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薔薇のピルケース
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「ふーむ……これは、そうだな、うーん」
とルーペを瞳から離した店主は、口をへの字に曲げ、コトリとそれを置き。私の顔を観察する様にジーと見つめ、……。
「これは量産物では無く、高貴な人が持つ特注品の良い物だ、これを一つ作るのに複数の職人が関わり、この蓋に描かれた薔薇は本物に見まう程の超絶技工だ、特に特出しているのは、根本の芋虫は見る角度を変えると違和感なく動いて見える様に数枚の貝殻を組み合わせ、光の屈折を利用し、違和感無く動いて見えるところだ、これは今のホログラムの技術を超え凌駕し、もうその技術は継承されずに失われると思える高度な細工だ。それに加え部品にも純金が贅沢に使われている、ただ当たり前と言えばそうなんだが、残念な事に金の鎖が付いてたはずだが、それがない……
まぁそう言う事よりコレは……
悪いがうちでは、買い取れないよ」
「鎖? 値段が付けられないと言う事ですか?」
「この品物は、このままでは次の人が使う事は出来ないよ」
「使えない? 鎖は無いとしても、壊れてる所は、ないと思いますけど」
「このピルケースは魔法と言うか、強い念が籠ってる物なんだ」
「念ですか?」
「そう、このピルケースは生きてる様な物さ」
「生きてるの?」
「……失礼な言い方かも知れないが、君、コレは、拾った物だね」
「!……はい」
「落ちてた物は、その持ち主の思いが入っているのさ、それを使う事は、無断継承と言ってね、盗んだ物を使う事より、よくない事なのさ、特にこのピルケースは本来の持ち主でない君に困惑し混乱し、暴走し始めている」
「……」
「わかるよ、君もこのピルケースになにか気持ちよくない物を感じ、ここに持ち込んだのだろう」
「はい、何かそのピルケースを持つ様になってから胃や頭が痛くなったり、彼氏に強引に……」
「だろうね、この商売も長くなるとね、不思議と手に取るだけで、その物の歴史を感じとれるよ様になるのさ」
「このピルケースの前の持ち主はどんな人なのかわかるんですか?」
「そのままだよ、恋人とピルを飲まなければいけない関係だったっと言う事だ……、ロマンチックに言うと一年に一回しか逢えない禁断の恋とかかな、そんな燃える様な類の情念を感じるかな」
「では、コレは、拾った場所に捨てて、いえ、戻せばいいのですか?」
「いや、仮にもコレは君が一時的にも所有してしまった、中途半端に処理する事は、よくないよ」
「じゃ、どうすれば」
「簡単な事だよ、落とし物は警察に届け出れば良いのさ」
そう言うと店主は窓越しの梅雨空を見上げ、ため息をつき、私が訪れた事で飲みかけになっていたコーヒーを、ひとすすりした。[終]24・07・07筆
あとがき
七夕なので……
とルーペを瞳から離した店主は、口をへの字に曲げ、コトリとそれを置き。私の顔を観察する様にジーと見つめ、……。
「これは量産物では無く、高貴な人が持つ特注品の良い物だ、これを一つ作るのに複数の職人が関わり、この蓋に描かれた薔薇は本物に見まう程の超絶技工だ、特に特出しているのは、根本の芋虫は見る角度を変えると違和感なく動いて見える様に数枚の貝殻を組み合わせ、光の屈折を利用し、違和感無く動いて見えるところだ、これは今のホログラムの技術を超え凌駕し、もうその技術は継承されずに失われると思える高度な細工だ。それに加え部品にも純金が贅沢に使われている、ただ当たり前と言えばそうなんだが、残念な事に金の鎖が付いてたはずだが、それがない……
まぁそう言う事よりコレは……
悪いがうちでは、買い取れないよ」
「鎖? 値段が付けられないと言う事ですか?」
「この品物は、このままでは次の人が使う事は出来ないよ」
「使えない? 鎖は無いとしても、壊れてる所は、ないと思いますけど」
「このピルケースは魔法と言うか、強い念が籠ってる物なんだ」
「念ですか?」
「そう、このピルケースは生きてる様な物さ」
「生きてるの?」
「……失礼な言い方かも知れないが、君、コレは、拾った物だね」
「!……はい」
「落ちてた物は、その持ち主の思いが入っているのさ、それを使う事は、無断継承と言ってね、盗んだ物を使う事より、よくない事なのさ、特にこのピルケースは本来の持ち主でない君に困惑し混乱し、暴走し始めている」
「……」
「わかるよ、君もこのピルケースになにか気持ちよくない物を感じ、ここに持ち込んだのだろう」
「はい、何かそのピルケースを持つ様になってから胃や頭が痛くなったり、彼氏に強引に……」
「だろうね、この商売も長くなるとね、不思議と手に取るだけで、その物の歴史を感じとれるよ様になるのさ」
「このピルケースの前の持ち主はどんな人なのかわかるんですか?」
「そのままだよ、恋人とピルを飲まなければいけない関係だったっと言う事だ……、ロマンチックに言うと一年に一回しか逢えない禁断の恋とかかな、そんな燃える様な類の情念を感じるかな」
「では、コレは、拾った場所に捨てて、いえ、戻せばいいのですか?」
「いや、仮にもコレは君が一時的にも所有してしまった、中途半端に処理する事は、よくないよ」
「じゃ、どうすれば」
「簡単な事だよ、落とし物は警察に届け出れば良いのさ」
そう言うと店主は窓越しの梅雨空を見上げ、ため息をつき、私が訪れた事で飲みかけになっていたコーヒーを、ひとすすりした。[終]24・07・07筆
あとがき
七夕なので……
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