1 / 7
今は前とは違い、横には誰もいない……
しおりを挟む
序
今は前とは違い、
横には誰もいない……
地に刺さったプランター棒にツタが絡まりアサガオの花が咲いていた……
小学校生活も残り数ヶ月で終わりとなる頃、俺は放課後校庭でクラスメイト数人達と野球をしたのち、家に帰る日々を送っていた。
ただ、ある理由で数日間、その日々から離脱し、その日も一人で駄菓子屋の前で麩菓子を齧っていた……
何故、俺は一人になったのか、それは単純な話でクラスの放課後の野球活動を仕切ってる奴が好きな、クラスのマドンナである女の子と、俺が一言二言喋っただけで、嫉妬心からか、その仕切りマンに仲間外れにされてしまった。
駄菓子屋の前には、下水流す用水路が流れていって、その上に人がひとり通れるくらい幅の鉄橋が、かかっていた。
さっきから一人と言っては、いるけど正確に言うと一人ではなくて、岸でザリガニを釣ってる女の子がいつもいる。
その子を俺は知っている、って言うか学校では悪い理由で有名な子だ。
それは、よく朝の朝礼で漏らすからだ、それも大の方を。
だから皆んなに、バイキン扱いされて、いつも一人でいる子だった。
クラスは別で同じ小六、背は高く、男子で一番高い奴より少し高い、母ちゃんはアメリカ人と聞いた事がある。
いつもなら相手にしないが、その日の俺はひとりで寂しかった。
だから近づき、その子の脇に置かれた鉄バケツを覗いてみると、ザリガニは一匹も入っていなかった。
「釣れないの」
「釣れてるよ」
「でもバケツの中、からだよ」
「釣れたら逃してるの」
「逃すなら最初から釣らなければ良く無い?」
「これ見て!」
と彼女は胸のポケットから、上部で針金がクルクルと通し回し、紙がまとめられているタイプの小さいメモ帳を、開いて俺に見せて来た。
中には、[正]の文字が沢山日付別に記入してあった
「数は、数えてるの」
「数?」
「そう得点」
「一人で?」
「うん」
と彼女はうなずき、下を向き黙ってしまった。
少し気まずい雰囲気には、なったが、俺はやる事もないので、ただそのまま無言で見学を続けていると。
「今日は釣れない」
と彼女は呟くと、スカートのポケットからタバコの箱を取り出し。
一本咥えた!……よく見たらそれは、細長く砂糖を固めた駄菓子だった。
そう彼女は、わざわざ本物のタバコの箱に入れ替えていた。
「一本吸ってみる?」
「うん!」
とりあえず一本もらい、咥えて見た……本物のタバコの匂いが駄菓子に移っていて『少し臭い』とその時は思ったが、今思えば、偽物でも可能な限り本物に近付ける、その精神は大人になり何かと諦めが先になってしまう今日この頃、良い手本に思える。
そして少しし、「チョットやってて」と、少しの時間であっても、それなりの信用が生まれたのか、不意にプラスチックの竿を渡された。
その竿は恐らく植木の横に刺す棒だったと思う。
彼女は竿を俺に託すと、少し離れた茂みの方に行きしゃがみ込んだ……
しばらくしたら茂みから出てきてすぐには戻って来ず、彼女は駄菓子屋に入って行ってしまった。
そして小さいカップラーメンを両手に一つずつ待ち、汁を溢しながら戻って来て。
「一つあげる」
と。
「ありがとう」
と俺は、受け取る。
それは何かの盟が成立した時だった。
その後、竿を地面に横置きし、麺を彼女と啜った……
それから毎日、放課後は彼女のザリガニ釣りを見学した。
たまに彼女は茂みの方に行ってしまうが、彼女の横に居たいので、余りその事には触れずにいた。
そんなある日、見学者の俺は視線を感じると、クラスのマドンナがこちらを見ていた、そう、俺が孤立する原因になった子だ。
「友達来たよ、戻った方がいいよ」
と彼女は言ったけど、何か行く気か起きなかったので、
「いいよ、ザリガニ釣り見てる方が楽しい」
少ししてクラスのマドンナが近づいて来て、俺に言った。
「なにしてんの?」
「ザリガニ釣りの見学」
「ふーん、その子と一緒にいるとバイキン扱いされるよ」
俺はその一言でマドンナが、ただのクソに感じ、なにか裏切られた気になり、おもわず、ほっぺたを叩いてしまった!……たら、泣いちゃった……
そして次の日から俺は、クラスで仲間外れにされる事は無くなった。
どうやらマドンナを叩いた事がクラスを仕切ってる奴に気に入れられたようだ。
踏み絵的効果な感じ?
