尊き君と永遠に

仙 岳美

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境駅……

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前作[肝入り箱……)の続きとなります。

 僕は先刻食べた蒲焼の余韻を鼻奥に感じつつ彼女と電車に揺られていた。
やがて電車は大橋にかかり。
目の前に三川と名が付けれている大河が視界に広がり、陽も落ちかけていた。
次の駅で彼女は降りる。
僕はそのまま乗って自分の家へと帰る。
別れの時である。
《次は三川 三川~》
と車内アナンスが流れる。
「鰻美味しかったよ、ご馳走様、なんか悪かったね」
「ううん、また行こう」
「今度は僕に奢らせてよ、流石に奢られぱっなしじゃ僕も苦しいよ」
「そっかーじゃ次は奢ってもらおかな[極上]とか」
「(極上とな)おお……任せとけ、約束だよ」(汗)
「約束」
「そう約束、奢る側が約束を求めるのも変だけど」
「約束と言ったね」
「言ったよ」
「約束は守らなきゃね」
「そうさ」
《ガッタン、プッシュー》
そこで電車は止まった。
電車は発車する。
彼女は降りなかった。
「どうしたの?」
「まだ明るいね、次の駅で降りて少し散歩でもしようよ」
「ああ、いいよ」
《次は境~ 境~》
初めて降りる駅だった、いつもなんとなく通り過ぎる各駅なので駅名もおぼろげに耳にしてるだけだった。
「境か……」
と、僕は、ぼっそと呟き、彼女の後に続き下車した。
ホームには僕と彼女しかいなかった。
「あれ、降りたの僕達だけか、各駅はこんな物なのかな」
と話していたら、彼女はもう改札に向かう階段の中場まで登っていた。
「待ってよー」
僕の嘆きに彼女は立ち止まり振り向いた。
「ほらほら、行くよ」
境駅の外はススキヶ原で田舎道が一本伸びてるだけだった。しばらく歩くとススキの間から何かが目の前に飛びで来た、それは小狐だった。
「狐だ珍しい」
「触らない方かいいよ」
「え、化かされるとか」
「違うよ、狐が持っている菌に感染する可能性があるんだよ、咬まれたりしたら一大事さ」
「そこは化かされない様にセリフは眉を唾で濡らすとかでしょ、えらく現実的だね」
「私は妖怪の例え話しは部屋で君とはするけど外ではあまりしないよ」
「何故」
「それは君以外に知り合いで妖怪好きな人は、いないからさ」
「ごもっとも、僕も普段はしないよ」
「だろ、それに現実は現実で分けて構えないとダメだよ」
「現実と分けるのは、何か寂しいな」
と僕がしょげると彼女は気を使い。
「まあ、あえて言うなら『狐憑き』と言う言葉も残ってるから、そう言う事だよ」
 なんか説教臭くなって来たので僕は話しを切り替える事にした。
「ところで、この辺はあまり人は住んでなそうだね」
「だね、まあ君と私の目的は散歩だからいいじゃないかな」
「それはそうだけどなんか寂しいな~」
「私は《グラグラ》
「!」
と彼女が何か言おうとした時、地が揺れた、結構大きい地震だった。
彼女と僕はその場によろけ、しゃがみ込み、しばらく揺られていた。
小狐はススキ薮の中に消えていった。
やがて揺れは収まり。
「宇都木君、大丈夫かね」
「ああ僕は大丈夫だ…… ……」
彼女の名を呼ぼうとしたら、地震で気が焦ってるのか、思い出せなかった……
「えーと」
「私は大丈夫だよ」
と先に彼女はケロッとした顔で言ってくれた。
「それは良かった、しかし大きかったね」
「うん、ある意味ラッキーだったね、野原で、さて散歩を再開しよう」
と彼女はお尻を叩きながら立ち上がり、少し腰が抜け気味だった僕の手を引っ張って起こしてくれた。
「うん」

 やがて一本道は緩やかに左にカーブーしてゆき、広い川と交わり終わった。

「この川は[三川]川かな」
僕は彼女に聞いた。
「上流では、繋がってるけと違う川だよ、名はそのままの[分かれ川]」 
「へー、そのままんでつまらないね」
「昔の人は、そんなもんなんじゃないのかな、私はそこが何か含みが潜んでいる感じがして好きだよ」
「ロマンチックな感じかな」
「ロマンチックー、確かにそれならいいね、あ、よくも無いか別れだもんね」
「……」
僕は今日、予定通り彼女と電車の中で別れない無いで、彼女と此処に来た事に、何か意味を感じた……

