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襲われた町を救え
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エリオたちが魔族と人狼と戦っていた頃、野獣の巣へと向かったハルカたちは……。
ハルカは魔法を駆使し、セミールは悪運を見せ、危うい戦いを何度も繰り返しつつ、二日かけて野獣の巣を抜けていた。
食事と休息、微力ながらハルカの治療を受けたセミールたちは、まだまだ疲れや痛みは残っているのだが、エリオたちとの合流地点へと向かって進み始めていた。
「途中の町でハークマイン城下町への定期便馬車を使えば、エリオたちと大差ない時間で到着できるかもな」
「そうね。でもそれは、一日ゆっくり休んでからにしましょ」
フレスの提案にセミールとフォーユンがうなずいた。
林道を抜けた先に見えた町までかなりの距離はあるのだが、彼らはホッとひと息ついた。
「あの煙、なんか不自然じゃないか?」
フォーユンがそう口にしたのは林道を抜けてしばらく歩いていたときのことだ。
そう言われて意識を向けたハルカたちは、町から昇る煙の数が多いのに気が付く。進みながらよくよく観察していると、ハルカの感知能力が町の異常事態を察知した。
(たくさんのなにかがうごめいてる)
「ハルカちゃん、どうしたんだ?」
突然走りだしたハルカに向かってセミールが叫んだ。
「町が襲われています。助けないと」
「おい、待てって!」
セミールたちもあとを追うのだが、先を走るハルカは彼らをグングン引き離していく。
「めちゃくちゃ足が速いな。エリオたちは日頃どんな訓練してんだよ。追いつけねぇ」
ハルカは常軌を逸脱しないギリギリの速度で走っていた。それはエリオの全力よりも少し早いくらいであったため、セミールが追いつけるはずもない。
到着したハルカが見たのは多数の獣や亜人による破壊活動だった。
町の中に跳び込んだハルカは魔法を駆使し、目に入った者たちを片っ端から倒していく。燃える家屋も水の魔法で消化し、怪我をしている住民には癒しの白魔術を使う。
数分遅れて到着したセミールたちはその惨状に度肝を抜かれていた。
「これはひでぇ」
この言葉のとおり町は破壊され、死傷者も目に余るほど転がっている。だが、その惨事を引き起こしたであろう獣や亜人たちも多数倒れていた。
生き残った者たちを助け避難を促しながら、かれこれ町を二周半。
「あらかた倒したわね」
劣勢だった町の衛兵団も数の優位を手に入れて盛り返していた。
(さすがに魔力が枯渇してきたわ。時間はかかるだろうけどあとは任せていいかしら)
走り回りながら魔法を撃ちまくり、避難場所を指示しては町の中心部へと向かっていく。そんなことを繰り返し進んでいったその先に、ハルカはかすかながら他とは違う気配を察知した。
「やっぱり元は立たないとダメよね」
そうつぶやいた彼女はその気配に向かって走っていく。そして見据える先のなにもない空間に視点を合わせた。
「見つけたわ。リリース・アルティメッ……」
ハルカがアルティメットガールに変身しようとしたときだ。彼女は言葉を止めて振り向いた。
「ハルカちゃーん」
路地を出てきたセミールがハルカを見つけて走ってくる。
(えーーーー。なんで来るのぉぉぉぉぉ)
「セミールさん。なんで来たんですか? ここは危険です。早く戻ってください」
「危険だから来たんだ。エリオに託された手前、君をひとりにしておけない」
「わたしは大丈夫……」
戻るように説得しようとしていたハルカは、背後に危険を感じてセミールを押し倒す。
「うわっと」
ふたりが倒れたその場をなにかが通過し、近くの民家を吹き飛ばした。
振り向いたその先で背景が歪み、おぼろげながら人影が浮かんでいる。それと同時に意識しなければ気が付かないような気配が鮮明になり、セミールの肌が泡立った。
現れたのは、ねじれた角と黒い翼を持つ褐色の肌の魔族。筋骨隆々のガッチリとした体格が迫力を生んでいる。その姿を見たセミールは先日脳裏に焼きついたあの魔族と姿を重ねてトラウマが蘇った。
「お前ら。よく俺に気付いたな」
姿と気配を消していた魔族が、その存在を気付かれたことへの指摘にセミールが答える。
「気付いてません!」
「なんで俺の攻撃を避けられた」
「避けてません!」
「ならばなんでここにやってきた」
「来てません!」
大混乱のセミールにハルカは苦笑する。
(だから待っててほしかったのに)
立ち上がったハルカはセミールを引っ張り起こした。
「話はわたしがしますから、セミールさんはみんなのところに戻ってください」
「いや、しかし。ハルカちゃんひとりでだなんて」
「大丈夫です。あの魔族はそんなに強くありませんし」
ピクッ
魔族の眉が動いた。
「わたしが本気になったらあんな人一発ですよ」
ピクピク
さらに眉がひくつく。
それでも置いていくことができない彼の責任感とプライドに、ハルカは言葉を追加した。
「なによりわたしにはエリオさんからもらった魔族も拘束しちゃう魔道具がありますから」
腰にぶら下げた魔道具を見せるとセミールの体の力がほんの少しだけ抜けた。エリオの作った魔道具が彼にわずかな逃げ道を作ったのだ。
「避難してくる人を守って下さい」
ハルカはセミールを一八〇度反転させて、責任感とプライドに新たな使命を与えた。そして軽く背中を押すと、この場から離れることをかたくなに拒んでいたセミールの足が動き出す。一度動いた足はもう止まらない。彼は後ろ髪を引かれながらも仲間の待つ場所に戻っていった。
