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004章 インチーズ世界
4章005ー ノカザムとテリア
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俺とミラッパは夜中の街中を疾走していた。
俺は付加魔法で走力や跳躍力をかなり上昇させているんだが、ミラッパはこれに付加一切なしでついて来ている。
さすが魔王の娘だけある、と、感心していると、ミラッパはそんな俺の視線に気付いたらしくピースサインを送ってきた。
俺は隠蔽魔法を展開し、ミラッパにもそれを付与し、さらに速度をあげ、魔王軍の反応を追いかけていく。
街中で感知することの出来た魔王軍の反応は、一直線に山へと向かっていく。
魔王城があると言われているあの山だ。
反応は宙を舞っており、その姿を俺達はすでに目で確認している。
俺達はあえて森の中を走り、その後を追い続けていく。
ほどなくして
その魔王軍らしき反応の出所は、1人の人物らしいことがわかった。
粗末なマントで体を覆っているらしいそいつは、星明かりの中、高速で飛行を続けていく。
……さて、どうしたもんか
俺は、この魔王軍らしき奴を追いかけながら迷っていた。
相手は1人
こっちは2人……しかも勇者に魔王の娘だ
近接したことで、こいつの魔力の総量もわかってきたんだが、そんなに多くない……なにより、未だに気づかれていないしな。
……とはいえ、俺達は未だに魔王城の情報を持っていない
こいつをうまく泳がせて魔王城への侵入方法を探るって手もある。
あわよくば潜入して情報を収集出来るかもしれない。
ここで捕らえるか
魔王城まで泳がすか
……ま、こいつを捕まえてから魔王城の情報を聞き出すっててもあるか。
俺は小さく頷くと
「ミラッパ、あいつを捕まえる。俺が飛翔の宝剣で奴に近づいて叩き落とすから、お前は下で落ちた奴を捕縛してくれ」
飛翔の宝剣
短時間だが使用者を飛翔させることが出来る宝剣だ。
短いとはいえ、5分は使用出来る。
俺は手を魔法袋へ伸ばした。
と、その時だった。
「そんなことしなくても、ここはミラッパにおまかせっぱ!」
ミラッパは、そう言うが早いか、軽く膝を曲げただけで飛び上がった。
その跳躍距離はすさまいく、あっという間に空を飛んでいる魔王軍の奴のところに到達したかと思うと
「っぱぁ!」
「ぐはぁ!?」
空を飛んでた魔王軍の奴の腹部を思い切り殴り上げた……ってか、あれ、地上でかましてたら相手砕け散ってないか? ってほどの勢いだ。
で、くらった魔王軍の奴は、その場から真上にはじき飛ばされると、そのままかなり立ってから落下してきた。
派手な音をたてて落下したそいつの元へ駆け寄る俺達。
そいつは、ミラッパの不意打ちをくらって完全に意識を失っている。
さて、今のうちに捕縛しておこう。
俺はそう思いながらこいつの上半身を起こした。
すると
こいつ、顔から頭にかけてターバンをグルグル巻きにしていたんだが、ミラッパにぶん殴れた衝撃でこれがボロボロになってんだが……その隙間から変なもんがのぞいている……
って、これ、角?
俺は慌てて、こいつのターバンを全部取り去っていった。
するとそこには、普通の感じのおばさんが1人、その顔を露わにしたんだが……その頭にはしっかり2本の角が生えている。
……しかも、この角……ただの角じゃない
「……おいおい、こいつが魔王なのか?」
そう
その角は魔王の魔力を秘めていた。
隠蔽しようとした形跡あるんだが、おそらく気絶したせいだろう……今は魔王の魔力がはっきり感じられる。
こいつが、ホントにあの魔王ツアッテリアだっての?
……だが、なんでだろう
俺の中には猛烈な違和感しか浮かんでこない……
すると、そんな俺の横から、この女の顔をのぞき込んだミラッパが首をひねった。
「魔王っぽいっぱけど、お化粧してないから? 印象全然違うっぱねぇ」
そのミラッパの言葉を聞いて、俺は納得した。
そうか、化粧か!
