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三章 消えた精霊王の加護
33話 イアソンの到着
しおりを挟む「みんな~、ごはんですよ~。起きましょうね」
朝、明るい女性の声でエイリは目を覚ました。
ピンク髪の女性はエイリ達に声をかけると猫耳姉妹を起こしにかかった。
エイリが起きた場所は自室のベッドではなく仮拠点一階にある談話室に敷かれた布団の上だった。
エイリの近くにはリコリスとルティリス、クゥとクロも皆一緒にいた。
リコリスとルティリスはまだ眠いようで起こされてもまた布団にポテッと倒れていた。
何故自室ではなく談話室で眠っていたのか目覚めたばかりのボンヤリとした頭でエイリは思い出す。
ー確か、スオンさんから昔話を聞いていたんだっけ…。
スオンが診療所へ出かけた時間帯はいつもであれば就寝している時間だったのだがエニシ屋の倉庫に避難していた際に愚図りだした猫耳姉妹に日本の絵本で定番だった昔話や童話などを幾らか話していた。
もちろんどの話も原作では血生臭さ過ぎて天使のように可愛らしい猫耳姉妹には聞かせられないのでので子供向けに改変したものだ。
エイリが話す童話を気に入ったのもあるがやはりオークとはどのような魔物か分からなくとも魔物は恐ろしいものという認識と生まれてから親代わりのザンザスとアビリオの不在だという寂しさもあり猫耳姉妹は眠れなかったらしい。
強く猫耳姉妹に童話をもっと聞きたいとせがまれ談話室に布団を敷き3人と2匹で眠ることになったのだ。
その場にスオンが留守を任せたエニシ屋の女性店員ユナミ、先程眠っていたエイリ達を起こしに来た女性はエイリの童話を一緒に聞いているうちに猫耳姉妹より先に寝てしまった。
ルエンは本当に大丈夫なのか心配で落ち着きがなかったエイリは妹のように可愛がっている2人に童話の朗読をしたことで気分転換にはなかったがやはり眠れない。
エイリが話す童話のネタが尽きかけた頃、スオンが診療所から帰ってきた。
エイリだけでなく猫耳姉妹もまだ眠れなかったのでスオンが唯一知っている『スティリア』の昔話を3人に聞かせた。
その昔話は精霊にとても愛された白い女の子が登場する昔話だった。
白い女の子は普通の小さな村で生まれ、盗賊に家族を奪われた後は奴隷商人に売り飛ばされるとそこで黒い男の子と出会い仲良くなったが別の人間に白い女の子が売られてしまう。
時は流れて白い女の子は白い聖女となり黒い男の子は黒い剣士になった。
白い聖女が悪い王子様に虐められて死にかけた時に黒い剣士に助けられ2人は恋に落ちた。
白い聖女と黒い剣士の2人が世界を救う旅に出た辺りでスオンの優しい低音の声が眠気を誘いエイリは眠ってしまったようでその先の記憶はない。
ースオンさんが話してくれた昔話って実話なのかな?
よく考えてみると昔話というものは善し悪しに関係なく日頃の行いが最後は自分に返ってくるという教訓を子供達が聞いて覚えやすいよう都合良く改編された架空の話が大半だ。
しかし、スオンが話してくれたこの昔話は真実味が強いものだった。
白い女の子は『白銀の愛し子』、黒い男の子は『煉獄のロウ』のことを指しているように聞こえた。
スオンはこの2人と友人同士であったことが『スティリア』では有名だったから余計にそう思った。
途中で眠ってしまったがこの昔話のエンディングというのはどのようなものだろうか?
