上 下
27 / 36
本編

19話 刻まれた傷痕 前編

しおりを挟む


「長旅でつかれているだろう?客室でゆっくり休むと良い」

クリスティアの王城にてディオナルドに挨拶をしそこそこ会話した後に彼が言った。

王城の客室へ行く前にレオナルドとギルヴェルトは男性用の浴室がある方へ行きリリゼットも女貴族用の浴室へ行ったのだがリリゼットには身を清める為の使用人が付けられた。

ー久しぶりの入浴は気持ち良いけど、できれば一人でゆったり入浴したかった…。

リリゼットが公爵令嬢に転生してから入浴の際には使用人に体を洗ってもらうことは極当たり前のことであったが前世が平民だったからか使用人に洗ってもらうことに対しての抵抗は抜けなかった。

しかし、投獄されてからは体を洗うことは許されずギルヴェルトに助けられた後は道中、幌馬車の中で丁度いい湯加減に沸かした湯で体を拭き貴重な石鹸で髪を洗わせて貰っていた。

それでも体や髪には落としきれなかった汚れがあるのだからリリゼットは洗われている猫のような声を出すのを堪えながら用意された使用人達に身を任せ上から下まで身を清めてもらう。

やはり場所が王城ということもあり体を洗うプロの使用人が用意され、石鹸も材料にハーブや花の香油を使用しているようで良い香りがした。

体と髪を洗ってもらった後は使用人に見守られながら久方ぶりの入浴を堪能し、入浴が済むと体と髪を拭かれリリゼットは来た時に着ていた平民の服ではなく用意された水色のドレスに着替え、この日は魔力回復薬しか口にしていなかったので別の使用人に食事をする場所に案内してもらったのだった…。


リリゼットが浴室で身を清められている間、ギルヴェルトは客室に備え付けてある浴室で身を清めていた。

クリスティアの転生者の依頼でリリゼットを救出保護という大義を果たしたギルヴェルトが客室に備え付けてある浴室を使用しているのは赤い瞳の者に貴族用の浴室を使わせたくないと使用人が渋ったわけではない。

はじめは使用人もギルヴェルトに貴族用の浴室に案内しますと言ったのだが彼は自分は国王に謁見はしないので自身の身を清めるための使用人は不要、客室に備え付けてある簡易の浴室で充分だと言ったからだ。

ー何度見ても醜い体だ…。

男性客が使用する浴室にてギルヴェルトは鏡で自身の体を眺めていた。

ギルヴェルトが体を清めるための使用人が用意された貴族用の浴室を断った理由は彼の体、特に腕を含めた上半身には幾つもの火傷、刃物や鞭でできた傷痕がある。

背中も同じような酷い痕がありこれを他者、特に女性に見られることにギルヴェルトはコンプレックスを抱えていたからだ。

ギルヴェルトの体に刻まれた傷痕は昔、瞳の色を理由に貴族に切りつけられ、窃盗団に属していた時代には上手く物を盗めず失敗をする度親玉に鞭や熱した火かき棒を当てられ仕置きをされたり窃盗団から捨てられた後は何でも屋を営んでいた老人の元で仕事をしていた際にできたものだった。

ー悪魔のような醜い眼と体だけでなく生きる為とはいえ数えきれぬほどの罪を犯した俺は彼女の伴侶に相応しい訳などない…。

実はギルヴェルトとリリゼットは処刑から助けた日が初対面ではなかった。

13年ほど前にアルガリータ家からの依頼でギルヴェルトは身代金目当てに誘拐された幼いリリゼットを救出した時に出会っていたのだ。

『りりぃがおててのけがなおしてあげますね』

リリゼットを救出した際に手を負傷したギルヴェルトに赤い瞳を恐れることなくリリゼットは癒しの魔法で傷を癒してくれた。

その時の魔法の光は目に涙が滲むほど温かいものだったことをギルヴェルトはよく覚えている。

救出したリリゼットをアルガリータ家に送り届けた後もギルヴェルトは彼女を忘れることはなかった。

それから月日が流れある依頼でガルヴァンの王都にある貴族が通う学園を偵察していた際に成長したリリゼットを目にした日から依頼が終わった後も暇さえあればリリゼットを見るためだけに魔法で気配を消して学園に足を運んで暫くしてギルヴェルトはリリゼットを愛しているのだと自覚し始めた。

だが、リリゼットにはガルヴァン国第一王子であるエドワードの婚約者がいる。

否、彼女がエドワードと婚約していなくともギルヴェルトは赤い瞳だけでなく体に刻まれた醜い傷痕、子供時代から自分が生きる為だけに傷害、窃盗、故意ではなかったとはいえ結果的に人を殺めてしまった経験があるなど数多くの罪を犯した裏稼業の人間だ。

そのような者がアルガリータ家の公爵令嬢、美しいだけでなく心優しいリリゼットの夫に相応しい筈などないとギルヴェルトは悩み、リリゼットが高等部に進級した年に彼を拾い雇っていた老人が死んだのを機に未練がないわけではないがリリゼットの幸福を願いながらガルヴァンを去りクリスティアへ渡った。

クリスティアへ渡った後もリリゼットへの未練をなくす為に偵察を主要とした仕事に打ち込んで3年が経とうとした頃、今から1.ヶ月前にクリスティアの転生者があらゆる方面で活動している裏稼業の者を呼び集められた中でギルヴェルトは転生者に直接『自分と同じ転生者かもしれないリリゼットを助けてほしい』と彼女の救出と保護を依頼をされた。

その時にギルヴェルトはこれからリリゼットに起こり得る危機を転生者に聞き彼は長年想ったリリゼットを助けたいと強く思った。

ギルヴェルトは寝る間も惜しんで他の計画に参加している者達と計画を練り彼はもう1人の仲間とガルヴァンへ急いで向かったというのに、王都に着いた頃にはリリゼットは冤罪で処刑が確定しているという最悪な事態に陥っていたのだ…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

胡蝶の舞姫

友秋
恋愛
『俺がお前を抱くのは、本心から抱きたいと思ったからだ』ーーその言葉の真意は?信じていいの? * 「蛹は蝶になるの。夜の街を舞う蝶に」 戦下を生き抜いた2人の日系アメリカ人女性は、もう一つの祖国でそれぞれ女の子を産み落とした。 似た境遇、同い年の2人の混血児、エミーとマリー。 東京五輪に湧く昭和30年代の東京。 謎の紳士、恵三に助けられて芸者の道を歩み始めるエミコ。 ストリップ劇場の若き小屋主、巽と徹也の兄弟に引き取られたマリコ。 巡り会った男達の手によって運を掴んだ彼女達の線が交錯した時、運命の歯車が回り出す。 性の不一致を知り苦悩する少年、銀平。 赤線廃止後も歌舞伎町で遊郭を営む富さん。 エミコとマリコが持つロザリオに名を残す謎の男。 2人の人生を紡ぐ糸に複雑に絡んでいく男達。 少女は恋をし、愛して愛され、裏切られ。 翻弄されるか、利用するか。 それともーー? 生きる為、生き抜く為。 二人は愛憎劇の渦中へ。 戦後の東京。二人の混血児が激動の昭和を駆け抜ける。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...