62 / 73
真意
しおりを挟む
「本当に大丈夫なのか?」
(エリオさんに心配してもらえるなんて。これがハルカだったらもっと良かったのに)
「一時的なことです。お気になさらないでください」
滲む汗と顔色が彼女の状態の悪さを物語っている。だが、エリオを抱えているという感激と緊張でその苦しさは緩和されていた。
「いました。セミールさんの馬車です」
馬車を追い越したアルティメットガールは少しだけ減速して高度を下げていく。
「おい、セミール。アルティメットガールだぞ」
馬車を操るフォーユンに呼ばれてセミールが荷台から前にやってくる。フォーユンが指さす方向を見ると、エリオたちを抱えたアルティメットガールが降下してきた。
減速して止まった馬車の前にマルクスとレミが飛び降り、ザックとエリオも降ろされる。
「エリオ! 我がライバルよ、無事だったよう……だ……、おわぁぁぁぁ!」
彼らを出迎えに馬車から跳びおり駆け寄っていったセミールは、大きな声を上げて急制動をかけた。それは、エリオが抱える者を見たからだ。
「そいつは!」
「心配するな。決着はついた」
地面に降ろされて座るカイルの上目遣いが睨んでいるように見えたため、セミールは以前のように卒倒しないまでも全身を硬直させて腰を落としてしまった。
「どういうことですか? いったいなにが?」
そのセミールに代わってフレスが説明を求めるのだが、エリオたちは口ごもっている。
「いろいろあり過ぎてどう話せばいいのか」
返答に悩むザックの横で、アルティメットガールはいつものような快活さ無くカイルに言った。
「カイル。約束どおり答えてもらうわ。あなたの真意を」
「真意か。俺も確かめたい。お前から感じた不自然さの正体をな」
アルティメットガールとエリオが言いだしたこととその空気に、仲間たちは困惑している。
「カイル? それって彼の名前?」
「真意ってなんだ?」
戦いの場にいなかったフレスとフォーユンは、カイルとエリオを交互に見ていた。
「このことが思ったとおりなら、わたしの仕事も心配も減るのよね。ということでカイル。質問……というかわたしの予想を聞いて」
アルティメットガールたちに囲まれているカイルはおとなしく座っている。これまで何度も彼らを震撼さた魔族とは、同一人物とは思えないほど覇気なく静かに。
「あなたはエリオさんたちを殺すつもりはなかったでしょ?」
最初のひと言めからあり得ない予想を口にした彼女を皆は凝視した。
「エリオさんたちだけじゃないわ。たくさんの魔造人形を操ってビギーナの町に来たときも、結界を突き破ってゴレッドさんたちを挑発したときも、城塞都市でセミールさんを追いかけたときも、さっきの戦いでも、彼は人を殺すつもりはなかったのだと思うわ」
この言い分に対してマルクスはすぐに反論した。
「初めて町を攻めてきたときのこいつの殺気をあんたも感じたろ? そのあとギルドにやってきたときだって。俺は正直チビリそうなほどビビってた。殺されるってな」
「あたしもよ。あそこで殺されるんだって……」
「そうね。あなたたちがそう思ってしまうほどに怒っていたんでしょうね。きっと最初はその怒りから冷静さを失っていたんじゃないかしら」
「そう思う根拠はあるのか?」
ザックの質問に彼女はコクリとうなずく。
「何十体もの魔造人形を操って町に現れたのは自分が直接手を下さないためね。怒りのままにやり過ぎないように。そういった抑制だと思えるの。それに、突然現れた大蛇に魔造人形が組み付いていったように見えたのは、皆に大きな被害が出ないようにと受け取れるわ。カイルもきっとびっくりして思わず駆け付けてきちゃったのよ。姿を消していた彼にわたしが気付けたのはそのためね」
「だけどよう、それだけじゃ説得力としては……」
これだけではマルクスは信じられず、怪訝な目で彼女に言った。
「わたしもそのときはそう思わなかった。だけど、次に町に現れたときに使ったあの黒い球の魔法。かなり手加減していたと思うの」
