【R18】蝉と少女

仙 岳美

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25 シーバスハンターの章

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25【蝉と少女】シーバスハンターの章

※ここからの話しは主人公の老後の話です。自分の事を(私)から(ワシ)に呼ぶ様に変わります。
※投げ釣りとは、釣りの一種で、主に海で行われる。一般に専用の釣り竿、リールなどの道具でエサのついた仕掛けを錘(重り)使い砂浜から遠く沖へ飛ばし、海底付近の魚類などを採捕する方法のことである。
※1メートル=100

主人公(ワシ)

佐藤 章良(さとう あきら 70歳 元帝国公認暗殺者 あだ名[さっちゃん])

 砂浜に1人の老人がたたずんでいる……投げ釣り師である。
もう歳は70である、彼は20年前に釣り逃した3メートル近いシーバス(またの名をスズキ)を今だに追っている……
海岸近くの酒場で20年前に老人の話しを聞いた釣り仲間達は言う…

『見間違いだ、そうな大きなシーバスいるわけねー 良くてせいぜい110前後だ』

誰も信じない、嘘つき扱いだ!

19:30
今日も釣りの帰りに海の近くの酒場に寄る。
酒場のマスターは胸ポケからタバコを取り出し、咥え、ライターをカチカチしながら、
「奴は釣れたかね」
と一煙吐いた、

老人はカフェオレを一気に飲み干し、
「見ればわかるだろ」
周りに座っていた、常連客も月日が経つにつれて見なくなった、自分を嘘つき扱いした連中や特に見返す対象の相手も死んだようだ、釣りを続ける意味も無くなっている様にも感じた、老人がシーバスを追っているのはもう目の前のマスターくらいしか知らない、
「はい、お待ち」
注文したドライカレーが出てきた、
「いいね、老後の楽しみがあって」
「楽しみ? 冗談じゃない、これは呪いだ、やらなければ死ねない、ところでマスター、何でドライカレーにはレーズンが入ってるんだ?」

マスターは咥えた煙草を灰皿に押し付け、

「解らん決まりだ、ささやかな抵抗じゃないか、それか何かの意味も伝えられなかった誰かの愛情の残り火じゃないかな、若いうちは気づかないもんよ、お前は、なんでも理屈で考えて答えを出したがる、時間の経過で答えを出さない事が答えになってしまった物事も結構有るもんだよ」
「……」
私はマスターからすればまだ若者のようだ。

仕事をしてる時は毎週末10年、退職してからの10年は朝から夜遅くまで雨が降ろうが
雪が降ろうが
台風が来ようが
大地震の後の津波警報が鳴ろうが
親が死のうが
軽い戦争が起きてミサイルが飛んで来ようが
近くで白兵戦が始まり、
銃の弾が飛び交うおうが兵士のフリして戦いながら釣りを続けた。
核戦争の危機で皆んなが避難しようが
巨大隕石が近づいてきて
皆んなが騒ごうが
嫁が浮気しようが
娘が結婚しようが
釣場に来る途中ウンコ漏らそうが
2匹目の白い愛猫が死んだ日の一日だけ以外は
この獲物を逃した砂浜に通っている、もう狂人である。
もうドライカレーの味もしなくなっていた、老人は空腹を満たすためと生命維持の為だけに胃の中に流し混んだ。
全ての感覚が麻痺してるようだった。
食事が終わるとタバコに火を着けた
『今日もダメだった……』
食後にサイフから[鮫玉肝油]のカプセルを二粒取り出し氷水で飲みこみ明日に備え、店を出た、マスターは無言だった……