それから俺の生活は正常な状況に戻り、数日が経ったある日、いつもの通り皆んなと野球をした帰りにふとザリガニを釣っていた彼女の事を思い出し、駄菓子に寄って見たが彼女の姿はもう無く。
それから数回、見に行っても彼女と逢う事はなかった。
彼女が、よく釣りをしていた場所から少し離れた場所に、地に刺さり、少し曲がった彼女が使っていた竿を見つけた……それは、あの世界は終わったのだと感じた。
彼女の担任の先生に彼女の事を聞いたら、引っ越しをした事実を知らされた。
彼女の事を思い出し、俺の目元から涙が流れた……
俺は現在、営業の仕事をしている。
最近どうも成績が上がらず、上司に嫌われ初め、その影響から最近は同僚にも避けられている。
そんなパッと外回りの最中、コンビニ前で休憩と言う名のサボリ一服をし、その煙を見ていたら、そんな昔の事を思い出した………
気づいたらタバコの火はフィルターギリギリまで迫っていた。
今は前とは違い、
横には、誰もいない……
一時的に避難する世界も無い……
朝顔の花はもう閉じていた……
俺はタバコを踏み消し、
営業車に乗り込み、
深いため息をつき……
仕事へと向かった……[終]
※半ノンフィクション。
今は前とは違い、
横には誰もいない……
地に刺さったプランター棒にツタが絡まりアサガオの花が咲いていた……
小学校生活も残り数ヶ月で終わりとなる頃、俺は放課後校庭でクラスメイト数人達と野球をしたのち、家に帰る日々を送っていた。
ただ、ある理由で数日間、その日々から離脱し、その日も一人で駄菓子屋の前で麩菓子を齧っていた……
何故、俺は一人になったのか、それは単純な話でクラスの放課後の野球活動を仕切ってる奴が好きな、クラスのマドンナである女の子と、俺が一言二言喋っただけで、嫉妬心からか、その仕切りマンに仲間外れにされてしまった。
駄菓子屋の前には、下水流す用水路が流れていって、その上に人がひとり通れるくらい幅の鉄橋が、かかっていた。
さっきから一人と言っては、いるけど正確に言うと一人ではなくて、岸でザリガニを釣ってる女の子がいつもいる。
その子を俺は知っている、って言うか学校では悪い理由で有名な子だ。
それは、よく朝の朝礼で漏らすからだ、それも大の方を。
だから皆んなに、バイキン扱いされて、いつも一人でいる子だった。
クラスは別で同じ小六、背は高く、男子で一番高い奴より少し高い、母ちゃんはアメリカ人と聞いた事がある。
いつもなら相手にしないが、その日の俺はひとりで寂しかった。
だから近づき、その子の脇に置かれた鉄バケツを覗いてみると、ザリガニは一匹も入っていなかった。
「釣れないの」
「釣れてるよ」
「でもバケツの中、からだよ」
「釣れたら逃してるの」
「逃すなら最初から釣らなければ良く無い?」
「これ見て!」
と彼女は胸のポケットから、上部で針金がクルクルと通し回し、紙がまとめられているタイプの小さいメモ帳を、開いて俺に見せて来た。
中には、[正]の文字が沢山日付別に記入してあった
「数は、数えてるの」
「数?」
「そう得点」
「一人で?」
「うん」
と彼女はうなずき、下を向き黙ってしまった。
少し気まずい雰囲気には、なったが、俺はやる事もないので、ただそのまま無言で見学を続けていると。
「今日は釣れない」
と彼女は呟くと、スカートのポケットからタバコの箱を取り出し。
一本咥えた!……よく見たらそれは、細長く砂糖を固めた駄菓子だった。
そう彼女は、わざわざ本物のタバコの箱に入れ替えていた。
「一本吸ってみる?」
「うん!」
とりあえず一本もらい、咥えて見た……本物のタバコの匂いが駄菓子に移っていて『少し臭い』とその時は思ったが、今思えば、偽物でも可能な限り本物に近付ける、その精神は大人になり何かと諦めが先になってしまう今日この頃、良い手本に思える。
