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糸が切れた操り人形 後悔

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語り
 匿名・男性三十歳

 私は上から吊るした糸で操る、操り人形を趣味で作りネット販売をしていた、部品は全て彫刻刀で木を削り作る、着せる服も自分で縫う、百パーセント手作り。でも自分が作った人形を人に知ってもらいたと思う気持ちもあるので一般の人に手が届くリーズナブルな値段を付ける。そんな感じでペースはゆっくりではあるが作った人形はほぼ売れた、しかしいつまで売れない人形を一体持っていた、そう持っていた……

 少し高いのかなと思い、安くしてもその人形は売れない、たまに売れたと思うと必ず数分もしないでキャンセルのメールが入る、そんな事を数回繰り返し、遂にその人形の写真をサイトから削除し売るのは諦めピアノの上に飾る事にした、その人形の姿は金髪の少女で、表情は何か見ている者が安心するような物を持っていた、完成した時は高く売れると思えた、それだけ自信があり、最高傑作だと思った、でも世間には受け入れられなかった。
その売る事を諦めた人形とは、置いてあるキッチンテーブルの位置との兼ね合いで、いつも向かい合う感じで食事を取る感じになっていた。
 そんな感じで食事をしていたある日の午後、インターホーンが鳴った、その来客は知らない老人だった、その老人はあの売るのを諦めていた人形を売って欲しいと言ってきた。買おうと考えていたら、私がサイトから消してしまった事で買えなくなってしまったらしい、それに不思議な事に飛ばした交渉メールは宛先不明で返って来てしまうと言う。ので、はるばる飛行機に乗りうちまで足を運んだとの事だった。
当然売買交渉が始まった。
その老人は、こちらの言い値を心良く即答で承諾してくれた。すぐ人形を販売用のシャレた箱に入れ包装紙に包み、手提げ袋に入れ老人に手渡そうとした時、何か心に引っ掛かる物を感じたが、そのまま流れで売ってしまった、そう売ってしまった……。  
 
 その日の夜、食事をしてる時に気付かされた、私は自分の作ったあの人形に恋をしていた……。
それから売ってしまった人形の姿を真似て自分様に新たに人形を作った……。
でも何か違う……納得する迄何体も何年も何体も……やがて改めてなんとなくボヤけていたある事を悟った、そのある事とは、人形は人間と同じで作り出した者でもまったく同じ者は作れない事は知っていた。そう知っていた、そこ迄は……新たに悟った事、それは、姿形が同じ物ができたとしても、ただ一つの私の心は、あの売ってしまった人形の中にいる、それはけして取り戻せない……。
買い戻そうともした、だがその老人とはどうやっても連絡は取れなかった。それに加え他に販売用に作った人形もサッパリ売れなくなった。それはあの人形が老人に売ってしまった私の事を怒り妨害しているかとさえ思えた、悪い事したと思いしばらく苦しんだが、やがて次第にあの人形は態々遠くから買取に来た老人に私から心変わりしてしまったのだと思う事にし、心を整理し諦める事とし何となく安心したその時、空で何か糸が切れた音がした様な気がし、私の手足は動かなくなった……。[終]
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