【R18】真昼の月〜警護SP×恋 至上最悪の出逢い〜

斎藤みはる

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7.五人のSP

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「下着がない!!!」

届けられた着替えを探りながら、私はわなわなと震えた。
仕方なくとりあえず真新しい白の浴衣を羽織り、キュッと真紅の腰帯を締めた。

側面に龍が彫られた金の燭台の上には、湯気の立つスープとクロワッサンにトマトの乗ったサラダと炙ったベーコン。

こんなに食べられない…

同じ金色の椅子を引いて、置かれた食事の前にストンと座った。

食事の前にシャワー浴びたいんだけどな。

そう思いながら、まだ温かいコンソメスープを口に運んだ。
ぐるりと改めて室内を見回してみると、確かに何処かしこに男の痕跡がある。
ベッド脇のサイドテーブルには、まだ封を切っていない煙草が三箱にライター。
部屋の隅に置かれたパイプラックには何着もの黒いスーツが並び、その横には何本かの黒のネクタイと白いネクタイが一本掛けられている。
その下には黒の革靴に、編み上げのブーツが何足か。

本当にあの男の部屋なんだ。
都築つずき 清丸きよまるって言ってたっけ?
…変な名前。
忍者の家系だから?

一通り全ての料理をとりあえず口にしてから、フォークをカタンとお皿の脇に置いた。

何かまだ現実を受け入れられない。
まるで悪夢の中にいるような気分なんだけど…

それにこれが両親が全てを了承した上でのことだとしたら、助けてくれるなんてことは皆無に等しい。
私をここから連れ出すということは、五条院家という強大な後ろ盾を失うことになるから。
家と私、きっと天秤に掛けたら、両親は家を選ぶに決まっている。

大きな溜め息を一つついた。

今は家のことをあれこれ考えていても仕方ない。
いくら未来の伴侶が、互いの関係を重視するような人格者であったとしても、たとえ生い先長くない人物だとしても、すんなりこの現状を受け入れられるわけがない。
もちろん、この現状を打開する道を諦めたつもりもない。

逃げる隙さえ見つけたら、いつだって逃げ出してみせる。
それで両親が困るというなら一石二鳥だ。

トイレぐらいなら出てもいいって言ってたし…
とりあえず散策かな。

席を立つと、出口の襖を横に引いてからひょこっと顔を出した。
黒い長髪がさらりと揺れる。
人の気配は感じられない。
床には赤い絨毯の敷かれた細長い廊下が見渡す限り、横に続いている。
隣に一部屋、廊下を挟んだ向かいにも部屋が三つ並んでいるようだった。
一歩足を踏み出してから、きょろきょろと辺りを見回す。
長い廊下の突き当りにトイレらしき扉を見付けた。

あれかな…
でも…

ふと自分の姿を見下ろす。

白の浴衣って、透けはしないけど何となく形が分かる気がするんだよね。
ふにっと、下着を着けていない特に大きいとも思えない胸を掴んでみた。

まあ、誰もいないみたいだし大丈夫か。

そそくさとトイレへ向かおうと、足を二、三歩出したところで、後ろから不意にむんずと両胸を掴まれた。
ひいっと声にならない悲鳴を上げる私の後ろで、ハッと衝撃的な顔をして男が声を上げた。

「まっ、まさかこれはっ…!!夢の女子大生ノーブラナマ乳っ?!」

きゃあと後ろ手で男を突き飛ばして、胸を押さえた。

「いっいきなり、誰ですかっ?!」

日に焼けた色黒の肌と、無造作な黒髪に無精髭。
明らかに昨日私を抱いた男よりも、屈強な筋肉に恵まれた肉体を有している。
太いというよりは、ガッシリとガタイが良いという表現の方がより正しい。
ニヤニヤとこちらに不快な笑みを向けて笑いながら、口に咥えた煙草をくゆらせている。

免疫のない、卑猥で唐突なコミュニケーションに若干パニックを起こしながら、私は警戒心剥き出しの表情で尚も胸を押さえた。

「そんなに恥じらわなくても、どうせ昨夜ゆうべ清丸のヤツに散々いじくり回されたんだろ?減るもんじゃねーし、ちょっとぐらいいーじゃねーか」

男が煙草を咥えたまま、両手で胸を揉む仕草を真似て見せる。

「なっ…?!」

なんなの?!この失礼な人は…

卑猥な言葉に目が回りそうになりながら後退った瞬間、トイレとは反対側から急に大きな怒声が響き渡った。

「くおらあぁあああぁぁぁっ!コジロおぉぉぉっ…!!!」

学校の制服なのか学ラン姿の少年が血眼になって、たった今私に痴漢まがいな行為を働いた男目掛けて走り寄ってくる。

「お前っ!!今日こそは俺に稽古付けてくれるって言ってたよな?!なのに今日の是匡様の護衛、アンジェリカと交代したってどういうことだよ?!」

「ゲッ!冬吾とうご、お前学校はどうした?!もうとっくに遅刻じゃねーか!!義務教育ぐらいちゃんと受けろ」

ぎくっと肩を震わせ、男が顔をしかめて自分につっかかってくる少年に叫んだ。

「小次郎が銃のいろはを教えてくれるまで、学校はサボることにした!!」

少年が男の前で止まって指差すと、何やら断言めいている。

「はあ?!」

小次郎と呼ばれた男が口を歪めた後で、はあぁと深い溜め息をついた。

私には全く話が見えない。

「あーもう、しつけーな!分かった分かった!!護衛任務から帰ってきたら考えるよ!だからさっさと中坊は学校行け!今、俺は七瀬ちゃんといちゃいちゃしてる最中なんだから邪魔すんなっ♪」

