とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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003章 セルイッシュ世界

3章004ーアイアンメイデンと魔王ビナス

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 勇者デジュアが転移した先が魔王ビナスの城。

「……どいうこった、こりゃ?」
 検索結果を、もう一度見直した俺は、改めて目を丸くした。

 勇者デジュアは、すでに魔王軍を蹴散らして魔王ビナスを屈服させているとは聞いている。
 でも、だ……勇者デジュアが、まさか魔王ビナスの城に住んでいるっていうのか?

 普通、魔王の城ってのはさ、魔族が好き勝手に使ってるもんだから、だいたい汚い。
 綺麗だったとしても、魔王の自室と玉座の間くらいなもんだ。
 そんな部屋にしたって、魔族は根本的に光を嫌うから、暗く冷たいってのが定番だ。

 そんな城に、わざわざ住むか?

 いや、ないって。

……まてよ、そういえば
「ミラッパ」
「ぱ?」
「お前さ、魔王城に住んでた時って、どんな部屋に住んでたんだ?」
「ん~……普通?」
「窓は?」
「なかったっぱ」
「真っ暗?」
「夜目が利くっぱ」
「掃除は?」
「スライムがうろついてたっぱ」

……うん、最後のスライムが……で、もう十分だ

 やっぱ、そんな部屋に住みたくないわ。


 俺が、そんなことを考えながら困惑していると
「お待たせ」
 城からロミネスカスが転移魔法で戻ってきた。
 さすがわロミネスカス、仕事が早いな。
「早いも何も、衛兵もいなければ、魔法封鎖もされてないんですもの……不用心にもほどがあるわ」
 ロミネスカスは、そう言いながら肩をすくめていた。

 ……しかし、いくら魔王軍の脅威が去ったからって、そこまでオープンでいいのか?
 って、他人の城のことながらも、思わず心配の声をあげちまうわけなんだけど

「まぁ先に、これを見てよ」
 そう言って、ロミネスカスが俺に差し出した紙には、ズラッと数字が並んでいた。
「これ、勇者デジュアが城に金を取りに来た日付と、その金額の一覧よ……国の出納簿から写してきたから、間違いないと思うわ」
 ロミネスカスの説明を聞いて、改めてこの紙を見て、俺は唖然とするしかなかった。
 
 この表によると、勇者デジュアは毎月1の日に、必ず城にやってきている。
 ちなみに、今日もその1の日だ。

 そして毎回結構な額を城からもらって行ってるわけだ。

 これが、魔王軍を蹴散らしたと思われ約2年前からずっと続いていることになる……
 しかも、だんだん支払われてる金額が増えてるんだよな。

「城の者から聞き出したんだけどね。
 勇者デジュアは、魔王具を蹴散らし魔王ビナスを屈服させた……
 そして勇者デジュアが魔王ビナスを殺そうとしたところ
『自分を殺したらこの世界のどこかにしかけた破壊の宝珠が発動し、この世界は砕け散る』
 そう言い出したんだそうよ。
 それで、勇者デジュアが魔法で調べたところ、この世界のどこかに破壊の宝珠が仕掛けられているのは間違いなかった、と」
「なら、その破壊の宝珠ってのをとっとと破壊して魔王ビナスを殺せばいいんじゃないのか?」
「それがね、勇者デジュアが言うには
『魔王ビナスの魔力のせいで、破壊の宝珠がこの世界のどこにあるのかがわからない』
 と
『破壊の宝珠を探すために捜索隊を編制したいので協力してほしい』
 そう言い出したのが最初のようね」
 俺は、ロミネスカスの話と、さっき城で聞いた話を思い出しながら、腕組みした。
「……んで、城は一度魔王の脅威は去ったって民衆に発表しちまってるもんだから、民衆に破壊の宝珠のことを言うに言えず、とにかく勇者デジュアに急いでそれを始末してもらおうとしてるってわけか……」
 俺の言葉に、ロミネスカスは頷いた。
「さすがにね、毎月請求にくるのはおかしいと疑問を投げかける者おもいたそうなんだけど、そういう人に限って後に熱狂的な勇者デジュア信仰者になっちゃって
『勇者デジュア様のためにもっと金を出すべきだ』
 って言い出しちゃうそうよ」
「……どう考えてもそれ、勇者デジュアの魅了魔法のせいだよなぁ?」
「決めつけは出来ないけど……その可能性は極めて高いと思うわ。
 で、今のセルイッシュ城はね、勇者デジュアに渡すお金を捻出するために財政が火の車らしいわ……城兵や衛兵に給料を払えなくなっていて、そのせいでどんどん城から人が逃げ出しているみたいね……
 ちなみに、城の主計官も逃げ出してたみたいで、国の出納帳が机上に放り出してあったのよねぇ」
 ロミネスカスは、そう言って肩をすくめた。