街に攻めて来た魔王ツアッテリアって、すっごい厚化粧してて、すっごい露出の高い衣装を……って、いかんいかん、思い出し笑いはここでは御法度だぞ。
こいつが魔王ツアッテリアくさいのはわかったんだが、
俺にはもう1つ心に引っかかってることがあった。
この女~魔王ツアッテリアが身につけているマントとターバンだ。
……俺は、これによく似た格好をしている女をどこかで見た記憶がある……
俺は、いまだに気絶したままの魔王ツアッテリアを見下ろしながら、腕組みし、考え混んでいく。
すると、
「……誰か来たっぱ」
ミラッパが、そう言いながら俺の前に立ち塞がり、森の奥へ向かって身構えた。
……ホントだ
気配を隠蔽しているが、すごい勢いでこっちに駆けてきている……って、
「ちょっと待て……なんでお前がここに来る」
俺が思わずそう口を開くと、ほぼ同時に、そいつは俺達の前に姿を現した。
そこに姿を現したのはノカザムだった。
ノカザムは、白銀勇者としての装備こそしていないものの、腰にはしっかりあのスラッシュソードを帯刀している。
だが、まてよ
ノカザムの顔をみたことで、俺は同時に思い出した。
このマント
ものターバン
あの女
ノカザムの家の畑を手伝ってた、あの女か!? こいつ
俺がそう思い当たっている前で、ノカザムは肩で息をしながら
「……その人に何をした?」
そう言いながら、剣に手を……って、おいおいいきなりかよ!?
「何をしたも何も、俺は魔王軍の気配を漂わせてた怪しい奴を叩き落としただけだぞ?」
俺はそう言いながらノカザムの前へ歩み寄っていく。
「……それとも何か? 白銀勇者さんってのは、魔王軍の方と何かつながりでもお持ちなのかい?
この女、お前さんの畑を手伝ってた女だよな?」
俺は、かまかけ半分、そう言い切った。
昼間、ノカザムの家で見かけた女からは魔王軍の気配は感じられなかった。
着衣が似てるってだけで、俺がそう思っているってのが現状だ。
いちかばちかの一言だったんが、効果は絶大だった。
ノカザムは、明らかに狼狽しながら剣にかけていた手を離していく。
「……そうですか、そこまでお気づきでしたか」
そう言うと、ノカザムはしばらく俺を見つめてきた。
どこか焦ったような
必死に何かを考えているような……そんな目だ。
俺がその目を見つめ返すことしばし、
「見逃してください」
そう言うと、ノカザムはその場に土下座した。
「魔王は今まで通り絶対に街に攻め込ませません。
僕が責任を持ってすべて撃退し、追い返します。
僕も絶対に私腹は肥やしません。皆を欺いている以上、そんな資格もありませんから……
誰にも迷惑はかけません……ですから、どうか……どうか見逃して頂けませんか」
ノカザムは、俺に向かって土下座したまま、そう言った。
そうは言われてもだなぁ……
誰にも迷惑はかけないと言われても、すでに俺達が迷惑を被っているんだが……
ノカザムに、白銀勇者としてこの魔王を倒して貰わないと、仕事を終えて帰れないんだよなぁ。
「そこをなんとか」
ノカザムは、俺の言葉に土下座したまま、言葉を続ける。
で
そんなノカザムを前に俺が困惑していると、俺達の後方で魔王が目を覚ました。
起きた顔を見ると、ホント普通のおばさんって感じなんだよなぁ……
その魔王は、しばらく周囲を見回していた。
そんな魔王を、ミラッパが臨戦態勢で見つめている。
そんな中、
俺の前で土下座しているノカザムを発見した魔王は、その目を見開くと
「ノカザム!? なんでここに」
そう言い、地面をはいつくばりながらノカザムへと近寄っていった。
土下座したままのノカザムに抱きついた魔王。
あぁ、やっぱあれか……
戦ってる間に、ちょっと気持ちが通じあっちゃったりなんかして……許されない道に走っちゃったとか、そんなのかねぇ……
俺がそんなことを思っている前で、ノカザムは言った。
「……母さん」
……え?
そう言ったノカザムを、魔王は再度しっかりと抱きしめた。
「もういいのよノカザム……やっぱり無理があったのよ……むしろ5年間、こうして一緒にいられただけでも、私は満足だから……」
「でも、母さん」
「……あなたは勇者でしょう? さぁ、魔王ツアッテリアであるこの私を倒し、勇者としての責務を全うなさい」
「いやだ! 母さんを殺すくらいなら、僕が死ぬ!」
「ノカザム……」
「母さん……やだよ……また僕を置いてどっかいかないでよ……母さん……」
俺とミラッパの前だ、
子、ノカザムは、母、魔王ツアッテリアの胸に抱きついて泣いていた。
魔王ツアッテリアは、それを優しくなだめているんだが……
俺達の視線に気がついたのか、魔王ツアッテリアは、一度頭を下げると
「こうなっては仕方ありません、すべてをお話いたしますわ……」
そう言うと、魔王ツアッテリアはゆっくりと話を始めた。
魔王ツアッテリアの話はこうだった。
魔王ツアッテリアは、魔王になる前は、テリアと言う名の人間の女だった。
父親には先立たれたものの、男の子と2人仲良く暮らしていた。
その男の子がノカザムだ。
2人は、貧乏ながらも一生懸命働き、仲良くくらしていた。
だが、5年前
テリアは流行病にかかってあっけなくこの世を去った。
1人残されたノカザムは、後を追って死のうとするほどに悲しんだ。
そんなノカザムの姿を、魂となって見守っていたテリアは苦悩した。
「たとえ動物でもいい……ノカザムの元に生きて戻りたい」
そう願ったテリアは、その願い通りこの世に生き返ることが出来た。
魔王ツアッテリアとして。
テリアは苦悩した。
いくらなんでも、魔王の姿で会いにいけるわけがない……
でも、ノカザムに人目でもいいから会いたい……自分が生きていると伝えたい
魔王ツアッテリアは、ついにノカザムに会いたいという欲求に負けて街へやって来た。
そんな魔王ツアッテリアの前に、ノカザムが現れた……白銀勇者として。
魔王ツアッテリアの顔を見たノカザムは、それがテリアだとすぐわかった。
テリアにも、白銀勇者がノカザムだとすぐにわかった。
すぐにでも抱き合い、再会を喜び合いたい、そう強く願った2人。
だが、
片や白銀勇者として、背に街の人々の視線をあび
片や魔王ツアッテリアとして、背に魔王軍の視線を浴びている
その結果
テリアは、魔王ツアッテリアとして意図的に街の外で待ち構える
白銀勇者は、これを街の外で撃退し、最後は魔王だけを意図的に逃がす。
そしてその合間に、テリアは、その体をマントとターバンで隠しノカザムと合っていた。
俺達に一通り話し終えると、魔王ツアッテリアことテリアは、大きく息を吐いた。
「……本当なら、私は5年前に死んでいたのです……それがこうして5年も多くノカザムと過ごすことが出来た……母さんはそれだけでもう満足だよ……」
そう言い、ノカザムを抱きしめるテリア。
「いやだ……絶対にい嫌だ」
そんなテリアの胸で、泣きじゃくりながら顔を左右に振り続けるノカザム。
ノカザムって、体格はいいんだけど、まだ10代半ばだったはずだよな……
気持ち、わからんこともないけど
「……テリアを殺さずに魔王を辞めさせる方法があればなんだが……」
俺は思わず呟いた。
だが、そんなこと出来るわけがない。
ミラッパのように魔王になる前であれば、隷属化して魔王になることを阻止することも出来るし
魔王就任前に魔王の象徴である角を切り落としておけば、魔王になる資格を失い、魔王にならなくてすむ。
だが、魔王になってしまった者は、死ぬまで魔王だ。
それを理解しているからこそ
俺も、
ノカザムも
テリアも
みんな悲痛な顔をしてるわけなんだが……
おいミラッパ、なんでお前だけ笑顔なんだ?
俺が首をかしげながらミラッパへ視線を向けると、ミラッパは言った。
「生きたまま魔王をやめたいっぱよね? 出来るっぱよ」
ーつづく
俺は付加魔法で走力や跳躍力をかなり上昇させているんだが、ミラッパはこれに付加一切なしでついて来ている。
さすが魔王の娘だけある、と、感心していると、ミラッパはそんな俺の視線に気付いたらしくピースサインを送ってきた。
俺は隠蔽魔法を展開し、ミラッパにもそれを付与し、さらに速度をあげ、魔王軍の反応を追いかけていく。
街中で感知することの出来た魔王軍の反応は、一直線に山へと向かっていく。
魔王城があると言われているあの山だ。
反応は宙を舞っており、その姿を俺達はすでに目で確認している。
俺達はあえて森の中を走り、その後を追い続けていく。
ほどなくして
その魔王軍らしき反応の出所は、1人の人物らしいことがわかった。
粗末なマントで体を覆っているらしいそいつは、星明かりの中、高速で飛行を続けていく。
……さて、どうしたもんか
俺は、この魔王軍らしき奴を追いかけながら迷っていた。
相手は1人
こっちは2人……しかも勇者に魔王の娘だ
近接したことで、こいつの魔力の総量もわかってきたんだが、そんなに多くない……なにより、未だに気づかれていないしな。
……とはいえ、俺達は未だに魔王城の情報を持っていない
こいつをうまく泳がせて魔王城への侵入方法を探るって手もある。
あわよくば潜入して情報を収集出来るかもしれない。
ここで捕らえるか
魔王城まで泳がすか
……ま、こいつを捕まえてから魔王城の情報を聞き出すっててもあるか。
俺は小さく頷くと
「ミラッパ、あいつを捕まえる。俺が飛翔の宝剣で奴に近づいて叩き落とすから、お前は下で落ちた奴を捕縛してくれ」
飛翔の宝剣
短時間だが使用者を飛翔させることが出来る宝剣だ。
短いとはいえ、5分は使用出来る。
俺は手を魔法袋へ伸ばした。
と、その時だった。
「そんなことしなくても、ここはミラッパにおまかせっぱ!」
ミラッパは、そう言うが早いか、軽く膝を曲げただけで飛び上がった。
その跳躍距離はすさまいく、あっという間に空を飛んでいる魔王軍の奴のところに到達したかと思うと
「っぱぁ!」
「ぐはぁ!?」
空を飛んでた魔王軍の奴の腹部を思い切り殴り上げた……ってか、あれ、地上でかましてたら相手砕け散ってないか? ってほどの勢いだ。
で、くらった魔王軍の奴は、その場から真上にはじき飛ばされると、そのままかなり立ってから落下してきた。
派手な音をたてて落下したそいつの元へ駆け寄る俺達。
そいつは、ミラッパの不意打ちをくらって完全に意識を失っている。
さて、今のうちに捕縛しておこう。
俺はそう思いながらこいつの上半身を起こした。
すると
こいつ、顔から頭にかけてターバンをグルグル巻きにしていたんだが、ミラッパにぶん殴れた衝撃でこれがボロボロになってんだが……その隙間から変なもんがのぞいている……
って、これ、角?
俺は慌てて、こいつのターバンを全部取り去っていった。
するとそこには、普通の感じのおばさんが1人、その顔を露わにしたんだが……その頭にはしっかり2本の角が生えている。
……しかも、この角……ただの角じゃない
「……おいおい、こいつが魔王なのか?」
そう
その角は魔王の魔力を秘めていた。
隠蔽しようとした形跡あるんだが、おそらく気絶したせいだろう……今は魔王の魔力がはっきり感じられる。
こいつが、ホントにあの魔王ツアッテリアだっての?
……だが、なんでだろう
俺の中には猛烈な違和感しか浮かんでこない……
すると、そんな俺の横から、この女の顔をのぞき込んだミラッパが首をひねった。
「魔王っぽいっぱけど、お化粧してないから? 印象全然違うっぱねぇ」
そのミラッパの言葉を聞いて、俺は納得した。
そうか、化粧か!
