とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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003章 セルイッシュ世界

3章002ー勇者デジュアと、ビーチェルという女

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 俺が目を見開くと、周囲には見知らぬ丘が広がっていた。

「……とりあえず、セルイッシュ世界にはついたようですね」
 ロミネスカスは、そう言いながら周囲を見回している。
 ミラッパは……ほ~、と声をあげながら目の上に手をあてて遠くを見ようとしているな。
 なんというか、ホント子供だな、こういうところは……

 今回の俺の勇者派遣会社としての仕事ってのは
 この世界の勇者デジュアをどうにかした上で、この世界の魔王ビナスをどうにかするってことらしい。
 正直さっぱり意味がわからない。
 勇者デジュアは、すでにこの世界の魔王軍を壊滅に追い込んでいると聞いている。
 その上で、魔王ビナスを屈服させているとも……

 ……その状態で、なんでこの世界の神は、勇者派遣会社にこの依頼を持ち込んだんだ?


 俺はしばし腕組みをして考えたみたけど、まったく検討もつかない。
 そりゃそうだ。そもそも情報量があまりにも少なすぎる。

 俺はロミネスカスとミラッパへ視線を向けると
「とりあえず城下街へ向かおう。何でもいいから情報を集めないことにはどうにもならない」
 そう言った俺の言葉に、ロミネスカスとミラッパも頷いた。

◇◇

 城下街への移動はあまり苦にならない。

 というのも、メフィラが指令書と一緒にこの世界の概略地図を一緒に渡してくれているおかげで、転移魔法を使用出来るロミネスカスが、その近辺にまで即座に移動してくれるからだ。
 ロミネスカスの転移魔法は地図さえあれば、その目的地の近くまで行くことが可能だ。
 そして、一度行った場所には、2度目からはピンポイントで転移出来るようになる。

 情報不足のままその地へ赴き、情報収集から始めなければならない俺達ちとっては欠かすことの出来ない能力と言える。

 最近同僚になった勇者ロステータの相棒、僧侶プリアは確か転移魔法が使えないと言っていたから、あいつらが仕事を請け負ったときは大変だろうな、と、後輩の身を重んじる俺……ちょっと格好良くないか?

 なんて思っているうちに、俺達はセルイッシュの城下街へと入っていく。

 このセルイッシュ城の城下街だが、結構堅固な城下街ごとはりめぐらされており、屈強な門からしか出入り出来なくなっている。

 だが、魔王軍が壊滅し、魔王が屈服しているためか、その門は完全に開放されており門番も気持ち程度しか立っていない。

 街中は人々で溢れ、皆活気に満ちあふれている。

「……おいおい、この世界のどこに問題があるっていうんだ?」
 俺は思わず呟いた。
 まだ城下街しか見ていないとはいえ、とても勇者派遣会社に救援依頼がこなきゃなんないような世界には見えないんだが……

 俺達は、街の活気を肌で感じながら街中にある冒険者組合へと足を運んだ。

「勇者デジュア様ばんざ~い!」
 組合の中に足を運んだ俺達を出迎えたのは、酔客の歓声だった。

 まだ昼間だというのに、冒険者組合に併設されている酒場ではべろんべろんに酔っ払った冒険者達の姿が何人も見受けられ、その皆が、勇者デジュアを称えては、酒を飲み干しているようだ。

 俺達は 酒場の奥の席に座ると、気配隠蔽魔法を自分達にかけた。
 これで、俺達のことを気にする者はいない。
 その状態で、俺達は、しばし酒場の話に耳を傾けていった。

◇◇

 時間にして2時間ほど。
 その間に結構な数の冒険者の出入りがあった。

 その冒険者達は、皆一様に勇者デジュアを称えている。
 曰く
「よくぞあの魔王を捕らえてくださった」
「魔王を封印している」
 まぁ、だいたいこんな感じなんだが
 
 ここで気になった点が1つ

 どの冒険者の口からも
『勇者が魔王を倒した』と言う言葉は一度も聞かれなかったってことだ。

 あと、気になった言葉が1つ
「勇者自ら捜索隊を編制し破壊の宝珠を捜索している」

 話が断片的だったので、いまいち全容が掴めてないんだが

 勇者デジュアが、魔王ビナスが隠している破壊の宝珠の在処を聞き出し、それを探し出そうとしている

 まぁ、話を総合すると、そんな感じになるわけだ。

「なんなのかしらね、その破壊の宝珠って」
 物知りなロミネスカスが首をひねるほどだ、俺なんかにわかるわけがない。
「ひょっとして、魔王が持ってる切り札みたいなもんなのか?」
 俺はふと思い立ってミラッパに聞いて見た。
 だがミラッパは首をひねると
「そんなの聞いたことないっぱ」
 そう言うわけで……さてさて、さっぱり検討がつかない。