 その河岸は殺伐としており彼方此方に石が積んであり、簡素な舟着場に木舟が停まっていた。
船頭さんの姿も見える。
その船頭さんの横には、枯れ木の様な木が一本だけ生えており、その木の枝にひとり三百円と墨で書かれた木の看板がかかっていた。
今時、珍しい渡し舟の様だ。
その先頭さんは僕達を見て、
「おーい、さっきの地震で電車止まってるぞー」
その声に釣られ、僕と彼女は船着場まで行くと、木にぶら下がっているラジオから地震速報が流れていた。
「僕は家に帰れなくなったな」
と呟く、それを聞いた彼女は少しの沈黙の後……
「しょうがないうちに来るかい」
「え、泊まっていいの?」
「ええ、構わないよ」と彼女は、ややはにかみ気味の笑みを浮かべた。
僕はその後はあえて聞かなかった、が、その前に疑問が浮かんだ。(電車は止まっている)
そして彼女の名がやはり思い出せない……
「……泊まるにしてもさ、電車止まっちゃってるし」
「私の指先の方をよーく目をこらして見てごらんよ」
と彼女はポケットから平べったいコンパクトな望遠鏡を取り出し、対岸の方を指した。
手渡された望遠機で彼女の指差す対岸の方を目を細め見てみたら彼女のアパートが小さく見えた。
「船に乗るのかい」
「それしかないよ」
と僕達の話しを聞いてる船頭さんは、
「今日はお金はいいよ」
と言ってくれたが彼女は。
「どの道、乗るつもりだったので」
と船頭さんにお金を渡し、慣れた感じで船に飛び乗り。
「ほら君も早く」
「ああ」
僕は初めてだったのでソーと舟底に足を着きゆっくりと座った。

 当たり前だけど先程迄居た岸は遠ざかって行く……
そして川に飲まれる様に見えなくなっていった……
その時、何やら大袈裟な例えになるけど、映画の主人公見たいに危機一髪で死を乗り越えた気がした……。

それから陽はかげり、船に電気が灯りユラユラと黒い水面を照らす……
舟も揺れている……
僕も揺られている……
何か覚悟を決めた様な少しこわばったうつ向き加減の彼女の横顔を見ながら……
そのバックの水面もユラユラと揺れていた……
舟先に海猫が留まった、どうやら海は近い様だ……
僕は情緒的な心境になり、心中で詩を紡いだ……

船上で
 髪なびかせし
  うつ向く君を
    隣に見るは
      前戯成りかな

 やがて周囲には薄く霧が立ち込め、向こう岸から同じ様な木舟が僕達の舟に向って来るのが見えた、近くになると、その舟上には船頭さんと一人だけ乗客が乗ってる感じが目に取れた。
(あの何も無い、ススキヶ原にこんな時間に)と思ったら、どんな人なんだろうと興味が湧き、すれ違う時にその人の顔を見ようとしたら。
「目垢付いてるよ」
と横に座る彼女が僕の顎先を掴み、クイと横に捻り、顔を覗き込む様に目尻を人差し指で撫で来たので、その人の顔は見損なってしまった、横目に見た、遠ざかるその人の背は僕と同じ猫背でとても寂しげに見え、何か見送る様に見続けていたら、その人が僕の方を振り向いてくれた、でもその顔はもう遠過ぎてハッキリと見る事はできなかった。

「よし! 目垢取れたよ」
と彼女は垢をすくった指先を水面に浸した。
僕の目障りだった垢は、ゆっくりと川底に沈んで行った……。
そして礼を言おうとしたけど、彼女の名は、相変わらず思い出せなかった……。

[回天……]へ続く。


題材
[狐憑き]
 現代で言う所の精神病の症状だと思われる、昔の人は、それを狐に取り憑かれたと考えた。

[船幽霊]
 海上で出くわす妖怪、その舟上には数人の死人が乗っており、「柄杓を貸せ」と言って来る、素直に渡すと、その柄杓で海水を次々と舟に注がれ沈められてしまうと言う。
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