 俺は、腕組みし、再度考え込んでいく。

「でぇ、結局ミラッパは誰をぶん殴ったらいいっぱ!?」
 小難しい話が続いたせいで、ミラッパがイラついてるんだけど、とにかく落ち着けとしか言いようがない。

「で、勇者デジュアは?」
「あぁ、ヤツなら城を出た後、転移魔法で魔王ビナスの城に移動した」
「は?」
 俺の言葉に、ロミネスカスが目を丸くした。
「何? あの勇者デジュアって、魔王城に住んでるっていうの?
 あの暗くて、薄汚くて、スライムが掃除係で飼われているような魔王城に?」
 なんか、ロミネスカスの脳内でも、魔王城のイメージってのは、俺と大差なかったらしい。
 そのことに少し安堵しながら、俺は改めて考えていくんだけど

「とりあえず、この勇者デジュアが怪しいってことしかわかんねぇ」
 俺の言葉に、ロミネスカスも頷いていく。

 ただ、そこで疑問なのが2つ、

 なんで魔王ビナスの娘ビーチェルは、勇者デジュアと一緒に行動してるんだ?
 魔王ビナスは、そもそも今、どうなってんだ?
 
 ……とまぁ、この2つの疑問をここで考えてても仕方ないわけで

「行くか、魔王ビナスの城へ」
 俺の言葉に、ロミネスカスとミラッパも頷いた。

 俺は、ロミネスカスが持っている地図で、先ほど検索して見つけた魔王ビナスの城の位置を教えた。
 ロミネスカスは、それを元にして、その場で転移魔法を発動していく。
 ほどなくして、俺達の姿はそこから消え去っていった。

◇◇

 俺達が立っているのは、木々の影。
 その少し先
 崖の合間に、その城はあった。

 魔王ビナスの城だ。

 不思議なことに、その周囲を囲っている城壁がそのまま残っている。
 まったく破壊された痕跡が見当たらない。

 まだ魔族が住んでいるのならわかるが、
 その魔族の気配はほとんどない。

 かろうじて城の中からその気配が漏れ伝わってくるくらいのものだ。

 俺達は、隠蔽魔法で気配を消しながら城壁へと近づいていく。
 とりあえず、城へ侵入する方法を見つけださないことには話にならないしな……

 警備をしている気配はないが、何しろここは魔王の城だ、どんな仕掛けがあるかわかったもんじゃない。

 俺は、索敵魔法を展開して城の周囲を探っていく。
 索敵妨害魔法とか展開されてたらやばかったけど、特にそんな魔法が展開されてもいなかった。

 検索の結果、城の地下へ通じてる隠し扉を見つけた俺は、
 慎重に城の裏へ回っていき、隠し扉から城内へと侵入した。

 地下室だけあって、かなりじめじめしている。
 俺やロミネスカスが想像していたように、暗くてじめってて……唯一、スライムにまだお目にかかってない点だけが相違点ってとこかな。
 
 俺達が進んで行くと、再び前方に隠し扉があった。
 そこを注意深く押し開けていくと、そこはどうやら地下牢の間のようだ。

 左右にびっしりと牢の間が続いている。

 だが、中に閉じ込められている人や魔族はいない……まぁ、魔王軍はすでに壊滅してんだしな、と思いながら進んで行くと、

「……なんだありゃ?」
 
 俺は、思わずそう呟いた。
 
 いえね、
 それまで全部空っぽだった牢の間なんだが、その中の1つの中に、妙な物が入っていたわけだ。

 それは、牢の間の中に、デンと鎮座しているんだが
 直立型の棺桶とでも言うようなそいつは、その天辺に、女の顔が彫刻されている。

 ……俺の記憶が確かなら、これ


 アイアンメイデン……鋼鉄の処女っていう拘束道具だ。

 そいつからは、かなりの聖なる波動を感じるんだが……それに混じってわずかなんだが、魔の波動も感じるんだよな……

 牢の扉は、一応鍵は閉まっていたけど、あっさり破壊することが出来た。
 俺達は、牢の中に入ると、そのアイアンメイデンの周囲を囲んでいく。

「……どうする、これ?」
 俺の言葉に、ロミネスカスは首をひねった。
 そんな中、ミラッパが
「はいっぱ!」
 そう言って右手を上げると
「中に誰か入っているか聞いて見たらいいと思うっぱ」
 大まじめな顔でそう言った。

