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エリオさんと合流できた

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  そんな戦いがあったとは知らず、城下町南門前でハルカはエリオを待っていた。

  四人で二時間ごとに交代しながら待つこと数時間。

「はぁぁぁぁ」

  門の横の木陰で体育座りで待つハルカは、あくびをひとつ入れてから木に体を預ける。そして、そろそろ交代時間になろうかという頃……。

  空が夕方の様相を見せ始めたとハルカが感じたとき、遠くの低い丘になにかが見えて目を凝らす。道の彼方に見えたそれが人影だと確認したハルカは立ちあがって走り出した。

「エリオさーーーーん」

  視力もさることながら走る速さも尋常ではない。彼の名を呼んだことで我に返ったハルカは減速しつつ手を振った。

  それに気付いたエリオたちは重装備のザックを置いて走ってくる。その先頭を走るのはパーティーリーダーのエリオだ。

「ハルカ!」

  彼の胸に飛び込んでグルグル回されるハルカの目は潤んでいた。

「俺たちが待つ予定だったのに待たせてしまったね」

「いいんです。エリオさんが無事なら」

  もう一度抱きしめるとエリオも同じように返したが、ふたりの心の在り方はそれぞれだ。

  エリオの笑顔は仲間の無事を喜ぶモノで、その心は親愛や友愛だ。その彼を慕うハルカの心は博愛と恋愛であり、噛み合ってはいない。しかし、彼女の心はF弾ける勢いで喜びが溢れていた。

「あたしたちも無事だったんだけど……。なにかひと言ないの?」

  エリオの次に到着したレミの皮肉めいた言葉を聞いて、ハルカはあわててエリオから離れる。

「レミさんも、みんなも無事で良かった。囮になるなんて言うから心配したんですよ」

  これは本心からの言葉だが、エリオの次いでにしか聞こえていない。

「野獣の巣なんて危険な場所を行かせてしまってすまない。心配はしたけど、ハルカとセミールたちなら抜けられると信じていたよ」

「はい。セミールさんたちが頑張ってくれたので、二日で抜けられました」

「二日?」

  にっこりと笑ってそう言ったハルカにエリオは驚いた。

「早く到着するわけだ。三日以上はかかると思ってたから」

「わたしたちのほうが遅い予定でしたので少し急ぎました」

  セミールパーティーの者が聞いたら「少し?」と突っ込むことだろう。それくらいハイペースで突き進んでいたのだ。

  戦いの過酷さもあったが、このハイペースがセミールたちを疲弊させた要因である。

「途中でトラブルにも巻き込まれたこともあって、行商さんに馬車で送ってもらいました。到着したのは昨日です。みんなはゆっくり休みましたから、その点は心配いりません」

  ハークマインの城下町に辿り着くあいだに起こったことを簡単に説明したハルカ。その言葉の中にあった『トラブル』というワードがエリオの心に引っ掛かる。

「トラブルって?」

「詳しくは町に入ってからにしましょう。みんな疲れているようですし」

  途中から歩きだしたマルクスとザックはあきらかに疲れていた。これは体力的なことではなく精神的な疲労だとハルカは気付いている。

  まずはなにより腹ごしらえだというマルクスの発言に皆はうなずき、少し早めの夕食のために食堂に向かった。宿に併設する食堂は城下町のためかさすがの広さであり、夕食には早い時間なのだがおおいに繁盛している。

「「「「いただきます!」」」

  ともかく胃袋になにかを入れようと、皆は盛られた料理に手を伸ばす。

  最初は食欲が勝ってガツガツと食べていたのだが、食べながら聞いていたハルカの話の内容に、その手と口はすぐに止まった。
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