【R18】蝉と少女

仙 岳美

文字の大きさ
上 下
43 / 44

外伝⑤ 蘇る銀河の英雄達と少年

しおりを挟む
=甦る銀河の英雄達と少年=

登場人物

 仙身 志摩長(亡国の元内外大臣、現在は島長、転生能力者)

※用語説明

 霊刀(またの名を神剣、手刀に透明な刃を宿らせる事ができる、その刃は武器として飛ばしたり、足場にする事もできる、そしてその刃は宿す者以外の目には見えない。転生能力者が持つ特殊能力の一つ)

 転生の儀式(先祖が残した秘薬を使い、死者を復活させる古来の儀式、成功率は3回目から危険領域)

*******
 
風荒ぶ深夜…
 殺し合いを強いられた罪人の死体が多数転がる円形闘技場コロシアム広場中央に、男女二人の子供が立たずんでいた……。
手を繋いだ二人が見上げた夜空は稀に見る、満天の星空だった……。

「お星さま綺麗だね」

「うん(僕は知っている、偉い人は死んでも星になって、僕みたいな弱い人間を空から見守ってくれている事を)」
 
翌朝…
 兵の鍛錬場であるコロシアム、そこの所長が朝方、事務作業で夜ふかしをし机の上でコックリコックリしている志摩長の研究室に訪れその戸を叩いた。

〈トン・トン〉

「志摩長さま、一応…結果が出ました……」

志摩長は、口元の垂れたよだれをテッシュで拭き取り、座り直した。

「一応とはどう言う事だ? まあ入れ」

〈カッチャリ〉

「罪人達を一人残る迄戦わせよ、との仰せでございましたが、生き残った者が女とその弟でして、しかもそれが手違いで、まだ子供でして、それ以上は……」

「何! 子供を!……それにしても子供がどうやって生き残った?」

「生き残った二人の子供を除いて最後まで残った罪人二名は遺体の状態から見てほぼ相討ちの様です」

「そう言う事か、その子供達は逃げ回っていたとしても、生き残った事は大した者だ、ヨシ! その子供らに会って見るか、手違いを起こした者は減俸10日にでもしといてくれ、後は咎めずによい」

「はっ!」

 閑散簡素なコロシアムの部屋で見た二人は双子だった。歳は10代前半くらいに思える。
二人とも怯えた表情をしていた。
とりあえず労をねぎらう言葉をかけようとしたら『!』
姉の方がイキナリ服を脱ぎ始め、志摩長の前で裸になってしまった。その目は真っ直ぐと志摩長を見つめている、一方弟の方は、その姉の後で震えている……。
志摩長は思った、『ちょうど良い、試してみるか』
志摩長は姉の両肩を掴み抱き寄せ、腰の短刀を弟の方に放り、背を向け、目の前で抱えた姉の身体をまさぐるふりをした。
少しして背中に衝撃が走った。『まずは良し』背を少年に刺されたのである。服の中には薄い鎖帷子を着込んでいる、受けた傷は浅い、それに渡した短刀の刃も、放る直後に霊刀で擦り、丸めてある。志摩長は抱えている姉を弟の方に放り投げ、「君の勇気に免じておねいさんは自由にしてあげよう、但し君は私の駒になってもらう」
「駒…」
「兵だ、それもただの兵では無い、兵を指揮する将になってもらう」
それを聞いた姉が弟を庇う様に志摩長の前に再び立った。
「弟に兵士なんか無理です! 酷です」
「君達に選択肢は無い」
「なら私が代わりに」
志摩長は思った、目の前の姉の方は、話もせずにいきなり女の身体を武器に命乞いをしたその行為が何やらせっかちに感じ、そこで将の器では無いと判断した。一歩弟の方は一見、か弱そうに見えるが、姉を見捨てずに、自分の背を刺して来た、それに罪人同士のバトルロワイヤルで生き残った運もある。あえて選抜でトーナメント制にしないでバトルロワイヤルにしたのは運を見たかった事もある、そしてこの弟は生き残った、将には運とその場面、場面に応じた的確な対応力も必要なのである。その二つがあれば後は鍛えればなんとかなる。
とは言え、姉の方は一般の兵としては使えそうに見え、それに最後は、この弟の能力を引き出す切り札に使えそうな気もし、二人とも自らが直接鍛える事とし、コロシアムの空き部屋にそのまま住まわした。
 すぐにこの二人の身元を確認した、二人は前戦の戦争孤児の様ではっきりとした名は持っていたなかった。
両親は何処の誰かも不明。
当然島民としての登録手続きもされて無かった。
犯した罪は殺し、重罪である。でもその内容は姉の方に悪戯しようとした荒くれ物が二人に反撃され、撃ち所が悪かったのか死んでしまった様な感じが裁判の時に記録された文面ではわかる。
正当防衛にも取れる。
まさしくこの二人を凶悪犯と戦わせたのは手違いだった。
志摩長は島の長として色々な意味で恥じた、そして二人を立派な兵士いや人間としても育て直さなければいけないと感じた……そして一つの疑問も持った「私はそんなにロリコンのエロい事を考えてるオジさんに見えるのか? 自分ではダンディー系だと思っていたんだが……直接聞きくのはやめておこうハッキリ言われて生きて行けなくなると困るから』
 
