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6.御家の事情
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ギラリと窓から射し込む朝の陽光で、目が覚めた。
ふと目を開けると私のすぐ鼻先に男の顔があって、その腕が私をそっと包み込んでいる。
取りようによっては、心なしか私の身体を抱いて眠っているように見えなくもない。
まだ重い瞼を開けてぼんやりとその顔を見つめた。
整った目鼻立ち。
透き通るような肌。
そして柔らかそうな黄金色の髪が、白いシーツの上で鮮やかに波打っている。
陽の光に反射して輝く金色の髪は、とても作り物には思えなかった。
地毛…?
純粋な日本人じゃない…?
そう思ってふとその髪に手を伸ばして触れると、男がぱちりと目を開けた。
思わず惹き込まれてしまいそうな深い漆黒の瞳。
その端正な顔立ちが、無表情のまま私をジッと見つめた。
ハッとして、私は男の腕から飛び出した。
勢い余ってベッドから落ちそうになった私の腕を、男がぐっと掴んで引き寄せながら、いかにも面倒臭そうに顔を引き攣らせた。
ベッドの上にまた引き戻されてしまうと、急に身体を動かしたせいかズキンと鈍い痛みが下腹部に走って一、瞬顔を歪ませた。
痛っ…
「朝から何がしたい?」
冷静に聞かれると逆に恥ずかしくなる。
むしろ私が聞きたい。
「身体は大丈夫か?」
予想外な私の身を案じるその言葉に驚き、一瞬惚けたがわざとそっぽを向いて悪態をつく。
「心配なんかされなくても大丈夫ですから」
浴衣の前をぎゅっと撚り合わせて、今度は毛足の短い赤色の絨毯の上に両足を揃えてつけた。
何となしにすっくと立ち上がったが、足腰が思うように立たずガクンとその場に崩れ落ちてしまう。
その様子を見ながら男がまた呆れて言った。
「それは、大丈夫とは言わないだろ」
ついさっき痩せ我慢なんかして強気に出たばかりのせいで、余計に何だか情けなくて柔らかい絨毯の上で口を噤んだ。
一晩明けても想像以上の違和感が、身体のどこそこに残っている。
それが嫌というほど、自分の身に起こったことを如実に物語っていた。
もう二度と取り返すことのできないものの大きさを考えるだけで、どうしようもなく悲しい。
でも、もうどう足掻いても元には戻らない。
男が裸の上半身を起こして、ベッド下に呆けている私の身体を後ろから抱き上げると、羽織っていただけの浴衣がふわりと揺れた。
「おとなしく寝てろ」
そのまままたベッドに戻され寝かされると、その上からふかふかの布団を掛けられた。
この男に甲斐甲斐しくなどされたくない。
自分でこんな身体にしておいて。
男がベッドを降りた。
昨夜も見たはずの男の上半身は、やはり立派に鍛え上げられている。
明るい部屋の中では、無数の傷が昨日よりもはっきりと見て取れた。
白いシャツを羽織りながら、男が私の視線に気付いて振り返った。
「…お前の傷より深いものはない」
シャツのボタンを留めて、男が落ちていた黒いネクタイを締める。
むくりと起き上がって、改めて男に問い正した。
「あなた一体何なの…?」
「…都築 清丸。この五条院家のSPだ」
「SP?」
「本来の仕事は当主の護衛。五条院家のSPは普通のボディガードとはちょっと毛並みが違う」
よく意味が分からず首を傾げた。
「忍者だ」
「は?」
男の言葉にいよいよ本気で顔を顰めた。
「忍者…?このご時世に?!」
「お前は本当に大杉家の人間か?」
男が溜め息をついた。
「だって、誰も何も教えてくれなかったし…」
「約束だったからな、説明してやる。正確には忍者の末裔。といっても隠れみの術だとか分身の術だとかそんな非現実的なものを使える訳じゃないし、もちろん今時手裏剣を持ち歩いて戦うというようなこともない。ただ、人より身体能力が多少高かったり、理解力がずば抜けて早かったり、頭脳明晰であらゆる知識に優れていたりとか、少々未来を見透す力に長けていたりするだけの話だ」