 思わず、目を半開きにしていく俺とロミネスカス。

 ははは、それで返事があったら世話ないって……
 だいたい、このアイアンメイデンから漏れてきてるのって、妙に強い聖なる波動だけで、生命反応は一切感じない。

 もしこの中に、魔族か人族が閉じ込められていたとしても、まぁ確実に死んでるわけだ。

 そんな俺の前で、いまだに真剣は顔で右手を上げてるミラッパ。
「……わかったって、やってみろって」
 俺は、はいはい、とばかりにミラッパに向かって右手をヒラヒラさせた。
 まぁ、一回やれば納得するだろう。
 そう俺が思ってる前で、ミラッパ、

 アイアンメイデンをコンコンと叩くと
「誰か入っていますっぱ?」
 と聞いていく。

 ……返事はない。

 ほらな、まぁそうだと思ったよ。

 するとミラッパは、もう一回アイアンメイデンをコンコンと叩き
「誰か入っていますっぱ?」
 と、聞いた。

 おいおい、だからそこには誰もいるはずが


「……はい、入っておりまする……」

 ……は?

 ちょっと待って……今、返事があったか?

 俺とロミネスカスは、思わず顔を見合わせた。
 そんな俺達の前で、ミラッパがアイアンメイデンをこじ開けようと、その隙間に手を突っ込もうとしていく。

 だが、結構な封印がされているらしく
「むぎ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 と、力を込めてるミラッパでも、開けることが出来ない。
「ミラッパ、ちょっと下がってな」
 俺はそう言いながら、腰の魔法袋から宝剣を取り出した。


封印破邪の宝剣
 封印された宝箱や、扉なんかを破壊することが出来る宝剣。

 
 俺はアイアンメイデンの継ぎ目に、宝剣を慎重にあてがっていく。

 何しろこの剣、
 封印を「解く」んじゃなくて「破壊」する剣だ。
 下手に剣を振るっちまうと、このアイアンメイデンごと、中にいる何者かまで破壊しかねないわけだ。

 俺は、剣の刃を横にし、アイアンメイデンの継ぎ目にピタッと合わせ
「っし!」
 それを小さく上にスライドさせた。

 すると、アイアンメイデンの継ぎ目あたりがぼろっと壊れ、地面に転がっていく。
 うわ……あんだけの刃の動きでこの破壊力かよ……思った以上に破損したアイアンメイデンを見ながら、俺は今更のように冷や汗が額を伝っていくのを感じていた。

 とにかく、これで封印はとけた。

 アイアンメイデンの扉を開けると……

 アイアンメイデンの中には、聖なる魔力を込められた針が無数につきだしてた。
 で、それが、その中にいた人物を突き刺しまくっていたわけだ。

 ……正直よく生きてたな、っていうのが本音だ。

 何しろ生命反応がほとんど無い。
 抱きかかえてやっと、その微弱な反応にやっと気付くほどだ。

 ……そりゃ、アイアンメイデンの外からじゃ、気がつかないわけだ。

 しかし、この状態でこの女、よく返事が出来たな……

 針で串刺し状態になっていたその女は、俺の腕の中で苦しそうにしている。
 ロミネスカスが必死に回復魔法をかけているところだ。

 小柄なこの女なんだが……その頭には、角らしきものを切り落とされた後がある。

 おい……ちょっと待て。
 
 俺が知ってる魔族の中で、頭に角が生えてるヤツってのは、かなり少ない。
 しかも、だ
 このアイアンメイデンの中にとじこめられて、聖なる魔力を込められた針で無数に貫かれておきながらも、どうにか生きていた……

 ……まさかとは思うが

 俺は抱きかかえている女に問いかけた。
「お前、魔王ビナスか?」
 俺の問いかけに、

 女は小さく頷いた。

ーつづく

 
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