ねーっと男に顔を寄せられ、反射的に顔を背ける。

「いちゃいちゃとかしてませんけど」

多く見積もっても見た目からしてまだ二十代後半だろうに、このおやじっぷりはいろいろ痛いな。

男を冷めた目付きで見つめた。

「この期に及んで考えるって何だよ?!いつになったら教えてくれんだよ!!!って…ん?…七瀬ちゃん…?!誰だお前…」

茶色ががった短髪の学ラン少年が私の方を振り返って、頭から足先まで一通り見下ろしてから突然ボッと顔を赤くした。
そして、こちらを指差しながら尋常じゃない程どもリ出した。

「なななななな何なんだお前っ!そそそんな裸みたいな格好でっ…!!」

さっき小次郎に触られ自分でも無造作に胸辺りを押さえていたせいで、乱れた浴衣の隙間から白い胸の膨らみが少し覗いていた。
小次郎の手から勢い良く逃げた時に乱れたのか、浴衣の裾からも張りのある太腿が若干露わになっている。

「おっ、もしかして下もノーパン?清丸のヤツいつも冷めた顔しながら羞恥プレイたぁなかなかやるな♪」

そう言われて、焦ってバッと裾も撚り合わせてから股をぎゅっと閉じた。

「しゅしゅ羞恥プレイっ?!何言ってんだ、ド変態コジロー!!」

当の本人の私よりもますます顔を赤らめる少年が、ウザいどころかもはや何だか可愛らしくさえ見えてきた。

今時中学生のガキでもセックスぐらいしてるなんて、言ってたのは誰だったっけ…?

「童貞中坊は早く学校に行きなさい!!」

「うるせえな、年中発情期オヤジ!童貞って言うな!!!」

このくだり、昨日の私と若干リンクするのはなぜ?
そう思うとちょっと恥ずかしくなってくる。

「でっ?!この露出狂女は誰なんだよ?!」

不意にこっちに話題を振られて、思わずさっきから小次郎と呼ばれている無精髭の男を見やった。

「彼女は大杉 七瀬ちゃん♪五条院家うちぼんの奥様!近い未来のね。これから五条院家ここでの生活に馴染むまでしばらく清丸の部屋で同居すんの」

「お前がっ?!例の是匡これまさ様のっ…?!こんな色気もクソもなちようなちんちくりんが?!いやあ、結婚相手を自由に選べないって辛いな」

中学生に色気のなさ指摘されたら、さすがにちょっとへこむ。
それにそれは私のセリフ。
私だって見ず知らずの男と結婚なんか真っ平ごめんだし。

「やっぱり童貞だな!意外にこういうに限ってベッドの中では激しかったりするんだよ!」

小次郎がはぁと小さく溜め息を吐く。

「知らねーよ!!そんなこと!!!で、ちんちくりん七瀬は何してんの?」

「ちんちくりんって…あなたと変わらないでしょ!一応160cmはあるんだし平均だから!」

「俺はまだ中二だし、成長期真っ只中だからこれから伸びんだよー!」

中学生にもなって、あっかんべーなどしても様になってしまうのは、この冬吾がきれいな顔をしているからだと、悔しいが認めざるを得ない。

「そんなことどうでもいいですけど、あなた達何なんですか?少しなら部屋から出てもいいって言われたし、散策でもしてみようかと思って…」

「ああ、自己紹介してなかったな!俺は瀬川せがわ  小次郎こじろう。清丸と同じこの五条院家のSPでぼんもとい五条院家当主是匡の護衛係。そして可愛い七瀬ちゃんの騎士ナイト

小次郎がにっこりと笑って見せたが、不愉快極まりない。

「俺は、あずま 冬吾とうご冬吾。俺も一応“Ninjaにんじゃ”の一員。まあ、普通ならお前みたいなちんちくりん女が護衛してもらえるような組織じゃないんだからな!覚えとけよ!是匡様の許嫁だから仕方なしにやってやるんだからな」

ガハハと笑うお子様には反論すらする気にならない。

「その“Ninjaにんじゃ”って何?」

「清丸から少し聞いたかもしれないけど、俺らはみんなそれぞれ忍者の家系の出身で、ちょっと人より何かと長けているんだけど、その中でもずば抜けてる俺ら五人を他と区別してみんな“Ninjaにんじゃって呼んでる。ちなみにあと二人いるから仲良くな!」

この二人もSPなんだ。
こんなふざけてるのに。

「ところで、何でこいつ清丸と一緒の部屋なんだ?!アンジェリカとの方がまだ…」

素直に疑問符を浮かべている純朴少年を見て、思わずあの男と同じ部屋で過ごす理由を改めて思い出して赤面した。

と同時に小次郎が返事に困って言葉を濁らせる。

「あー…そこらへんの任務事情についてお前には何も言ってなかったな。…まあまあ、後でゆっくりそれは詳~しく教えてやるって!じゃ、七瀬ちゃんこの離れに俺らも住んでるから、何か困った時は声掛けてね!ほら、冬吾お前はさっさと学校行く!!!」

「わーったよ!行けばいいんだろ?」

チッと舌打ちしながら去っていく冬吾の肩を、小次郎が抱いて何やら耳打ちすると、またボンっと冬吾の顔が赤く爆発したのが後ろからでも分かった。

何言ったんだろ、アレ。
絶対また変なこと吹き込んだな…
あの人絶対、あの冬吾って子の反応見て楽しんでる。

ケケケと笑う小次郎の後ろ姿を見ながらそう思った。

変わってるなー。
みんな清丸って人みたいに無愛想なのかと思ったら、違うんだなぁ。

あとの二人はもう少し話の合いそうな人であることを切に願う。
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