とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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004章 インチーズ世界

4章001ーまず高笑いから始める勇者

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 俺の仲間に後家で魔王のビナスが仲間に加わってしばらくたつ。
 ……っていうか、魔王が仲間ってなんなんだって俺も思うけど、
「ウインダ様、お慕い申し上げておりますわ」
 って、言って帰ろうとしないんだから……まぁ、しょうがないわけだ。

 で、この魔王ビナス。
 自分の元いた世界で魔王だった時代にも、

 軍はもたず、
 世界征服も望まず、
 ひたすら質素に暮らしてたんだけど

 ビナスは俺の仲間になってもこれを愚直なまでに続けている。

 ロミネスカスが、魔法本屋に夢中になったせいでほったらかしにしていたベランダ菜園をいつの間にか再開し、あっという間にすごい収穫が出来るまでにしてしまっている。
 朝は夜明け前からパートに行って自分の分の生活費を稼ぎ
 その帰りに店を回って少しでも安い食材を買って帰る。
 そして買ってきた食材を使ってみんなの夕飯を作ってくれる。
 その上、朝ご飯時にはパート先からわざわざ分身して戻ってきて、みんなの朝ご飯とお昼の弁当まで作ってくれるんだ。

 掃除洗濯もいわずもがなで、最近は近くの奥さま方の井戸端会議にも加わっている。
「えぇ、一度やってみたかったんですの……とても楽しいですわ」
 そう言って笑うビナスなんだけど……

 主婦の井戸端会議に憧れてた魔王って……います? ねぇ?

 ちなみにビナス。
 生きてる年数は数百年なんだけど、これはあくまで魔王族としてであって、人族に換算すると、まぁ40半ばってとこらしい。
 ……とはいえ、見た目も体型も、すっごい幼いビナスなわけで
 夜のアレの際は時々すごい背徳……あ、いや、なんでもない。
 ただ、もともと魔王だった旦那がいただけあって、その魔王を夜な夜な満足させてた手練手管……あ、いや、なんでもない。

 そんな感じで

 俺とミラッパは魔獣を狩りに森へ
 ロミネスカスは本屋へ
 ビナスはパート行って家事をして

 なんかそんな生活リズムが出来上がりかけたところで

「はい、お仕事ですねぇ」
 メフィラが例によって分厚い書類を小脇にかかえてやってきた。

 なんか最近、生活がすごく充実してたんで、自分の本職を害獣ハンターと勘違いしそうになってたよ。
「ミラッパもそう思ってた」
 俺の言葉に、ミラッパが激しく頷いてる。

 まぁ、とにかく、俺の本職は『勇者派遣会社』の社員なわけだ。
 ロミネスカス・ミラッパ・ビナスは、そのパーティメンバーってわけだ。
 ……ただ、このパーティメンバーって、規則上何人雇ってもいいけど、手当は出ない……全部俺持ちで養わないと行けないわけだ。

 まぁ、でも、最初はうげぇ、とか思ってたけど、
 ロミネスカスは、この世界のどこかで魔石の鉱脈を見つけてるらしく、それを発掘しては売って自分の本題にあててるし
 ミラッパは、俺と一緒に魔獣をかりまくって報奨金を稼いでる。
 ビナスはビナスで、健気にパートに通ってるんだけど……魔王なんだし、俺と一緒に魔獣狩りすればいい儲けになるんじゃないかって思ったんだけど
「私、魔獣であろうと害獣であろうと殺生を好みませんので……」
 そう言ってニッコリ笑ってるんだけど……ビナスの場合、そのせいで自分が死にかけたくらい本気で言ってるから洒落にならない。


「あの~、そろそろ本題に入っていいですかねぇ?」
 俺があれこれ回想しているのに痺れをきらしたメフィラが、足をトントントントンならしながら、俺を急かしてきたので、そろそろ話を聞いてやろうか、
「……その上から目線が気に入りませんけど、まぁよしとしましょうかねぇ」
 そう言いながらメフィラが俺に差し出した指令書には

『勇者に魔王を倒させる』

「は?」
「はい?」
「ぱ?」
「あらあら」

 俺達・ロミネスカス・ミラッパ・ビナスの4人はその内容を見て思わず目を点にした。

 なんせ、すごくまっとうな依頼じゃないか、これ?
 要は、あれだろ? 魔王に苦戦してる勇者の手助けをしてくればいいんだろ?
「いや、ちょっとまってウインダ……メフィラが斡旋した来た仕事よ、そんなに単純なはずがないわ」
 ロミネスカスが、その目をキランと輝かせながらそう言った。


 ちっ


 あ
「メフィラ、てめぇ、今舌打ちしやがったな、おい!」
「おとなしく白状するっぱ」
 すかさず俺達とミラッパがメフィラに殺到しようとすると

 そんな俺達の前で、メフィラは右手を広げて「ちょっと待った」的なポーズを取った。
 ……で、そういうポーズをされると、お約束で止まっちまうのが俺とミラッパなんだよなぁ

