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人助けはお手の物!
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驚異的な疾走力により一分とかからず少年の言っていた場所に到着したハルカは、木陰からその先のひらけた場所をそっと覗き見る。そこには獣の巣となりそうな洞穴があり、標準規格より大きめのカイトシールドを構える巨漢の重闘士がスペリオルウルフェンの群に囲まれている。
「えーと、スペリオルウルフェンだったっけ。魔獣よね。大きな犬じゃなくてウルフェンって狼かな?」
緊張感に欠ける言葉で冒険者の基礎知識にあった危険対象一覧を思い出し口にするハルカ。
一対一ならば勝てる実力はあるようだが多勢に無勢。彼の後ろで倒れている仲間と思しき少女を守っているため、抵抗むなしく追い込まれている。
「このままじゃ危ないわね」
ハルカは森から飛び出して魔獣の群に身をさらし、自分へと意識を向けさせた。その行動によって重闘士を包囲する後方の十頭ほどが向きを変え、ハルカを警戒しつつにじり寄ってくる。
「確かそれなりに火耐性があったはず」
ハルカが思い出したとおり、長めのダークグレーの体毛は火耐性を備えている。大型犬をふた回りたくましくした体格のスペリオルウルフェンの強さはそこらの野獣と比べるまでもない。さらに集団で行動するため遭遇すればやっかい極まりなく、並みの冒険者は成す術などない。並みの冒険者ならば……。
「フリージングハリケーン」
ハルカが無造作に差し向けた杖と発した法名により、魔獣の群の足元から極寒の旋風が立ち上がる。その魔法は駆け出しのD級冒険者である彼女ではあり得ない、絶大な威力と規模によって顕現された。
「なんだ?!」
大盾に身を隠しつつ後退する男を少々巻き込み、極寒の旋風が荒れ狂う。数秒間その魔法にさらされたスペリオルウルフェンの群は、猛烈な冷気の渦によって体温を奪われ、霜に覆われた状態で戦闘不能になっていた。
近くにいた助けるべき巨漢の重闘士もその冷気に当てられてしまい、冷却された盾と鎧が彼に苦痛を与える。それでも後ろに倒れる少女に覆いかぶさり、冷風から守っていた。
「ごめんなさい!」
それに気付いたハルカは慌てて彼のもとに走り寄って謝罪する。
「魔法には慣れていなくて」
まれに見る強大な魔法の威力に一瞬ほうけていた彼だったが、すぐに意識を戻してハルカに言った。
「今の魔法は君か? 謝る必要はない。感謝する。おかげで命拾いをした」
「間に合って良かったです」
その言葉に彼はつらそうに目を伏せた。
「残念だが間に合ってはいないかもな」
「まさかもう犠牲者が?」
「あぁ。仲間が酷い傷を追った。どうにかこの場からは離れることはできたが、あの傷ではどこかで力尽きるかもしれん」
彼は立ち上がろうとするが、太ももに受けた咬み傷の痛みがその意思と行動を阻害している。追いかけることもできない腹立たしさで唇を震わせていた。
「それはマルクスって人ですか?」
ハルカの口から出た名前に巨漢の男は伏せていた目を見開いた。
「なぜマルクスを?! 会ったのか? 無事なのか?」
ハルカの腕をグイグイと引っ張る彼に、ハルカは「んがんが」と妙な声を出しつつ答える。
「ここに来る途中に会ってあなたたちのことを聞いたんです。酷い傷でしたのでとりあえず出血だけは止めておきました」
「出血を止めた? ってことは君は治療系のポーションを持っているのか?」
さらに激しく腕を引っ張る彼にハルカは首を横に振った。
「いえ、そういったポーションは持っていません。わたしは白魔術士なんです。適性は……」
『低いんですけど』という言葉を言う前に、彼は言葉を被せる。
「本当か? だったらこいつも治療してくれ。かなり深い傷を負っているんだ」
彼の後ろにかくまわれていた少女を見たハルカは眉根を寄せる。ハルカとは違う痩身矮躯の可愛らしい体は血にまみれ、両手両足は多数の噛み傷によって損傷していた。
その首にぶら下げられた冒険者証を縁取る色は白。ハルカとそう変らないであろう年齢の彼女のランクは、さっき会ったマルクスという少年と同じなのだとわかった。
リュックから水筒を取り出して傷を洗い、丁寧にタオルで拭いてから使った白魔術は、術者のハルカが苛立ちを覚えるほど遅々とした治癒速度。だが、それを見守る彼はなにも言わない。少しずつ出血が止まってくるのを見て、彼は安心したのか大きく息を吐いた。
二十頭ものスペリオルウルフェンという魔獣が倒れ、静かな森の騒めきが心地よいとさえ思える空気の中でハルカは感じる。
