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一章 異世界に帰ってきたらしい?
8話 ヤヌワ料理
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宿屋を出た2人は冒険者が食事を摂るのによく利用している屋台街に訪れた。
屋台街には名前通り様々な屋台が並び肉をぶつ切りにしたものやつくね状にしたものを串に刺して焼いている店が多く周りを見ると木箱や樽の上に板を置いただけの簡易テーブルがあり、そこで焼いた肉を肴に酒を飲んでいる冒険者達の姿が見えた。
その姿を見て仕事を終えた男達が夜の屋台で料理を肴に酒を呑むのは何処の世界でも同じなのだとエイリは思った。
だが肉を焼いている匂いの中に1ヶ月前とはいえ懐かしい匂いがした。
「あっ!醤油のにおいがする!!」
いや、醤油だけではない。味噌の匂いもする。味噌の匂いがする方向を見ると大鍋で野菜がたっぷり入った味噌汁のような物を煮ている屋台が見えた。
「どちらもヤヌワ発祥の調味料だ」
ヤヌワの住まう島"マキリナ"と呼ばれる島が148年前にハーセリアに侵略された際、ヤヌワが奴隷化されたことでヤヌワ特有の食文化の殆どは廃れてしまったのだが醤油と味噌は美味しかったからという理由で残ったのだとルエンが教えてくれた。
エイリが知っている醤油と味噌の使い方とは異なり料理を作るときに加えるというよりは煮たり焼いたりして出来上がった料理に少量つけて食べるのが主流らしい。
それはヤヌワが奴隷化されたことでヤヌワ特有の家庭料理といったものが若い世代に継承されず途絶えたり、ラメルの方も料理に加える醤油と味噌の適量が分からないからこうなってしまったのだという。
作っている時に味噌を加える料理は味噌汁くらいなものでルエン曰く屋台街で食すことが出来る味噌汁の大半は"ある材料"がハーセリアでは手に入り辛いため野菜スープの塩代わりに味噌を溶かし入れただけの偽物が多いらしい。
「お前がいたニホンにも醤油や味噌があるということはお前がいた世界はヤヌワの祖先と縁があったのかもしれないな」
ニ千年以上昔、『スティリア』の空間がまだ不安定だった時代、各異世界から頻繁に精霊隠しで『スティリア』に異界人が来た。
その者達は『スティリア』の先住民と相容れぬ事が出来ず後にマキリナと呼ばれるようになる島に追いやられ生涯元の世界に帰ることができなかった者達の末裔がヤヌワだとされている。
だからかヤヌワという種族はラメルとも亜人族ともまた一層違った体質や文化をもっていた。
その異世界人の中に日本人が含まれていた可能性が高いが何しろ二千年以上昔のまだ共通文字が発達していなかった時代のことなので定かではない。
「…この店で飯を食おう」
そうこうしているうちに2人は一軒の"汁麺"と書かれた暖簾が見える屋台の前に来た。
屋台の作りはエイリの世界にあるラーメン屋台とよく似ている。
屋台の近くにある簡易テーブルの上には醤油が入った小瓶、箸立てのような筒に二本歯のフォークと金属製の箸が入っている物が置かれていた。
「…汁麺普通と大盛りを1つずつと冷酒を一杯で頼む」
「はいよ!」
2人は屋台の近くにある食事スペースにある木箱を椅子代わりに座り近くの店員にルエンが注文すると、顔の半分を隠しているマフラーを左側の椅子に置いた。
エイリは初めてマフラーをしていないルエンの素顔を見た。
エイリが座っている位置は右側でまだ小さいので左側の顔までは分からないが右側の今まで隠れていた部分口の周りにはうっすらと無償髭が生え、表情が硬い口の形からして気難しく近づき難い人物なのだというのが分かる。
それでもエイリは今日会ったばかりの実父ルエンをすっかり日本で関わってきた人間以上に信頼し、幼子のように少々甘えはじめていた。
ルエンが『絶対に自分を理不尽に傷つけない人』だということが"声"で分かっていたからだ。
