とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
上 下
41 / 42
005章 ドリタニア世界

5章004ー ビナスブートキャンプ

しおりを挟む
 翌朝……
 新ドリタニア城の郊外にある小高い丘の上に魔王その1からその3までが集合していた。
 無論、ビナスが集合させたわけだ。
 で、魔王達なんだけど……ビナスが指定したらしい白いランニングシャツに短パンという、子供達が学校で体育の授業でも受けるのか?みたいな格好をしている。
 そんな3魔王の前にビナスが立っているんだけど、ビナスはいつものようにニコニコ微笑んではいるものの……その右手にはでっかいハリセン、左手にはトゲのついた鞭を持っている。
 あのハリセンってば、オリハルコン製だな……で、鞭のトゲにはドラゴンの牙が使われてるし……
 そんな物騒な代物を両手に抱えているビナスは、3魔王を一瞥すると、
「では、皆様の能力向上特訓を開始いたしますわ。あの小娘勇者にこれ以上馬鹿にされないよう、しっかり鍛えるのですよぉ」
 そう、高らかに宣言していった。
 で、それを受けた3魔王はというと、昨日魔王その1がビナスの小指デコピンであっさり敗北したのを知っているもんだからか、皆おとなしく従っていた。
 そんな3魔王の周り……丘の周囲には3魔王の配下らしい魔族や魔獣達が集合していて、
「魔王様しっかり~!」
「頑張ってください~」
 みたいな歓声をあげまくっている。

 で、俺はそんな魔族達をビナスの後方から眺めているんだけど……
 
 やべぇ……こいつら超弱ぇ……
 思わず眉をしかめた。

 何しろそこに集合している魔獣達って、図体のでかいのはまだしも、人種と同じサイズの奴らなんて人種の平均的な騎士にもあっさり負けるだろ、っていうくらい弱い能力しか持っていないやつしかいない。
 これは魔王が脆弱だってことの現れでもあるわけだ。
 この魔族や魔獣達を作り出しているのはビナスの前でストレッチを行っている3魔王ってことになる。
 で、作り出された魔獣達はその創造主より強くなることはありえない。
 つまり、こいつらがここまで弱いのは、それだけ魔王が脆弱だってことの現れでもあるわけだ。
 ……こんなに弱い魔王に対して、なんであんな強大な勇者を誕生させたんだ、この世界の女神は?
 俺はそんなことを考えながらため息をついていった。

 そんな俺の前で、ビナスによる3魔王強化特訓が始まった。

◇◇

 ……で、開始からまだ10分もたってないんだけど……3魔王は地面に倒れ込んでいる。
 苦しそうなうめき声を上げながら、ピクリとも動かない。

「じゃあまずは軽い組み手から……ミラッパさんお相手をよろしくお願いしますわ」
「ぱぁ!」
 というわけで、まずはミラッパによる組み手からスタートした魔王強化特訓なんだけど、
「ミラッパぱ~~~~~~~~~~~~~んち!」
「ひでぶぅ」
「ダブルミラッパぱ~~~~~~~~~~~~~んち!!」
「あべしぃ」
「大車輪ミラッパぱ~~~~~~~~~~~~~んち!!」
「たわばぁ」
 ……とまぁ、3魔王全員ミラッパのパンチ一発でぶっとんだわけです。
 1度は気合いで立ち上がった3魔王ですが、
「ミラッパあぱかっと!」
「ひでぶぅ」
 あぁ、もう後はわかるよね。
 3魔王とも再びミラッパのパンチ一発で吹っ飛ばされて、そして今にいたるわけだ。

 まぁ、確かにミラッパが強すぎるのも理由のひとつではある。
 ミラッパは、魔王としてはまだまだ未成熟だけど、その格闘センスとスピード、そしてパワーに限って言えばすごい物を持っている。
 その3点だけで勝負した場合、俺でも五分の勝負が出来たら良い方だろう。
 あ、誤解がないように言っておくが、さっきのはあくまでも俺が素手でミラッパの相手をした場合の話であって、俺が宝剣や魔法を使えば話は別だ。
 俺は宝剣を使うことを得手にしている勇者だからね、能力をフルに使えば魔王未満のミラッパ相手に後れを取ることはない。

 ……しかし、だ。

 今ミラッパの前でぶっ倒れているのは全員魔王だ。
 少なくともミラッパより劣っているのが当たり前なんだが……ほんっとあいつら弱いんだな。

 で、ビナスはその結果をある程度予期していたらしく、
「さ、次にいきますわよ」
 そう言うと、鞭で地面をビシッと叩いていった。

 ……その後は、地獄が展開されていった。

 城10個分の重量がある魔石を抱えてのマラソン
 1000倍の重力磁場の中でのスクワット
 背に山を1つ乗せた上での腕立て伏せ

 とまぁ、すごいメニューがどんどん続いていったわけだ。
 そのあまりにも壮絶な特訓メニューの数々を前にして応援団も徐々に声を失っていった。
 ……ただ、応援団が声を失ったのにはもうひとつ理由がある。
 3魔王と一緒に
「腹ごなしっぱ」
 といって特訓に飛び入り参加していたミラッパが、3魔王の誰一人としてまともにこなせていないこれらのメニューを全て軽々とこなしていたからに他ならない。
「……おいおい、あの女の子、何者なんだ?」
「確か、魔王の娘とか言ってなかった?」
「あ、あれで魔王じゃないのか、おい……」
 と、まぁ、そんな感じでほとんどメニューをこなせていない3魔王の横で、
「あはは、た~のし~っぱぁ」
 と、笑顔を絶やさないミラッパの姿に、恐怖すら感じている……そんな感じかな、うん。

 俺はビナスによる特訓をそんなギャラリーに混じって観戦していたんだけど、そんな俺の脳内に不意に思念波通信が入ってきた。
『……ちょっとあなた、今お時間いいかしら?』
「……その声、勇者ライアナか?」
『えぇ、そうよ……で、どうかな? 今少し会えたりする?」
 と、そんな感じで勇者ライアナに呼び出された俺はギャラリーを離れると、飛行魔法を駆使して一路ドリタニア城へと向かっていった。
 魔法壁が展開されているけど、俺の魔法ならこれくらいどうということはない。
 魔法壁を部分解除して中へ入り、俺は勇者ライアナが住んでいるというドリタニア城へとたどり着いた。
 指定された玉座の間へ移動していくと、そこには勇者ライアナがいた。
 玉座に座っていた勇者ライアナは、俺が到着したことに気がつくと慌てて立ち上がり、
「き、急に呼び出してごめんなさいね」
 そう言いながら俺の側へ小走りで近寄って来た。

 で、今日の勇者ライアナなんだけど、昨日とは様子が違っていた。
 軽装とは言え戦闘しやすい服装をしていた昨日とは違い、今日の勇者ライアナは薄手の白いワンピースを着て白い羽帽子を被っている。
 気のせいか、うっすらと化粧をしているように見えなくもない。

「私服なのか? 昨日とは随分様子が違うけど……」
「う、うるさいわね……いいでしょ別に私が何を着たって」
「あぁ、まぁそうだけど……うん、似合ってるぞ」
「う、うぇ!?」
 俺が一言服を褒めると、なんか勇者ライアナのヤツってば、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 昨日の俺様な態度しか見てなかったもんだから、なんか勇者ライアナのこんな反応って意外だな。
「で、要件はなんなんだ? 急に呼び出したりして」
 俺がそう言うと、勇者ライアナはハッとしながら顔をあげ、一度大きな咳払いをしていった。
「そ、その……い、一応謝罪をしておこうと思ったのよ」
「謝罪?」
「ほ……ほら……き、昨日……その、あ、あなたの……は、裸見ちゃったじゃない……その……ご、ごめんなさい……」
 へぇ……なんか律儀なとこもあるんだな、勇者ライアナって。
 この件に関しては、勇者ライアナの俺様な性格からしたら「昨日はよくも変な物を見せたわね」とか言い出すんじゃないかと思ってたんだけど……
「あぁ、そんなことか。別にいいよ、見られて恥ずかしい体はしてないつもりだし」
 そんなわけで、俺は冗談交じりでそう返答していった……んだけど……そんな俺の前で、勇者ライアナはなんかさらに真っ赤になっていた。
「……えぇ……その、大変お美しゅうございました」
 真っ赤になったままそんな言葉を口にする勇者ライアナ。
 俺はそんな勇者ライアナの様子を前にして思わず目が点になっていった。

ーつづく
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...