だけって…すでに充分超人的だと思う。
「代々日本政治の裏側には、この五条院家が必ず関わっている。実質この国を動かしているのは五条院家だと言っても過言ではない。その五条院家の護衛役を何代にも渡って務めてきたのが昔で言う忍者の一族。五条院家が代々続いてきたように、その護衛役もまたその忍者の子孫が担ってきたってわけだ」
「…映画の話?」
「俺が映画の話を、わざわざここですると思うか?」
ただ事ではないとは思っていたが、まさかこんな大規模な話に巻き込まれていただなんて。
頭がついていかない。
「でも、表舞台にこの五条院家が出ることはない。歴史上でも無きものとして扱われている」
「どうして?」
「特殊な能力で政治を動かしているなどという事実が明るみに出れば、日本政治への国民の信用はなくなる。そうなれば日本の崩壊へと繋がるからだ」
「特殊な能力?」
「お前はその当主の妻になる人間だからな、知っておく権利ぐらいはあるだろう。ただし、ここから先は本当に極一部の人間しか知らない機密情報だ。口外などすれば俺が口を封じねばならなくなる」
男の眼光が一瞬だけ鋭く変わったような気がして、ぞくりと戦慄が走った。
本当にただのSPではないのかもしれない。
「五条院家の当主には代々未来を見透す力が遺伝する。その力を使って政治を操り、この国を動かしている。昨夜も少し話したが、その役割を今担っているのが現五条院家当主 五条院 是匡だ」
「生まれつき身体が弱いって言ってたあの話ね」
「そうだ。なぜこの一族だけ病弱で短命なのか原因は分かっていないが、恐らくこの力のせいでないかと言われている。この一族として産まれた全員が能力を開花するとは限らず、能力者となる者は幼い頃からその力を発揮するため、短命で早逝する先代に代わってコミュニケーションがとれる年齢になると政治に関与し出す」
「そんな作り話しのようなことが現実にあるなんて…。それにそれってなんか…」
「汚いと思うかもしれないが、どこも隠しているだけでそういう国は少なくない。まあ、実際それでこの国は成り立ってきているんだから一概に悪いとは言えないな」
「確かに…。そして、その能力の恩恵に預かっているのがうち、大杉家ってわけか。娘を無条件で五条院家の生け贄に捧げて、代々秘密裏に繋がってきた。娘が嫁げば永遠に何代も親戚でいられるし、より強固な結束ができるから」
「そうとってもらって構わない。こちらの当主が女性の場合は、大杉家から婿養子をもらうことになる」
「お互いに同性しか産まれなかったら?」
単純な疑問だ。
「必要な性別の子が産まれるまで作るんだよ。女は妻だけとは限らないからな」
「でも…私が嫁いだら大杉家は誰が継ぐの?一人っ子なのに」
「だから、女は妻だけとは限らないって言ってるだろう。隠し子の一人や二人いるんだろ。政治家なんて大体そんなのものだろ」
「最低…」
そこまでして
子供の人格なんか全否定して、一族の繁栄を望むなんて馬鹿げてる。
両親が私にそれなりの大学にさえ行けば、後は心配いらないと言っていたのは、やっぱりこのためだったんだ。
五条院家に嫁がせるために私を育ててきただけ。
両親の愛情を感じなかった理由がやっと今、理解できた。
さすがに胸を抉られるような絶望感が押し寄せる。
最悪だ…
自分のことなのに、今まで何も知らずにのうのうと生きていたなんて。
最初から知っていれば、もっと別の人生を送れていたかもしれないのに。
別の人生…?
もし初めから知っていたとしても、私にそんなもの本当にあったんだろうか…?
ズキンと胸が痛んだ。
「この話を聞いてしまったからには、お前は本当にもう外に出ることは一切許されない」
「ぇえっ?!」
思わず顔を上げた。
「万が一外部に洩らされでもしたら、死活問題だからな」
男が鼻で嗤って、こっちをちらりと見やった。
そんな誘導の仕方ってあり…?