そして少しし、「チョットやってて」と、少しの時間であっても、それなりの信用が生まれたのか、不意にプラスチックの竿を渡された。
その竿は恐らく植木の横に刺す棒だったと思う。
彼女は竿を俺に託すと、少し離れた茂みの方に行きしゃがみ込んだ……
しばらくしたら茂みから出てきてすぐには戻って来ず、彼女は駄菓子屋に入って行ってしまった。
そして小さいカップラーメンを両手に一つずつ待ち、汁を溢しながら戻って来て。
「一つあげる」
と。
「ありがとう」
と俺は、受け取る。
それは何かの盟が成立した時だった。
その後、竿を地面に横置きし、麺を彼女と啜った……
それから毎日、放課後は彼女のザリガニ釣りを見学した。
たまに彼女は茂みの方に行ってしまうが、彼女の横に居たいので、余りその事には触れずにいた。
そんなある日、見学者の俺は視線を感じると、クラスのマドンナがこちらを見ていた、そう、俺が孤立する原因になった子だ。
「友達来たよ、戻った方がいいよ」
と彼女は言ったけど、何か行く気か起きなかったので、
「いいよ、ザリガニ釣り見てる方が楽しい」
少ししてクラスのマドンナが近づいて来て、俺に言った。
「なにしてんの?」
「ザリガニ釣りの見学」
「ふーん、その子と一緒にいるとバイキン扱いされるよ」
俺はその一言でマドンナが、ただのクソに感じ、なにか裏切られた気になり、おもわず、ほっぺたを叩いてしまった!……たら、泣いちゃった……
そして次の日から俺は、クラスで仲間外れにされる事は無くなった。
どうやらマドンナを叩いた事がクラスを仕切ってる奴に気に入れられたようだ。
踏み絵的効果な感じ?
それから俺の生活は正常な状況に戻り、数日が経ったある日、いつもの通り皆んなと野球をした帰りにふとザリガニを釣っていた彼女の事を思い出し、駄菓子に寄って見たが彼女の姿はもう無く。
それから数回、見に行っても彼女と逢う事はなかった。
彼女が、よく釣りをしていた場所から少し離れた場所に、地に刺さり、少し曲がった彼女が使っていた竿を見つけた……それは、あの世界は終わったのだと感じた。
彼女の担任の先生に彼女の事を聞いたら、引っ越しをした事実を知らされた。
彼女の事を思い出し、俺の目元から涙が流れた……
俺は現在、営業の仕事をしている。
最近どうも成績が上がらず、上司に嫌われ初め、その影響から最近は同僚にも避けられている。
そんなパッと外回りの最中、コンビニ前で休憩と言う名のサボリ一服をし、その煙を見ていたら、そんな昔の事を思い出した………
気づいたらタバコの火はフィルターギリギリまで迫っていた。
今は前とは違い、
横には、誰もいない……
一時的に避難する世界も無い……
朝顔の花はもう閉じていた……
俺はタバコを踏み消し、
営業車に乗り込み、
深いため息をつき……
仕事へと向かった……[終]
※半ノンフィクション。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

クエスチョントーク
流音あい
大衆娯楽
『クエスチョントーク』というラジオ番組に呼ばれた人たちが、トークテーマとして出されるお題について話します。
「このラジオは、毎回呼ばれたゲストさん達にテーマに沿って話してもらうトーク番組です」
「真剣に聴くもよし、何も考えずに聞くもよし。何気ない会話に何を見出すかはあなた次第」
「このラジオの周波数に合わせちゃったあなたは、今もこれからもきっとハッピー」
「深く考えたり、気楽に楽しんだり、しっかり自分で生き方を決めていきましょう」
トークテーマが違うだけなのでどこからでも読めます。会話形式です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる