尊き君と永遠に

仙 岳美

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行ったり来たり

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※作品[天邪鬼]の続きとなります。

 その日も電車に乗り女性だが友人である彼女では無い彼女の家へと行く……つもりだったが僕は駅を出て、突き当たりの生活用水の壁をいつも通りの右に曲がらずに彼女の家と逆方向の左に曲がった……ただなんとなく思い付き、神様が決めた運命を変えてやろうと思った、神様はいつもと変わらずに僕が彼女の家に行くものだと思っていたはずだ、不意を突いてやった。ワラワラ。
 
 その僕の選んだ用水路脇の砂利道は、しばらく行くと用水路は錆びた丸いハンドルの水門を終点に地下に潜る感じで僕との縁は切れ、足元の砂利道もベッドタウンの真ん中を天に昇る様に突っ切る、急な上がり下り合わせて四車線の、上がり坂歩道側道に変わった。
僕はその上り坂の頂上がどうなってるのか気になり進む事にした。

 ある程度、その出雲大神社の橋の様な坂を上がり、周りを見渡すと山を一つ町に作り変えた広大な景色が下に広がっていた、ただ道は地形に沿った作りの為か複雑に入り組んでいる、この太いメイン通りから外れたら僕みたいな方向音痴は道に迷ってしまう事だろう、故に横にそれずに、ただこの太い道だけを上がる、帰りはただ引き返すだけで安心である、ここで好奇心を出してちょっと横道に入るものなら迷う事は僕は過去の経験で学んでいる。

 ……しかし坂は下から見た感じより体感的にも結構長かった、おまけに季節も冬なのに蒸し暑い、四季も狂ってる時代だった、そんな感じでフーフーと息を切らしながら坂を登っていると道脇にオワシスの如く自販機を見つけ、迷わず買う事にした。その販売機の横には、よろず屋と言う旗看板が立っていたが周りにスーパーは見えない事にちょっと不思議に感じたが、それよりも喉の渇きを潤したいという思いが先走り、さほど気にも留めずに、ガタンと、
あれ?! 間違えてホットコーヒーを買ってしまった……しょうがないからそのコーヒーはジーンズのポケットに捻じ込み新たに買いなおす、そして冷たいコーヒーで喉を冷やしその場でボーっと立ち瞑想を、する事にした気力充電である。

 ………やがてバスが下って来るのが見えた、此処はバス通りだったらしい……
上がりバスは見なかったのか気づかなかった、でも考えれば当たり前である、ただちょっとした珍事が起きた、その当たり前のバス窓に彼女の顔が見えた、🚌、そして目が合ってしまった、彼女の顔はアッとしている顔に見えた、が、当然バスは走り去って行ってしまった。でも気に病む必要はな無い、なぜならいつも彼女の家に行く時には事前連絡はしていない、よって今日は(正確には今日も)約束をしてるわけでもないので、別に気にする必要も無い、今日僕は彼女の家に行く事を急に中止し、今いるこの道を選んだのだ……と言う事でお役御免になった空き缶を販売機横の缶箱に入れたら、再び坂を登る……登る……そして着いた頂上は、複合施設を背に抱えるスーパーマーケットの入り口だった、中は大勢の人達で賑わっていた、今まで登って来た、人無しの坂道とは別の世界に思えた、ポップな音楽も流れている。
 僕はとりあえずスーパーの中をブラつく……やはり大きなスーパーは普段目にする事の無い水槽を泳ぐ珍しい魚や巨大な肉塊、青果類など目にする、ただ僕が買いたいと思う物は無かった……それに一体誰が買うんだと思える、羊の頭なども売っていた。
 一回りし、スーパーを抜けると二階建ての様々なお店が入る店舗通りに囲われた、中庭に出た、そこではクレープ屋台と風船を配るピエロが居た、その先は横に広い階段でその上には、屋根が丸くプラネタリウムの設備も備えてると思われるイスラーム建築的な映画館の入り口が僕を見下ろしていた……
周りの人達は楽しそうに笑っていたと言いたい所だが、今いる中庭には、人は一人もいなかった……
スーパーの中にはあんなに人がいたのに……
クレープを焼いてる女の子は笑っていたと言いたい所だが、なにやら暇なのか顔は狐に取り憑かれて様に生気がなかった、風船を配るピエロも自身の存在理由がわからなくなっているのか虚ろに気に見えた……僕は哀れに思い、そのピエロから風船を一つ受け取ったその時、僕は自分が透明に人間の様な気がした、なぜなら僕も何も楽しくない、急に此処に一人で居てはいけない、そう思った、そう道を! 大袈裟言うと人生を間違えた気がし、すぐに引き返し、彼女の顔を見なければいけない気がし、走って引き返した、帰りは、当然下り道で追い風の様に作用し僕はいつもより倍近いスピードで走る事ができた。
心の中で(待っててくれよ)と念じた、(そもそも今日会う約束もしてない彼女が待ってるはずはないけど)
「ギャ!《バッキンー》ッフン」
そして勢い良く転んでしまった!
その拍子に手に持つ風船の糸を離し、風船は空に飛んで行ってしまった……🎈

