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蜻蛉(かげろう)
しおりを挟む曇り空の下、小さい商店前のバス停に、理由はわからないがいつも来るバスとは形が明らかに違う、バスが到着した。
そのバスのボディーの角は丸く、前面には、ボンネットが飛び出ている様にあり、その中央上部にはライトが一つだけ付いており、またフロントガラス上部にも、いつものバスには無い、帽子のつばのような日差しが備え付けられていた。
そのレトロな何処が汽車の様な容姿のバスを見た僕は、そのバスが過去からタイムスリップして来た様に思え、『本当に過去に行ければ……』と、ある思いに願いを重ねつつ、ベンチから立ち上がり、そのバスに乗り込むべく、片足を上げ、手すりに手をかけた時、背から声をかけられた。
「もし、あんた、今日はもう少し此処にいらんかね」
その声に振り向くと商店の店主がコーヒーの缶を振り、口元緩め微笑んでいた。僕はその何年も姿が変わり映えしない、店主にそう言われ、掴んだ手すりから手を離し、片足を乗せたバスステップから足を引き、再び商店前のベンチに腰掛けた。
その赤いプラ性のベンチはアイスクリームの商品名が横文字で背もたれに描かれてる事から商店の物であるとは思うけれども、バスを待つ人にも使われてる感じで僕は座るたびに存在がどこか曖昧なベンチに感じていた。
* * *
田園通りにポツンとバス停とセットの様にたたずむ商店。
その商店に訪れるたび目にする物は、歳月と共に少しづつその姿は、代わっていった……。
まず、その商店で売られている、ラムネの瓶はペットボトルとなり。
ポンと心地良い小刻みな音を鳴らし、店主がラムネを開けてくれる事もなくなり。
商店もそれにともなってか、半セルフになり、店主の姿もたまにチラッと幻の様にしか見ない様になり。
安く、どこか懐かしく感じていたアイスバーの包装紙も遂に新しくなり。
目の前のバス停も無骨な物から細い小さめの新しい物に代わった、でも、それらの変化は、少し寂しくもあるが僕には些細な事でしかなかった。
その日も、その軒先に置かれたベンチに座り、雨上りの草臭が混ざった湿っぽい土臭を嗅ぎながら、毎回、僕は此処でカラカラと虚しい音をたてながら、ラムネを飲み、過去の事柄を頭の中に浮かべては、ラムネを口に含み、そのラムネの泡が口の中で弾ける感触を頼りに、その思いで諸共、泡と一緒に弾け飛ばそうと心見る事を繰り返す……
……そのはてに、
『この思い出のある小さい商店に月に二回程来る様になり何年の月日が経ったのだろうか……そろそろ前を向かなければいけない』
そんな事を考えていると、帰りのバスの時刻が迫っている事に気づいた。
やがてバスは目の前に停まり、僕は、深い溜息をつき、バスに乗ろうと片足をバスのステップに上げ,手すりに手をかけた時、後ろから引き留めの声をかけられた。
* * *
店主は胸ポケットから取り出しタバコの箱を一振りし2本段差に頭を出したタバコ箱を僕に差し出した。
僕はタバコを吸わないから手制し、断り、缶コーヒーだけ受け取り。
「今日はどうしたのさ?、マスター」
僕が、そう言うと、店主は、咥えたタバコに火をつけ、店隅の方を指した。
そこには……一本の見覚えのある赤い傘が壁に立てかけられていた……。
「その傘の持ち主がそろそろ取りに戻って来る頃じゃないかな~ ほら、あそこ」
「えっ!」
その時、キーンーと一瞬で周りの空気が洗浄され澄み渡った気がし、僕の虚目の濁りも霧が晴れる様にスッキリと感じ、通りの少し先には、見覚えのある姿が揺れて見えていた。
「マスター!」
そう僕が歓喜の声をあげ、振り向くと細いタバコの煙だけを残し、店主の姿はもう無く、気づくと缶コーヒーを握った手も軽くなっていた。[未完]
題材・残留思念
それは強い思いに共鳴する、時に霊魂にさえも。
題材・よろず屋
多彩な商品を取り扱っている商店の名称、規模は、小さいながらもその品揃えは、洗練されておりあなどれない。
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