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ヒヨッコの勇者

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  フレスとフォーユンが数人の衛兵と一緒に魔獣の残党と戦っている。ハルカも助力し、ここら一帯の残党駆除が完了した頃、気を失っていたセミールが目を覚ました。

「ん、ん、あぁぁ」

  ぼんやりとあたりを見回した彼は一瞬体をビクリと震わせ、再度キョロキョロとなにかを確認してから溜息をついた。そして、ハルカと視線を合わせると、跳び起きて駆け寄っていく。

「ハルカちゃん。良かった無事だったんだね」

  手を握ってぶんぶんと振りながら彼女の無事を喜んだ。

「怪我はないかい?」

「はい。アルティメットガールが現れて助けてくれました。それからいろいろありましたけど、わたしは大丈夫です」

  セミールが気を失ったあとのことをハルカが説明すると、今後も魔族がやってくるであろうことを知り、彼らは驚き息を飲む。特にセミールは魔族との遭遇というあの悪夢が今後も起こるのだからたまったものではない。

「この町以外にもこういったことが起こっている可能性が高いですね。早くエリオさんたちに合流しましょう」

  ハルカは町の定期馬車乗り場を探して歩き始め、彼らはトボトボとその背中を付いていく。

(あの魔族くらいならエリオさんたちでもどうにかできるはず。彼にはその兆しがあったわ)

  エリオの強さと才能を考えれば乗りこえられるという信頼はあるが、やはり心配せずにはいられない。片角の魔族ほどの強さであればさすがに逃げることもままならないからだ。

  目指すハークマイン王城の城下町の方角に意識を向けてエリオでは対処できないほどの脅威がないかを探ると、ハルカの感知能力を超えた先から感じていた朧気な力のひとつが消えた。

(きっとハークマインにも魔族に対抗できる勇者がいるのね)

  ハルカがそんなふうに考えつつ馬車乗り場に到着してから少しした頃、もうひとつの脅威も消えることとなる。

  そこは、ハークマイン国境の関所から三キロメートルほど先にある大きな町。この町でも魔族が現れ魔獣を放ち暴れていたのだが、国境に近い町であることでの防衛力が幸いし、被害は最小限に食い止められている。しかし、先遣隊として送り込まれた魔族の力は冒険者や衛兵では手に負えず、勇者を派遣するようにと電信魔道具を使ってハークマイン王都に要請していた。

  そのあいだに多くの被害が出ることは覚悟しなければならなかったのだが、偶然にも居合わせた隣国ライスーンの闘士がその魔族と戦っている。

「お前は……、人族が誇る勇者か?」

  勇者かどうか問われる長髪の青年を見下ろす魔族の左手の甲には、青い記章があった。

  その問いに片膝を突いていた青年が見上げながら答える。

「私は『勇者』の称号を冠されているが、まだまだヒヨッコだ。誇れるほどの者じゃない」

「ヒヨッコの強さがこれか。人族もあなどれん……な」

  ヒヨッコと答えた勇者の名はグレイツ=アンドラマイン。エリオと戦った『寒烈の勇者』だ。

  彼が見上げる魔族は地面から伸びる複数の氷の槍によって吊り上げられていた。

  彼がその手に持つのは聖氷剣せいひょうけんグレイブマーカー。氷の墓標を立てることからそう呼ばれるようになった仙器。

  ライスーン王国で『勇者』の称号を得てから日が浅い彼は、勇者たちの中ではまだまだヒヨッコだと言われている。彼が特別弱いということはないのだが、上には上がいることも事実。

  勇者としての強さ・・・・・・・・・は同じ称号を持つ者たちに及ばない彼は自虐的にそう言ったのだ。
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