 時はそれから二年程経ち姉の方は志摩長の予想を超え強くなった、副将を任しても良い様に思えた、一歩弟の方は泣き言ばっかり言って今だに泣き出したりする。帝国との決戦は近いこれ以上時間は無い、戦略上どうしても後一人優れた将が必要だった。志摩長は姉の方を将にしようと一瞬思ったが自分の見る目を確かめたいと思った、自分はこの少年に可能性を見た、そこで賭けに出た志摩長は、弟の方をコロシアムに連れて行き。
「今からお前は私と真剣勝負をする、もちろん本当の殺し合いだ」
それを聞いた少年の顔は血が引き真っ青になった。
「どうしたかかって来い、来ないなら私から行くぞ!」
少年は息を切らしながら、
「う、う、うっわー」
と剣を振りながら捨て身で迫って来た、その攻撃かわしつつその少年の太刀筋を見て見る、悪くは無い、この子に必要なのは心の力、すなわち自信だけだと思い……その少年の胸を手に持つ太刀で突き抜いた。
少年は胸を押さえ「かっ!はっ」と、うめき声をあげ、地にうずくまり、死んだ。

志摩中はすぐにその少年に転生の儀式をおこなった……

※転生の儀式は前回も書いたので簡素に書きますね。

 少年の遺体を入れ人工の羊水に浸した壺は頭上に現れた円盤に吸い込まれる様に空に昇っていった……転生に成功なら壺は銀の壺に変わり降りてくる……………
いつもより少し遅い、失敗かと思い、煙草に火をつけたその時、空の円盤は虹色に光、壺は降りて来た、それも金の壺に!
「おっお!」
志摩長は思わず声を上げた。
それは円盤が儀式の途中、虹色に光る事も、金の壺も、両方共に初めて見る、光景や物だったからだ。

