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003章 セルイッシュ世界
3章006ーどうにかされた勇者と、どうにかされた魔王
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「ほんと、最高ですわぁ! この生活」
ビーチェルは勇者デジュアに抱きついた。
この魔王城内で最も豪奢に飾られた寝室。
周囲には金銀財宝が無造作に陳列されており、所々に金貨の詰まった布袋も転がっている。
そんな宝物に囲まれている巨大なベッドの上で、勇者デジュアとビーチェルの2人は裸のまま抱き合い、口づけを交わしていた。
濃厚な口づけを交わした後、勇者デジュアはクククと下品な笑みを浮かべていく。
「まさかここまでうまく事が運ぶとはね。ホント、君には感謝しても仕切れないよ」
そういう勇者デジュアに対し、ビーチェルも艶っぽい笑みで応じていく。
「それはこちらも同じですわぁ。あの魔王としての威厳の欠片すら持たないママのせいで、貧乏極まりない生活を強いられてたこの私を、こんな夢のような生活に導いてくださいましたのですから」
ここで、お~っほっほっほと高笑いをあげていくビーチェル。
そんなビーチェルの肩を抱きながら、勇者デジュアは傍らに置いていた酒を口に流し込んでいく。
「魔王ビナスの結界が強すぎて城に近寄れずにいた僕を城に導いてくれて……しかも監獄罠を仕掛けやすい場所まで提供してくれて……まぁ、誤算だったのは魔王ビナスがなっかなか死なないことだけどね。
そのせいで、城から金を搾り取る口実として、破壊の宝珠なんて話まででっち上げなきゃならなくなったんだから……とはいえ、魅了スキルで強引に信じ込ませていくのも、そろそろキツくなってきてるけど……」
勇者デジュアは、その顔に困惑の表情を浮かべた。
そんな勇者デジュアの肩を、後方からビーチェルが抱きしめていく。
「大丈夫、いくらママの防御力が強くても、もう長くはもたないと思いますわ。拘束した際に勇者デジュア様が魔力の源である角も破壊しておりますから……そしたら私がこの世界の魔王となって……」
「そして、僕と対峙する……ふりをする」
「私が適当に攻め込んでは」
「僕がそれを追い払う……そして、その都度、僕は城から莫大な恩賞を賜っていく……と」
「これを繰り返し続けて、私達は永遠に贅沢三昧の生活を送っていくのですわね」
2人は、顔を見合わせると、声を上げて笑い合っていく。
◇◇
地下牢にて
俺達は、壁に映し出されている勇者デジュアとビーチェルの映像を見つめながら唖然としていた。
魔王ビナスが、ビーチェルの安否をどうしても確認したいと懇願するもんだから、
ロミネスカスに、城内に反応があったビーチェルの今の状況を映像化し地下牢の壁に投影してもらったんだが……
まさかの黒幕……お前か、ビーチェル。
で、勇者デジュアが助演男優か、おい……
とはいえ、俺の心配事はすでにそっちじゃなくなってる。
魔王ビナスだ。
魔王ビナスは、壁に投影されている映像をジッと見つめていた。
最初ビーチェルが無事であることを心の底から喜んでいた。
だが、自分の娘が黒幕だと知り、その表情が困惑に変わった。
そして、無表情なまま、2人の話を聞いていた魔王ビナス。
すべての話を聞き終えた、今の彼女はというと……泣き笑ってたわけだ。
「よかった……あの娘が無事でいてくれて……」
この状況でも、そう言う魔王ビナス。
すると、ビナス、
ゆっくり立ち上がると、何を思ったのか、アイアンメイデンに向かって歩いて行く。
「ウインダ様……ご迷惑ついでに、最後にもう1つだけお願い出来ませんか?……願わくば、この拘束具を再度閉じてはいただけませんでしょうか……私を閉じ込めてから……」
そう言って、ニッコリ笑う魔王ビナス。
「……あの娘が私の死を望むのでしたら……私は……最後に、その願いを叶えてあげたいと思います」
そう言いながらも、その目からは大粒の涙がボロボロこぼれ続けている。
俺は、そんな魔王ビナスをジッと見つめていた。
◇◇
その夜
勇者デジュアとビーチェルは、散々乳繰り合った挙げ句、抱き合ったままベッドで眠っていた。