 俺達が店の奥でボソボソ話していると、店の外からいきなり大歓声があがった。
 その歓声と同時に、冒険者組合の中にいた者達は、即座に店の外に飛び出した。
 よく見たら、受付のお姉ちゃんまで駆け出して……って、おいおい、組合の中、人っ子一人居なくなったけど、いいのか? おい?
 俺は、そう思いながらも、出入り口の方へと歩いて行く。
 すると、出入り口の前、街道沿いはすさまじい数の人で埋め尽くされていた。
 のんびりと出てきた、いわゆる出遅れ組の俺達は、店から外に出ることも出来ないわけで、
「しゃあない、上から見るか」
 と、冒険者組合の2階へと駆け上がっていく。
 本来宿舎スペースなんだろうけど、ここももぬけの空状態だったんで、街道側の部屋へと入らせてもらった。
 当然施錠されてたけど、そこはロミネスカスの魔法で……な。
 良い子は絶対真似すんじゃないぞ。

 さて、
 窓際から外を見下ろすと、街道沿いの熱狂具合がよくわかる。
 
 俺達は気配隠蔽魔法をかけたままなんで、下のやつらからも見えていない。
 とはいえ、隠蔽看破の魔法を使用してるヤツがいたりしたらやばいので、一応その身を物陰に隠し気味にはしている。

 俺達がそうして待っていると、
 いきなり歓声のボルテージがあがった。

「勇者デジュア様だ!」
「デジュア様!」
「デジュア様ばんざい!」
「デジュア様ばんざい!」
 皆、口々にそう言いながら両手をあげ、歓声をあげている。
 中には感極まって泣き出している者や、卒倒して倒れ込んでる者までいる。

 そんな中

 一頭の白馬にのった男が街道を通ってきた。
 その男は、豪奢な騎士の鎧に身を包み、宝剣を腰に帯刀している

 まぁ、こいつが件の勇者デジュアで間違いないだろう。

 優男で、なかなかなイケメンだ。
 優雅な物腰で街道に集まっている街の者達に手を振って応えていく姿も堂に入っており、こうして城下街にやってくるのも、慣れたもんなんだろう。

 勇者デジュアは
 その後方に仲間達を引き連れて街道を進んで行く。

 その姿はまるで魔王を倒して凱旋してきた勇者を出迎える群衆のそれといえなくもない。
 ……まぁ、俺は、それを体験したことがないんで、話でしか聞いたことがないんだけどな。

 だが
 
 その勇者デジュアを見つめながら、俺は首をかしげた。

 っていうのが、だ


 この勇者、すっげぇ弱い


 多分、勇者の中でも最低ランクじゃないかってくらい、腕力も魔法力も持ってない。
 ただ、こいつのスキルをのぞき見しようとしたとき、何故かその欄が空白で表示されたんだよな。

 ……はて?
 普通、スキルを持ってなかったら、『無』って出るはずなんだが……
 まぁ、この世界ではそういう表示になるんだろうぐらいに思うことにしたんだが、やっぱちょっと気に成な……

 で、だ、こいつの装備もなんかひどいんだ。
 鎧も剣も、宝珠をふんだんに使用した高級品なのは間違いない。
 売れば結構いい金になるのは間違いない。

 どちらも、武具としては三流以下だ。

 まず鎧だが、はっきりいって防御力は低すぎる。
 これ、ゴブリンのこん棒の一撃でおそらくへこむ……それほどもろい。

 剣も剣で、飾りにばかり手が行き届き、肝心な刃がなまくらだ。
 武器屋のワゴンセールの刀の方がよく切れると思うぞ。
 ついてる宝珠に魔法負荷能力がついてれば、まだあれなんだが、鎧の宝珠も含めて、全部装飾用の趣向品しかついてない。


 まぁ、魔法軍がすでに壊滅してるから、あえて趣向品を身につけているのかもしれないが……
 少なくともまだ魔王は討伐されてないはずなのに……こんなに悠長な様子でいいのか?

 どうやらロミネスカスも同じ気持ちらしく、その顔に嫌悪の表情を浮かべていた。
 そういえばロミネスカスは、勇者が後ゴテゴテ飾り付けるのを嫌ってたもんなぁ。

 そんな中、ミラッパがなんか険しい顔をしている。

 ……ん? どうした?

 俺が首をひねってると、ミラッパは俺を手招きで呼び寄せる。
 俺が、そっちへと歩み寄っていくと、ミラッパは、歩み寄って来た俺と、ミラッパの顔を両手で抱き寄せた。
「……魔王の後ろ。3番目の馬に乗ってる女……正体を隠してるっぱけど、あれ、魔王の一族っぱ」
 
 ミラッパの言葉に、俺とロミネスカスは目が点になった。

 慌てて勇者の列へ視線を向ける。
 勇者から3番目……そこには、豪奢なドレスに、肩や膝部分にのみ鎧をあてがっている独特な衣装を身につけている若い女騎士が、皆に笑顔をで手を振っていた。

 俺が、ステータスを確認すると
『救国の女騎士ビーチェル』
 と表示されている。

 ふむ

 俺は、勇者スキルを使用し、再度女のステータスを確認していく。

 すると、
『ベキキ……』
 と、妙な音がしたかと思うと、表示されていたスキルが消え去っていき、その下から新しいスキルが表示された。

 そこには
『魔王ビナスの娘ビーチェル』
 と表示されていた。

ーつづく 
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