不可抗力だ。
「死にたい…」
げっそりとしてぽつりと呟いた私に男はなだめるどころか、勧める始末だ。
「じゃあ死ね。ここで死んでもらっても一向に構わない。五条院家の甘い蜜を吸って肥大化し過ぎた大杉家など、没落しようがどうしようが個人的に俺の知ったことではないからな、お前が死んだら証拠隠滅は図っておく」
「個人的にって、そんな勝手な…」
「あそこに死ぬにはうってつけのものもあるし」
そう言って男が床の間にある日本刀を指差した。
「刺しても案外死ねないから、ちゃんと首の頸動脈狙って斬れよ?刀は斬るだけじゃなく、刃を引かないと綺麗にスパっといけないから気を付けてな」
男が飄々と言って退ける。
いやいや、主の奥方候補の命はとりあえず大事にしようよ。
当たり前のように死に方を説明されたら、死にたいなんて思うことすら馬鹿らしくなってくる。
何なんだろう、この男は。
「後で、着替えと食事を用意させる」
「着替え?」
「そのままでいるわけにはいかないだろ」
私の方を男が顎で促した。
ガバッと身体の上の布団を捲って、自分の羽織っている白い浴衣を確認した。
浴衣の後ろが赤い染みで汚れている。
思わずカァとなって、布団を勢い良く戻した。
これって昨夜この男に抱かれた時の…
昨夜のあの痛みを思い出して、思わず一人ゾッとした。
「あ!下着も返してね!お気に入りだったんだから!!」
「あんなピンクと白のボーダーのお子様パンツが?」
男が本気で首を傾げたので若干腹が立ったが、部屋を出ていこうとする男を引き止めた。
「あ、ねえっ…何であなたもここで寝てたの?」
男が出際に振り返った。
「何でって、ここは俺の部屋だからだ」
「は…?私の部屋は?」
「この離れに、部屋の空きはもうない」
「えっ?!」
「他の部屋はあと四人のSPが使ってるからな。従って、お前の部屋もここだ。トイレは出て右奥。それ以外は勝手に部屋から出るなよ」
えっ?
えええええええええぇーっ?!
この男とこれから一緒に生活しなきゃいけないの?!
頭がクラクラする。
御家問題より何より今は、何を差し引いてもそれの方が死活問題だ。
拷問…
いろんな意味で。
男が部屋を後にしてからショックのあまり、そのままバフンと枕の上に頭から倒れ込んだ。
ふと目を開けると私のすぐ鼻先に男の顔があって、その腕が私をそっと包み込んでいる。
取りようによっては、心なしか私の身体を抱いて眠っているように見えなくもない。
まだ重い瞼を開けてぼんやりとその顔を見つめた。
整った目鼻立ち。
透き通るような肌。
そして柔らかそうな黄金色の髪が、白いシーツの上で鮮やかに波打っている。
陽の光に反射して輝く金色の髪は、とても作り物には思えなかった。
地毛…?
純粋な日本人じゃない…?
そう思ってふとその髪に手を伸ばして触れると、男がぱちりと目を開けた。
思わず惹き込まれてしまいそうな深い漆黒の瞳。
その端正な顔立ちが、無表情のまま私をジッと見つめた。
ハッとして、私は男の腕から飛び出した。
勢い余ってベッドから落ちそうになった私の腕を、男がぐっと掴んで引き寄せながら、いかにも面倒臭そうに顔を引き攣らせた。
ベッドの上にまた引き戻されてしまうと、急に身体を動かしたせいかズキンと鈍い痛みが下腹部に走って一、瞬顔を歪ませた。
痛っ…
「朝から何がしたい?」
冷静に聞かれると逆に恥ずかしくなる。
むしろ私が聞きたい。
「身体は大丈夫か?」
予想外な私の身を案じるその言葉に驚き、一瞬惚けたがわざとそっぽを向いて悪態をつく。
「心配なんかされなくても大丈夫ですから」
浴衣の前をぎゅっと撚り合わせて、今度は毛足の短い赤色の絨毯の上に両足を揃えてつけた。
何となしにすっくと立ち上がったが、足腰が思うように立たずガクンとその場に崩れ落ちてしまう。
その様子を見ながら男がまた呆れて言った。
「それは、大丈夫とは言わないだろ」
ついさっき痩せ我慢なんかして強気に出たばかりのせいで、余計に何だか情けなくて柔らかい絨毯の上で口を噤んだ。