しこたま酒も飲んでいたせいで、泥酔の度合いもかなりのものだ。
誰にもバレていないと思っているもんだから油断してるんだろうが……いくらなんでもしすぎだろう
まぁ、そのおかげで、こうしてすんなり忍び込めてもいるわけなんだが……
俺は、ベッドへと忍び寄った。
右手には1本の宝剣。
ベッドに近づいた俺は、その宝剣を勇者デジュアに突き刺した。
宝剣は、勇者デジュアに接した部分が光り輝いている。
俺は、その状態で詠唱していく……
宝剣の光が消えると、俺は今度はビーチェルへと向き直っていく。
その額のあたりで宝剣を振るった。
……おいおい、ここまでされても目覚めないって…ある意味すごいな……
俺は、内心で苦笑しながらも、その作業を終えると、寝室を後に……おっと、忘れるところだった。
俺は部屋の中にある金銀財宝を魔法袋に残らず詰めんでから
……寝室を後にしていった。
◇◇
さて、ここからのことを出来事をかいつまんで報告しておく。
翌朝、ビーチェルは悲鳴をあげながら目を覚ました。
「角が……角が破壊されていますわぁ」
と。
まぁ、俺が昨夜宝剣で破壊したわけだが……ちゃんと再生しないように勇者の封印までサービスしておいた。無料サービスなんだ、感謝してほしいものだ。
これでビーチェルは、次期魔王の資格を失っただけでなく、魔族としての力もほとんど失ったことになる。
さらに、部屋の中の金銀財宝が残らず無くなっていることに狼狽する2人。
「……な、何者かが侵入してる……」
勇者デジュアは、恐怖にかられながらも、自らが所有している天啓スキル「神聖罠作成」を使用し、城の警備体制を今更ながらスキルアップしようとしたんだが……
……この神聖罠作成ってスキルだが
神が勇者となったものに与えるスキルだけあり超強力だ。
魔王軍四天王クラスの魔族でも、瞬時に消し去るだけの力を持った罠を自在に作成出来るって代物だ。
まぁ、1週間に3つまでしか作れないっていう制限もあるが、それでもかなりのものと言っていい。
魔王ビナスを封じていたあのアイアンメイデンも、勇者デジュアがこの能力で作り出したものらしい。
と、まぁ、こんなに素敵なスキルだったので、
昨夜のうちに、俺が宝剣の力を利用して頂いておいた。
スキルの宝剣
スキルの吸収(ドレイン)・書き換え・無効化・強化などを行う事が出来る。
難点は、作業を行っている間中、相手に突き刺しておかなきゃなんないってこと。
まぁ、いざやろうとしてみると色々制約が発生したりもするもんだから、かなり使い勝手の悪い宝剣なんだけど、今回に関してはいい仕事をしてくれた。
一度使用すると刃の部分が崩壊してしまうけど、まぁ、1ヶ月で再生するから、またよろしくな。
勇者デジュアは、自分が神聖罠作成スキルを使用出来なくなっていることに困惑した……当然、俺がスキルを奪い去ってるなんて思ってもいない。
そして一文無しになっている自分達に呆然とした。
考えに考えた挙げ句2人は城に向かって旅だった。
あの豪奢な鎧ら、城に着て行ってた装備品なんかもすべて俺が回収しているので、みすぼらしい冒険者の服に身を包むしかなかった2人は必死に城を目指していった。
転移魔法はビーチェルしか使えなかったらしく、2人は城まで馬で向かうしかないようだ。
城から相当離れているため、2人が城に到着するにはおそらく半年近い期間を必要とするだろう。
それでも城に行き、もう一度破壊の宝珠の話をでっち上げれば、城から金を巻き上げることが出来る。
そうすれば、また贅沢三昧出来る。
その一心で城を目指している2人は、まだ知らない。
勇者デジュアの変装をした俺が、王に魔王ビナス討伐完了の報告を行い、あいつらから回収した金銀財宝を魔王ビナスから奪い去ってきたことして献上したことを。
破壊の宝珠に関しては魔王ビナスの苦し紛れの嘘だったってことにし、多額の費用を使わせてしまったことを深く謝罪しておいた。
まぁ、これに関しては、先に金銀財宝を献上しておいたもんだからか、一切お咎めはなかった。
勇者デジュアとビーチェルが城についたら、まぁ、困惑しきりだろう。
例の「魅了」スキルを駆使してどうにかごまかそうとするかもしれないが、そのスキルは俺が「嫌悪」に書き換えている。