例え彼が今まで話してくれた"事情"には所々嘘を感じるが、それは今のエイリに話すべきではない事情だったのだろう。
本当のことを知りたいという欲はある。しかし、今エイリが優先すべきことは『スティリア』での生き方に慣れることなのだ。
日本へ戻るかどうかは『スティリア』で生きてみて決めてから方法などを探せば良いかとエイリは軽く考えていた。
「汁麺と酒おまちー。」
と、色々考えているうちに頼んでいた食事と酒が運ばれてきた。
運ばれてきた汁麺は金属製の器に薄琥珀のスープ、灰色の麺の上にはスープと一緒に煮込まれていたであろう人参とキャベツの上に茹でられたぶつ切りの鶏肉のようなものがトッピングされた麺料理だった。
量は大盛りでもエイリが日本で食べていたラーメンとさほど変わらない量で、始めに店員はルエンとエイリの見た目で判断しルエンの前に大盛りの汁麺を置いたのだが、ルエンは大盛りの汁麺をエイリの普通盛りのものに取り替え、さらには箸で鶏肉(?)を全部エイリの汁麺に移した。
それを見てエイリが困惑していると…。
「…"竜車"で移動している間は碌に食えんからな食えるうちに食っておけ。俺は酒のつまみ分あれば充分だ。子供が大人に遠慮するな。そもそもお前は痩せすぎだ」
まるで痩せ細った子猫のようだぞとルエンが付け足して言った。
エイリは元々燃費が悪い体質で見た目の体格の割には大食いだったのだが孤児院にいた時、夕食の野菜スープのおかわりは3杯までと言われていてもエイリは塩で味付けされたスープに食欲が増さずスープ1杯をおかずに主食のものを齧り水で空腹を紛らわしていたからか、確かに1ヶ月前と比べたら細くなったかもしれない…。
その状態で旅に出れば隣国リィンデルアに辿り着く前にエイリの体力が持たないのではとルエンは心配していた。
だからこの辺で1番美味いものをエイリに腹一杯食べさせ体力をつけて欲しかったのだろう。
ルエンはテーブルに置いてあった醤油を具材が野菜だけになった汁麺にかけて麺を啜り始めた。
「いただきます」
エイリは日本で暮らしていた時のように手を合わせるとルエンより少し控えめに醤油を汁麺にかけ、箸でよく混ぜてから麺を啜った。
ーこれ蕎麦だ!
麺が灰色だから何か雑穀を粉にしたものを練りこんでいるとは思ってはいたが風味は蕎麦そのもので生地を麺棒などで伸ばし包丁で切って製麺したものらしくエイリの知る乾麺の蕎麦と比べたら田舎蕎麦に近い物だった。
麺の次は金属製のレンゲで薄っすら醤油で色付けされたスープを飲む。
良質な鶏(?)出汁、具材の野菜の味がいい具合に溶け込んだものに1ヶ月前とはいえ懐かしい醤油の風味が実に美味しかった。
「ひしぶりのおそばおいしー!」
日本の和風出汁の蕎麦に馴染んでいるエイリからすれば少々蕎麦は茹で過ぎで昆布か鰹出汁が欲しいところだが『スティリア』に来て初めて美味しいと感じる料理を食して思わず笑顔になる。
「…そうか」
とルエンは短く答えた。エイリは久しぶりの美味しい食事に夢中で気付かなかったが、ルエンはその様子を優しげに目を細めて見ながら酒をちびちびと飲んでいた。
ルエン曰く汁麺はヤヌワ発祥の料理であり、ヤヌワが奴隷解放されてからヤヌワの者達が故郷の料理を再現して出来上がったのが今の汁麺らしい。
それでもハーセリア国内では冒険者向けの屋台街でしか食べられないという。
理由はこの料理の要になる醤油だけでなく味噌までもハーセリアの一般市民が利用する店では流通していないからだ。
ハーセリアの一般市民向けの店で仮に醤油と味噌が取り扱われていても大抵はインクで色付けされた塩水、適当な豆を混ぜ茹でてたものを塩と一緒に潰したりといった醤油と味噌の偽物であるという。
それはやはり長年奴隷として扱われてきたヤヌワが奴隷解放されてから醤油と味噌を作る職人がリィンデルアに流れて行き、ヤヌワ発祥の調味料や酒を専門に扱う商人にもヤヌワが多く奴隷として扱われた恨みがあるハーセリアの人間に卸したがらないからだ。