【ソーラエクリプス・クリメイション】という魔法によってそこら一体は消し飛ぶと感じたことを思い出し、彼らは肌を泡立てた。
「わたしが蹴り返して彼が自分で食らっちゃったけど、空で爆発したときの現象が不自然だったのよ。縦に長く伸びるように爆発が制御されていた感じで」
「どういうことだ?」
ザックはまだ理解できていない。
「もし、わたしがあの魔法を受けていても、周りの被害の規模は小さかっただろうってこと。それにね、魔法で吹き飛ばされたハルカさんをわたしが助けたときだけど、風に巻かれいた彼女は地面に近付くにつれて減速しいったの。着地のときにはその風によって守られているような感じだったしね」
彼にはエリオたちを殺す気がなかったという。このアルティメットガールの予想が信じられず、皆は驚き顔でカイルを見た。
(エリオさんに心配してもらえるなんて。これがハルカだったらもっと良かったのに)
「一時的なことです。お気になさらないでください」
滲む汗と顔色が彼女の状態の悪さを物語っている。だが、エリオを抱えているという感激と緊張でその苦しさは緩和されていた。
「いました。セミールさんの馬車です」
馬車を追い越したアルティメットガールは少しだけ減速して高度を下げていく。
「おい、セミール。アルティメットガールだぞ」
馬車を操るフォーユンに呼ばれてセミールが荷台から前にやってくる。フォーユンが指さす方向を見ると、エリオたちを抱えたアルティメットガールが降下してきた。
減速して止まった馬車の前にマルクスとレミが飛び降り、ザックとエリオも降ろされる。
「エリオ! 我がライバルよ、無事だったよう……だ……、おわぁぁぁぁ!」
彼らを出迎えに馬車から跳びおり駆け寄っていったセミールは、大きな声を上げて急制動をかけた。それは、エリオが抱える者を見たからだ。
「そいつは!」
「心配するな。決着はついた」
地面に降ろされて座るカイルの上目遣いが睨んでいるように見えたため、セミールは以前のように卒倒しないまでも全身を硬直させて腰を落としてしまった。
「どういうことですか? いったいなにが?」
そのセミールに代わってフレスが説明を求めるのだが、エリオたちは口ごもっている。
「いろいろあり過ぎてどう話せばいいのか」
返答に悩むザックの横で、アルティメットガールはいつものような快活さ無くカイルに言った。
「カイル。約束どおり答えてもらうわ。あなたの真意を」
「真意か。俺も確かめたい。お前から感じた不自然さの正体をな」
アルティメットガールとエリオが言いだしたこととその空気に、仲間たちは困惑している。
「カイル? それって彼の名前?」
「真意ってなんだ?」
戦いの場にいなかったフレスとフォーユンは、カイルとエリオを交互に見ていた。
「このことが思ったとおりなら、わたしの仕事も心配も減るのよね。ということでカイル。質問……というかわたしの予想を聞いて」
アルティメットガールたちに囲まれているカイルはおとなしく座っている。これまで何度も彼らを震撼さた魔族とは、同一人物とは思えないほど覇気なく静かに。
「あなたはエリオさんたちを殺すつもりはなかったでしょ?」
最初のひと言めからあり得ない予想を口にした彼女を皆は凝視した。
「エリオさんたちだけじゃないわ。たくさんの魔造人形を操ってビギーナの町に来たときも、結界を突き破ってゴレッドさんたちを挑発したときも、城塞都市でセミールさんを追いかけたときも、さっきの戦いでも、彼は人を殺すつもりはなかったのだと思うわ」
この言い分に対してマルクスはすぐに反論した。
「初めて町を攻めてきたときのこいつの殺気をあんたも感じたろ? そのあとギルドにやってきたときだって。俺は正直チビリそうなほどビビってた。殺されるってな」
「あたしもよ。あそこで殺されるんだって……」
「そうね。あなたたちがそう思ってしまうほどに怒っていたんでしょうね。きっと最初はその怒りから冷静さを失っていたんじゃないかしら」