一晩明けても想像以上の違和感が、身体のどこそこに残っている。
それが嫌というほど、自分の身に起こったことを如実に物語っていた。
もう二度と取り返すことのできないものの大きさを考えるだけで、どうしようもなく悲しい。
でも、もうどう足掻いても元には戻らない。
男が裸の上半身を起こして、ベッド下に呆けている私の身体を後ろから抱き上げると、羽織っていただけの浴衣がふわりと揺れた。
「おとなしく寝てろ」
そのまままたベッドに戻され寝かされると、その上からふかふかの布団を掛けられた。
この男に甲斐甲斐しくなどされたくない。
自分でこんな身体にしておいて。
男がベッドを降りた。
昨夜も見たはずの男の上半身は、やはり立派に鍛え上げられている。
明るい部屋の中では、無数の傷が昨日よりもはっきりと見て取れた。
白いシャツを羽織りながら、男が私の視線に気付いて振り返った。
「…お前の傷より深いものはない」
シャツのボタンを留めて、男が落ちていた黒いネクタイを締める。
むくりと起き上がって、改めて男に問い正した。
「あなた一体何なの…?」
「…都築 清丸。この五条院家のSPだ」
「SP?」
「本来の仕事は当主の護衛。五条院家のSPは普通のボディガードとはちょっと毛並みが違う」
よく意味が分からず首を傾げた。
「忍者だ」
「は?」
男の言葉にいよいよ本気で顔を顰めた。
「忍者…?このご時世に?!」
「お前は本当に大杉家の人間か?」
男が溜め息をついた。
「だって、誰も何も教えてくれなかったし…」
「約束だったからな、説明してやる。正確には忍者の末裔。といっても隠れみの術だとか分身の術だとかそんな非現実的なものを使える訳じゃないし、もちろん今時手裏剣を持ち歩いて戦うというようなこともない。ただ、人より身体能力が多少高かったり、理解力がずば抜けて早かったり、頭脳明晰であらゆる知識に優れていたりとか、少々未来を見透す力に長けていたりするだけの話だ」
だけって…すでに充分超人的だと思う。
「代々日本政治の裏側には、この五条院家が必ず関わっている。実質この国を動かしているのは五条院家だと言っても過言ではない。その五条院家の護衛役を何代にも渡って務めてきたのが昔で言う忍者の一族。五条院家が代々続いてきたように、その護衛役もまたその忍者の子孫が担ってきたってわけだ」
「…映画の話?」
「俺が映画の話を、わざわざここですると思うか?」
ただ事ではないとは思っていたが、まさかこんな大規模な話に巻き込まれていただなんて。
頭がついていかない。
「でも、表舞台にこの五条院家が出ることはない。歴史上でも無きものとして扱われている」
「どうして?」
「特殊な能力で政治を動かしているなどという事実が明るみに出れば、日本政治への国民の信用はなくなる。そうなれば日本の崩壊へと繋がるからだ」
「特殊な能力?」
「お前はその当主の妻になる人間だからな、知っておく権利ぐらいはあるだろう。ただし、ここから先は本当に極一部の人間しか知らない機密情報だ。口外などすれば俺が口を封じねばならなくなる」
男の眼光が一瞬だけ鋭く変わったような気がして、ぞくりと戦慄が走った。
本当にただのSPではないのかもしれない。
「五条院家の当主には代々未来を見透す力が遺伝する。その力を使って政治を操り、この国を動かしている。昨夜も少し話したが、その役割を今担っているのが現五条院家当主 五条院 是匡だ」
「生まれつき身体が弱いって言ってたあの話ね」
「そうだ。なぜこの一族だけ病弱で短命なのか原因は分かっていないが、恐らくこの力のせいでないかと言われている。この一族として産まれた全員が能力を開花するとは限らず、能力者となる者は幼い頃からその力を発揮するため、短命で早逝する先代に代わってコミュニケーションがとれる年齢になると政治に関与し出す」
「そんな作り話しのようなことが現実にあるなんて…。それにそれってなんか…」
「汚いと思うかもしれないが、どこも隠しているだけでそういう国は少なくない。まあ、実際それでこの国は成り立ってきているんだから一概に悪いとは言えないな」