街に攻めて来た魔王ツアッテリアって、すっごい厚化粧してて、すっごい露出の高い衣装を……って、いかんいかん、思い出し笑いはここでは御法度だぞ。
こいつが魔王ツアッテリアくさいのはわかったんだが、
俺にはもう1つ心に引っかかってることがあった。
この女~魔王ツアッテリアが身につけているマントとターバンだ。
……俺は、これによく似た格好をしている女をどこかで見た記憶がある……
俺は、いまだに気絶したままの魔王ツアッテリアを見下ろしながら、腕組みし、考え混んでいく。
すると、
「……誰か来たっぱ」
ミラッパが、そう言いながら俺の前に立ち塞がり、森の奥へ向かって身構えた。
……ホントだ
気配を隠蔽しているが、すごい勢いでこっちに駆けてきている……って、
「ちょっと待て……なんでお前がここに来る」
俺が思わずそう口を開くと、ほぼ同時に、そいつは俺達の前に姿を現した。
そこに姿を現したのはノカザムだった。
ノカザムは、白銀勇者としての装備こそしていないものの、腰にはしっかりあのスラッシュソードを帯刀している。
だが、まてよ
ノカザムの顔をみたことで、俺は同時に思い出した。
このマント
ものターバン
あの女
ノカザムの家の畑を手伝ってた、あの女か!? こいつ
俺がそう思い当たっている前で、ノカザムは肩で息をしながら
「……その人に何をした?」
そう言いながら、剣に手を……って、おいおいいきなりかよ!?
「何をしたも何も、俺は魔王軍の気配を漂わせてた怪しい奴を叩き落としただけだぞ?」
俺はそう言いながらノカザムの前へ歩み寄っていく。
「……それとも何か? 白銀勇者さんってのは、魔王軍の方と何かつながりでもお持ちなのかい?
この女、お前さんの畑を手伝ってた女だよな?」
俺は、かまかけ半分、そう言い切った。
昼間、ノカザムの家で見かけた女からは魔王軍の気配は感じられなかった。
着衣が似てるってだけで、俺がそう思っているってのが現状だ。
いちかばちかの一言だったんが、効果は絶大だった。
ノカザムは、明らかに狼狽しながら剣にかけていた手を離していく。
「……そうですか、そこまでお気づきでしたか」
そう言うと、ノカザムはしばらく俺を見つめてきた。
どこか焦ったような
必死に何かを考えているような……そんな目だ。
俺がその目を見つめ返すことしばし、
「見逃してください」
そう言うと、ノカザムはその場に土下座した。
「魔王は今まで通り絶対に街に攻め込ませません。
僕が責任を持ってすべて撃退し、追い返します。
僕も絶対に私腹は肥やしません。皆を欺いている以上、そんな資格もありませんから……
誰にも迷惑はかけません……ですから、どうか……どうか見逃して頂けませんか」
ノカザムは、俺に向かって土下座したまま、そう言った。
そうは言われてもだなぁ……
誰にも迷惑はかけないと言われても、すでに俺達が迷惑を被っているんだが……
ノカザムに、白銀勇者としてこの魔王を倒して貰わないと、仕事を終えて帰れないんだよなぁ。
「そこをなんとか」
ノカザムは、俺の言葉に土下座したまま、言葉を続ける。
で
そんなノカザムを前に俺が困惑していると、俺達の後方で魔王が目を覚ました。
起きた顔を見ると、ホント普通のおばさんって感じなんだよなぁ……
その魔王は、しばらく周囲を見回していた。
そんな魔王を、ミラッパが臨戦態勢で見つめている。
そんな中、
俺の前で土下座しているノカザムを発見した魔王は、その目を見開くと
「ノカザム!? なんでここに」
そう言い、地面をはいつくばりながらノカザムへと近寄っていった。
土下座したままのノカザムに抱きついた魔王。
あぁ、やっぱあれか……
戦ってる間に、ちょっと気持ちが通じあっちゃったりなんかして……許されない道に走っちゃったとか、そんなのかねぇ……
俺がそんなことを思っている前で、ノカザムは言った。
「……母さん」
……え?
