【R15】夜空の下で

仙 岳美

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時間閉店間際の釣具屋

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二十時三十分
 商店街から少し離れた薄暗い通りに今迄は目の前を素通りしてるだけで入るとは思いもしなかった、幼い時の記憶にも残る小さい釣具屋に入った。何か不思議な縁見たいな物を感じた。
 中に入ると棚のありとあらゆるところにさまざまな釣具が引き詰められていて僕は圧迫圧倒され、その種類の多さに何を買って良いのかもわからなくなった。
友人も、
「なんかわけわからなくない」
「うん、とりあえず竿を探そうと」と僕は小さい声で自信なく答えた。
「そ、そうしよう」
と友人は不安そうな顔になって言った。
僕もその友人のお化け屋敷にこれから入る様な表情に釣られ、さらに不安になり、よくよく考えてみたら自分達が釣りたい魚の種類も定めていなかった、ただ漠然と魚を釣ると言う目標と言うかそんな物を掲げてるだけだった事に気づいた。
ここに来て少し、いや、かなり無謀だった事に気づいた。
勢いに乗った若さって恐ろしい……。
思わず『今日は出直そう』と言おうとした時に名案と言うか、基本的な事を思い出した。
「店の人に聞けば良いよ」
「そっか」
と奥のカウンターを見たらお店の人は残念ながら、そこには立って居なかった。
店主不在のカウンター先は住居で補助灯だけが照らす暗い和部屋だった。声をかけても返答は無い。
僕は当てもなく、何となく友人に聞いてみた。
「この店やってんの?」
「わからん」
「だよね」
「……」
「……」
薄い亀裂が走るコンクリート床の店内で詰んだ、僕と友人は途方に暮れてしまった。
横に細長い店内の蛍光灯も節電のためなのか? 本来は三機ある内の中心以外は消されていた、その事から店の中心に当たる所以外は薄暗く、それが下向する気分にさらに拍車をかけた。
 諦め帰ろうと思い、あがきで店内の改めて見渡すと奥に一人の女性が立っているのに気づいた。その人はライフジャケットを、着ている事から釣り人に間違いなかった。
友人と顔を合わせ、
「あの人に聞いてみようか」
「そうしよう、それしか無い、相手にされなかったら明日本屋で釣りの入門書でも買おう」

と言う事で、その人に希望をかけ、後ろから声を合わせて、
「すみませーん」×2
「なーに」
振り向いてくれたその人は笑顔だった。《続》
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