【R18】真昼の月〜警護SP×恋 至上最悪の出逢い〜

斎藤みはる

文字の大きさ
上 下
4 / 26

4.既成事実

しおりを挟む
一瞬返答に困ったが、そろりと首を左右に振って男の眼を見つめた。

「嘘をつくな」

男が手を離してまた、はあと溜め息をつく。

やるせないのはどう転んでもこちらの方なのに。
そんなにあからさまに何度も溜め息なんかつかれたら、もっと泣きたくなってくる。

「…こんな急に、知らないとこに拉致られてきて…会ったばかりの見ず知らずの男に素っ裸にされて…」

そう言いながらふと目を伏せた。

どんなに恥ずかしくても、腕を頭上で押さえ付けられていては広げられた浴衣の中で裸体を隠すことすらできない。

「…意味も分からないまま身体を差し出せって言われても、すんなりそうですかなんて言えるわけない…」

まだ経験したことのない行為に対する、純粋な恐いという感情と、自分の置かれている状況がよく分からない不安とが一緒くたになって、私の中に渦巻いている。

男は何も言い返すこともせずに、じっと私を見つめていた。
多少は同情もしているのかもしれない。
でも私の手を押さえ付ける男の腕は、一向に緩みそうにはない。
やっぱり逃れることはできないんだと、改めて強く思った。

「こんなことになるんだったら彼氏の一人や二人ぐらい作っておくんだった。私、友達はいないけど、これでも顔は悪くないし勉強だって怠らないし、運動だって休んだことがない。モテるんだからね!」

別に男に向けて言ったわけではなかった。
ただあまりの現実にぐらついてしまいそうで、思ったことでも口にしていないとおかしくなりそうなのだ。

男は尚も無言のまま私を見下ろしている。
その飄々とした表情が悔しくて、ふいと横を向いた。

「…初めてぐらい好きな人とがよかった…」

そっぽを向いたままぽつりとそう本心を呟いてみると、不覚にも涙が溢れた。

何で私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう…?
恋愛への憧れは、人並み以下かもしれない。
だけど、それでも愛や感情のないセックスなんかしたくない。

零れた涙が頬を伝ってシーツを濡らす。

「…悪いな。お前に個人的な恨みがある訳じゃないが、どうしても見逃してやることはできない」

男の言葉の中に、今までとは違ってはっきりと同情の念が感じ取れると、いよいよ嗚咽混じりに、涙が零れ出した。

「嫌なの!どうしても嫌なの…覚悟も何もできてないのに、こんな風に失いたくない…」

「……………」

男は無言ですらあったが、さっきまでの覇気は失われていて、無理に手を進めようとはしなかった。

「…どうしてもしなきゃダメ?結婚は何とか前向きには考える!だからせめて初めては、その是匡って人に会って、ちゃんと好きになってから彼に…」

「そんな悠長なことを言っている時間はない」

男が私の言葉を遮って、静かにそうとだけ告げた。

「え?」

「…是匡には、もうあまり時間は残っていない。五条院家の当主として生を受けた者は、代々幼少期から身体が弱く短命で、運動や外出はもちろん、子を成す行為すらも体力を大量に消費してしまう」

「さっきはそんなこと一言も…」

「この事実が明るみになれば、家名存続の危機に繋がり兼ねないために、ずっと伏せられている。本来なら、まだお前にも伏せていなければいけないことだ」

「つまり、これって…」

「家名を絶やさぬため、五条院家としては当主存命のうちに、何としても子孫を残さなければならない。しかし是匡の体力的に、そう何度も行為に及ぶことは命取りになる。ましてやこんな風に直前で駄々をこねられたり、暴れたりされては率直に困る。つまりは、いつでも円滑に子を為せるようしておくためだ」

「だったら、他にも方法はあるでしょ?わざわざヤらなくても人口受精とかいろいろ…」

「それは是匡の意思だ。きちんと妻となる人間とは言葉を交わし、心を通わせ、愛情の上で子を授かりたいと。是匡も人の温もりを知らぬまま、この世を去りたくはないのだろう」

「そんなのそっちの都合ばかりじゃない?私の気持ちは?状況は分かったけど…こんなの…あんまりだよ」

「同情はする。でも分かったら、もう諦めてくれ。大杉家の娘として生まれた瞬間から、全ては決まっていたことだ」

「見逃すって手は、あなたにないんでしょ?」

「…ない」

きっぱりとそう告げられて、やっと自分の立場を理解できた気がした。

ああ、私の生きてきた理由はこれだったのか。
このために生かされていたのか。

いろんな感情が押し寄せてきて、一気に目から涙が止めどなく溢れ出して、止まらなくなった。

「…逃げられないのは、もうよく分かったから、せめて…ひどくはしないで」

男は頷きすらしなかったが、涙を両手で拭っている私をしばらくじっと見つめていた。

「努力はする」

そう言って、男が急に私の膝を割ったかと思うと、もう一度指を脚の間にそっと這わせた。

膣内なかはないにしても、ここを自分で触ったことぐらいはあるだろう?」

一番敏感な部分の尖端を不意に触れられて、ビクッと脚に力が入る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...