擦りながら、私は顔を歪めた。

「あっ!!!キミは!!」

「え…?」

「見た目だけビッチの隠れ処女の七瀬ちゃん!」

男は降り注ぐコピー用紙の雨の中で、身を起こして乗り出すと、顔を上げた私を指差しながら大声で叫んだ。

「………は?」

「あ。初日に清ちゃんにヤられちゃってるから、もう違うのか!ごめんごめん!」

はぁあああああああああ?!

何なの?!この不躾極まりない男は!!!

「ハジメマシテ!僕の名前は、すめらぎ 蓮司れんじです☆」

そいつは腹立たしげな舌出し顔で、ウインクをしながら自分の名前を名乗った。

こっ…こいつは誰?!

一体何なのっ…?!

超絶的に不愉快!!!!!

不可解な彼を前に、私は呆れ果てながら思いっきり顔をしかめて見せた。
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