冒険者向けの屋台街で醤油と味噌が卸されているのは冒険者組合のハーセリア支部のトップと"エニシ屋"というヤヌワ発祥の商品を専門に取り扱う店をリィンデルアの各地に持つオーナーが友人同士でそのトップの頼みで冒険者向けの屋台街にだけという条件で卸しているらしい。
ー確かに長年理不尽に扱ってきた人には売りたくないよね…。
美味しい物に国境はないというが、長年奴隷として扱われた恨みは早々消えるものではないだろう。
奴隷として扱われたのと虐められてきたのとではまた違うだろうが、それは瞳の色が日本人らしくないからという理由で長年蔑ろにされてきたエイリにはその気持ちが少し分かる気がした。
「ごちそーさまでした」
エイリは汁麺をスープまで飲み干して完食した。17歳の時のエイリであればラーメンを一杯食べた後に他の飲食店をハシゴは余裕だったが流石に7才になってしまった今となっては汁麺一杯で満腹になったようだ。
「250リピアになりやす!」
会計時ルエンは100円サイズの真ん中に穴が空いた100リピア硬貨2枚と10円サイズの50リピア硬貨1枚、どちらも銀色の硬貨を店主に支払った。
ー高いのか安いのか分からない…。
エイリはこの時『スティリア』にきて初めてこの世界で流通しているお金を"リピア"と呼ばれていることを知り、リピアの硬貨も初めて見た。
当時のエイリは1リピアが日本円に換算するといくらになるのか分からなかったが、1リピアは日本円に換算すると10円の価値があり、汁麺と酒代を合わせて2500円だという ことをエイリが知ったのはかなり後になってからだった…。
ハーセリアは痩せた土地ばかりで作物が育ち難い。
屋台街にある調味料や良い食材は他国から輸入した物が多く運送費などで価格は高くついてしまうのだ。
ーなんか…凄く眠い…。
久しぶりに美味しい物を食べて満腹になったエイリはまた誘拐防止の為ルエンに抱きかかえられながら宿屋まで戻る途中でウトウトし始め最終的にあまりの居心地の良さに負け寝息を立てながら眠ってしまった。
「本当に…大きくなったな…」
エイリが完全に眠ってしまってからルエンはぽつりと呟きエイリの背中を優しく撫でた。
食後で体が温まっているとはいえまだ夜は冷える時期だ。
愛娘が体を冷やし風邪を引かぬうちに早くベッドに寝かせる為ルエンは愛娘を起こさない程度に歩く速度を上げ宿泊している宿屋へ向うのだった…。
屋台街には名前通り様々な屋台が並び肉をぶつ切りにしたものやつくね状にしたものを串に刺して焼いている店が多く周りを見ると木箱や樽の上に板を置いただけの簡易テーブルがあり、そこで焼いた肉を肴に酒を飲んでいる冒険者達の姿が見えた。
その姿を見て仕事を終えた男達が夜の屋台で料理を肴に酒を呑むのは何処の世界でも同じなのだとエイリは思った。
だが肉を焼いている匂いの中に1ヶ月前とはいえ懐かしい匂いがした。
「あっ!醤油のにおいがする!!」
いや、醤油だけではない。味噌の匂いもする。味噌の匂いがする方向を見ると大鍋で野菜がたっぷり入った味噌汁のような物を煮ている屋台が見えた。
「どちらもヤヌワ発祥の調味料だ」
ヤヌワの住まう島"マキリナ"と呼ばれる島が148年前にハーセリアに侵略された際、ヤヌワが奴隷化されたことでヤヌワ特有の食文化の殆どは廃れてしまったのだが醤油と味噌は美味しかったからという理由で残ったのだとルエンが教えてくれた。
エイリが知っている醤油と味噌の使い方とは異なり料理を作るときに加えるというよりは煮たり焼いたりして出来上がった料理に少量つけて食べるのが主流らしい。
それはヤヌワが奴隷化されたことでヤヌワ特有の家庭料理といったものが若い世代に継承されず途絶えたり、ラメルの方も料理に加える醤油と味噌の適量が分からないからこうなってしまったのだという。
作っている時に味噌を加える料理は味噌汁くらいなものでルエン曰く屋台街で食すことが出来る味噌汁の大半は"ある材料"がハーセリアでは手に入り辛いため野菜スープの塩代わりに味噌を溶かし入れただけの偽物が多いらしい。
「お前がいたニホンにも醤油や味噌があるということはお前がいた世界はヤヌワの祖先と縁があったのかもしれないな」