「確かに…。そして、その能力の恩恵に預かっているのがうち、大杉家ってわけか。娘を無条件で五条院家の生け贄に捧げて、代々秘密裏に繋がってきた。娘が嫁げば永遠に何代も親戚でいられるし、より強固な結束ができるから」
「そうとってもらって構わない。こちらの当主が女性の場合は、大杉家から婿養子をもらうことになる」
「お互いに同性しか産まれなかったら?」
単純な疑問だ。
「必要な性別の子が産まれるまで作るんだよ。女は妻だけとは限らないからな」
「でも…私が嫁いだら大杉家は誰が継ぐの?一人っ子なのに」
「だから、女は妻だけとは限らないって言ってるだろう。隠し子の一人や二人いるんだろ。政治家なんて大体そんなのものだろ」
「最低…」
そこまでして
子供の人格なんか全否定して、一族の繁栄を望むなんて馬鹿げてる。
両親が私にそれなりの大学にさえ行けば、後は心配いらないと言っていたのは、やっぱりこのためだったんだ。
五条院家に嫁がせるために私を育ててきただけ。
両親の愛情を感じなかった理由がやっと今、理解できた。
さすがに胸を抉られるような絶望感が押し寄せる。
最悪だ…
自分のことなのに、今まで何も知らずにのうのうと生きていたなんて。
最初から知っていれば、もっと別の人生を送れていたかもしれないのに。
別の人生…?
もし初めから知っていたとしても、私にそんなもの本当にあったんだろうか…?
ズキンと胸が痛んだ。
「この話を聞いてしまったからには、お前は本当にもう外に出ることは一切許されない」
「ぇえっ?!」
思わず顔を上げた。
「万が一外部に洩らされでもしたら、死活問題だからな」
男が鼻で嗤って、こっちをちらりと見やった。
そんな誘導の仕方ってあり…?
不可抗力だ。
「死にたい…」
げっそりとしてぽつりと呟いた私に男はなだめるどころか、勧める始末だ。
「じゃあ死ね。ここで死んでもらっても一向に構わない。五条院家の甘い蜜を吸って肥大化し過ぎた大杉家など、没落しようがどうしようが個人的に俺の知ったことではないからな、お前が死んだら証拠隠滅は図っておく」
「個人的にって、そんな勝手な…」
「あそこに死ぬにはうってつけのものもあるし」
そう言って男が床の間にある日本刀を指差した。
「刺しても案外死ねないから、ちゃんと首の頸動脈狙って斬れよ?刀は斬るだけじゃなく、刃を引かないと綺麗にスパっといけないから気を付けてな」
男が飄々と言って退ける。
いやいや、主の奥方候補の命はとりあえず大事にしようよ。
当たり前のように死に方を説明されたら、死にたいなんて思うことすら馬鹿らしくなってくる。
何なんだろう、この男は。
「後で、着替えと食事を用意させる」
「着替え?」
「そのままでいるわけにはいかないだろ」
私の方を男が顎で促した。
ガバッと身体の上の布団を捲って、自分の羽織っている白い浴衣を確認した。
浴衣の後ろが赤い染みで汚れている。
思わずカァとなって、布団を勢い良く戻した。
これって昨夜この男に抱かれた時の…
昨夜のあの痛みを思い出して、思わず一人ゾッとした。
「あ!下着も返してね!お気に入りだったんだから!!」
「あんなピンクと白のボーダーのお子様パンツが?」
男が本気で首を傾げたので若干腹が立ったが、部屋を出ていこうとする男を引き止めた。
「あ、ねえっ…何であなたもここで寝てたの?」
男が出際に振り返った。
「何でって、ここは俺の部屋だからだ」
「は…?私の部屋は?」
「この離れに、部屋の空きはもうない」
「えっ?!」
「他の部屋はあと四人のSPが使ってるからな。従って、お前の部屋もここだ。トイレは出て右奥。それ以外は勝手に部屋から出るなよ」
えっ?
えええええええええぇーっ?!
この男とこれから一緒に生活しなきゃいけないの?!
頭がクラクラする。
御家問題より何より今は、何を差し引いてもそれの方が死活問題だ。
拷問…
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