「そう思う根拠はあるのか?」
ザックの質問に彼女はコクリとうなずく。
「何十体もの魔造人形を操って町に現れたのは自分が直接手を下さないためね。怒りのままにやり過ぎないように。そういった抑制だと思えるの。それに、突然現れた大蛇に魔造人形が組み付いていったように見えたのは、皆に大きな被害が出ないようにと受け取れるわ。カイルもきっとびっくりして思わず駆け付けてきちゃったのよ。姿を消していた彼にわたしが気付けたのはそのためね」
「だけどよう、それだけじゃ説得力としては……」
これだけではマルクスは信じられず、怪訝な目で彼女に言った。
「わたしもそのときはそう思わなかった。だけど、次に町に現れたときに使ったあの黒い球の魔法。かなり手加減していたと思うの」
【ソーラエクリプス・クリメイション】という魔法によってそこら一体は消し飛ぶと感じたことを思い出し、彼らは肌を泡立てた。
「わたしが蹴り返して彼が自分で食らっちゃったけど、空で爆発したときの現象が不自然だったのよ。縦に長く伸びるように爆発が制御されていた感じで」
「どういうことだ?」
ザックはまだ理解できていない。
「もし、わたしがあの魔法を受けていても、周りの被害の規模は小さかっただろうってこと。それにね、魔法で吹き飛ばされたハルカさんをわたしが助けたときだけど、風に巻かれいた彼女は地面に近付くにつれて減速しいったの。着地のときにはその風によって守られているような感じだったしね」
彼にはエリオたちを殺す気がなかったという。このアルティメットガールの予想が信じられず、皆は驚き顔でカイルを見た。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
純喫茶カッパーロ
藤 実花
キャラ文芸
ここは浅川村の浅川池。
この池の畔にある「純喫茶カッパーロ」
それは、浅川池の伝説の妖怪「カッパ」にちなんだ名前だ。
カッパーロの店主が亡くなり、その後を継ぐことになった娘のサユリの元に、ある日、カッパの着ぐるみ?を着た子供?が訪ねてきた。
彼らの名は又吉一之丞、次郎太、三左。
サユリの先祖、石原仁左衛門が交わした約束(又吉一族の面倒をみること)を果たせと言ってきたのだ。
断れば呪うと言われ、サユリは彼らを店に置くことにし、4人の馬鹿馬鹿しくも騒がしい共同生活が始まった。
だが、カッパ三兄弟にはある秘密があり……。
カッパ三兄弟×アラサー独身女サユリの終始ゆるーいギャグコメディです。
☆2020.02.21本編完結しました☆
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
世界ランク1位の冒険者、初心者パーティーに紛れ込み、辺境で第二の人生を満喫する
ハーーナ殿下
ファンタジー
青年ザガンは《武王》の称号をもつ最強の冒険者で、天神の啓示による世界順列でも最高位に君臨。しかし王都での上位ランカーとの殺伐とした、ランク戦の日々に疲れ果てていた。
そんなある日、《身代わりコピー人形》を手に入れ自由の身となる。自分の能力に99%激減リミッターをかけ、新人冒険者として辺境の村に向かう。そんなザガンのことを、村の若い冒険者たちはあざ笑う。
だが彼らは知らなかった。目の前にいるのが世界最強の男であることを。
これは99%激減でも最強クラスな男が、困っていた荒廃していた村を再建、高ランカーを押しのけて、新たな偉業を達成して物語である。
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
鬼走の洞で邂逅した小鬼。そして人生が変わった。
久遠 れんり
ファンタジー
自宅で祀っている鬼が出る穴。
導かれた俺は入り込み、人生が変わった。
男主人公。
奇妙な出会いと特訓。
特訓を経て、最強の力を得る。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる