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The Summer Listener
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(ジャニス・ジョプリンのサマータイムが流れ、DJが話し始める。)
お届けした曲は、ジャニス・ジョプリンのサマータイムでした。
それでは、今夜最後の曲をお届けする前に、メールが届いたようです。
ラジオネーム、ポワゾンさん。
初めてメール致します。
まぁ、ありがとう。 あなたのメールずっと待っていましたよ、ポワゾンさん。
最近、眠れない夜は、この番組「薔薇の影」に耳を傾けています。
美沙さんの優しい声は、いつもゆっくりと私の心を癒してくれます。
わぉ、何とも嬉しい言葉。貴方のような素敵なリスナーが、いつも私の心の支えです。ありがとう。
私は、目が見えません。
あぁ、そうなんですね。 目がご不自由なのに、メールを送って下さって本当にありがとう。
その代わり、耳で聴き取る力は人一倍強く、一度聞いた事や物音、声は
決して忘れず、覚えていられるのが、ある意味目の見えない私への
神様からの贈り物だと思っています。
本当に、何て素敵な贈り物なんでしょう。
1か月ほど前の話になります。 留守電に残されていた内容に恐怖し、どうしたら
よいか分からず戸惑っていたのですが、美沙さんの声に促されるようにして、この
メールを送ってしまいました。
その録音されたメッセージは、こんな言葉から始まりました。
「あなたは悪魔です。あなたが今、手にしている幸福を、全て奪い取ってやる。」
このような恐ろしいメッセージが残される理由が全く分かりませんでした。
最初は、間違い電話だと思いました。
身に覚えのない他人からの恨みですし、名前も名乗らず、恐ろしい言葉で脅して来
たのですから。
でも、もしかしたら、たまたま、悪戯電話の標的になってしまった
だけかもしれない、とも思ったのです。 しかし、その留守電のメッセージをもう
一度聞き直した時に、私の中の記憶が一気に蘇り、止まっていた歯車がカタカタと
音を立て始めました。物凄い勢いで、回転し全てが繋がり始めたのです。
私を悪魔呼ばわりするこの声を、私は知っていたのです。
それは、丁度2年くらい前の、夏のある日の事です。家の電話が鳴り、受話器を
取ると、一呼吸おいて、少し言い淀むような声が聞こえてきました。
「田中さんのお宅ですか?」 その時も、探る様な物言いに、違和感を感じたのを
覚えています。
「いいえ、違います。」と答えると、息を吞む音と同時にプツリと通話が途切れま
した。
通常私は、スマホかiPadを利用して電話やlineでの受け答えをしているので、固定
電話には、滅多にかかってきません。
確かに、その間違い電話は、私の知らない人からでした。ただ、その人が通話を打
ち切る瞬間、はっきりと聞こえたのは、近くで鳴るiPhoneの着信音でした。
その着信音は、設定の中にあるサウンドではなく、オリジナルの音でした。
世界にたった一つのメロディ。
私が作った曲だったのです。 私の夫の為に。
その時は、聞き違いだと思い込もうとしました。喉に刺さった魚の小骨の様に、
時々押し寄せてくる疑惑の棘を、目をそらしながら否定し、逃げていたのです。
それが、あの恐ろしい留守電のメッセージで、全てのパズルが解け、疑いは確信に
変わったのでした。
あの時の間違い電話は、夫の浮気相手が私に探りを入れ、宣戦布告をするための
コールだったのだと。
この一月の間、まるで追い詰められ、見えない敵に捕食されるのを
待つように、 過ごしてきました。
とはいえ、元々目が不自由なのですから、敵も味方も見えないのです。
そう開き直り、心の目で相手を待ち構えようと思い直しました。
そんな折、予想もしなかった吉報が届いたのです。
私は、今、この体に新しい命を宿しています。
彼女には残念なお知らせかもしれませんが、私達夫婦は決して別れません。
だから、全てを奪い取られるのは私ではなく、メッセージを残したその方なの
です。
それと、一つ言い忘れましたが、 私は、耳だけではなく嗅覚も人より敏感です。
ジャンシャルルブロッソーの「オンブルローズ」。私が一度も使わないこの香水を
幾度となく夫の、背広やワイシャツから嗅ぎ取り、その記録も残しているのです。
それは、ほとんどが金曜日で、ちょうどこの番組のお休みと重なり、ちょっと皮肉
な感じがいたします。
だって、オンブルローズの意味は、「薔薇色の影」。
私の嫌いな香水と同じ名前のラジオ番組があるのを知った時に、この番組に興味を
持ちました。
そうして、美沙さんの美しい声を聴いて、謎解きの最後のピースがすっぽりと
はまり、この物語のすべての疑惑を、明らかにしてくれたのです。
おわかりでしょうか? 私がいる限り、あなたは所詮、影でしかなのです。
それでは、私からのリクエスト曲は、Nulbarich《ナルバリッチ》の
「VOICE」をお願いします。
わぉ、ポワゾンさん、怖いなぁ。でも、美沙にとっては最高の凍てつくメールでした。ありがとう。
今週のテーマは「夏を凍らす怖い話」です。
皆さまいかがでしたか?最後に頂いたポワゾンさんのメールは、正に私を凍らせた、見事なフィクションでしたね。
