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腐豆婦
しおりを挟むお豆腐メンタルで安月給の私は、その日も勤めの帰りにスーパーに寄り、お得品を探す……その中に枝豆が一袋、百円とほぼ捨て値で売っていたので買い、とぼとぼと畑と畑の間を通る一本道の帰路を歩く、やがてその道の左右は暗い雑木林へ代わる、それから少し行くと街離れの森の中、潜む様にポッツンと建たずむ木造アパートが見えて来る。
私の住まいである。
私は、二階の部屋へと戻ると早速、鍋に水を張り、その枝豆を茹で初める。
その間も、コンロの青い火が何故か昔から好きな事もあり、ただ火を見つめ続け、茹で上がるのを待つ。
……問題無く茹で上がったら、ザルにあけ、ボールに移し、塩一摘み入れ、ボールをフライパン返しの様にして混ぜ、それと冷蔵庫から取り出した発泡酒を抱え、夕刻の窓際に座り、何気なく外を眺めながら食べていると、不意に口の中に臭みを感じ、手の上に吐き、確認すると、それ黒く変色した豆だった。
吐いてなおも口の中に青臭さが留り、洗面所に濯ぎに行こうと思い立つも、何故か、何か、此処で負けては、という、思いがカッと心の中に立ち昇り、吐いた豆を口に戻し、いっきに飲み込まず、あえて何かに抗うかの様に味わって見る……
『あ、うっ くっー 頭が痺れるー ヤバい~』
とは思いつつも、腐っているとは言え、豆の旨味は残っており少しクセになる感じを受け。
『なんだ、イッけた』その結果に、『案外、自分は臭気に強いと言うより好き』かもと思い。
確認の為、もう一つ食べたい気持ちになり、もう一つくらい痛んでいる豆は、ないかと期待しつつ豆を貪っていると、いつのまにやら陽は落ち、空は暗くなり、遠くホライゾンの上に隣国諸島の繁華街を色取るネオンが浮かび上がり目立つ様になる。
そのネオン看板の中で一際大きい縦の[臭豆腐]のピンク文字を見て私は、
『そうか』と思った。
私が腐った豆を食べようと思った原因は、毎晩見ているその看板が深層心理に、たたみかけた事に気づく。
そしてそのおかげで味覚の開拓覚醒を遂げたけど、もう腐った豆は見つからなく。
『もっと、もっと臭いものが食べたい』と思い、少し寂しく感じ、その夜のネオンを見つめていると、そのネオンは私を誘い、妖しく光っている様に感じ、ピンク色に染まる部屋で、そこに行けば、たった今、不意に開発された味覚をさらに……さらに味覚だけでは無く、その身、身体に秘めたものを、今度は不意にでは無く、確実に誰かしらの手で、開拓してもらえる気がしてならかった。
『…………でもやっぱり怖い』と、そんな揺れ動く心持ちの中、ネオンから漏れ届く妖しい光の影響で淫色に染まる部屋から救いを求める様に、天の蛍光灯の紐に手を伸ばし引くと、「あっ!」その紐は、切れてしまい、私しは、尻餅を着き、その拍子でハラワタの中から込み上げたガスを思わずプッハと吐き、口の中に再び、あの腐敗臭が広がった、それがきっかけとなり、『神様意地悪、いいわ、これは啓示なのね』と思い。
私の心も吹っ切れてしまい、フッと自分で笑みが溢れたのを感じ、少し強くなれた気がした……。
[続]
題材 お豆腐メンタル
それは弱い心を持つ者を揶揄した言葉、及び自虐にネタにもよく用いられる。ただ、その者が腐り、行き着くと、臭豆腐の様に、味のある者に変貌を遂げるかも知れない。と希望を作者は持ちたい。
題材 蜃
蜃気楼を作り出すと中国(台湾)日本で伝えられている妖怪、その正体は、中国では竜、日本では巨大な蛤と伝えられている。
古絵には蛤が幻の楼閣を作り出している絵が描かれている。その貝が自らの為に、その幻の楼閣を作り出しているとしたら、何に憧れているのか……。
酒蒸しにでもされたいのか……。
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