ハルカは魔法を駆使し、セミールは悪運を見せ、危うい戦いを何度も繰り返しつつ、二日かけて野獣の巣を抜けていた。
食事と休息、微力ながらハルカの治療を受けたセミールたちは、まだまだ疲れや痛みは残っているのだが、エリオたちとの合流地点へと向かって進み始めていた。
「途中の町でハークマイン城下町への定期便馬車を使えば、エリオたちと大差ない時間で到着できるかもな」
「そうね。でもそれは、一日ゆっくり休んでからにしましょ」
フレスの提案にセミールとフォーユンがうなずいた。
林道を抜けた先に見えた町までかなりの距離はあるのだが、彼らはホッとひと息ついた。
「あの煙、なんか不自然じゃないか?」
フォーユンがそう口にしたのは林道を抜けてしばらく歩いていたときのことだ。
そう言われて意識を向けたハルカたちは、町から昇る煙の数が多いのに気が付く。進みながらよくよく観察していると、ハルカの感知能力が町の異常事態を察知した。
(たくさんのなにかがうごめいてる)
「ハルカちゃん、どうしたんだ?」
突然走りだしたハルカに向かってセミールが叫んだ。
「町が襲われています。助けないと」
「おい、待てって!」
セミールたちもあとを追うのだが、先を走るハルカは彼らをグングン引き離していく。
「めちゃくちゃ足が速いな。エリオたちは日頃どんな訓練してんだよ。追いつけねぇ」
ハルカは常軌を逸脱しないギリギリの速度で走っていた。それはエリオの全力よりも少し早いくらいであったため、セミールが追いつけるはずもない。
到着したハルカが見たのは多数の獣や亜人による破壊活動だった。
町の中に跳び込んだハルカは魔法を駆使し、目に入った者たちを片っ端から倒していく。燃える家屋も水の魔法で消化し、怪我をしている住民には癒しの白魔術を使う。
数分遅れて到着したセミールたちはその惨状に度肝を抜かれていた。
「これはひでぇ」
この言葉のとおり町は破壊され、死傷者も目に余るほど転がっている。だが、その惨事を引き起こしたであろう獣や亜人たちも多数倒れていた。
生き残った者たちを助け避難を促しながら、かれこれ町を二周半。
「あらかた倒したわね」
劣勢だった町の衛兵団も数の優位を手に入れて盛り返していた。
(さすがに魔力が枯渇してきたわ。時間はかかるだろうけどあとは任せていいかしら)
走り回りながら魔法を撃ちまくり、避難場所を指示しては町の中心部へと向かっていく。そんなことを繰り返し進んでいったその先に、ハルカはかすかながら他とは違う気配を察知した。
「やっぱり元は立たないとダメよね」
そうつぶやいた彼女はその気配に向かって走っていく。そして見据える先のなにもない空間に視点を合わせた。
「見つけたわ。リリース・アルティメッ……」
ハルカがアルティメットガールに変身しようとしたときだ。彼女は言葉を止めて振り向いた。
「ハルカちゃーん」
路地を出てきたセミールがハルカを見つけて走ってくる。
(えーーーー。なんで来るのぉぉぉぉぉ)
「セミールさん。なんで来たんですか? ここは危険です。早く戻ってください」
「危険だから来たんだ。エリオに託された手前、君をひとりにしておけない」
「わたしは大丈夫……」
戻るように説得しようとしていたハルカは、背後に危険を感じてセミールを押し倒す。
「うわっと」
ふたりが倒れたその場をなにかが通過し、近くの民家を吹き飛ばした。
振り向いたその先で背景が歪み、おぼろげながら人影が浮かんでいる。それと同時に意識しなければ気が付かないような気配が鮮明になり、セミールの肌が泡立った。
現れたのは、ねじれた角と黒い翼を持つ褐色の肌の魔族。筋骨隆々のガッチリとした体格が迫力を生んでいる。その姿を見たセミールは先日脳裏に焼きついたあの魔族と姿を重ねてトラウマが蘇った。
「お前ら。よく俺に気付いたな」
姿と気配を消していた魔族が、その存在を気付かれたことへの指摘にセミールが答える。
「気付いてません!」
「なんで俺の攻撃を避けられた」
「避けてません!」
「ならばなんでここにやってきた」
「来てません!」
大混乱のセミールにハルカは苦笑する。
(だから待っててほしかったのに)
立ち上がったハルカはセミールを引っ張り起こした。
「話はわたしがしますから、セミールさんはみんなのところに戻ってください」
「いや、しかし。ハルカちゃんひとりでだなんて」
「大丈夫です。あの魔族はそんなに強くありませんし」
ピクッ
魔族の眉が動いた。
「わたしが本気になったらあんな人一発ですよ」
ピクピク
さらに眉がひくつく。
それでも置いていくことができない彼の責任感とプライドに、ハルカは言葉を追加した。
「なによりわたしにはエリオさんからもらった魔族も拘束しちゃう魔道具がありますから」
腰にぶら下げた魔道具を見せるとセミールの体の力がほんの少しだけ抜けた。エリオの作った魔道具が彼にわずかな逃げ道を作ったのだ。
「避難してくる人を守って下さい」
ハルカはセミールを一八〇度反転させて、責任感とプライドに新たな使命を与えた。そして軽く背中を押すと、この場から離れることをかたくなに拒んでいたセミールの足が動き出す。一度動いた足はもう止まらない。彼は後ろ髪を引かれながらも仲間の待つ場所に戻っていった。
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