ニ千年以上昔、『スティリア』の空間がまだ不安定だった時代、各異世界から頻繁に精霊隠しで『スティリア』に異界人が来た。
その者達は『スティリア』の先住民と相容れぬ事が出来ず後にマキリナと呼ばれるようになる島に追いやられ生涯元の世界に帰ることができなかった者達の末裔がヤヌワだとされている。
だからかヤヌワという種族はラメルとも亜人族ともまた一層違った体質や文化をもっていた。
その異世界人の中に日本人が含まれていた可能性が高いが何しろ二千年以上昔のまだ共通文字が発達していなかった時代のことなので定かではない。
「…この店で飯を食おう」
そうこうしているうちに2人は一軒の"汁麺"と書かれた暖簾が見える屋台の前に来た。
屋台の作りはエイリの世界にあるラーメン屋台とよく似ている。
屋台の近くにある簡易テーブルの上には醤油が入った小瓶、箸立てのような筒に二本歯のフォークと金属製の箸が入っている物が置かれていた。
「…汁麺普通と大盛りを1つずつと冷酒を一杯で頼む」
「はいよ!」
2人は屋台の近くにある食事スペースにある木箱を椅子代わりに座り近くの店員にルエンが注文すると、顔の半分を隠しているマフラーを左側の椅子に置いた。
エイリは初めてマフラーをしていないルエンの素顔を見た。
エイリが座っている位置は右側でまだ小さいので左側の顔までは分からないが右側の今まで隠れていた部分口の周りにはうっすらと無償髭が生え、表情が硬い口の形からして気難しく近づき難い人物なのだというのが分かる。
それでもエイリは今日会ったばかりの実父ルエンをすっかり日本で関わってきた人間以上に信頼し、幼子のように少々甘えはじめていた。
ルエンが『絶対に自分を理不尽に傷つけない人』だということが"声"で分かっていたからだ。
例え彼が今まで話してくれた"事情"には所々嘘を感じるが、それは今のエイリに話すべきではない事情だったのだろう。
本当のことを知りたいという欲はある。しかし、今エイリが優先すべきことは『スティリア』での生き方に慣れることなのだ。
日本へ戻るかどうかは『スティリア』で生きてみて決めてから方法などを探せば良いかとエイリは軽く考えていた。
「汁麺と酒おまちー。」
と、色々考えているうちに頼んでいた食事と酒が運ばれてきた。
運ばれてきた汁麺は金属製の器に薄琥珀のスープ、灰色の麺の上にはスープと一緒に煮込まれていたであろう人参とキャベツの上に茹でられたぶつ切りの鶏肉のようなものがトッピングされた麺料理だった。
量は大盛りでもエイリが日本で食べていたラーメンとさほど変わらない量で、始めに店員はルエンとエイリの見た目で判断しルエンの前に大盛りの汁麺を置いたのだが、ルエンは大盛りの汁麺をエイリの普通盛りのものに取り替え、さらには箸で鶏肉(?)を全部エイリの汁麺に移した。
それを見てエイリが困惑していると…。
「…"竜車"で移動している間は碌に食えんからな食えるうちに食っておけ。俺は酒のつまみ分あれば充分だ。子供が大人に遠慮するな。そもそもお前は痩せすぎだ」
まるで痩せ細った子猫のようだぞとルエンが付け足して言った。
エイリは元々燃費が悪い体質で見た目の体格の割には大食いだったのだが孤児院にいた時、夕食の野菜スープのおかわりは3杯までと言われていてもエイリは塩で味付けされたスープに食欲が増さずスープ1杯をおかずに主食のものを齧り水で空腹を紛らわしていたからか、確かに1ヶ月前と比べたら細くなったかもしれない…。
その状態で旅に出れば隣国リィンデルアに辿り着く前にエイリの体力が持たないのではとルエンは心配していた。
だからこの辺で1番美味いものをエイリに腹一杯食べさせ体力をつけて欲しかったのだろう。
ルエンはテーブルに置いてあった醤油を具材が野菜だけになった汁麺にかけて麺を啜り始めた。
「いただきます」
エイリは日本で暮らしていた時のように手を合わせるとルエンより少し控えめに醤油を汁麺にかけ、箸でよく混ぜてから麺を啜った。
ーこれ蕎麦だ!
