4 / 54
一章 異世界に帰ってきたらしい?
1話 異世界『スティリア』
しおりを挟む誰もが一度は思うだろう
『自分はきっとこの世界の人間ではなく、別の世界の人間なんだ』と
川末詠莉もそういう人間だった。
エイリは小学生に上がるまで瞳の色は日本人ではよくいる茶色の瞳だった。
しかし、成長するにつれて瞳の色は薄まり水色に変化してしまったのだ。
エイリの両親は何か目の病気ではと病院に連れて行くが原因は分からず、周りの同級生だけでなく両親でさえエイリを不気味に思うようになった。
エイリと両親の間に決定的な亀裂が入ったのはエイリが15歳になってからだ。
両親に実子が産まれたからだった。
エイリは赤子の頃に迎えた養子だと告げられ
世間帯を気にする両親から高校を卒業するまで生活費を出すので地方の街で1人暮らしをするように言われた。
見知らぬ土地でエイリは益々周囲から浮いた。
そうするとファンタジーを題材にした本やロールプレイングゲームにのめり込むようになった。
これらに触れる事で物語の登場人物になったつもりになり気分を紛らわし『いつか本当の親が私を迎えに来てくれる』と甘い幻想を抱くようになった。幻想の世界にだけにしか彼女の居場所と安らぎがなかったからだ…。
現実世界はエイリにとって残酷な世界でしかない
学校では同級生に押さえつけられながら無理やり前髪を切られた、茶色のカラーコンタクトを外している時に限って教師から水色の瞳をカラーコンタクトだと決めつけられた。
極め付けは親友だと思っていた人間の裏切りだった。
ーなんで…?なんでこんな目に合わなきゃいけないの…?
ー好きで瞳の色が変わったわけじゃない!
ー私の前髪を無理やり切ったアイツらだって休みの日は青のカラコン入れて自慢してた癖になんで本物にイチャモンつけるのさ!
ー入学前も後も、何回も瞳の事を言った、見せたのになんで信じてくれないの!?
エイリは頭の中で何度も養い親、同級生、担任を罵倒した
ーこんなことばかりでもう疲れた…。もう学校なんて行きたくない…。
エイリが1人暮らしをする時に養い親から渡された実親が託したと思われる水晶製の腕輪と黒い羽織
この2つが今のエイリの心を根本的に支えている物だった。
エイリは羽織を抱き締めながら眠りについた…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やっと見つけた『愛し子』の娘。君を『スティリア』から迎えに来た。』
暗い闇の中で透き通った声が聞こえた。
ー誰…?
『ぼくは精霊王と呼ばれる者、君を迎えに来た』
迎えに来た、と言われてもエイリは理解が出来なかった。
ーあぁー、夢だ絶対夢だ。そうに決まってる。
そんなことある訳ないとエイリは思った。
『夢じゃない、君は『スティリア』と呼ばれる世界の人間なんだ。『愛し子』の…君のお母さんが異世界(ニホン)に逃がした子供…』
ーお母さんが…?私の…本当のお母さんが…?
『そう、君を遠くへ逃がして欲しいと彼女は願った。彼女の魔力と願いが強すぎて世界を越えるほど遠くへ飛ばしてしまったから迎えに来るのが遅くなってごめんね…。
君はどうかスティリアで彼女の願いを叶えて欲しい…』
精霊王が一方的に言いたいことを言ったところでエイリは目覚めた。
ただ目覚めた場所は自室のベッドの上ではなくとても暗い森…。
ーここは…どこ…?
エイリはベッドの上でなく枯れ枝、落ち葉広がる地面に横たわっていた。
そして自身を確認すると…
ー制服が大きい…違う、私が…小さくなった…?
