尊き君と永遠に

仙 岳美

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夏の昼茶漬け

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 その日も僕は、
  友達の様な、
  彼女の様な、
関係が曖昧な友人が住むアパートへ遊びに行く。
これも何回も言っている事だが、そのアパートの前の敷地にはコンビニがある。
これは、最近わかった事だが、どうやらそのコンビニの経営者は彼女が住むアパートの大家さんらしい。
ちなみにその大家さんの姿は見た事は無い。
後に見かける事があったら、この物語の場を借りて、その姿を無許可で報告するとしよう。
そのコンビニにでトイレを借りた後、手土産と言う事で炭酸飲料のペットボトルを一本買い。
いつもの通り、
アパートの二階に上がるため階段を上がる。
そしてこれもまた、
いつも通り、
一応インターホーン押す。
少しして、
「ほーい入りなー」
といつも通りの声が聞こえ、魚が焼ける香ばしい良い匂いを感じた。
僕が部屋に入ると、部屋の中は、いつもとは違く、外で嗅いだ良い匂いと薄い煙のベールに包まれていた。
「こっちー、ベランダー」
とベランダで彼女が、表面にお経の様な文字が描かれた小ぶりな四角い火鉢の前にしゃがみ、団扇でパタパタと鯵の干物を網で焼いていた。
彼女は僕を見上げ、
「さっき、君がコンビニに入るのが見えたからね、今追加して二枚焼いてるよ、昼はこれでお茶漬けでいいだろう?」
「うん、鯵の開きも、お茶漬けも好きだよ」
と返事をし、視界に入ったキッチンテーブルの上に、一見、鶏の様に見える、とぼけた感じな目をした鳳凰が描かれた二つのどんぶりに、冷やご飯が用意よく盛られていた。
その側に歌舞伎柄で有名な、あのお茶漬けの元も二袋出されていた。
「焼けた、焼けた」
と彼女は部屋に上がって来て、食器棚から丸い大皿を取り、焼き上がったその干物を乗せ、テーブルの上に置き。
「さあ、君の好きな方を選びたまえ、まぁ観たところ、この干物はどちらも当たりだよ、油が吹いてる、きっと美味いぞー」
と彼女は目をキラキラさせていた。
僕もその隅々までぷくぷくと湧く油が見える干物を見て、そう思えたので選ぶ事は無く、手前の干物を指差し、
「こっちにしようかな」

「う、そっちがいいの? こっち方が少し大きいよ」

「じゃあ、そっちで」
(やはりいつも通り僕に選択肢はなかった、その事に少し安心した・笑)

「よし、来た」
と彼女は両手にフォークを持ち、素早く、その僕の選んだ干物の中骨と頭を外し、脇骨も抜き、身をどんぶりの中へ入れてくれた、ただプチグルメな彼女に隙は無い、ちゃんと中骨にこびり付いた薄い肉も剥がし、マグロだと脳天と言われている、頭上にあるわずかな肉もちゃんと抜き取り入れてくれた。
そしてお茶漬けの元をふりかけ、湯気の立つ濃いめの熱いお茶を波波と注ぎ、最後に刻んだ薬味を上に乗せ。
「完成だ、少し醤油をかけると更に良いよ、冷めないうちにいってくれ」
とすぐに今度は自分の分の干物をバラし始めた。
「冷めたいうちお先にー」
と僕は助言に従い醤油を少したらしかけ、そのお茶漬けを口にかき込むと……「!⚡️」
その味わいは……魚油の濃い旨みに濃いお茶の苦渋みが相乗効果となり、その深い旨みを感じつつもお茶の風味でサッパリと仕上がっており、塩梅の方は、正直、食べる前は、どんぶりにお茶漬けの元を一袋だけだと、少し薄いかなと思ったが、そこは干物の塩分で上手く補われており、さらに干物でもわずかに残ってしまう魚の臭みも、食べる直前に少し入れた醤油の風味に程良く緩和されていた。

そして僕は何か、満腹になりホッとすると、
この時、
この空間を
急にスローに感じ……どんぶりの縁に口を付けお茶漬けをかき込む、そのどこか気取った性交の時とは違う、
本来の姿を見せてくれる、
その彼女とは、
もう何か、
家族の様な気がし、
その後ろにそそり立つ、
夏の入道雲を眺めながら食べた、そのお茶漬けは、僕の心と昼史に刻まれる、最高の昼食時に感じ得た。[未完]


題材
[干物]
 それは、死を、時を、得て、成立し得る物、その味とは即ち、時を吸い、熟成し、死を凝縮させた味の有る、魂の結晶の味である。

[鯵]
 その魚は[あじ]その名前を与えられた役割を十分果たしている程に、刺身、煮る、焼く、フライと、どの調理法でも、その味に隙は無い。
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