昔話であれば最後は結婚して末永く幸せになりましたとさ、と締められるだろうがこの昔話に登場する2人の英雄は『スティリア』に実在している人物だ。
『実際』この2人が魔脈調律の旅の後どうして行方知らずになってしまったのかスオンに聞くどころ考えるのもエイリは本能的に怖くなりこの件を考えるのをやめて猫耳姉妹を起こして一緒に食堂へ向かった。
「今日中にザンザスさんが騎士団を連れて戻ってくるそうですよ」
スオンとユナミの2人が用意してくれた朝食を町中の見回りから戻ってきたハロルドとカインも加わり7人と2匹で食べている時スオンが言った。
アビリオはまだ見回りに出ているようだ。
オークが現れたという連絡を受けザンザスはラニャーナ行きを断念し騎士団の速い竜車を借りてハラスに戻ってくるらしい。
ザンザスが帰ってくると聞いて彼を父親のように思っている猫耳姉妹はとても喜んでいた。
騎士団も一緒ということはオーク討伐が理由だろう。
オーク討伐に騎士団も加われば『七曜の獣』の団員、ルエンの負担が軽くなるとエイリは喜んでいたのだが…。
オークが出現したことをハラスの町長が近辺の町に駐在、偶々遠征で物資の補充として滞在していた騎士団や冒険者に救援要請の連絡を送ったところ要請に応えてくれたのはサタカに物資の補給に来ていた新人騎士の遠征訓練をしていた隊だけ。
他に近辺にはあまり強い魔物もいないという理由でリィンデルア国の第二王子が率いる隊も遠征訓練でいたのだが要請を聞かなかったことにして王都に帰還していったのだという。
さらに最悪なことに要請を受けた隊では引率している教官2人を除いた新人30人の騎士のうち11人の貴族出身者が急遽オーク討伐に向かうことを告げた夜のうちに逃亡し19人になっていたということを後に知ることとなった。
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「おとうさん!」
ルエンは一晩だけ診療所で入院していると聞いていたエイリは朝食を終えると仮拠点の入り口の外でクロと一緒にルエンの帰りを待っていた。
どれ程の時間を待ったのか分からないがルエンとザンザス、アビリオの他にもう1人の男を合わせた4人の姿が見えた途端、エイリは親を見つけた子猫のようにタタタッとルエン目掛けて走り思いっきり抱きついた。
「おとうさんおかえりなさい!倒れたってきいて心配だったんだよ!」
「心配かけて済まなかったな…。お前の美味い飯を料理を食って元気になったから大丈夫だ」
エイリにしか見せない父親らしい柔らかい表情をしながらルエンはわしゃわしゃとエイリの頭を撫でながら言った。
ルエンの無事を知り頭を撫でられているエイリは思わずいつものようにへにゃりとした表情になる。
「あー…、二人の世界に入ってるとこ悪いがそろそろエイリにこいつを紹介してやらないと」
ザンザスが苦笑いをしながら言った。
そこでエイリはやっともう1人見知らぬ男の存在に気づく。
男の格好からして職業は騎士だろうか、髪の色は違うが顔がハロルドと似ている気がした。
「『隻眼の剣客ルエン』の娘エイリです。よろしくお願いします」
ハロルドと似た初対面の男にエイリは冒険者としてのルエンの通称を付けて名乗るとペコリとお辞儀をする。
「初めまして俺はイアソン。いやぁフィリに似てかぁいいなぁ!!」
とハロルド似の男は先ほどのルエンよりも激しくガシガシとエイリの頭を撫で回す。
「ミャアアァァっ!いたい!ハゲちゃう!!」
手甲をはめた状態でイアソンはエイリの頭を激しく撫でているので幼児でなくともこれは痛い。
「やめろ!エイリが馬鹿になったらどうする!!」
いつしかザンザスに抱きしめ殺されかけた時のようにルエンはエイリを引き離した。
「いやぁ、すまんすまん」
と軽くイアソンはエイリに謝罪した。
そこでイアソンは王都リィンデルアで新人騎士を教育の教官として勤めていることをエイリに話すと…。
「お、お城になんていきませんからっ!」
オーク騒動が収束した後『愛し子』の娘としてリィンデルアの城に連れて行かれると勘違いしたエイリはルエンの後ろに隠れながら言った。
3人がイアソンはそんなことをしないと説明してもリィンデルアの城から来ている以上エイリの誤解は中々解けなかった。
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