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現れた勇者

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「やぁ!」

  かけ声と共にアルティメットガールの拳が魔族の頬を打ち抜くが、踏みとどまった魔族によってすぐに反撃されてしまう。

(この人、ずいぶん強くなってる)

  互いにガードを叩き合いながらそう感じた彼女を強い頭痛が襲った。

  すんでのところで攻撃を避け、バク宙して着地した彼女はその場に膝を突く。

「やっぱり彼女は!」

  それがダメージによるモノだと皆が思う中、エリオとレミの疑念は確信に変わった。

  頭痛の影響によって見せた隙を見逃さず襲いくる魔族。その攻撃に踏みとどまれずに後方に飛ばされながら彼女は思う。

(頭痛も再発。もう最悪だわ)

  ケープを地面すれすれに飛んでくる彼女は、エリオとサクバーンのふたりのそばを通過したところでふわりと止まる。その彼女の周りには大勢のハークマイン兵士団がいた。

(まずい!)

  ここで大規模魔法でも撃たれれば、死人は出なくても重傷者は出かねない。それを恐れた彼女は魔法攻撃の衝突点を少しでも離すために上空に飛び上がった。

「おらぁぁぁぁ!」

  しかし、その予想を裏切って飛び込んできた魔族は、笑いと叫びを織り交ぜながらの回転跳び回し蹴りでアルティメットガールを迎撃した。

  人波から蹴り飛ばされた彼女は、地面でワンバウンドしてから着地すると、目の前の状況を見てつぶやいた。

「あぁ。これはもう確定かしらね」

  このつぶやきをかき消したのは、飛び込んできた魔族から逃げる兵士たちの叫び声。

  手をかざした魔族が法名を唱えると、彼女はさらに言葉を漏らす。

「そこからなら撃つわよね」

「バルガンバースト」

  その手のひらから放たれた七十七の光弾が、縦横無尽に駆け巡りながら彼女へと向かってくる。その光弾を両腕を使って叩き落とすアルティメットガールだが、

(しまっ……)

  半数を弾き飛ばしたところでその処理をミスり、多数の爆発が彼女を飲み込んだ。

「アルティメットガール!」

  レミが彼女の名を叫ぶ中でエリオは拳を強く握って堪えている。その様子を見てサクバーンはエリオの腕を掴んだ。

「やめておけ。無駄死にするぞ」

  土煙が晴れたその場には片膝をついた彼女の姿があった。

「彼女は万全じゃない。理由はわからないけど戦う前から様子がおかしかった」

  注視したことで気付いた彼女の異変。

(今回はやばめかも……)

  アルティメットガールが立ち上がったことで皆は小さく息を吐くが、状況が好転したわけではない。彼女が構えなおすまで待っていた魔族は牙をむき出し飛びかかっていった。

  再び肉弾戦となる中でアルティメットガールは魔族に言う。

「ここからはちょっと荒っぽくいくから覚悟してよね」

  これまでの華麗さは成りをひそめ、足を止めての打ち合いが開始される。

  とは言え、手数の差は歴然。ガードを固めるアルティメットガールの肩、脇腹、こめかみへと魔族の拳が突き刺さる。その攻撃の合間にアルティメットガールの攻撃も単発ながら魔族の体を捉えていた。

(これじゃぁ効かない。これなら!)

  攻撃に意識を集中させている彼女はガードを固めていても被弾率は高い。

  そんな殴り合いをエリオたちとハークマイン兵団以外にも見ている者がいた。

「あの派手な服装の女はなんだぁ?」

  張りつめた空気の中で戦いを見守る者たち。そこに場違いな声色と声量で言葉を放り込んだ者に皆の視線が集まった。

「あいつは」、「彼は」、「あの人は」、「あなたは」

  込めた感情に合わせて様々な言葉がその者を示した。

「おめぇは! バーンエンド!」

  最後のこの言葉の主はサクバーンだ。

「よう。元気だったか、サクバーン」

「なにしに来やがった。この裏切りの勇者め!」

  この戦いの場に現れたとたん、『裏切りの勇者』と罵られたのは、爆炎の勇者マグフレア=バーンエンド。

  光沢のある軽鎧と背負った剣が醸し出す雰囲気は、素人でもわかるほど高い等級を感じさせる。そして、その持ち主はそれらの装具に劣らぬ覇気を漂わせていた。

「裏切りとか言うな。俺はただ息苦しいハークマインから自由を求めてライスーンの勇者になっただけで、やっていることは変わらねぇ」

「おめぇが背負う聖剣はハークマインの所有物だ。ライスーンの勇者に鞍替えったのなら、そいつは返却するってのが筋ってもんだろうが!」

「堅いこと言うなよ。この国のためになることもやってるんだ。それにこれを手放したら、ふたつ名が変わっちまうかもしれないだろ? 爆炎の勇者。気に入ってるんだ」

「なにが爆炎だ。自分の爆炎で爆死しやがれ!」

  爆炎のふたつ名に反して冷めた対応のマグフレアに、サクバーンは爆炎と比喩できるような熱量で怒鳴り散らす。

「そんなことよりなにか面白いことになってるんじゃないか? サクバーンは聞いても教えてくれそうもないなぁ……。そこの君。説明してくれよ」

「そんなことよりじゃねぇ。てめぇ話を聞きやがれ!」

  興奮が冷めないサクバーンをよそに、そばにいるエリオの肩を叩いた。

「簡単に言うと、俺たちを狙ってきた魔族から、彼女が助けてくれているって感じです」

  賢者の石のことが話せないため、かなり端折りつつ戦いの経緯を伝えた。
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