とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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EX04 パルマ世界での通常の日々 その4

EX04ー002 こんな日々 

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 あぁ、冗談だと思ったよ。
 いくら何でも、やるはずがないと思ったよ。

 でもな、俺の目の前に立っているノカザムは


 間違いなく化粧してる
 間違いなくウィッグ付けてる
 間違いなく女物の甲冑を身につけてる

 例の女性商会の護衛任務の仕事が入ったらしいテリアの後ろに、そんな格好のノカザムがスタスタとついて歩いているわけなんだが

 ロミネスカスは下を向いて肩を振るわせている。
 ミラッパは腹を抱えて大笑いしている。
 ビナスは、一応にっこり微笑んではいるんだけど、その体が小刻みに震えまくっている。
 
 ロステータはロステータで必死にそっぽを向いてるし
 プリアまでもが両手で顔を押さえてプルプルしている。


 はっきり言おう


「怖いよ、お前……」
 俺もまた、必死に笑いをこらえながらそう一言発するのがやっとだった。


 何しろあれだ。
 身長も結構高いし、体格も割といい。
 男としてはなかなかな作りの顔ではあるが、女成分皆無のその顔で女装をされるとだな……さすがにこれは……と思わざるを得ないんだけど

「皆さん、ご覧くださいな。ノカザムったら、女の子の姿もなかなか似合うでしょう?」
 と、ここまでの俺達の反応とは180度違う方向の言葉を口にするテリア。
 なんか、すごく嬉しそうに微笑みながらそう言うテリアなんだが……どうも本気で言っているらしい。
 その証拠に、横にたってる雌ゴリラ……じゃ、なかった、ノカザムの顔を愛おしそうに撫でている。

 あぁ、あれだな、これ
 今まで、ノカザムのマザコンばっか気になってたけど、
 テリアの親ばかぶりも、こりゃ相当なもんだと認識するにいたったわけだ。


 あの魔王ビナスですら、一言も返せない中……多分、一言発したら笑い出してしまうのを必死にこらえているんだろう。

「さ、ノカザム、行きましょう」
「うん、ママ」
 そう言いながら、2人は仕事に出かけていった……

◇◇

 絶対すぐにNGをくらって帰ってくると思われた女装ノカザムなんだが


 意外なことに、このまま仕事を終えて帰ってきた。


 ノカザムいわく
「皆さんとてもよくしてくださいましたよ」
 テリアいわく
「えぇ、とても優しく接してくださいましたものね」
 
 とまぁ、2人揃って満面の笑顔だったんだけど……まじかよ、おい!?


 さすがに、おいおいと思った俺は、
 その日、ミラッパと冒険者組合仕事で魔獣討伐仕事を終えたところで、最近馴染みになっている受付の女の子に
「なぁ、あのノカザムのことなんだけど……」
 って、こっそり聞いて見たところ、

 しっかり10分大爆笑した後に教えてくれた。

「ノカザムさんなんですけど……あの格好で冒険者組合に姿を現したもんですから、最初はすごかったんですよ……色んな意味で……

 ですが、依頼主の商会の皆さんが『重度のマザコンさんなら。むしろ安心かも』ってことで、これを了承してくださったんですよ。
 30分くらい爆笑した後で……」

 で、
 いざ仕事に出てみると、
 格好こそこの上なく雌ゴリラ……じゃない、男そのものなノカザムなんだけど。

 それをことさら恥ずかしがるわけでもなく
 ごく普通に依頼主の女性陣には紳士的に接し
 ただ、母親であるテリアにだけは、ただただべったりだったらしい。

 まぁ、そんなだけど
 警護の仕事はこのうえなくきっちりこなしたらしい。

 襲ってきた山賊を3度完全に撃滅し、
 でくわした大物魔獣もこともなげに退治した

 そのあまりにもな雌ゴリラ姿にも関わらず、出来る男を見せつけ
「皆さん、大丈夫でしたか?」
 と、常に紳士的に振る舞うノカザムに対し、少なからず傾倒する者まで出たそうだ。

 ……あんだけのマザコンぶりを、いかんなく見せつけたにもかかわらず、だ


 受付の女の子から、その話を一通り聞いた俺は、
 ……なんつうか、もう、乾いた笑いを浮かべるしかなかったわけだ。


 ちなみに
 この女性商会は、次回からもこのノカザム・テリアコンビに仕事を頼みたいと言ってきているそうで、条件として「ノカザムは女装しなくていい」ってのを申し添えてくれているらしい。

 どうやらこれで、寮に雌ゴリラが出現することはなくなりそうだ。

 ……いや、本当によかった……

◇◇

 その夜、俺達は外食にでかけた。
「贅沢は敵ですわ」
 との魔王ビナスによる外食禁止令が出てはいるものの、週に2回、ここで食べるのだけは許されている。
 まぁ、理由があるんだけどね。

 俺、ロミネスカス、ミラッパに加えて、今日はロステータとプリアも一緒だ。

 勇者派遣会社の寮からほど近い裏通り。
『コンビニおもてなし食堂 エンテン亭』とエッチングされている看板が掲げられている店の看板をくぐると、
「いsらっしゃいまし……あら、旦那様」
 魔王ビナスが笑顔で出迎えてくれた。

 そう、ここ、エンテン亭は、魔王ビナスのもうひとつのバイト先だ。
 毎日働きに行ってるガタコンベって街のコンビニおもてなし本店って店の系列店になるらしくて、ビナスが週2回手伝いに来ている。
 
 で、その2日は、せっかくなので店にお邪魔して売り上げにも貢献してるってわけだ。

 この店は、猿人の女の子4人が中心になって切り盛りしているこじんまりとした食堂なんだけど、結構味がいい。
 食材も良い物を使っているんだろうけど、何より猿人4人がいい仕事をしている。
 そんなに舌が肥えてるわけじゃないけど、俺的にはかなり気に入っているわけだ。

 そんな俺の意見を後押しするように、店内はほぼ満席だ。
 俺達が待たずに座れたのも、ビナスが気を利かせて予約扱いにしてくれてたからだしな。

 俺達が2つのテービルに別れて座ると、ほどなくしてビナスがやってきた。
「皆様、いつものでよしいでしょうか?」
 皆に水を配りながら声をかけていくビナス。
 俺はそんなビナスに
「あぁ、俺はいつものお勧め定食で。あとスアビールね」
 躊躇なくそう答えた。
「ミラッパもそれっぱ」
「じゃあ私もそれで」
「僕達もそれでお願いします」
 皆も俺の意見にすぐ賛同していく。
「かしこまりました。ではしばらくお待ちくださいませ」
 ビナスはにっこり笑って一度厨房へと戻っていった。

 ほどなく、ビナスがスアビールを先に持って来た。
 この店の醍醐味のもう1つだよな、これ。
 コンビニおもてなしの系列店でしか売ってないこのビールを店で飲めるのって、今のところこの店だけらしい。

 樽型のジョッキに入ったスアビールを片手に、俺が
「とりあえず、乾杯!」
 そう声を上げると
「「「かんぱ~い」」」 
 皆も、それに続き歓声をあげていく。

 すると
「あら、皆様」
 店にテリアとノカザムがちょうど入って来た。
 
 食べに出る前に誘いに行ったんだけど、留守だったんだよな。

「夕食? よかったら相席しなよ。多分今満席だ」
「そうですか? それではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
「ウインダ先輩ありがとうございます」
 俺の言葉にニッコリ笑って頷きながら、2人は俺達の席にやってきた。
 ロステータ達の席が2席空いていたのでそっちに座ってもらったんだけど
「さ、ママ」
「ありがとう、ノカザム」
 と、ノカザムが、テリアの席をそっと後方に引いてエスコートしてる姿って、これが恋人同士なら、おぉ、ってな姿なんだけど、母子なんだよなぁ……

「あら、テリアさんいらっしゃい」
「あら、ビナスさん、いらっしゃいましたわ」
 すでにすっかり仲良しなテリアとビナスは、店で出会えてすごく嬉しそうに手を取り合って喜んでいるんだけど

 ……これ、ノカザム
 ビナス相手にまで、「僕のママに……」的な嫌悪の表情を浮かべるんじゃありません!

「で、ですがウインダ先輩……」
 俺の言葉に、不服そうな顔をするノカザムなんだけど、ビナスはそんなノカザムに気がつくと
「大丈夫ですわよノカザムさん。あなたのママとは仲良しなだけ。あなたのママをとったりしませんからね」
 ニッコリ笑ってそう言った。
 するとノカザムの奴は、ぱぁっと顔を輝かせて
「いつも僕の母と仲良くしてくださってありがとうござます」
 とまぁ、敵じゃない認識したとたんにこれですわ……


 まぁでも、こうしてみるとホント不思議だよな。

 俺とロミネスカス

 ミラッパ

 ロステータとプリア

 ノカザムとテリア

 この勇者派遣会社がなければ絶対出会うことがなかった俺達が、こうして酒を酌み交わしてる。
 ……まぁ、小難しいことはどうでもいいか
「さ、ノカザム達も来たんだし、もう一杯乾杯だ」
 俺がそう声を上げると、皆も樽を掲げていったんだが
「ダーリン、ミラッパの、もう空っぱ」
「おま!? 早すぎんだって」
「はいはい、おかわりもってきますわね」

 とまぁ、楽しくワイワイやりながら、今日も1日が終わっていくわけだ。


 こんな日々も、まぁ、嫌いじゃない。


ーつづく
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