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片角の魔族の目的
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「境界鏡……」
ここまで静かに聞いていた魔族が言った。
「俺には焦りがあった。時間的な問題もあった。だが、それもどうでもいいような気がしてきた。境界鏡も含めてな」
これまで狂気をはらんだ圧力で奪い返しにやってきていたこの魔族が、ここにきて「どうでもいい」などと言ったことに、さすがのエリオも予想外で驚く。だが、この行動から鑑みるに、言っていることは嘘でも強がりでも、ましてや、からかっているわけでもないことがわかる。
「境界鏡。あれがなくて困ることになるのはお前たちの方だ」
「どういう意味だ?」
「元々俺の物じゃない。ある場所にあったのを奪ったんだ。犯人は俺ではないがな」
「ある場所?」
「やはり知らんのか」
ここで再び言葉を止めた。
「どういうことだ? ある場所とはどこだ? なぜ俺たちが困ることになるんだ?」
含みある魔族の言葉に対してエリオが追求するが返ってきたのは意外な言葉だった。
「あの女は来ないのか? あの女との決着がついたら教えてやる。さっきも言ったが今回はそのために来た」
その言葉で少しだけ内包する力が揺らいだ。
「お前らを痛めつけたら来るのか?」
その視線に撃ち抜かれたエリオは力の差を認識して全身を硬直させる。
「彼女は通りすがりの異世界人。俺たちを助けたのも偶然だ。彼女がそう言っていた」
「異世界人? 偶然だと?」
「そうだ。俺たちがおまえをここにおびき寄せたのも、それに釣られて彼女も来てくれるかもしれないと期待したに過ぎない。残念なことにそれは失敗に終わったけどな」
この言い分を聞いたからか、片角の魔族が内に秘めた力は沸々としてくるのを感じ、マルクスは耐えきれずにとうとう尻もちをついた。
「異世界人かどうかはわからんが、これまでのことが偶然であるかは怪しいな」
「なに?」
そう返したエリオに魔族はニヤリと笑って顎で示した。
その行動を見てエリオが後ろを振り仰ぐと、猛烈なスピードで空から接近するなにかを捉える。それがなにかと察したときには、彼と魔族のあいだの地面を弾けさせてアルティメットガールが着地した。
「エリオさん、無事で良かった」
「アルティメットガール! 来てくれたのか」
苦肉の策とはいえそれを期待した本人が彼女の登場に驚いていた。
「本意ではありませんが……、状況が状況です。お力添えします」
「本意ではないか。通りすがりの異世界人はこの世界に干渉すべきではないってこと?」
彼女の言葉からそう察したエリオの返しに、アルティメットガールは苦笑いを見せた。
「すまない。こんなことはこれっきりにするよ」
「そうですね。自ら危険なことに飛び込むようなことは得策ではありませんから」
「君が来てくれることを期待したのもあるけど、もし来なかったとしてもどうにかなるかもしれない。そういう予感があったんだ」
「どうにかなる予感ですか……。わたしもそう思います。でも確証がなかったので……」
「君も?」
このやりとりを聞いていた仲間たちはなんのことかまったく理解できていない。言ったエリオも彼女が同じ考えなのかと少し驚いていた。
「ついでに言えば今回のあいつの目的はあの魔道具でなくて君らしい」
「わたしですか?」
(だからセミールさんを追わなかったのね)
「あいつの力なら俺たちを蹴散らそうとそうでなかろうと、追いかけることなんて簡単だったはずなのに」
常人ならこの魔族を前にして視線を切ることなど恐ろしくてできないのだが、アルティメットガールはエリオの方を向いて話している。
「傷は癒えた。貴様の言ったとおり万全の状態だ」
こう声をかけられて、彼女はようやく魔族の方を向いた。
「そのようね。羨ましいくらいの肌艶してるわ」
「今度こそ本当の全力だ」
「治ってよかったわ。わたしも怪我人や力が三割引きの相手じゃ気が引けるから」
「セール品みたいに言うんじゃねぇ!」
ようやくこれまでのように覇気ある返しをした彼は、怒声で叫びながら少し笑っている。
ここまで静かに聞いていた魔族が言った。
「俺には焦りがあった。時間的な問題もあった。だが、それもどうでもいいような気がしてきた。境界鏡も含めてな」
これまで狂気をはらんだ圧力で奪い返しにやってきていたこの魔族が、ここにきて「どうでもいい」などと言ったことに、さすがのエリオも予想外で驚く。だが、この行動から鑑みるに、言っていることは嘘でも強がりでも、ましてや、からかっているわけでもないことがわかる。
「境界鏡。あれがなくて困ることになるのはお前たちの方だ」
「どういう意味だ?」
「元々俺の物じゃない。ある場所にあったのを奪ったんだ。犯人は俺ではないがな」
「ある場所?」
「やはり知らんのか」
ここで再び言葉を止めた。
「どういうことだ? ある場所とはどこだ? なぜ俺たちが困ることになるんだ?」
含みある魔族の言葉に対してエリオが追求するが返ってきたのは意外な言葉だった。
「あの女は来ないのか? あの女との決着がついたら教えてやる。さっきも言ったが今回はそのために来た」
その言葉で少しだけ内包する力が揺らいだ。
「お前らを痛めつけたら来るのか?」
その視線に撃ち抜かれたエリオは力の差を認識して全身を硬直させる。
「彼女は通りすがりの異世界人。俺たちを助けたのも偶然だ。彼女がそう言っていた」
「異世界人? 偶然だと?」
「そうだ。俺たちがおまえをここにおびき寄せたのも、それに釣られて彼女も来てくれるかもしれないと期待したに過ぎない。残念なことにそれは失敗に終わったけどな」
この言い分を聞いたからか、片角の魔族が内に秘めた力は沸々としてくるのを感じ、マルクスは耐えきれずにとうとう尻もちをついた。
「異世界人かどうかはわからんが、これまでのことが偶然であるかは怪しいな」
「なに?」
そう返したエリオに魔族はニヤリと笑って顎で示した。
その行動を見てエリオが後ろを振り仰ぐと、猛烈なスピードで空から接近するなにかを捉える。それがなにかと察したときには、彼と魔族のあいだの地面を弾けさせてアルティメットガールが着地した。
「エリオさん、無事で良かった」
「アルティメットガール! 来てくれたのか」
苦肉の策とはいえそれを期待した本人が彼女の登場に驚いていた。
「本意ではありませんが……、状況が状況です。お力添えします」
「本意ではないか。通りすがりの異世界人はこの世界に干渉すべきではないってこと?」
彼女の言葉からそう察したエリオの返しに、アルティメットガールは苦笑いを見せた。
「すまない。こんなことはこれっきりにするよ」
「そうですね。自ら危険なことに飛び込むようなことは得策ではありませんから」
「君が来てくれることを期待したのもあるけど、もし来なかったとしてもどうにかなるかもしれない。そういう予感があったんだ」
「どうにかなる予感ですか……。わたしもそう思います。でも確証がなかったので……」
「君も?」
このやりとりを聞いていた仲間たちはなんのことかまったく理解できていない。言ったエリオも彼女が同じ考えなのかと少し驚いていた。
「ついでに言えば今回のあいつの目的はあの魔道具でなくて君らしい」
「わたしですか?」
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常人ならこの魔族を前にして視線を切ることなど恐ろしくてできないのだが、アルティメットガールはエリオの方を向いて話している。
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「そのようね。羨ましいくらいの肌艶してるわ」
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