嫌悪は、使用した者が無条件に皆から忌み嫌われることになるスキルだ。
しかもこれを、スキル名は魅了のままで、内容だけ書き換えているから、まぁ、勇者デジュアがそれに気づくのは当分先のことになるだろう。
勇者デジュアは必死になってこれを使うだろうけど、使えば使うほど嫌われるわけだ……ま、せいぜいビーチェルにまで嫌われないことを祈っておいてやろう。
最後に魔王ビナス。
ここまでひどい仕打ちをされ、ビーチェルのために死のうとまでした魔王ビナスなんだが
そんな魔王ビナスを俺はひたすら説得した
朝
昼
夜
何度夜を徹して語り明かした数知れない
毎日目を見つめ
顔をのぞき込み
時に優しく、
時に厳しく
思い出し、辛くなってむせび泣くときは抱きしめてもやった
ロミネスカスとミラッパからの嫉妬の眼差しにも耐え続け
コンコンと説教し続けた。
曰く
「お前の盲目な愛情がビーチェルをあんな正確にしちまったんだ」
「もうあいつも大人なんだ、あいつの行動にはあいつが責任を取るべきなんだ」
「お前はもう十分やった」
「お前は自分の人生を歩めばいい」
「お前は素敵なんだ、自信を持て」
朝に、昼に、夜に、
とにかくもう、ひたすらに語りかけ続けた結果
「……私は、私のしたいようにしてもよろしいのでしょうか?」
やっとそう口にするようになった魔王ビナスに、俺は
「あぁ、それでいい……お前の人生はお前のもんだろ?」
そう言ってやった。
魔王ビナスは、俺のその言葉に深く頷いた……なんか真っ赤な顔して俺の顔を見つめている気がしたのは気のせいだろう。
そしてここで、ようやく俺の目の前に
『ミッションコンプリート』
の文字が表示されたわけだ。
『勇者をどうにかした上で、魔王をどうにかする』という今回の依頼
勇者に関しては、周辺状況を八方ふさがりにして放り出し、勇者として恥ずべき行為を行ったことの報いを受けさせた……若干1名巻き込まれているが、ほぼ同罪なので気にしないことにする。
魔王には自分の生きる道を示してやった。
……まぁ、格好良く言えばそんな感じで収めたってとこだけど、どうやら依頼主であるこの世界の神もこれで満足してくれたようだ。
今回の件に関して言いたいことが2つ。
まず、勇者が魔王の縁者と懇意となり、悪の道に走りそうになった時点で、神はなんらかの手段を講じるべきだと強く思う。
勇者の精神的成長に必要なケースも中にはあるだろうが、今回の件はそれにはあてはまらない。
この点に関しては、各世界を治めている神々にもしっかり伝達されることを節に願う。
次に、魔王の人となりをしっかり見極めてから勇者に天啓を与えてほしい。
今回の魔王ビナスは、討伐の必要がまったくない魔王であった。
おそらく彼女が魔王である限り、セルイッシュ世界は平和だったはずだ。
そんな魔王に対し、勇者デジュアを誕生させたがために、今回の問題事案が発生したと考える。
勇者を誕生させるのは、魔王ビナスが他の者に魔王の座を譲り渡し、その魔王が世界の脅威となってからでもよかったのではないかと思う。
最後に
俺達があの世界を去るに際し、魔王ビナスが諸事情によりあの世界から消滅したため、おそらくあの世界には新しい魔王が程なく誕生すると思われる。
ビーチェルはすでに魔王の資格を失っているので、他の魔族の猛者がその座につくことになると思うが、そのタイミングで勇者デジュアから勇者の称号を剥奪し、他の適任者をその座につかせることを強く提案する。
勇者派遣会社社員 勇者ウインダ
やれやれ、やっと書き上がった。
俺は手に持っていたペンを机上に置くと、うーんと伸びをした。
「……とりあえず出来た……ロミネスカス。毎回で悪いけど目を通してくれるか」
俺は、やっとの思いで書き上がった報告書の束をロミネスカスへと手渡した。
ロミネスカスは、それを受け取ると、いつものようにフンフンと目を通していく。
しかしまぁ、どうなることかと思った今回の案件だけど、あの世界の神が納得する形に落ちついて何よりだった……っていうか、勇者デジュアをあの状態にしてほっぽりだしたのに、ミッションコンプリートになったってことは、あの世界の神様も、勇者デジュアが酷い目にあうことを望んでたってことになるわけで……はは、セルイッシュの神様も相当むかついてたんだろうな……
俺がそんなことを思っていると
「ウインダ、報告書済んだっぱ?」
そう言いながら、ミラッパが自室から駆け出してきた。
「済んだんなら、美味しい物を食べに行こうっぱ」
そう言いながら毎度のように俺に抱きついてくるミラッパなんだが、
「では、私もお供させて頂きますわ」
その後方に、魔王ビナスがいた。
……いや、今は元魔王ビナスと言うべきか。
俺達があの世界から戻る際、ビナスは当然のような顔をして俺の腕に抱きついていた。
「……このように未熟な私を、親身になってお導きくださったウインダ様とともにまいります」
そう言ってにっこり笑うビナス。
……い、いや、だからだな、お前はお前の人生を歩めと
「はい、ですから、お慕いいたしておりますウインダ様と添い遂げることを、新たな私の人生にいたしたく……」
そう言い、頬を赤らめながらうつむいたビナス。
……どうやら、朝昼晩、時に夜を明かしてまで行っていた説得が思わぬ副産物を産んだらしい……魔王ビナスの愛という……
で、本当ならここでしっかり説得してビナスはセルイッシュ世界に置いて帰るつもりだったんだが、
「時間がもったいないですねぇ……痴話喧嘩は帰ってからゆっくりやってくださいねぇ」
と、迎えに来てたメフィラのやつが強制的に俺達全員を帰還させやがった……ビナス付きで。
で、だ……俺はいまだにビナスを説得出来ないでいる。
……何を言っても聞いてもらえないというか……まったく聞く気がないというか
とにかく、とんでもなく一途だ……
「ウインダ様……私、次に産まれる子供はしっかり躾が出来ると思いますの……だって、ウインダ様と一緒ですから」
そう言って、頬を染めながらうつむくビナス。
「ちょっとウインダ」
「まさか、もうやったっぱ?」
ロミネスカスとミラッパが、怒髪天な顔で俺を睨み付けてくるだが、
まだやってない。
っていうか、ミラッパ
その手はやめなさい、下品ですよ、左手の親指と人差し指で作った輪っかに、右手の人差し指を出し入れするなんて。
ーつづく
ビーチェルは勇者デジュアに抱きついた。
この魔王城内で最も豪奢に飾られた寝室。
周囲には金銀財宝が無造作に陳列されており、所々に金貨の詰まった布袋も転がっている。
そんな宝物に囲まれている巨大なベッドの上で、勇者デジュアとビーチェルの2人は裸のまま抱き合い、口づけを交わしていた。
濃厚な口づけを交わした後、勇者デジュアはクククと下品な笑みを浮かべていく。
「まさかここまでうまく事が運ぶとはね。ホント、君には感謝しても仕切れないよ」
そういう勇者デジュアに対し、ビーチェルも艶っぽい笑みで応じていく。
「それはこちらも同じですわぁ。あの魔王としての威厳の欠片すら持たないママのせいで、貧乏極まりない生活を強いられてたこの私を、こんな夢のような生活に導いてくださいましたのですから」
ここで、お~っほっほっほと高笑いをあげていくビーチェル。
そんなビーチェルの肩を抱きながら、勇者デジュアは傍らに置いていた酒を口に流し込んでいく。
「魔王ビナスの結界が強すぎて城に近寄れずにいた僕を城に導いてくれて……しかも監獄罠を仕掛けやすい場所まで提供してくれて……まぁ、誤算だったのは魔王ビナスがなっかなか死なないことだけどね。
そのせいで、城から金を搾り取る口実として、破壊の宝珠なんて話まででっち上げなきゃならなくなったんだから……とはいえ、魅了スキルで強引に信じ込ませていくのも、そろそろキツくなってきてるけど……」
勇者デジュアは、その顔に困惑の表情を浮かべた。
そんな勇者デジュアの肩を、後方からビーチェルが抱きしめていく。
「大丈夫、いくらママの防御力が強くても、もう長くはもたないと思いますわ。拘束した際に勇者デジュア様が魔力の源である角も破壊しておりますから……そしたら私がこの世界の魔王となって……」
「そして、僕と対峙する……ふりをする」
「私が適当に攻め込んでは」
「僕がそれを追い払う……そして、その都度、僕は城から莫大な恩賞を賜っていく……と」
「これを繰り返し続けて、私達は永遠に贅沢三昧の生活を送っていくのですわね」
2人は、顔を見合わせると、声を上げて笑い合っていく。
◇◇
地下牢にて
俺達は、壁に映し出されている勇者デジュアとビーチェルの映像を見つめながら唖然としていた。
魔王ビナスが、ビーチェルの安否をどうしても確認したいと懇願するもんだから、
ロミネスカスに、城内に反応があったビーチェルの今の状況を映像化し地下牢の壁に投影してもらったんだが……
まさかの黒幕……お前か、ビーチェル。
で、勇者デジュアが助演男優か、おい……
とはいえ、俺の心配事はすでにそっちじゃなくなってる。
魔王ビナスだ。
魔王ビナスは、壁に投影されている映像をジッと見つめていた。
最初ビーチェルが無事であることを心の底から喜んでいた。
だが、自分の娘が黒幕だと知り、その表情が困惑に変わった。
そして、無表情なまま、2人の話を聞いていた魔王ビナス。
すべての話を聞き終えた、今の彼女はというと……泣き笑ってたわけだ。
「よかった……あの娘が無事でいてくれて……」
この状況でも、そう言う魔王ビナス。
すると、ビナス、
ゆっくり立ち上がると、何を思ったのか、アイアンメイデンに向かって歩いて行く。
「ウインダ様……ご迷惑ついでに、最後にもう1つだけお願い出来ませんか?……願わくば、この拘束具を再度閉じてはいただけませんでしょうか……私を閉じ込めてから……」
そう言って、ニッコリ笑う魔王ビナス。
「……あの娘が私の死を望むのでしたら……私は……最後に、その願いを叶えてあげたいと思います」
そう言いながらも、その目からは大粒の涙がボロボロこぼれ続けている。
俺は、そんな魔王ビナスをジッと見つめていた。
◇◇
その夜
勇者デジュアとビーチェルは、散々乳繰り合った挙げ句、抱き合ったままベッドで眠っていた。
しこたま酒も飲んでいたせいで、泥酔の度合いもかなりのものだ。
誰にもバレていないと思っているもんだから油断してるんだろうが……いくらなんでもしすぎだろう
まぁ、そのおかげで、こうしてすんなり忍び込めてもいるわけなんだが……
俺は、ベッドへと忍び寄った。
右手には1本の宝剣。
ベッドに近づいた俺は、その宝剣を勇者デジュアに突き刺した。
宝剣は、勇者デジュアに接した部分が光り輝いている。
俺は、その状態で詠唱していく……
宝剣の光が消えると、俺は今度はビーチェルへと向き直っていく。
その額のあたりで宝剣を振るった。
……おいおい、ここまでされても目覚めないって…ある意味すごいな……
俺は、内心で苦笑しながらも、その作業を終えると、寝室を後に……おっと、忘れるところだった。
俺は部屋の中にある金銀財宝を魔法袋に残らず詰めんでから
……寝室を後にしていった。
◇◇
さて、ここからのことを出来事をかいつまんで報告しておく。
翌朝、ビーチェルは悲鳴をあげながら目を覚ました。
「角が……角が破壊されていますわぁ」
と。
まぁ、俺が昨夜宝剣で破壊したわけだが……ちゃんと再生しないように勇者の封印までサービスしておいた。無料サービスなんだ、感謝してほしいものだ。
これでビーチェルは、次期魔王の資格を失っただけでなく、魔族としての力もほとんど失ったことになる。
さらに、部屋の中の金銀財宝が残らず無くなっていることに狼狽する2人。
「……な、何者かが侵入してる……」
勇者デジュアは、恐怖にかられながらも、自らが所有している天啓スキル「神聖罠作成」を使用し、城の警備体制を今更ながらスキルアップしようとしたんだが……
……この神聖罠作成ってスキルだが
神が勇者となったものに与えるスキルだけあり超強力だ。
魔王軍四天王クラスの魔族でも、瞬時に消し去るだけの力を持った罠を自在に作成出来るって代物だ。
まぁ、1週間に3つまでしか作れないっていう制限もあるが、それでもかなりのものと言っていい。
魔王ビナスを封じていたあのアイアンメイデンも、勇者デジュアがこの能力で作り出したものらしい。
と、まぁ、こんなに素敵なスキルだったので、
昨夜のうちに、俺が宝剣の力を利用して頂いておいた。
スキルの宝剣
スキルの吸収(ドレイン)・書き換え・無効化・強化などを行う事が出来る。
難点は、作業を行っている間中、相手に突き刺しておかなきゃなんないってこと。