 翌日も朝早くか砂浜から餌と針が付いた錘を城の上の敵をを狙う矢の様に投げ撃つ「ピューー」と陸から200メートルの位場を狙うそれを繰り返す……
半ば諦めていた運命の日はその日に突然に訪れた!
上空でトビが鳴いた……
「ピーヒョロロロロ…」
その時、
竿先が大きく上下に跳ねた、強い衝撃だった!
とんでもない強い引きが来た!
老人は直感した!
この手ごたえ奴だ!
ドラグリールから凄まじ速さで糸が出ていく!
老人は海に引き込まれそうになる!
「ぬううう」
これをで逃したらもうチャンスは無い!
砂浜に長靴の踵を押し込んで耐える!
鍔迫り合いの様に竿を刀のように左右前後に巧みに降り竿のしなりをコントロールし奴の引力を糸が切れないように必死に分散させカワスが!
《バッキーー!》
竿が折れた!
が糸はまだ繋がっている。
老人は手で糸を掴んで引っ張った!摩擦で指と手の平が切れて糸が食い込み流血してきた、老人は手ナンカどうでもよかった、アドレナリン爆発で痛みは感じない意地でも運命の糸は離さない、30分程死闘を繰り返すその時、水面にシーバスの頭が出た!
人間の目の様な魚眼がこちらを睨んでいた!
「遂に見つけた恋人よ、もう逃さん!」
動悸が凄まじい心臓が止まりそうだ、頭がクラクラする、だか此処でやめるわけにはいかない! 奴の剣山の様な背ビレが見えた狙うは背ビレの少し下である神経を全集中した空間がスローに感じた、奴の動きが一瞬鈍った、今である! 老人は息を吐いたと同時にモリを片手で祈りを込めて渾身の力で海面に投げた!
モリはいままでに無くブレずに飛んだ!
《ズン!》空間を伝って軽い衝撃を感じた!渾身のモリは刺さった!
勝負はこれでホボ決っした!
《ブッシュー》と血と水が噴水みたいに海面から噴き出た!
《グッガッワワワワ》と奴は魚と思えない断末の声を上げた!
老人はニヤリとした
「敵将討ち取ったり!」
奴は最後のアガキで空高く飛んだ空に上がり切って海面に落ちた! その時奴の全体が見えた間違いない奴だった。
指に鋭い痛みが走った!
指に糸が深く食い込んだのがわかった、爆風の様に水飛沫が老人に降り注いだ、
徐々に引く力は弱くなっていた糸を伝わって手に奴の命の火が消えていくの感じた。
老人は最後の力を振り絞ってシーバスを陸に引き上げた!
「遂にやった! やっちまった」
何かもう遠い昔に忘れた性行為の後の様な余韻を感じた……
「はっーはっー」息を整え、取りあえず落ち着くために胸ポケットからセブンスターの箱を取り出す、手を見たら骨が見えていた我慢してタバコにライターで火を着ける。
「ふー全て終わった俺に取り憑いた物語が落ちた、ふっはははははは」老人は狂たっように笑った
「よし」長年愛用しているナイフを取り出し血抜処理をし
シーバスの大きさを測った310あった! シーバスの顔は成長しっきてゴツくなっていた、まさに歴戦の王である、身体も傷だらけで口元には[エラ洗い]と言われる対釣り人対策の技を駆使して切ったと思われ後があった、釣り針が口やヒレなどにシルバーアクセサリみたい複数付いていた。
このシーバスは何年も数多の釣り人の釣魂を海に持ち去って沈めていったと思われる。
またシーバスじゃないのかもしれない何か異次元の魚が迷い込んでしまった物なんじゃないかとも思った。
血だらけの手で早速写真を撮ってこの日のために苦労して覚えたsnsに上げる、反響は凄まじく老人は一気に釣り会のパイオニアになった、TVにも出て態と遠くを見るような眼差しを作り、釣りに対して語ったりもした……

 しばらくして熱が冷めた頃、老人は虚しくなった……
海をただ見つめていた……
魚に人生の後半を全部捧げてしまった……
周りには誰もいなかった。
ただ波が引く音だけが木霊する……
海に奴はもういない。
食べてしまった。
この時心の中に疑問が生まれた
奴を狩る必要があったのか? 
そもそも私は食べるのには困ってはいない。
人間のエゴと思った。
魚に取っては人間に捕まって食べられただけである、私に対して特別な感情なんか有る訳ない。
普段のウサを晴らすために居ない敵を強引に魚にして作り上げ、私が1人盛り上がってただけである。
自分がネットの中のアラシと同じ唯のアホと同じ様な気がした何か恥ずかしくなった。
アラシにすら同情の感情を向ける私が何故、魚1匹、目の敵にし許す心が持ってなかった? いや許すも何も魚に罪は無い。
憎かったのは私を嘘つき呼ばわりした連中だろ恨むのは魚では無く奴等である、奴等が生きてるうちに見返す事ができなかった勝負はその時点で〈負け〉であって、その後、魚を狩る必要はなかった! そもそも人間ナンカ嘘の塊である、ムキになる必要なんか無かった、小さい事であった。
意味のない殺しをしてしまった、私が現役のころ守っていた事を無意識に破ってしまった……
……歳を取ったのだ若い時ならこんな事は考えなかっただろう。

心を沈める答えは出なかった……

 海を見ていたら若い頃まだ彼女だった嫁の運転するバイクの後ろに乗せてもらい、連れてこられた遠い釣りの日の事を走馬灯の様に思い出した、あの頃のアイツはキラキラ光って綺麗だった……
「ハゼが沢山釣れたと喜んでいたな」
老人の目頭は熱くなった……涙が一筋流れた老人は力尽きた様に砂浜に座り込んだ。【終】

=追記=
「……まだまだ死なんよ」

今風の青臭いアニメの真似して地平線を天に縋る(すがる)様に見て老人は悟った!
雲の隙間から光が老人に降り注いだ聖なる性を感じた……奇跡である。
下半身が熱くなった。
老人は財布の中を確認した!
万札が5枚入っていた、腕時計を見た午後の3:00だった時間は少し早いが携帯を取り出し電話をした。

「もしもし、まだかすみちゃん予約取れますか? じゃ17:00でお願いします120分コースで」

長年の宿敵に勝手にしてた魚を仕留めてやる事が無くなった事と釣れたショクで下半身が復活し性的自信を取り戻した、老人は久しぶりに夜の町に繰り出した、老人の次の狩場は夜の桃色街である。
今度の狩場は命のやり取りは存在しない健全な世界である。
空の雲は白く斑目に飛び散っていったが蒼く澄んでいた。【26へ続く】

=後書=
言うまでないが、ヘミングウェイの【老人と海】を敬意を持って? リスペクトし骨子を借りて制作した物語です。
ちなみに作者の武勇伝を言うと相模川河口で釣り上げたシーバスのサイズ80cmが最大であります。
作者も若い時に魚が可哀想に感じたので釣りはやめました。
今は趣味は無いです。

※ JGFAの記録によると、マルスズキの記録で126cm/13.14kgが釣獲されたシーバスの最大サイズとして、認定されています。

※[エラ洗い]とは
魚がハリに掛かったとき、水面に頭を出して激しく振り、ハリから逃れようとする行動。スズキが代表的な魚で、鋭いエラを使ってハリスを切ってしまうこともあります。
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