ベッドに横たわった時と同じ学校の制服を着ていたが大幅に身体が縮んでいた。
「ははっ…夢も現実も悪夢とか笑えないっての…」
ーこんな…知らない場所で、子供の姿でどう生きろってのさ…。
泣きたい気持ちだった。しかし泣いたところで今迄自分を助けてくれる人間などいなかったのでどうにもならないことをよく理解していたエイリはどこかの街に辿り着くことを祈りながら森の中を歩くしかなかった…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なにあの子汚い…」
「見たことない服着てる…」
「あれ"ヤヌワ"の子供じゃないか?」
運良く町のような場所に辿り着いてから今のエイリを見た住民達は口々に言った。
全体的に泥まみれ、明らかに周囲と異なる服装。目立つのは当然であるがなぜ自分を"ヤヌワ"と知らない名称で呼ぶのかエイリは理解が出来なかった。
「お、おい!そこの嬢ちゃん!」
1人の男にエイリは声を掛けられた。
「そんなに怖がんなよ。怖いことなんざしねぇって。」
ー怖いことをしようとする人はみんなそう言うものでは?
と、エイリは思ったがあえて黙った。
「オレはシェナン、冒険者をしている。嬢ちゃんは?」
シェナンと名乗った緑髪の青年はエイリに尋ねる。
「エイリといいます…」
「良い名前だな。で、エイリは1人かい?」
精霊王の導きで『スティリア』と呼ばれる異世界に1人放り込まれたエイリはシェナンの問いに頷く
「そっか…んー…。行く宛がないなら、この町の外れにある孤児院に行ってみないか?」
シェナンの話によるとこの町にある孤児院の院長はこの町の出身でなくとも様々な理由で親を亡くした子供を快く引き取り、最悪里親に恵まれなくとも『スティリア』では成人にあたる15歳になるまで面倒をみてくれるのだという。
「そこの院長とはクエストの関係でちょくちょく会うけど良識人だ。それにハーセリアつう国は…その…ヤヌワのエイリにはちょっと厳しいからな…。」
「あの…"ヤヌワ"ってなんですか?」
この町の人間はエイリを見て"ヤヌワ"と言っていた
『スティリア』に存在する民族の何かだと推測できるのだが周りからどういう目で見られるのかがエイリには分からなかったがシェナンが"ヤヌワ"に対して言葉を濁しているのはエイリへの配慮だろう。
「えーっと…エイリみたいに黒髪のやつを"ヤヌワ"って呼ぶんだが…。兎に角、孤児院に行くぞ!」
早くエイリを孤児院に連れて行きたいのかシェナンはエイリを抱き上げた。
「ひとりであるけますから…おろしてください…」
子供の姿とはいえは精神(なかみ)は17歳の女子高生だったエイリには抱き抱えられながらの移動は屈辱だった。
「ちっちゃな足がボロボロじゃないか、無理すんな」
向こうの世界でベッドに制服姿でダイブした時エイリは素足だった。だからそのまま森を歩いて町に来たのだから足は当然小さい枝や尖った石を踏んだのが刺さったりなどして所々血が出ていた。
こうしてエイリは『スティリア』に帰ってきて(?)初めて辿り着いたカナムという町で冒険者シェナンに連れられ孤児院に身を寄せることになった。
0
お気に入りに追加
1,648
あなたにおすすめの小説
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
幼子は最強のテイマーだと気付いていません!
akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。
森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。
だが其がそもそも規格外だった。
この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。
「みんなーあしょぼー!」
これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
元最強賢者は異世界でメイドカフェを開きます〜転生賢者のメイドカフェ経営〜
津ヶ谷
ファンタジー
友達の妹を庇って一度死亡し、異世界に転生した叢雲御影。
死んだ御影は神によってチートな力を与えられ、異世界にそのままの年齢で転生した。
そこから数年。世界最強の賢者として名が知れ渡った御影は、依頼先の森で一人の少女を拾う。
それをきっかけに冒険者を引退し、趣味であったメイドカフェを開くことにした。
しかし、巻き込まれ体質は変わらないのであった。
「ご主人様、メイドへのお触りはご法度ですよ?」
これは転生賢者が異世界でメイドカフェを経営する物語。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる