とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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005章 ドリタニア世界

5章005ー 結果的に大団円?

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 なんかえらく殊勝な言葉を口にした勇者ライアナは、おずおずとした様子で俺に近づいてきた。
「その……あなたのあの美しいお姿を拝見して以降……なんて言えばいいのだろう……私のこの胸のときめきが押さえられないの……あなたの姿を想像するだけで、胸が高鳴るというかドキドキしちゃうっていうか……」
 そう言うと、勇者ライアナは俺の前で片膝をついた。
「もうね、これは運命の出会いだと思うのよ! ね、あなたもそう思わない? そう思うでしょ? ね、もう間違いないわよね?」
「い、いや、俺はそこまでは思わな……」
「だからね、私考えたの……」
 ……こいつ、人に話を振っておきながら俺の話は聞く気なしかよ……
 で、目をキラキラと輝かせながら勇者ライアナは片膝をついたまま俺ににじり寄ってきた。
「まずはお友達から始めていただけませんか?」
「いや、断る」
「そうと決まったら、まずはどこにデートにいきます? あ、私、幼少の頃から勇者の修行に明け暮れてたからそういったことにすっごく疎いの。だからさ、そこはあなたにエスコートしてもらえたら助かるんだけど……」
「だから断ると……」
「やはり、夕食の後は夜景の見えるバルコニーで語らうというやつをしないとダメよね。お互いに語り合いながら、そっと肩を抱かれたりしちゃったりなんかして、そのままお互いの顔が近づいていってそのまま……やだ、もう何をう言わせるのよぉ」

 ……なんなんだ、この駄勇者は……
 魔王の討伐をしないばかりか、いきなり俺相手に盛りのついた犬のようにラブラブオーラを振りまきまくりだして、こっちの話をまったく聞きゃしない……おそらく男性経験がないもんだから恋愛に妙な妄想でも持っているんだろうけど……それを押しつけられたらこっちとしてもたまったもんじゃない。

 俺は、胸に手をあてて頬を上気させまくっている勇者ライアナにむかって再度言葉を投げかけようとした。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
 そんな俺と勇者ライアナの間に、いきなり出現したビナスが割り込んできた。
 ビナスは、先ほどまで魔王その1から3を鍛えていた際と同じ格好をしていて、右手にハリセン、左手に鞭を持っている。
 で、よく見ると部屋の奥に魔王その1から3とミラッパまでやってきているのがわかった。
「あなた、私の旦那様に対して何を言っていらっしゃるのかしら?」
 ビナスはそう言うとニッコリ微笑んだ。
 ……うん、氷のように冷たい笑顔だ。
 そんなビナスの前で、勇者ライアナは
「はい? 何言ってるのかしら、このちびっ子。何、マイラバーのことを勝手に旦那様呼ばわりしてんの?」
 ゆらぁって感じで立ち上がると、ビナスの顔に自分の顔を押し当てていった。
 そんな感じで、ビナスと勇者ライアナが一触即発の状態になっていると、魔王その1から3の3人が一歩前に歩み出た。
「おいおい勇者ライアナよ、相手が違うだろ、相手が」
「貴様の相手は、魔王ビナス様の特訓によって生まれ変わった俺達魔王三人衆だぜ」
「いいか、俺達を今までの俺達と思うんじゃ……」
 そんな台詞を口にしていた3人なんだけど、その台詞の途中で勇者ライアナはギロッっと3人を睨み付けていくと、
「雑魚は黙ってて! 今、あたしはこのちびっ子と話をしてんのよ!」
 そう言うが早いか、右手を一閃した。
 すると、その腕の軌道に合わせて、すさまじい光の矢が出現し、3魔王を一瞬で一刀両断してしまった。
「ミラッパ危ない!」
 俺は、その後方に立っていたミラッパのもとに短距離転移すると、魔法袋から宝剣を取り出した。

『魔法反射(マジックリバース)の宝剣』
 大魔王の部下だった暗黒大魔道士ダマリナッセ・ザ・ゾンビアってやつが所有していた宝剣で、すべての魔法を弾き返すことが出来るっていう代物だ。
 ただ、その代償として魔力をごっそりもっていかれるのが玉に瑕だが、今は非常事態だ、そんな事はいってられない。
 なにしろ勇者ライアナはが放った光の矢って、この城を中心にして半径10キロくらいを巨大な穴ぼこに変えてしまうくらいの破壊力を持っていたんだ。いくらミラッパが魔王の娘で強いといっても、この直撃をくらったら無傷ではすまない。
 で、俺が宝剣を構えたのを見たビナスは、俺の意図を察してすでに勇者ライアナの前から瞬間移動で姿を消している。
 というわけで、俺はなんの遠慮もなく勇者ライアナの放った光の矢を剣で切りつけていった。
 すさまじい閃光とともに、勇者ライアナが放った光の矢は、一瞬にして進行方向を変え勇者ライアナに向かって突進していった。
「へ?」
 一瞬何が起きたのか理解出来なかったらしい勇者ライアナは、その場で目を見開きながら固まっている。
 そんな勇者ライアナに、弾き返された光の矢が命中していった。

 どっご~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん

 そして、すさまじい音響とともに、ドリタニア城が吹っ飛んでいった。

◇◇

「派手にいったなぁ」
 俺は、ミラッパをお姫様抱っこした状態でかつて城があったあたりの近くにいた。
 城は跡形もなく吹き飛んでいる。
 ビナスの転移魔法でこの地に移動した俺達。
 ミラッパは俺に抱きかかえられているのが嬉しくて仕方ないらしく、
「やっぱりダーリンは最高っぱ」
 そう言いながら俺の首に抱きついて頬に何度もキスをしている。
 で、俺はビナスへ視線を向けると
「ありがとなビナス、助かったよ」
 そう言い、笑顔を向けた。
 そんな俺に、ビナスは笑顔を返し、
「旦那様のお役にたてたのでしたら何よりですわ……」
 そう言ったんだけど、その後、
「……しかし、あの魔王三人組……ほんっと魔王の面汚しでしたわね」
 ボソッとそんな言葉を口にしていたわけで……どうやら同じ魔王としてちょっと許せない部分があったんだろうな。
 
 で、そんなビナスを苦笑しながら見つめている俺の目の前に

『ミッションコンプリート』

 と書かれたウインドウが表示された。
 あ、そっか……結果はどうあれ、勇者ライアナが三魔王を倒したってことになるのか、これ。
 依頼は勇者を魔王討伐に向かわせろとかそんなやつだったけど、勇者が魔王を全部倒したわけだし、それでオッケーってことなんだろう。
 なんか、すっごい棚ぼたな感じがしないでもないんだけど……まぁ、結果良ければすべてよしだ。
「じゃ、帰るかみんな」
「うんっぱ! ダーリン!」
「はい、旦那様」
 俺の言葉にミラッパとビナスも頷いた。

 そんな俺達の姿が光に包まれていく。
 俺達はそんな中で目を閉じた。

 ガシっ

 ……うん? なんだ?
 俺は、なんか右足を掴まれたような気がしたんだけど、そこで俺の意識は途切れていった。

◇◇

 目を開くと、俺達は出発した社員寮の地下室にいた。
 異世界転移用の魔法陣の部屋だ。

 そこに俺達はいた……4人で……

 俺・ミラッパ・ビナスは、全員揃って俺の右足の先を見つめていた。
 そこに勇者ライアナがいた。
 勇者ライアナは、俺の右足を掴んだまま気絶している。
 ……どうやら、元の世界に戻る寸前だった俺に駆け寄ってきて、俺の右足を掴んだ結果なんだろう……
 俺達3人が唖然とした表情を浮かべている前で、勇者ライアナはしっかりと俺の右足を掴んだままうつぶせに倒れ込んでいた。