えーそれでは、リクエスト曲のVOICEを聴いて頂いている間に、今日の金色の薔薇メールを決めたいと思います。
(Nulbarich のVOICEが流れる)
お届けした曲は、ジャニス・ジョプリンのサマータイムでした。
それでは、今夜最後の曲をお届けする前に、メールが届いたようです。
ラジオネーム、ポワゾンさん。
初めてメール致します。
まぁ、ありがとう。 あなたのメールずっと待っていましたよ、ポワゾンさん。
最近、眠れない夜は、この番組「薔薇の影」に耳を傾けています。
美沙さんの優しい声は、いつもゆっくりと私の心を癒してくれます。
わぉ、何とも嬉しい言葉。貴方のような素敵なリスナーが、いつも私の心の支えです。ありがとう。
私は、目が見えません。
あぁ、そうなんですね。 目がご不自由なのに、メールを送って下さって本当にありがとう。
その代わり、耳で聴き取る力は人一倍強く、一度聞いた事や物音、声は
決して忘れず、覚えていられるのが、ある意味目の見えない私への
神様からの贈り物だと思っています。
本当に、何て素敵な贈り物なんでしょう。
1か月ほど前の話になります。 留守電に残されていた内容に恐怖し、どうしたら
よいか分からず戸惑っていたのですが、美沙さんの声に促されるようにして、この
メールを送ってしまいました。
その録音されたメッセージは、こんな言葉から始まりました。
「あなたは悪魔です。あなたが今、手にしている幸福を、全て奪い取ってやる。」
このような恐ろしいメッセージが残される理由が全く分かりませんでした。
最初は、間違い電話だと思いました。
身に覚えのない他人からの恨みですし、名前も名乗らず、恐ろしい言葉で脅して来
たのですから。
でも、もしかしたら、たまたま、悪戯電話の標的になってしまった
だけかもしれない、とも思ったのです。 しかし、その留守電のメッセージをもう
一度聞き直した時に、私の中の記憶が一気に蘇り、止まっていた歯車がカタカタと
音を立て始めました。物凄い勢いで、回転し全てが繋がり始めたのです。
私を悪魔呼ばわりするこの声を、私は知っていたのです。
それは、丁度2年くらい前の、夏のある日の事です。家の電話が鳴り、受話器を
取ると、一呼吸おいて、少し言い淀むような声が聞こえてきました。
「田中さんのお宅ですか?」 その時も、探る様な物言いに、違和感を感じたのを
覚えています。
「いいえ、違います。」と答えると、息を吞む音と同時にプツリと通話が途切れま
した。
通常私は、スマホかiPadを利用して電話やlineでの受け答えをしているので、固定
電話には、滅多にかかってきません。
確かに、その間違い電話は、私の知らない人からでした。ただ、その人が通話を打
ち切る瞬間、はっきりと聞こえたのは、近くで鳴るiPhoneの着信音でした。
その着信音は、設定の中にあるサウンドではなく、オリジナルの音でした。
世界にたった一つのメロディ。
私が作った曲だったのです。 私の夫の為に。
その時は、聞き違いだと思い込もうとしました。喉に刺さった魚の小骨の様に、
時々押し寄せてくる疑惑の棘を、目をそらしながら否定し、逃げていたのです。
それが、あの恐ろしい留守電のメッセージで、全てのパズルが解け、疑いは確信に
変わったのでした。
あの時の間違い電話は、夫の浮気相手が私に探りを入れ、宣戦布告をするための
コールだったのだと。
この一月の間、まるで追い詰められ、見えない敵に捕食されるのを
待つように、 過ごしてきました。
とはいえ、元々目が不自由なのですから、敵も味方も見えないのです。
そう開き直り、心の目で相手を待ち構えようと思い直しました。
そんな折、予想もしなかった吉報が届いたのです。
私は、今、この体に新しい命を宿しています。
彼女には残念なお知らせかもしれませんが、私達夫婦は決して別れません。
だから、全てを奪い取られるのは私ではなく、メッセージを残したその方なの
です。
それと、一つ言い忘れましたが、 私は、耳だけではなく嗅覚も人より敏感です。
ジャンシャルルブロッソーの「オンブルローズ」。私が一度も使わないこの香水を
幾度となく夫の、背広やワイシャツから嗅ぎ取り、その記録も残しているのです。
それは、ほとんどが金曜日で、ちょうどこの番組のお休みと重なり、ちょっと皮肉
な感じがいたします。
だって、オンブルローズの意味は、「薔薇色の影」。
私の嫌いな香水と同じ名前のラジオ番組があるのを知った時に、この番組に興味を
持ちました。
そうして、美沙さんの美しい声を聴いて、謎解きの最後のピースがすっぽりと
はまり、この物語のすべての疑惑を、明らかにしてくれたのです。
おわかりでしょうか? 私がいる限り、あなたは所詮、影でしかなのです。
それでは、私からのリクエスト曲は、Nulbarich《ナルバリッチ》の
「VOICE」をお願いします。
わぉ、ポワゾンさん、怖いなぁ。でも、美沙にとっては最高の凍てつくメールでした。ありがとう。
今週のテーマは「夏を凍らす怖い話」です。
皆さまいかがでしたか?最後に頂いたポワゾンさんのメールは、正に私を凍らせた、見事なフィクションでしたね。
えーそれでは、リクエスト曲のVOICEを聴いて頂いている間に、今日の金色の薔薇メールを決めたいと思います。
(Nulbarich のVOICEが流れる)
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