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本編
19話 刻まれた傷痕 前編
しおりを挟む「長旅でつかれているだろう?客室でゆっくり休むと良い」
クリスティアの王城にてディオナルドに挨拶をしそこそこ会話した後に彼が言った。
王城の客室へ行く前にレオナルドとギルヴェルトは男性用の浴室がある方へ行きリリゼットも女貴族用の浴室へ行ったのだがリリゼットには身を清める為の使用人が付けられた。
ー久しぶりの入浴は気持ち良いけど、できれば一人でゆったり入浴したかった…。
リリゼットが公爵令嬢に転生してから入浴の際には使用人に体を洗ってもらうことは極当たり前のことであったが前世が平民だったからか使用人に洗ってもらうことに対しての抵抗は抜けなかった。
しかし、投獄されてからは体を洗うことは許されずギルヴェルトに助けられた後は道中、幌馬車の中で丁度いい湯加減に沸かした湯で体を拭き貴重な石鹸で髪を洗わせて貰っていた。
それでも体や髪には落としきれなかった汚れがあるのだからリリゼットは洗われている猫のような声を出すのを堪えながら用意された使用人達に身を任せ上から下まで身を清めてもらう。
やはり場所が王城ということもあり体を洗うプロの使用人が用意され、石鹸も材料にハーブや花の香油を使用しているようで良い香りがした。
体と髪を洗ってもらった後は使用人に見守られながら久方ぶりの入浴を堪能し、入浴が済むと体と髪を拭かれリリゼットは来た時に着ていた平民の服ではなく用意された水色のドレスに着替え、この日は魔力回復薬しか口にしていなかったので別の使用人に食事をする場所に案内してもらったのだった…。
リリゼットが浴室で身を清められている間、ギルヴェルトは客室に備え付けてある浴室で身を清めていた。
クリスティアの転生者の依頼でリリゼットを救出保護という大義を果たしたギルヴェルトが客室に備え付けてある浴室を使用しているのは赤い瞳の者に貴族用の浴室を使わせたくないと使用人が渋ったわけではない。
はじめは使用人もギルヴェルトに貴族用の浴室に案内しますと言ったのだが彼は自分は国王に謁見はしないので自身の身を清めるための使用人は不要、客室に備え付けてある簡易の浴室で充分だと言ったからだ。
ー何度見ても醜い体だ…。
男性客が使用する浴室にてギルヴェルトは鏡で自身の体を眺めていた。
ギルヴェルトが体を清めるための使用人が用意された貴族用の浴室を断った理由は彼の体、特に腕を含めた上半身には幾つもの火傷、刃物や鞭でできた傷痕がある。
背中も同じような酷い痕がありこれを他者、特に女性に見られることにギルヴェルトはコンプレックスを抱えていたからだ。
ギルヴェルトの体に刻まれた傷痕は昔、瞳の色を理由に貴族に切りつけられ、窃盗団に属していた時代には上手く物を盗めず失敗をする度親玉に鞭や熱した火かき棒を当てられ仕置きをされたり窃盗団から捨てられた後は何でも屋を営んでいた老人の元で仕事をしていた際にできたものだった。
ー悪魔のような醜い眼と体だけでなく生きる為とはいえ数えきれぬほどの罪を犯した俺は彼女の伴侶に相応しい訳などない…。
実はギルヴェルトとリリゼットは処刑から助けた日が初対面ではなかった。
13年ほど前にアルガリータ家からの依頼でギルヴェルトは身代金目当てに誘拐された幼いリリゼットを救出した時に出会っていたのだ。
『りりぃがおててのけがなおしてあげますね』
リリゼットを救出した際に手を負傷したギルヴェルトに赤い瞳を恐れることなくリリゼットは癒しの魔法で傷を癒してくれた。
その時の魔法の光は目に涙が滲むほど温かいものだったことをギルヴェルトはよく覚えている。
救出したリリゼットをアルガリータ家に送り届けた後もギルヴェルトは彼女を忘れることはなかった。
それから月日が流れある依頼でガルヴァンの王都にある貴族が通う学園を偵察していた際に成長したリリゼットを目にした日から依頼が終わった後も暇さえあればリリゼットを見るためだけに魔法で気配を消して学園に足を運んで暫くしてギルヴェルトはリリゼットを愛しているのだと自覚し始めた。
だが、リリゼットにはガルヴァン国第一王子であるエドワードの婚約者がいる。
否、彼女がエドワードと婚約していなくともギルヴェルトは赤い瞳だけでなく体に刻まれた醜い傷痕、子供時代から自分が生きる為だけに傷害、窃盗、故意ではなかったとはいえ結果的に人を殺めてしまった経験があるなど数多くの罪を犯した裏稼業の人間だ。
そのような者がアルガリータ家の公爵令嬢、美しいだけでなく心優しいリリゼットの夫に相応しい筈などないとギルヴェルトは悩み、リリゼットが高等部に進級した年に彼を拾い雇っていた老人が死んだのを機に未練がないわけではないがリリゼットの幸福を願いながらガルヴァンを去りクリスティアへ渡った。
クリスティアへ渡った後もリリゼットへの未練をなくす為に偵察を主要とした仕事に打ち込んで3年が経とうとした頃、今から1.ヶ月前にクリスティアの転生者があらゆる方面で活動している裏稼業の者を呼び集められた中でギルヴェルトは転生者に直接『自分と同じ転生者かもしれないリリゼットを助けてほしい』と彼女の救出と保護を依頼をされた。
その時にギルヴェルトはこれからリリゼットに起こり得る危機を転生者に聞き彼は長年想ったリリゼットを助けたいと強く思った。
ギルヴェルトは寝る間も惜しんで他の計画に参加している者達と計画を練り彼はもう1人の仲間とガルヴァンへ急いで向かったというのに、王都に着いた頃にはリリゼットは冤罪で処刑が確定しているという最悪な事態に陥っていたのだ…。
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