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二章 『愛し子』の娘、ギルド見習いになる

21話 スオンの依頼

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「ずいぶん変わった親子がザンザスさんのギルドにはいったねぇー」

エイリはギルドの仮拠点で朝食を食べた後、ルエンに抱き上げられた状態でザンザスにハラスの町にある商店街を案内されつつ今後の生活で必要になる物を買いに来ていた。

ザンザスは気さくな性格で話しかけやすい雰囲気が出ているからか商店街につく前から住民とすれ違えば向こうから気軽に話しかけてくるしザンザスの方も畑の見回りの依頼者と会えば報酬で貰った食材の感想を言ったりなど英雄とは思えない程この町に馴染んでいた。

そして町の住民と遭遇する度にザンザスがギルドに新しく入団したエイリとルエンの2人を紹介した。

やはり同じ黒髪でも2人は親子に見えないらしく"変わった親子"だと住民にオブラートに包んで言われていた。


商店街に着くとこの町で生産された様々な野菜、家畜の生肉や腸詰めなどの加工品、生乳、ヨーグルト、チーズといった食料品を扱う店が多く、商店街でもザンザスは良く店の店主に話しかけられていた。
 

「まだ小さいのに勉強熱心な子だねぇ。うちのせがれにも見習わせたいよ」

エイリは商店街にあった雑貨屋にて『スティリア』の文字を覚える為にノート数冊、ペンとインク、インクとノート代節約の為に小さな黒板とチョークなどの勉強道具を買い足してもらった。

『スティリア』では王族貴族でもない一般人は商売をやっている家の生まれでもない限り読み書きは重要視されていない。

冒険者も不遇な出自で読み書きを学ぶ機会が無かった者が多く冒険者組合で掲示板に貼られた依頼書を読むことが困難の場合は近くにいる読み書きできる者に読んでもらい依頼を受けている。

そんな世間で雑貨屋の店主は自分の息子より幼い4~5才の子供に見えるエイリが勉強道具を熱心に欲しがるのだから驚いていた。


他に幾らか日用品を購入するとザンザスは店主に後で仮拠点まで届けて欲しいと頼んでいた。



「ワンピースはヒラヒラしておちつかないのでいやです…」

「似合ってるのにそんな勿体無いこと言うなよぉ」

3人は最後に住民が普段着を購入するのに利用している服屋に来た。

装飾が多い流行りの服などは大きな街に行かねば取り扱っていないが普段着であればこの店で十分だ。

エイリが持っている服は孤児院でもらった男児用の服しかない。

ラシィムがエイリに男児用の服をあえて渡したのは女児用の服が無かったからというわけではなくハーセリアでは幼児、特にヤヌワの血を引く女児は"あらゆる"理由で奴隷商人に目を付けられやすく誘拐される確率が恐ろしく高い。

誘拐される確率を僅かにでも下げる為にラシィムはエイリに男児用の服を渡していだ。

その男児用の服も何ヶ月か着ていれば元々お古の服だったのであちこちに穴が空き修繕しながら着ていたがそろそろ限界だったので入団を機に新調することになった。

リィンデルアでの奴隷目的の誘拐は重罪なのでわざわざリスクを犯してまでリィンデルアでそのような悪事を働く者はいない。

なのでザンザスは女の子らしくワンピースをエイリに提案したが、ワンピースといったヒラヒラとして布が汚れないように気を使わなければならない服より動き易く僅かな汚れも気にする必要がない男児用の服を好んでいたエイリはワンピース購入を拒否した。

「…そろそろ時期的に暑くなる。暑苦しいのは嫌だろう?なら拠点の中でだけ着たらどうだ」

「むぅ…それだったらいい…」


ルエンも流石に男児服ばかりをエイリに着せるのは良くないと思っていたようでこのように提案するとエイリは渋々ながら納得しワンピースを1着と他は男児用の服を数着買ってもらった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん?エニシ屋の荷台があるってことはスオンでも来ているのか?」

3人がギルドの仮拠点に戻るとエニシ屋とペンキで描かれた木製の荷台とそれを引いていたと思われる緑色の羽をした竜鳥が近くの木につがれていた。

「そういえばきのうスオンさんがここにくるっていってました」

エイリはハラスの町に来た日に後日スオンが『七曜の獣』の仮拠点に来ると言っていたのを思い出した。

3人が仮拠点の中に入って行くと食堂でスオンが待っており荷台で運んで来た品物だろうか、かなりの大きさがある荷物が床に置かれ布が被せられていた。


「こんにちは、本日はエイリさんに折り入ってお願いがあって此方に来ました」

「わたしに…ですか…?」

スオンが先日『七曜の獣』の仮拠点に来ると言っていたのはエイリに是非頼みたいことがあったからだという。

「私にも毎日とはいきませんがギルドに商品を納品しに来た際にでもエイリさんからニホンで覚えた料理などを教わりたいとおもいましてね。勿論報酬も毎月エイリさんが今欲しいと思っている"こちら"の品をギルドに寄付致します。今回はハラスに来る前に教えってもらった分と合わせ前払いの報酬としてこれだけ用意させて頂きました」

スオンが持ってきた品物に被せていた布を取るとそこには大きな米俵が3つあった。

「もしかしておこめですか!?」

「はい、エイリさんが育ったニホンでは主食だと聞いていたのであれから近くの街にある本店から在庫を取り寄せました」

エイリはハラスに来るまでの間、竜車の中でスオンにニホンのことを話をしていた時にニホンの食事で出される主食は白米だと話していた。

スオンは竜車でエイリから主食の話を聞いてすぐ手紙でラニャーナにあるエニシ屋本店で販売している米をハラスまで送るように手配し、数時間前にハラスに到着した米俵を仮拠点に運んで来たという。


『スティリア』に来て数ヶ月、ほかほかの白米が恋しくなっていたエイリはスオンの提案をのんだ。

現在の時刻も昼食にあたる時間なので早速白米を炊き、白米に合うおかずをアビリオとスオンに教えながら作ることになったのだが…。


「スオンさん…もしかしてこのおこめってかなりのこうきゅうひんじゃないですか…?」

米を研ぐ為に米俵から米を出し米粒を確認すると純白で粒の大きさも均等、エイリが日本で購入していた米より少々質の良い米だった。

この米は暖かい時期がリィンデルアより長い亜人族が多く住まうアルツェスという国で栽培されたもので米の生産量と品質でいえばアルツェスに並ぶ物はそうそうないらしい。

それでも生活水準が日本よりかなり低い『スティリア』で日本に並ぶ高品質の米が高級品で無いはずがないとエイリも流石に気づく、高級品を料理指導の報酬に貰ってスオンの店が赤字になったりしないのだろうかと不安になった。


「エイリさんから異世界の料理を直接教えてもらうのですから寧ろ安いくらいですよ」

異世界の料理だけでなく異世界の知恵というのは通常であれば異世界の者と遭遇すること自体が"奇跡"なのだから商人としてはその知恵を商売に生かしたいと喉から手が出る程欲しいもので財産を注ぎ込んででも知りたいものであるらしい。

エイリがお金に醜い執着も無く謙虚な性格であることをすっかり熟知しているスオンからすればエイリが欲しいと思っている物は料理に使う食材くらいなので品質の良い米だけでも安すぎて申し訳ないという。

気を取り直して3人は米を炊く準備作業を始めるのだった。

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