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1.日常が壊れた日
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ハァ
ハァ
ハァ…
何でこんなことになったんだろう?
身体中のいたるところが痛い。
隅々から“奥深く”まで…ー
夜中のオフィスビル街を抜けて、路地裏へと入り込んだ所で、下腹部を走るズキンとした痛みに顔を引き攣らせた。
「…痛っ………」
もう小一時間も走ってきたせいで、足が縺れて冷たいアスファルトの上に倒れ込んだ。
長年陸上部で鍛えてきたこの脚でさえ、一週間も屋内で軟禁されていたら思うようには動かない。
そもそもこんな痛みを抱えて走ることになるなんて、この身体が恨めしい。
でもここまで来たら、さすがにすぐは捕まらないはず…
何とか立ち上がろうと足に力を入れて、よろめきながら地面を踏みしめた。
「こんなところにいたの、七瀬チャン」
ギクリと肩が跳ねた。
背中から男とも女ともつかない声が聞こえて、思わずバッと振り返った。
長いウェーブがかった金髪の髪を一つに束ねた、黒いスーツ姿の長身の人影にゴクリと固唾を飲んだ。
五条院家SP“Ninja”ナンバー2で武闘家の桐原 アンジェリカ。
中身は私よりずっと可憐かもしれないが、肉体的にはれっきとした男。
「まさかまだ本気で逃げられるとでも思っていたのか?面倒臭さ半端ねーな、お子様のお守りっつーのは」
その後ろで怠そうに煙草を燻らせているのは、五条院家SP“Ninja”の凄腕ガンマン 瀬川 小次郎。
「もうイイんじゃね?そんな聞き分けのないちんちくりんなんかさっさと殺っちゃえば。つーかさ、毎回何で蓮司のヤツだけ来ないんだよ」
「仕方ないでしょ~、蓮チャンは頭脳派なんだからあんたみたいに無駄に血の気多くないのよ」
「うるせーな!武闘家のオカマもどきに言われたくねーよ!!清十郎!」
「んもう、失礼ね。こう見えても日本でトップレベルの武闘家なのよ、アタシ♡それから本名で呼ぶのはやめて!」
路地裏のブロック塀の上に仁王立ちをして、女の子さながらの可愛い顔でぎゃーぎゃー喚いているのは、未来予視の力をかわれ五条院家SPとなった“Ninja”最年少の東 冬吾 十四歳。
嘘…いつの間に…
足音なんか一度もしなかったのに。
呆然とまた力なくへたり込んだ私の前に、一人の男がツカツカと歩み寄ると、黒いスーツのジャケットが生温い風にビュウと靡いた。
ドクリと、変な動悸が胸を過ぎる。
この無表情で冷たい眼は、何度見ても苦手だ。
この五条院家SP“Ninja”の護衛頭で、並外れた身体能力を持つと噂される都築 清丸。
五条院家 現当主 五条院 是匡の幼馴染みであると同時に、若干十五歳にしてその類稀なる身体能力で、多種多様な数多のターゲットを闇に葬り去ってきたという、冷酷無慈悲な日本屈指の殺し屋。
その界隈では、その名を知らない者はいないとかなんとか…
黄金色の柔らかそうな髪。
深い漆黒の瞳。
透き通るような肌の色。
長身で、鍛え抜かれた肉体。
端正な顔立ち。
一度見たら二度と忘れられないような、そんな容姿を称えた男だった。
これが、この一週間で何とか調達できた彼らの情報だ。
「あんまり調教係の手を煩わせるな」
彼から発された低く冷たい声に、たらりと冷や汗がこめかみを流れた。
それは今から一週間前に遡るー…
あの日、私は初めて身をもって知った。
こんなにも突然に、当たり前に続いていくはずだと思っていた日常が、跡形もなく消え去ってしまう恐怖を。
周りには不確かなものばかりで、確かなものなんてこの世には何一つない。
自分で勝手に結論づけた論理の中で、私は一人絶望していた。
決して尊敬などできない両親や、周りの大人達と同じ薄汚れた空気の中に、もうすぐ自分も仲間入りしなくてはならない。
そう思うと、吐き気がして堪らなかった。
そんな風に確かにキラキラと光り輝く宝石箱のような、美しい青春でも何でもなかったが、それでもこの時の私は、その当たり前の毎日を失ってしまうなんて、そんなこと微塵も考えていなかった。
ハァ
ハァ…
何でこんなことになったんだろう?
身体中のいたるところが痛い。
隅々から“奥深く”まで…ー
夜中のオフィスビル街を抜けて、路地裏へと入り込んだ所で、下腹部を走るズキンとした痛みに顔を引き攣らせた。
「…痛っ………」
もう小一時間も走ってきたせいで、足が縺れて冷たいアスファルトの上に倒れ込んだ。
長年陸上部で鍛えてきたこの脚でさえ、一週間も屋内で軟禁されていたら思うようには動かない。
そもそもこんな痛みを抱えて走ることになるなんて、この身体が恨めしい。
でもここまで来たら、さすがにすぐは捕まらないはず…
何とか立ち上がろうと足に力を入れて、よろめきながら地面を踏みしめた。
「こんなところにいたの、七瀬チャン」
ギクリと肩が跳ねた。
背中から男とも女ともつかない声が聞こえて、思わずバッと振り返った。
長いウェーブがかった金髪の髪を一つに束ねた、黒いスーツ姿の長身の人影にゴクリと固唾を飲んだ。
五条院家SP“Ninja”ナンバー2で武闘家の桐原 アンジェリカ。
中身は私よりずっと可憐かもしれないが、肉体的にはれっきとした男。
「まさかまだ本気で逃げられるとでも思っていたのか?面倒臭さ半端ねーな、お子様のお守りっつーのは」
その後ろで怠そうに煙草を燻らせているのは、五条院家SP“Ninja”の凄腕ガンマン 瀬川 小次郎。
「もうイイんじゃね?そんな聞き分けのないちんちくりんなんかさっさと殺っちゃえば。つーかさ、毎回何で蓮司のヤツだけ来ないんだよ」
「仕方ないでしょ~、蓮チャンは頭脳派なんだからあんたみたいに無駄に血の気多くないのよ」
「うるせーな!武闘家のオカマもどきに言われたくねーよ!!清十郎!」
「んもう、失礼ね。こう見えても日本でトップレベルの武闘家なのよ、アタシ♡それから本名で呼ぶのはやめて!」
路地裏のブロック塀の上に仁王立ちをして、女の子さながらの可愛い顔でぎゃーぎゃー喚いているのは、未来予視の力をかわれ五条院家SPとなった“Ninja”最年少の東 冬吾 十四歳。
嘘…いつの間に…
足音なんか一度もしなかったのに。
呆然とまた力なくへたり込んだ私の前に、一人の男がツカツカと歩み寄ると、黒いスーツのジャケットが生温い風にビュウと靡いた。
ドクリと、変な動悸が胸を過ぎる。
この無表情で冷たい眼は、何度見ても苦手だ。
この五条院家SP“Ninja”の護衛頭で、並外れた身体能力を持つと噂される都築 清丸。
五条院家 現当主 五条院 是匡の幼馴染みであると同時に、若干十五歳にしてその類稀なる身体能力で、多種多様な数多のターゲットを闇に葬り去ってきたという、冷酷無慈悲な日本屈指の殺し屋。
その界隈では、その名を知らない者はいないとかなんとか…
黄金色の柔らかそうな髪。
深い漆黒の瞳。
透き通るような肌の色。
長身で、鍛え抜かれた肉体。
端正な顔立ち。
一度見たら二度と忘れられないような、そんな容姿を称えた男だった。
これが、この一週間で何とか調達できた彼らの情報だ。
「あんまり調教係の手を煩わせるな」
彼から発された低く冷たい声に、たらりと冷や汗がこめかみを流れた。
それは今から一週間前に遡るー…
あの日、私は初めて身をもって知った。
こんなにも突然に、当たり前に続いていくはずだと思っていた日常が、跡形もなく消え去ってしまう恐怖を。
周りには不確かなものばかりで、確かなものなんてこの世には何一つない。
自分で勝手に結論づけた論理の中で、私は一人絶望していた。
決して尊敬などできない両親や、周りの大人達と同じ薄汚れた空気の中に、もうすぐ自分も仲間入りしなくてはならない。
そう思うと、吐き気がして堪らなかった。
そんな風に確かにキラキラと光り輝く宝石箱のような、美しい青春でも何でもなかったが、それでもこの時の私は、その当たり前の毎日を失ってしまうなんて、そんなこと微塵も考えていなかった。
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