上 下
4 / 10
第一章

徒歩

しおりを挟む
かなり前に空を飛んで見たときに見えた町の方角を頼りに森のなかを歩き続ける。
道中で龍の俺には近寄ってもこない魔物たちが襲いかかってきたりしたが、魔力全快の一撃で粉砕してやった。
かれこれ歩いて数日、倒した魔物はかなりの数になり、相応の魔力を消費していた。
このままだと魔力が尽きるのも時間の問題かもしれない。

しかし、この村ってこんなにヤンヤンヤンキーしていただろうか?
人がいなくなって久しいはずなのに少し前まで人がいたような痕跡がある。
人が戻ってきているというよりは何か住み着いているのだろうか?

様々な疑念を抱きながら廃墟の町を散策していると倒れた看板があった。
その看板には謎の言語で何か書かれていた。
おそらくこの地方で使われている言葉だろう。
この世界に来たときは転生だったので、人間に転生していたら順当にいけばこれが読めたのだろう。

(はぁ、龍なんだよなぁ)

ここでチャチャっと魔法で解決することができたのならいいのだが、流石に龍の俺でも出来ることと出来ないことがある。
それに魔力を込めただけの土人形ではそんな魔法使える気がしない。

まあでも一度持ち帰って見ることにしよう。
その他にも埃を被った書物が何冊かあったのでそれをもち村を出ていこうとすると、どこかから声が聞こえてきた。
それはやはり謎の言語ではあったのだが、久しく感じる人の気配に気分が高揚してしまった。
深く考えることもなく一直線にその声の元にむかうのだった。

(ここから人の気配が…)

意気揚々と扉を鍵ごと吹き飛ばし、中に入ると檻が一つあった。
そこには恐らく人間のものと思われる少女の姿があった。
なぜ恐らくかというと、薄汚れていたということもあるが、なによりこの世界の人間が自分の知っている人間かあまり確証は持てていなかったからだ。

話しかけようと思ったが、同じ言語を有していないことを思いだし立ち止まる。
少女はこちらに対して何か言っているのだがやはりよくわからない。
取り敢えず檻から出してあげようと思い、檻を看板でぶち破る。
思ったよりも檻が脆く、派手な音をたてて崩れる。

そして倒れた少女に優しくてを差しのべようとして自分の姿をふと思い出す。
檻を一振りで吹き飛ばした異形の土人形で、顔に凹凸はなく土でできているので言葉通り土気色の体をした怪物である。

丁度余波で崩れた後ろの壁から月光が差し込み、俺の姿を照らす。

(あ、終わった)

恐怖と安堵の半々で彩られていた表情が一瞬にして恐怖一色に塗り変わる。
少女は言葉にならない叫びを上げて気絶してしまった。

これからどうしようかと思い考えていると近くで別の気配がして、振り向くとそこには少女は居なくなっていた。
遠目に少女を抱えた黒いローブの男が見えたが、若干トラウマが刺激されていたこの心理状態では追いかける気力は湧いてこなかった。

そのあと歩いて自分の元へと帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...