(なにか来る)
森の木々を蹴散らす激しい音と風が破ったのは次の瞬間だ。
重闘士の一瞬の気のゆるみを突くように群のボスと思われる魔獣が、ハルカの前に飛び出し姿を現した。
「えーと、スペリオルウルフェンだったっけ。魔獣よね。大きな犬じゃなくてウルフェンって狼かな?」
緊張感に欠ける言葉で冒険者の基礎知識にあった危険対象一覧を思い出し口にするハルカ。
一対一ならば勝てる実力はあるようだが多勢に無勢。彼の後ろで倒れている仲間と思しき少女を守っているため、抵抗むなしく追い込まれている。
「このままじゃ危ないわね」
ハルカは森から飛び出して魔獣の群に身をさらし、自分へと意識を向けさせた。その行動によって重闘士を包囲する後方の十頭ほどが向きを変え、ハルカを警戒しつつにじり寄ってくる。
「確かそれなりに火耐性があったはず」
ハルカが思い出したとおり、長めのダークグレーの体毛は火耐性を備えている。大型犬をふた回りたくましくした体格のスペリオルウルフェンの強さはそこらの野獣と比べるまでもない。さらに集団で行動するため遭遇すればやっかい極まりなく、並みの冒険者は成す術などない。並みの冒険者ならば……。
「フリージングハリケーン」
ハルカが無造作に差し向けた杖と発した法名により、魔獣の群の足元から極寒の旋風が立ち上がる。その魔法は駆け出しのD級冒険者である彼女ではあり得ない、絶大な威力と規模によって顕現された。
「なんだ?!」
大盾に身を隠しつつ後退する男を少々巻き込み、極寒の旋風が荒れ狂う。数秒間その魔法にさらされたスペリオルウルフェンの群は、猛烈な冷気の渦によって体温を奪われ、霜に覆われた状態で戦闘不能になっていた。
近くにいた助けるべき巨漢の重闘士もその冷気に当てられてしまい、冷却された盾と鎧が彼に苦痛を与える。それでも後ろに倒れる少女に覆いかぶさり、冷風から守っていた。
「ごめんなさい!」
それに気付いたハルカは慌てて彼のもとに走り寄って謝罪する。
「魔法には慣れていなくて」
まれに見る強大な魔法の威力に一瞬ほうけていた彼だったが、すぐに意識を戻してハルカに言った。
「今の魔法は君か? 謝る必要はない。感謝する。おかげで命拾いをした」
「間に合って良かったです」
その言葉に彼はつらそうに目を伏せた。
「残念だが間に合ってはいないかもな」
「まさかもう犠牲者が?」
「あぁ。仲間が酷い傷を追った。どうにかこの場からは離れることはできたが、あの傷ではどこかで力尽きるかもしれん」
彼は立ち上がろうとするが、太ももに受けた咬み傷の痛みがその意思と行動を阻害している。追いかけることもできない腹立たしさで唇を震わせていた。
「それはマルクスって人ですか?」
ハルカの口から出た名前に巨漢の男は伏せていた目を見開いた。
「なぜマルクスを?! 会ったのか? 無事なのか?」
ハルカの腕をグイグイと引っ張る彼に、ハルカは「んがんが」と妙な声を出しつつ答える。
「ここに来る途中に会ってあなたたちのことを聞いたんです。酷い傷でしたのでとりあえず出血だけは止めておきました」
「出血を止めた? ってことは君は治療系のポーションを持っているのか?」
さらに激しく腕を引っ張る彼にハルカは首を横に振った。
「いえ、そういったポーションは持っていません。わたしは白魔術士なんです。適性は……」
『低いんですけど』という言葉を言う前に、彼は言葉を被せる。
「本当か? だったらこいつも治療してくれ。かなり深い傷を負っているんだ」
彼の後ろにかくまわれていた少女を見たハルカは眉根を寄せる。ハルカとは違う痩身矮躯の可愛らしい体は血にまみれ、両手両足は多数の噛み傷によって損傷していた。
その首にぶら下げられた冒険者証を縁取る色は白。ハルカとそう変らないであろう年齢の彼女のランクは、さっき会ったマルクスという少年と同じなのだとわかった。
リュックから水筒を取り出して傷を洗い、丁寧にタオルで拭いてから使った白魔術は、術者のハルカが苛立ちを覚えるほど遅々とした治癒速度。だが、それを見守る彼はなにも言わない。少しずつ出血が止まってくるのを見て、彼は安心したのか大きく息を吐いた。
二十頭ものスペリオルウルフェンという魔獣が倒れ、静かな森の騒めきが心地よいとさえ思える空気の中でハルカは感じる。
(なにか来る)
森の木々を蹴散らす激しい音と風が破ったのは次の瞬間だ。
重闘士の一瞬の気のゆるみを突くように群のボスと思われる魔獣が、ハルカの前に飛び出し姿を現した。
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