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一章 異世界に帰ってきたらしい?

1話 異世界『スティリア』

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誰もが一度は思うだろう


『自分はきっとこの世界の人間ではなく、別の世界の人間なんだ』と



川末詠莉かわまつえいりもそういう人間だった。


エイリは小学生に上がるまで瞳の色は日本人ではよくいる茶色の瞳だった。

しかし、成長するにつれて瞳の色は薄まり水色に変化してしまったのだ。

エイリの両親は何か目の病気ではと病院に連れて行くが原因は分からず、周りの同級生だけでなく両親でさえエイリを不気味に思うようになった。

エイリと両親の間に決定的な亀裂が入ったのはエイリが15歳になってからだ。

両親に実子が産まれたからだった。

エイリは赤子の頃に迎えた養子だと告げられ

世間帯を気にする両親から高校を卒業するまで生活費を出すので地方の街で1人暮らしをするように言われた。

見知らぬ土地でエイリは益々周囲から浮いた。


そうするとファンタジーを題材にした本やロールプレイングゲームにのめり込むようになった。

これらに触れる事で物語の登場人物になったつもりになり気分を紛らわし『いつか本当の親が私を迎えに来てくれる』と甘い幻想を抱くようになった。幻想の世界にだけにしか彼女の居場所と安らぎがなかったからだ…。


現実世界はエイリにとって残酷な世界でしかない

学校では同級生に押さえつけられながら無理やり前髪を切られた、茶色のカラーコンタクトを外している時に限って教師から水色の瞳をカラーコンタクトだと決めつけられた。

極め付けは親友だと思っていた人間の裏切りだった。


ーなんで…?なんでこんな目に合わなきゃいけないの…?

ー好きで瞳の色が変わったわけじゃない!

ー私の前髪を無理やり切ったアイツらだって休みの日は青のカラコン入れて自慢してた癖になんで本物にイチャモンつけるのさ!

ー入学前も後も、何回も瞳の事を言った、見せたのになんで信じてくれないの!?


エイリは頭の中で何度も養い親、同級生、担任を罵倒した

ーこんなことばかりでもう疲れた…。もう学校なんて行きたくない…。



エイリが1人暮らしをする時に養い親から渡された実親が託したと思われる水晶製の腕輪と黒い羽織

この2つが今のエイリの心を根本的に支えている物だった。

エイリは羽織を抱き締めながら眠りについた…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『やっと見つけた『愛し子』の娘。君を『スティリア』から迎えに来た。』

暗い闇の中で透き通った声が聞こえた。

ー誰…?

『ぼくは精霊王と呼ばれる者、君を迎えに来た』

迎えに来た、と言われてもエイリは理解が出来なかった。

ーあぁー、夢だ絶対夢だ。そうに決まってる。

そんなことある訳ないとエイリは思った。

『夢じゃない、君は『スティリア』と呼ばれる世界の人間なんだ。『愛し子』の…君のお母さんが異世界(ニホン)に逃がした子供…』

ーお母さんが…?私の…本当のお母さんが…?

『そう、君を遠くへ逃がして欲しいと彼女は願った。彼女の魔力と願いが強すぎて世界を越えるほど遠くへ飛ばしてしまったから迎えに来るのが遅くなってごめんね…。

君はどうかスティリアで彼女の願いを叶えて欲しい…』

精霊王が一方的に言いたいことを言ったところでエイリは目覚めた。

ただ目覚めた場所は自室のベッドの上ではなくとても暗い森…。

ーここは…どこ…?

エイリはベッドの上でなく枯れ枝、落ち葉広がる地面に横たわっていた。

そして自身を確認すると…

ー制服が大きい…違う、私が…小さくなった…?

ベッドに横たわった時と同じ学校の制服を着ていたが大幅に身体が縮んでいた。

「ははっ…夢も現実も悪夢とか笑えないっての…」

ーこんな…知らない場所で、子供の姿でどう生きろってのさ…。

泣きたい気持ちだった。しかし泣いたところで今迄自分を助けてくれる人間などいなかったのでどうにもならないことをよく理解していたエイリはどこかの街に辿り着くことを祈りながら森の中を歩くしかなかった…。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なにあの子汚い…」

「見たことない服着てる…」

「あれ"ヤヌワ"の子供じゃないか?」

運良く町のような場所に辿り着いてから今のエイリを見た住民達は口々に言った。

全体的に泥まみれ、明らかに周囲と異なる服装。目立つのは当然であるがなぜ自分を"ヤヌワ"と知らない名称で呼ぶのかエイリは理解が出来なかった。



「お、おい!そこの嬢ちゃん!」

1人の男にエイリは声を掛けられた。

「そんなに怖がんなよ。怖いことなんざしねぇって。」

ー怖いことをしようとする人はみんなそう言うものでは?

と、エイリは思ったがあえて黙った。


「オレはシェナン、冒険者をしている。嬢ちゃんは?」

シェナンと名乗った緑髪の青年はエイリに尋ねる。

「エイリといいます…」

「良い名前だな。で、エイリは1人かい?」

精霊王の導きで『スティリア』と呼ばれる異世界に1人放り込まれたエイリはシェナンの問いに頷く

「そっか…んー…。行く宛がないなら、この町の外れにある孤児院に行ってみないか?」

シェナンの話によるとこの町にある孤児院の院長はこの町の出身でなくとも様々な理由で親を亡くした子供を快く引き取り、最悪里親に恵まれなくとも『スティリア』では成人にあたる15歳になるまで面倒をみてくれるのだという。

「そこの院長とはクエストの関係でちょくちょく会うけど良識人だ。それにハーセリアつう国は…その…ヤヌワのエイリにはちょっと厳しいからな…。」

「あの…"ヤヌワ"ってなんですか?」

この町の人間はエイリを見て"ヤヌワ"と言っていた

『スティリア』に存在する民族の何かだと推測できるのだが周りからどういう目で見られるのかがエイリには分からなかったがシェナンが"ヤヌワ"に対して言葉を濁しているのはエイリへの配慮だろう。


「えーっと…エイリみたいに黒髪のやつを"ヤヌワ"って呼ぶんだが…。兎に角、孤児院に行くぞ!」

早くエイリを孤児院に連れて行きたいのかシェナンはエイリを抱き上げた。

「ひとりであるけますから…おろしてください…」

子供の姿とはいえは精神(なかみ)は17歳の女子高生だったエイリには抱き抱えられながらの移動は屈辱だった。

「ちっちゃな足がボロボロじゃないか、無理すんな」

向こうの世界でベッドに制服姿でダイブした時エイリは素足だった。だからそのまま森を歩いて町に来たのだから足は当然小さい枝や尖った石を踏んだのが刺さったりなどして所々血が出ていた。


こうしてエイリは『スティリア』に帰ってきて(?)初めて辿り着いたカナムという町で冒険者シェナンに連れられ孤児院に身を寄せることになった。

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