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蜘蛛の糸……
しおりを挟むチュンチュンチュン
「……」
昨日迄元気だった相棒でもある原チャリは、その朝、バッテリーがあがっていて、起きてくれなかった……
僕は起きたのに……
『お前は、行くなって、言ってんの?……そうはいかないよ』
幸いにも会社迄は歩いていける距離だった。
なので歩く……歩く……歩いていると、何か行く手を何者かが阻む様に、太ももから下が重い、両肩も重く怠い、その事に何やら不安が積もる、積もる……でも、もう引き返せない事を誰より自分が知っている。
ここで引き返したら率直に言って……
僕はオワリだろ(汗)
だから負けずに兎に角、行こうと思った、その時、腕時計の二本の針が朝起きた時に見た時と同じ所を差している事に気づく、そして思ったより会社が遠く、長い時間を歩いてる気がして来た、『ひょっとしてもう遅刻かも』『いやしてる』そう思い、『積んだな』と泣きそうになった時、どこからかチャリのベルが鳴った、向いたその方向には、ペダルに片足をかけた彼女がいた。
僕を見て、
「よっ、おはよう」
「ああ、おはよう、今日は、よろしく頼むよ」
「やっぱりね、ほら、後ろに乗った乗った」
途中、「朝、食べたの?」と彼女が前カゴに乗せたリュックの中に手を伸ばし取り出したクロワッサンが数個入った袋を背を向けたまま、僕に手渡してくれた。僕はそれを一つ食べ終えたら、少し安堵し、もう覚悟を決める事が出来た、そして、さっき迄重かった身体も軽く感じ、その何かを道に置いて来たがした、でもそれは置いて来てもよい古い悪友に思えた……。
* * *
題
蜘蛛の糸……~🕷️
登場人物
語り
雨雲 佐助(あまぐも さすけ)
天律 雫光(あまつ しずこ)
《テッテケテッテケッテテ》
と、スマホが鳴り続けている……
僕は布団の中でまどろみながら、その音の先にいる人を思い浮かべる。
『はい、はい、わかりましたよー、今日から会社ね、あーやっぱり、超絶めんどくさー』
と言いつつ手に取ったスマホの蓄電池も
、もう交換時期な事を思い出し『色んな意味でもう』と感じ現実に戻され、そして今、心中の荒れ果てた船着場には、奇跡的に舟が留まっている事を認識する。
『しのごのいわずに乗らなきゃ』
僕は前日の夕方に買っておいたアンパンを冷蔵庫から取り出して喰らいつく。
* * *
仕事終わりの休憩室……ガッタン
「ほい」と同僚である先輩が僕に放った缶コーヒーを僕は受け取る。
「君も仕事だいぶ慣れてきたね、ここらで明日休みだし、一発飲みに行こうよ」
「おっ、いいっすね、僕もそろそろと思ってたんですよ」
「駅前にデカい串焼きを出す店を見つけたんだ、そこはお酒の種類も多くてね、だから呑み潰れたら介護を一つ頼むよ」
「マジっすか、先輩しっかりしてくださいよ、僕の命綱なんですから」
「君は大袈裟だね、ふふふ」
* * *
一月前(ひとつきまえ)の深夜……
パッタンとノートパソコンを閉める。
曜日感覚はもう無い、外は雨が降っていた……ズーと降っている気がする……
二、三時間まどろみ、朝になる、またパソコンを開く……
観てるサイトは、小説投稿サイト。
しかしそこは、ここのところ荒海の様に荒れていた……その様は、もはや腐りの極みだった。
皆んな発言が皮肉混じりで、その肉が腐って悪臭放っている感じだった……
投稿している小説も誰かを皮肉っている物が目に付いた……
そんな地獄の亡者みたいな人達が此処へ最初は希望を持って訪れ、挫折し腐ってしまったのか? それとも最初から腐って此処に行き着いたのかはわからない。
ただ、そんな泥糞沼の中でも、文体がどこか歪でダーク寄りながらも、その先に希望を感じ、十字を切る様に小説を書く人が一人いた。
その人は、神を信じているようだった……
その人とは、出会ったサイトがそんな感じなので、他のSNSサイトで連絡を繋ぎ絡む様になった……
でも、ある日、その人は僕に別れを告げるような行動にでた。
それは、来週から働くそうだ……
働く人……僕には、その存在自体が皮肉だった……
それから三月(みつき)経ち、その人からコンタクトがあった。
💬
「君も、私の会社へ、来ないかい」
「僕は、ダメだよ、もう頭も体も錆び着いてしまった様だから」
「心配ないよ、私が付いて教えてあげるから」
「すぐ辞めるよ、迷惑をかけるだけだよ」
「かからないよ、辞めたらそれ迄の人で終わりさ、会社は君が思ってるよりドライさ」
「でも僕のなんもしなかった空白時期が長い履歴書は流石に面接の人も無視は、できないだろう」
「そこは、正直に言うのさ、後は面接官が判断する」
「……」💭
正直、今の生活は精神的に限界を迎えた様でなんとかして変えなければとは、毎日の様に考えていた。
よく言われる『ダメ元』と言う言葉を原動力に、僕は、彼女が教えてくれた彼女の勤め先に連絡をした。
その夜、僕はブルーライトで酷使しっ切った、夜になるとボヤけてしまうポツコンな目を鈍った指先で擦りながら、その指を頼りに乱れ気味な文字ながら、なんとか履歴書を書き終えた。
そう、僕は文字をまともに書く事も普通に出来ない様になっていたのだ、おまけに漢字も全て忘れてしまったようだった。だが彼女が履歴書を書く時は鉛筆で下書きをしてその上からボールペンでなぞる様に教えてくれた、失敗し書き直すより、その方が確実と教えてくれた事が、功をそうした。
なんせ履歴書を書き直してるだけで心が折れてしまうからと……そうだと思う。
そして面接の日、彼女がこれだけは、絶対に守ってくれと指示した通りに床屋に行き、白いワイシャツを着て行った、ネクタイは絞めなくて良いけどボタンを上まで止める様に言われた、それも守った……
後は緊張し震えながらも聞かれた事については、正直に全部話した……
その時は心臓が波を打つ様だった。
こんな時、心臓発作だ、ヤバいと思ったが、それも彼女が事前に助言をくれていたおかげで乗り越えられた。
その対策は、単純明快で様は脈を取るのである、その指先に感じる拍動が不規則じゃない限りは、心拍が早くてもとりあえずは、問題は無いと言ってくれていた。
面接官は、壁時計をチラッと見、一言。
「で、君はいつから来れるのかな?」
僕は彼女の指示通りの返答をした。
「明日からでも来ます、よろしくお願いします」
そこから全てが変わった。
面接を終え、外に出ると傘をさした女性が立っていた。
僕の顔を見て「お疲れ~」と言いニコリとしてくれた。
その人が誰だかは、すぐにわかった。
初めて彼女の顔を見た……
その日も相変わらずの雨だったが、遠くの雲の隙間からは、一筋の、それは糸の様な光がさしていた……。
* * *
と、今夜も酔い潰れた嫁を僕は背中に背負い、そんな昔の事を断片的に思い出していた……。[終]
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