麺が灰色だから何か雑穀を粉にしたものを練りこんでいるとは思ってはいたが風味は蕎麦そのもので生地を麺棒などで伸ばし包丁で切って製麺したものらしくエイリの知る乾麺の蕎麦と比べたら田舎蕎麦に近い物だった。
麺の次は金属製のレンゲで薄っすら醤油で色付けされたスープを飲む。
良質な鶏(?)出汁、具材の野菜の味がいい具合に溶け込んだものに1ヶ月前とはいえ懐かしい醤油の風味が実に美味しかった。
「ひしぶりのおそばおいしー!」
日本の和風出汁の蕎麦に馴染んでいるエイリからすれば少々蕎麦は茹で過ぎで昆布か鰹出汁が欲しいところだが『スティリア』に来て初めて美味しいと感じる料理を食して思わず笑顔になる。
「…そうか」
とルエンは短く答えた。エイリは久しぶりの美味しい食事に夢中で気付かなかったが、ルエンはその様子を優しげに目を細めて見ながら酒をちびちびと飲んでいた。
ルエン曰く汁麺はヤヌワ発祥の料理であり、ヤヌワが奴隷解放されてからヤヌワの者達が故郷の料理を再現して出来上がったのが今の汁麺らしい。
それでもハーセリア国内では冒険者向けの屋台街でしか食べられないという。
理由はこの料理の要になる醤油だけでなく味噌までもハーセリアの一般市民が利用する店では流通していないからだ。
ハーセリアの一般市民向けの店で仮に醤油と味噌が取り扱われていても大抵はインクで色付けされた塩水、適当な豆を混ぜ茹でてたものを塩と一緒に潰したりといった醤油と味噌の偽物であるという。
それはやはり長年奴隷として扱われてきたヤヌワが奴隷解放されてから醤油と味噌を作る職人がリィンデルアに流れて行き、ヤヌワ発祥の調味料や酒を専門に扱う商人にもヤヌワが多く奴隷として扱われた恨みがあるハーセリアの人間に卸したがらないからだ。
冒険者向けの屋台街で醤油と味噌が卸されているのは冒険者組合のハーセリア支部のトップと"エニシ屋"というヤヌワ発祥の商品を専門に取り扱う店をリィンデルアの各地に持つオーナーが友人同士でそのトップの頼みで冒険者向けの屋台街にだけという条件で卸しているらしい。
ー確かに長年理不尽に扱ってきた人には売りたくないよね…。
美味しい物に国境はないというが、長年奴隷として扱われた恨みは早々消えるものではないだろう。
奴隷として扱われたのと虐められてきたのとではまた違うだろうが、それは瞳の色が日本人らしくないからという理由で長年蔑ろにされてきたエイリにはその気持ちが少し分かる気がした。
「ごちそーさまでした」
エイリは汁麺をスープまで飲み干して完食した。17歳の時のエイリであればラーメンを一杯食べた後に他の飲食店をハシゴは余裕だったが流石に7才になってしまった今となっては汁麺一杯で満腹になったようだ。
「250リピアになりやす!」
会計時ルエンは100円サイズの真ん中に穴が空いた100リピア硬貨2枚と10円サイズの50リピア硬貨1枚、どちらも銀色の硬貨を店主に支払った。
ー高いのか安いのか分からない…。
エイリはこの時『スティリア』にきて初めてこの世界で流通しているお金を"リピア"と呼ばれていることを知り、リピアの硬貨も初めて見た。
当時のエイリは1リピアが日本円に換算するといくらになるのか分からなかったが、1リピアは日本円に換算すると10円の価値があり、汁麺と酒代を合わせて2500円だという ことをエイリが知ったのはかなり後になってからだった…。
ハーセリアは痩せた土地ばかりで作物が育ち難い。
屋台街にある調味料や良い食材は他国から輸入した物が多く運送費などで価格は高くついてしまうのだ。
ーなんか…凄く眠い…。
久しぶりに美味しい物を食べて満腹になったエイリはまた誘拐防止の為ルエンに抱きかかえられながら宿屋まで戻る途中でウトウトし始め最終的にあまりの居心地の良さに負け寝息を立てながら眠ってしまった。
「本当に…大きくなったな…」
エイリが完全に眠ってしまってからルエンはぽつりと呟きエイリの背中を優しく撫でた。
食後で体が温まっているとはいえまだ夜は冷える時期だ。
愛娘が体を冷やし風邪を引かぬうちに早くベッドに寝かせる為ルエンは愛娘を起こさない程度に歩く速度を上げ宿泊している宿屋へ向うのだった…。
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