まぁ、いざやろうとしてみると色々制約が発生したりもするもんだから、かなり使い勝手の悪い宝剣なんだけど、今回に関してはいい仕事をしてくれた。
一度使用すると刃の部分が崩壊してしまうけど、まぁ、1ヶ月で再生するから、またよろしくな。
勇者デジュアは、自分が神聖罠作成スキルを使用出来なくなっていることに困惑した……当然、俺がスキルを奪い去ってるなんて思ってもいない。
そして一文無しになっている自分達に呆然とした。
考えに考えた挙げ句2人は城に向かって旅だった。
あの豪奢な鎧ら、城に着て行ってた装備品なんかもすべて俺が回収しているので、みすぼらしい冒険者の服に身を包むしかなかった2人は必死に城を目指していった。
転移魔法はビーチェルしか使えなかったらしく、2人は城まで馬で向かうしかないようだ。
城から相当離れているため、2人が城に到着するにはおそらく半年近い期間を必要とするだろう。
それでも城に行き、もう一度破壊の宝珠の話をでっち上げれば、城から金を巻き上げることが出来る。
そうすれば、また贅沢三昧出来る。
その一心で城を目指している2人は、まだ知らない。
勇者デジュアの変装をした俺が、王に魔王ビナス討伐完了の報告を行い、あいつらから回収した金銀財宝を魔王ビナスから奪い去ってきたことして献上したことを。
破壊の宝珠に関しては魔王ビナスの苦し紛れの嘘だったってことにし、多額の費用を使わせてしまったことを深く謝罪しておいた。
まぁ、これに関しては、先に金銀財宝を献上しておいたもんだからか、一切お咎めはなかった。
勇者デジュアとビーチェルが城についたら、まぁ、困惑しきりだろう。
例の「魅了」スキルを駆使してどうにかごまかそうとするかもしれないが、そのスキルは俺が「嫌悪」に書き換えている。
嫌悪は、使用した者が無条件に皆から忌み嫌われることになるスキルだ。
しかもこれを、スキル名は魅了のままで、内容だけ書き換えているから、まぁ、勇者デジュアがそれに気づくのは当分先のことになるだろう。
勇者デジュアは必死になってこれを使うだろうけど、使えば使うほど嫌われるわけだ……ま、せいぜいビーチェルにまで嫌われないことを祈っておいてやろう。
最後に魔王ビナス。
ここまでひどい仕打ちをされ、ビーチェルのために死のうとまでした魔王ビナスなんだが
そんな魔王ビナスを俺はひたすら説得した
朝
昼
夜
何度夜を徹して語り明かした数知れない
毎日目を見つめ
顔をのぞき込み
時に優しく、
時に厳しく
思い出し、辛くなってむせび泣くときは抱きしめてもやった
ロミネスカスとミラッパからの嫉妬の眼差しにも耐え続け
コンコンと説教し続けた。
曰く
「お前の盲目な愛情がビーチェルをあんな正確にしちまったんだ」
「もうあいつも大人なんだ、あいつの行動にはあいつが責任を取るべきなんだ」
「お前はもう十分やった」
「お前は自分の人生を歩めばいい」
「お前は素敵なんだ、自信を持て」
朝に、昼に、夜に、
とにかくもう、ひたすらに語りかけ続けた結果
「……私は、私のしたいようにしてもよろしいのでしょうか?」
やっとそう口にするようになった魔王ビナスに、俺は
「あぁ、それでいい……お前の人生はお前のもんだろ?」
そう言ってやった。
魔王ビナスは、俺のその言葉に深く頷いた……なんか真っ赤な顔して俺の顔を見つめている気がしたのは気のせいだろう。
そしてここで、ようやく俺の目の前に
『ミッションコンプリート』
の文字が表示されたわけだ。
『勇者をどうにかした上で、魔王をどうにかする』という今回の依頼
勇者に関しては、周辺状況を八方ふさがりにして放り出し、勇者として恥ずべき行為を行ったことの報いを受けさせた……若干1名巻き込まれているが、ほぼ同罪なので気にしないことにする。
魔王には自分の生きる道を示してやった。
……まぁ、格好良く言えばそんな感じで収めたってとこだけど、どうやら依頼主であるこの世界の神もこれで満足してくれたようだ。
今回の件に関して言いたいことが2つ。
まず、勇者が魔王の縁者と懇意となり、悪の道に走りそうになった時点で、神はなんらかの手段を講じるべきだと強く思う。
勇者の精神的成長に必要なケースも中にはあるだろうが、今回の件はそれにはあてはまらない。