そう言ったノカザムを、魔王は再度しっかりと抱きしめた。
「もういいのよノカザム……やっぱり無理があったのよ……むしろ5年間、こうして一緒にいられただけでも、私は満足だから……」
「でも、母さん」
「……あなたは勇者でしょう? さぁ、魔王ツアッテリアであるこの私を倒し、勇者としての責務を全うなさい」
「いやだ! 母さんを殺すくらいなら、僕が死ぬ!」
「ノカザム……」
「母さん……やだよ……また僕を置いてどっかいかないでよ……母さん……」
俺とミラッパの前だ、
子、ノカザムは、母、魔王ツアッテリアの胸に抱きついて泣いていた。
魔王ツアッテリアは、それを優しくなだめているんだが……
俺達の視線に気がついたのか、魔王ツアッテリアは、一度頭を下げると
「こうなっては仕方ありません、すべてをお話いたしますわ……」
そう言うと、魔王ツアッテリアはゆっくりと話を始めた。
魔王ツアッテリアの話はこうだった。
魔王ツアッテリアは、魔王になる前は、テリアと言う名の人間の女だった。
父親には先立たれたものの、男の子と2人仲良く暮らしていた。
その男の子がノカザムだ。
2人は、貧乏ながらも一生懸命働き、仲良くくらしていた。
だが、5年前
テリアは流行病にかかってあっけなくこの世を去った。
1人残されたノカザムは、後を追って死のうとするほどに悲しんだ。
そんなノカザムの姿を、魂となって見守っていたテリアは苦悩した。
「たとえ動物でもいい……ノカザムの元に生きて戻りたい」
そう願ったテリアは、その願い通りこの世に生き返ることが出来た。
魔王ツアッテリアとして。
テリアは苦悩した。
いくらなんでも、魔王の姿で会いにいけるわけがない……
でも、ノカザムに人目でもいいから会いたい……自分が生きていると伝えたい
魔王ツアッテリアは、ついにノカザムに会いたいという欲求に負けて街へやって来た。
そんな魔王ツアッテリアの前に、ノカザムが現れた……白銀勇者として。
魔王ツアッテリアの顔を見たノカザムは、それがテリアだとすぐわかった。
テリアにも、白銀勇者がノカザムだとすぐにわかった。
すぐにでも抱き合い、再会を喜び合いたい、そう強く願った2人。
だが、
片や白銀勇者として、背に街の人々の視線をあび
片や魔王ツアッテリアとして、背に魔王軍の視線を浴びている
その結果
テリアは、魔王ツアッテリアとして意図的に街の外で待ち構える
白銀勇者は、これを街の外で撃退し、最後は魔王だけを意図的に逃がす。
そしてその合間に、テリアは、その体をマントとターバンで隠しノカザムと合っていた。
俺達に一通り話し終えると、魔王ツアッテリアことテリアは、大きく息を吐いた。
「……本当なら、私は5年前に死んでいたのです……それがこうして5年も多くノカザムと過ごすことが出来た……母さんはそれだけでもう満足だよ……」
そう言い、ノカザムを抱きしめるテリア。
「いやだ……絶対にい嫌だ」
そんなテリアの胸で、泣きじゃくりながら顔を左右に振り続けるノカザム。
ノカザムって、体格はいいんだけど、まだ10代半ばだったはずだよな……
気持ち、わからんこともないけど
「……テリアを殺さずに魔王を辞めさせる方法があればなんだが……」
俺は思わず呟いた。
だが、そんなこと出来るわけがない。
ミラッパのように魔王になる前であれば、隷属化して魔王になることを阻止することも出来るし
魔王就任前に魔王の象徴である角を切り落としておけば、魔王になる資格を失い、魔王にならなくてすむ。
だが、魔王になってしまった者は、死ぬまで魔王だ。
それを理解しているからこそ
俺も、
ノカザムも
テリアも
みんな悲痛な顔をしてるわけなんだが……
おいミラッパ、なんでお前だけ笑顔なんだ?
俺が首をかしげながらミラッパへ視線を向けると、ミラッパは言った。
「生きたまま魔王をやめたいっぱよね? 出来るっぱよ」
ーつづく
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