◇◇

 それからの話をしておこう。
 これはメフィラから聞いたことなのだが、ドリタニア世界は3魔王が消滅し、勇者ライアナがいなくなっても、結果として何も変わっていなかったらしい。
 勇者ライアナが魔法の直撃をくらってくれたおかげで、被害はドリタニア城とその周囲にあった3魔王達の魔王城だけにとどまったらしい。
 そのため、ドリタニア世界の魔王とその部下達が一瞬にしてすべて滅んだわけだ。
 おかげで、世界にようやく平穏が……
 っていうか、元々平穏だったわけだけどね。
 何しろ勇者ライアナが自己満足にひたりたいがために、わざと魔王達を強くしようとしていたわけで、そんな勇者ライアナを魔王達はなんとかして倒そうとしてたけどまったく歯が立っていなかった……そんなもんだから、城や街を襲う余裕なんてなかったんだ。だからあの世界は、魔王が3人もいたのにずっと平穏だったわけなんだ……ちょっと城と城下街の位置が変わったくらいでね。
 そんなわけで、ドリタニア城と魔王城が吹っ飛んで無くなっていることに、ドリタニア世界の人々はいまだに気がついていないそうだ。
 ……まぁ、ドリタニア世界の女神から依頼されていた内容は無事果たせたわけだし、これでよしとしてもらいたい。

 ドリタニア世界の女神には、魔王の力量にあった、若しくはちゃんと魔王を倒そうとする人物を勇者にするよう、勇者の人選をしっかり行うように進言したい。

「……ま、こんなとこかな」
 自室で今回の仕事の報告書を書き上げた俺は、椅子に座ったまま大きく伸びをしていった。
「ウインダ、お疲れ様」
 そんな部屋の中に、ナイスタイミングでロミネスカスがお茶を持って来てくれた。
「ロミネスカス、ありがと」
 俺はロミネスカスからお茶のはいったカップを受け取った。
「今回の仕事は随分簡単だったみたいね?」
「いや、まぁ結果だけ見ればそうだけど……結構難儀したよ」
 そう言いながら俺は窓の外に視線を向けていった。
 そこには、ロミネスカスがやっているベランダ菜園がある。
 ロミネスカスが薬草なんかを試験的に育てているんだけど、その一角に妙な小屋が出来上がっている。
 人一人がはいるのがやっとのスペースなんだけど、その中は魔法で空間が広げてあるらしくて、結構広いらしい。
 で、その中に勇者ライアナが住み着いている。
 俺の足に根性でしがみついて、この世界にまでついてきた勇者ライアナ。
 俺は即座にドリタニア世界へ送り返すようにメフィラにお願いしたんだけど
「あ~、もう無理ですねぇ。もうゲートが閉じちゃってますからねぇ」
 そう言って、肩をすくめながら首を左右に振っていった。
 と、言うわけで、元の世界に戻れなくなった勇者ライアナは、そこに居着いたわけなんだが……
 なんというか、異常なまでに恋愛に妙な妄想を持ってるライアナは、俺の相手をするローテーションに入ること拒否し
「そ、そんな破廉恥な!? ま、まずはですねデートを重ねていってですね……」
 とまぁ、理想のデート論を延々語っていったわけです、はい。
 で、ロミネスカス・ミラッパ・ビナスの3人は自分達の回数が減らないとわかったもんだから、勇者ライアナを受け入れる事に賛同したわけだ。
 その代償として、俺は俺の部屋の窓のすぐ横に住み着いた勇者ライアナに、部屋の中からずっと監視されている……こうしてお茶を飲んでいる今も、勇者ライアナはあの部屋の隙間から俺の姿を見ているんだろうなぁ。息をはぁはぁさせながら……

 新しい頭痛の種が増えたことに、俺は大きなため息をつくことしかできなかった。

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感想 6

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みんなの感想(6件)

ハスト サヅルシ

勇者派遣と女子プロレスの更新再開を楽しみにしてる自分です

解除
阿倍野虎男
2022.04.26 阿倍野虎男

執筆お疲れ様です♪

解除
ハスト サヅルシ

異世界コンビニでの客演ではビナスさん無双状態ですね。
この作品の更新も楽しみにしてます。

解除

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