* * * *

 志摩長の研究所のベットに寝かせられた少年は目を覚ました。
「ここは? 僕は確かあなたに刺されて」
「君は私に柄で突かれて気絶してしまったのだよ」
「そうですか、でもそんな事はどうでもいいです、僕は、将軍なんて人の上に立つ資格も勇気も力もありません! もう勘弁して下さい!」
志摩長は少年の手首を掴み、三度コロシアムに引っ張って行った、そこには少年の姉を待たせてある。
姉は無言で弟に剣を渡した、「まさか今度は姉と僕を戦わせる気ですか!」
「いや違うな」
志摩長は太刀を抜き姉の首を刎ねた!
「えっ!」
一瞬の出来事で少年は唖然とし少しし、その場に手を付いた……
そして顔を地に伏せながら、
「おい、志摩長」
声質が明らかに変わったそれも大気が震える様な低いドス声に……
「私が憎いか、ならかかって来い」
志摩長は後ろに飛び、少年と距離を取り太刀を構えた。
『これでダメなら私の見込み違いだった』
少年は立ち上がり剣を抜いた、その時、志摩長は瞬間的受け身を取った、刀に衝撃が走り後ろに吹き飛ばされバランスを崩しかけた、気づいたら目の前に少年が! 同時に視線の下に迫る白い物が見えた志摩長は反射的に顎を上げ身を後ろにのげぞらした、顎に少年の剣先が擦り思わず、「おっおお」
志摩長は声を上げ、そのまま後転で再び後ろに飛び、少年と距離を取る、だが構え直し息をつく隙を、少年は与えてくれない、次々に取り付く様にそれは、志摩長の逃げ場を予想し知ってるかの様に追尾して来る、そして鋭い斬撃を繰り出してくる。
『こっこれは予想以上』
遂に志摩長は太刀を少年に投げつけ、少年がその太刀を剣で弾く一瞬の隙を作り、手刀から数枚の霊刀を宙に発生させ、その霊刀を身体に纏い、攻防一体の体制になる事に成功した。
「反撃行くぞー、受けてみろ!」
次々と作り出した霊刀刃を手裏剣の様に少年に飛ばす、少年はその目に見えない迫り来る刃を風の微かな振動を頼りに手に持つ剣で次々と弾き返す、そしてジリジリ迫って来る!
『コイツは、予想以上だ、私を超えている』
志摩長は自分がやられては、元も子も無いと思い、ちゅうに浮かべた霊刀を足場にし空へ駆け上がりいったん避難した。その時、「ムッ!」空が急に暗くなり昼が夜と成り、夜空に無数の星が現れた、その星達は尻尾を伸ばすように回り始め、やがて次次と少年の周りに降り注いだ、そして少年を囲む様に光る人らしき形をした様々な者達が立ちあらわれ群れをなし、コロシアムを見下ろす志摩長の視界に広がっていった。それは軍隊の様だった、いや軍隊その物だった、それらの光の兵士達は個々に槍、剣、大盾、羽うちわ、それに見た事がない形をした武器など持っている者もいた、中には槍を携え小竜にまたがる物さえいた。
「これは紛れも無く転生能力! 古文書に記されている、星になった古の英雄達の力を借りるという陰陽道・究極の式神術・群星召喚! 遂に怒りで覚醒したわ!」
複数の視線を感じる……光兵は輪郭しか見えない、だが彼らの視線は自分ひとりに向いている事は感じ取れる……
凄まじい圧力を感じ背に寒気が差した……
私が気負けしている……
当たり前だ、このまま続けたら私は、この者達に一分もしないうちに木っ端微塵にされる。
『私の負けだ』
志摩長は叫んだー。
「落ち着けー!、君のおねいさんは生きているー!」
その声を聞き少年の復讐に燃える瞳は一瞬落ち着いた様に揺らいだ。

「口から出まかせをー!」

「嘘では無い正確に言えば、生き返らせる、君みたいになー、君も私に胸を刺された事は覚えているはずだ、それは夢では無い、全て君の力を引き出す為の行為だ、許してくれ、おねいさんも君の為に私の話を信じ協力してくれた、戦争が終われば君も君のおねいさんも自由だ、その力を隠してくれ、そして祖国の為に働き、同時に君とおねいさんが犯した罪も償うんだ、頼むー!」

「……」

少年は鞘を拾い剣を鞘に納めた。
少しして光の兵士達は顔を見合わるかの様にして、少年に膝ついた後、空へ飛び去っていった。
それを見て志摩長は安堵した。
『ふうー 私のやってる事は命懸けの仕事だ』

志摩長は少年の前に降り立ち、手を差し出した。
少年は横を向きながらも、その手を受け入れた、志摩長はその少年の手を両手で包み微笑んだ。

「よーし、今夜一緒に飯でも食べよう、厳しい訓練も今日で終わりだ」

「その前におねいちゃんを生きかえらしてよ」

「おっおお、そうだったっな、すまんすまん」

コロシアムには二人の伸びた影が夕陽に照らされていた。

その後、その少年は仙身紫馬(セミ シグマ)と名を与えられ、将として一翼を担い、難攻不落と言われた帝国の城塞都市を短時間で陥落させるなどの目指しい活躍をした。終戦後は広大な領地を恩賞に授かり、そこで姉と新たな家族と幸せな時を過ごしたと言う。[終]

物語がリンクしている章

蝉と少女・分冊12
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

LOVE LESSON

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:70

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

精霊王様の捻くれた溺愛〜乱れ絡まる触手を添えて〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:30

【※R-18】αXΩの事情

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:31

令嬢たちの破廉恥花嫁修行

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:29

【18禁】光のチート好き(スケベ)勝手生きエロ! 奴隷ハーレム連れて

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:31

【※R-18】死神君100人との恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:20

敵対する村の青年に捕まったら

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:50

R18 、とある、館の子供達

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:18

処理中です...