「痛ってー」
こ、これは神を揶揄った罰だなと思い、少し冷静になり、先程間違えて買った冷めたコーヒーを寒くなって来た今に開け、それを飲みながらトボトボ歩く事にした。
 
 彼女の住むアパートに着いたのは夕方だった、そして留守だった……
僕は(今日何をやってるんだろう)と思い家に帰る事にした……

 日はすぐに落ち、闇に光る駅が見えて来た……そこで奇跡と言うか、なんなのか、改札口に彼女が立っていた、僕を見るなり手を振り、走り寄って来てくれた。
「いや~ 心配して探したよ、あの心臓破りの誰も上がらない坂を上がる、もやしっ子の君を見かけてさ」
「心配してくれたの、ありがとう」
「いえいえ、何か合ったら留守にしてた自分にも少し責任はあるしね、今日なんとなく君が来るも気してたし、で今日どこ行ってたの?」
「ああ、上の映画館まで行ったんだ」
「ふーん、ひとりで?」 
「もちろんひとりだよ」
「それで映画は見たの?」
「見ないで帰って来た」
「なにそれ? 私もあの後、スーパーマーケットいったんだよー、君がいるかと思って」
「そうなんだ、悪かったね、すれ違ったようだね、実はそもそも思い付きで起こした行動で自分でも何をやってるんだか……そんなわけだよ」
僕は恥紛らわしに頭を掻いた。
その時、駅前に回送バスが停まり、行先の表示板が回り[山の上パークヘブン]に変わった。🚍
それを見て彼女は、
「今から今日を取り返しに映画でも観に行こうよ、それに夜は安いよ」

 再び訪れたスーパーマーケットはもう時間で閉店していた。
「えーと」
 僕はスーパーの中を抜けて映画館迄行った経験しかないので戸惑ってしまい。
「スーパー閉まってるから映画館行けないよ」とマヌケな事を言ってしまった。
「君は本当に、もう、そんなわけないでしょ、ついて来て、こっち」
 そんな天然ボケを発した僕は彼女の後をついて行き、スーパー横の階段を上がり今度は昼に見た、嫌な感じの中庭を下に見る店舗通路に出た、そこで見た光景は予想していた物とは大きく違い、様々な箇所に電飾が取り付けられライトアップされ、昼間と違い華やかに見える場所に様変わりしていた、お酒を出すBAR的なお店も多数開いており、周りにカップルも多く、僕も横に彼女じゃない彼女がいるお陰で、なんと無くその仲間になれた様な気持ちになり思わず。
「天国みたいな所だね」
と言ってしまった、それを聞いた彼女は。
「なーにー それー、私たち死んでるの?」
とニヤリとした。
「あ、少し不謹慎だったね、でもそれくらい楽しいよ、今は」
「そう、まあ楽しければ、それもいいじゃない、生きてるうちに棺桶入ると長生きするって言われてるしね」
と彼女はニッコリと返し、
「行こう」
「うん」
僕達は映画館に向かった。

* * * *

 昼間は本当に何をしているのかわからない一日を過ごしてしまったが、総じて見れば、帰りにはBARで洒落たカクテルなどを飲み、彼女といつもと違う新鮮な時を過ごした事で腐れかけていた縁は修復された様に思え、帰りのバス窓に写る青い自分の顔も何処となくいつもより生気を帯びている様に思えた。

[肝入り箱……]へ続く。


題材[まどわし神](京都の伝承)
 人を道にまどわす神と言われている妖怪、取り憑かれると自分が向かう方向はおろか、時にはそこに向かう理由、意味、なども曖昧な気持ちと成り、同じ場所を行ったり来たりしてしまうと言う。
ただ、この妖怪は道中の先に起こりえる禍から遠ざけてくれている気もしないでもない、そう考えると妖怪では無く、神様と思える。(作者談)
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