「単純な人は楽ですねぇ」
 そんな俺とミラッパの前で、メフィラはそんな事を言ってやがんだが、事実の部分が大きいから言い返せねぇ……くそう
 そんな中、メフィラはクスクス笑いながら
「あぁ、その前にウインダさん、パーティメンバーを選んでくださいねぇ」
 そう言ったんだが……パーティメンバーを選ぶ?
「はいそうですねぇ。規則でですねぇ、異世界に連れて行けるのは特例をのぞきまして2人までとなっているんですねぇ」
 メフィラが言うには、どうもそういうことらしい。

 となると
 今回の任務に、ロミネスカス・・ミラッパ・ビナスの中から2人を選ばなきゃなんないのか……
 そう考えていると、ビナスがおずおずと手を上げた。
「あの……旦那様との初の共同作業ですので、ご同行したいのは山々なのですが……私、バイト先にまだ何も言っていませんので……」
 そう言いながら笑ってるんだけど、なんか目の端から涙こぼれてないか? おい……

 で、まぁ、ビナスが残ることになったので、ビナスを小1時間別室でしっかり慰めてだな……だから、そんな目で見るな、ロミネスカスにミラッパ。
「はぁ……これで孕んだでありましょうか……」
 ビナスも、煽るようなことを言いながらお腹をさすらない!

 んでまぁ、そんなこんなで、俺達は地下の異世界転移室へと移動した。
「インチーズ世界に転移する準備はもうできてますねぇ」
 俺達を待ってたメフィラが言うように、部屋の周囲では魔法陣が全開状態で、いつでも俺達をインチーズ世界に送り込める状態だ。

「旦那様、頑張っていらしてくださいね~」
 メフィラの横で、見送りにやってきたビナスが笑顔で手を振っている……だからお腹をさするな!

 そんなこんなで、俺達は、パルマ世界を旅だっていった。

◇◇

 目を開けると……ここはどっかの裏通りか?

 俺達は、どうやらインチーズ世界のどっかの街へ出たらしい。

「……しかしあれだな、ビナスのおねだりがあったせいで、メフィラに詳しい事を聞くのを忘れちまったなぁ」
 俺は軽く頭を振っていく。

 っていうか、
 俺がビナスを慰めてる間に、ロミネスカスとミラッパがメフィラを問い詰めてくれてりゃいいのにさ……なんか2人揃って俺とビナスのアレをのぞいてたっていうんだから、酷いと思わないか?
 俺がそういうと、ミラッパは
「いやぁ、ビナスとダーリンのエッチは、すごく勉強になるっぱ」
 いや、別に勉強しなくていいからさ
 ってか、なんでロミネスカスまで腕組みして頷いてんだよ

 ……まぁ、確かにロミネスカスは、お姉さんぶる割に、
「ウインダ? 何か変なこと考えてない?」
 いえ、何にも考えてませんよ。

 俺が引きつった顔をしながら首を左右に振っていくなか。

 不意に、大音響が響いた。

「魔王軍だ~!」
「魔王軍が攻めてきたぞ~!」
 街の人々が、そう悲鳴をあげながら逃げていく。
 その後方で、何度も激しい爆音が響いてる。

 その爆音の向こうからは、結構な数の魔族が攻めてきてるのがわかる。

 うわ、来ていきなりかよ。
 勇者はまだ到着してないようだし……
「ロミネスカス、ミラッパ、とりあえず食い止めるぞ」
 そう言いながら、宝剣を構えて駆け出す俺、
「わかったわ」
 いつでも魔法を放てるように、魔力を充填した状態でそれに付き従うロミネスカス
「ぱぁ!」
 両腕をぶるんぶるん振り回しながら駆け出すミラッパ

 そんな俺達が表街道に姿を出すか出さないかの時だった。


 はっはっはっはっはっはっはっはっはっは


 ……なんだ?
 どっかからえらい高笑いが聞こえてくるんだが……

 俺達が周囲を見回していると……俺達の後方、街道のど真ん中で、なんか腰に手をあてて高笑いしている奴がいる。

 なんか、えらい豪勢な白銀の鎧に身を包んでいるそいつ。
 腰の剣を抜くと、それを魔王軍に向かってつきだしていき
「そこまでだ魔王軍! ここから先は、この白銀の勇者が行かせはせん」
 そう言いながら、魔王軍に向かってゆっくり歩きながら近寄って行く。
 高笑い付きで


 それを受けて魔王軍
「また貴様か、白銀勇者め」
「そのムカツク高笑いをやめやがれ!」

 とまぁ、口々にその白銀勇者に罵声を浴びせてるんだが、



 高笑いをやめろには大いに賛同する。
 俺がそう思っていると、ロミネスカスとミラッパも大きく頷いていた。

ーつづく
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