この点に関しては、各世界を治めている神々にもしっかり伝達されることを節に願う。
次に、魔王の人となりをしっかり見極めてから勇者に天啓を与えてほしい。
今回の魔王ビナスは、討伐の必要がまったくない魔王であった。
おそらく彼女が魔王である限り、セルイッシュ世界は平和だったはずだ。
そんな魔王に対し、勇者デジュアを誕生させたがために、今回の問題事案が発生したと考える。
勇者を誕生させるのは、魔王ビナスが他の者に魔王の座を譲り渡し、その魔王が世界の脅威となってからでもよかったのではないかと思う。
最後に
俺達があの世界を去るに際し、魔王ビナスが諸事情によりあの世界から消滅したため、おそらくあの世界には新しい魔王が程なく誕生すると思われる。
ビーチェルはすでに魔王の資格を失っているので、他の魔族の猛者がその座につくことになると思うが、そのタイミングで勇者デジュアから勇者の称号を剥奪し、他の適任者をその座につかせることを強く提案する。
勇者派遣会社社員 勇者ウインダ
やれやれ、やっと書き上がった。
俺は手に持っていたペンを机上に置くと、うーんと伸びをした。
「……とりあえず出来た……ロミネスカス。毎回で悪いけど目を通してくれるか」
俺は、やっとの思いで書き上がった報告書の束をロミネスカスへと手渡した。
ロミネスカスは、それを受け取ると、いつものようにフンフンと目を通していく。
しかしまぁ、どうなることかと思った今回の案件だけど、あの世界の神が納得する形に落ちついて何よりだった……っていうか、勇者デジュアをあの状態にしてほっぽりだしたのに、ミッションコンプリートになったってことは、あの世界の神様も、勇者デジュアが酷い目にあうことを望んでたってことになるわけで……はは、セルイッシュの神様も相当むかついてたんだろうな……
俺がそんなことを思っていると
「ウインダ、報告書済んだっぱ?」
そう言いながら、ミラッパが自室から駆け出してきた。
「済んだんなら、美味しい物を食べに行こうっぱ」
そう言いながら毎度のように俺に抱きついてくるミラッパなんだが、
「では、私もお供させて頂きますわ」
その後方に、魔王ビナスがいた。
……いや、今は元魔王ビナスと言うべきか。
俺達があの世界から戻る際、ビナスは当然のような顔をして俺の腕に抱きついていた。
「……このように未熟な私を、親身になってお導きくださったウインダ様とともにまいります」
そう言ってにっこり笑うビナス。
……い、いや、だからだな、お前はお前の人生を歩めと
「はい、ですから、お慕いいたしておりますウインダ様と添い遂げることを、新たな私の人生にいたしたく……」
そう言い、頬を赤らめながらうつむいたビナス。
……どうやら、朝昼晩、時に夜を明かしてまで行っていた説得が思わぬ副産物を産んだらしい……魔王ビナスの愛という……
で、本当ならここでしっかり説得してビナスはセルイッシュ世界に置いて帰るつもりだったんだが、
「時間がもったいないですねぇ……痴話喧嘩は帰ってからゆっくりやってくださいねぇ」
と、迎えに来てたメフィラのやつが強制的に俺達全員を帰還させやがった……ビナス付きで。
で、だ……俺はいまだにビナスを説得出来ないでいる。
……何を言っても聞いてもらえないというか……まったく聞く気がないというか
とにかく、とんでもなく一途だ……
「ウインダ様……私、次に産まれる子供はしっかり躾が出来ると思いますの……だって、ウインダ様と一緒ですから」
そう言って、頬を染めながらうつむくビナス。
「ちょっとウインダ」
「まさか、もうやったっぱ?」
ロミネスカスとミラッパが、怒髪天な顔で俺を睨み付けてくるだが、
まだやってない。
っていうか、ミラッパ
その手はやめなさい、下品ですよ、左手の親指と人差し指で作った輪っかに、右手の人差し指を出し入れするなんて。
ーつづく
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そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
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